MMSEとは?実施の流れや評価項目、カットオフの点数や注意点
MMSEは、認知症の疑いがあるときに行う神経心理検査です。認知機能の低下を点数で客観的に計測することができ、世界各国で用いられている検査方法です。
ここでは、検査の内容や評価方法について解説します。また、有名な「長谷川式認知症スケール」との違いについても触れているので、参考にしてみてください。
MMSEとは?
MMSEは、認知症が疑われるときに行われる神経心理検査のひとつです。1975年にアメリカで誕生し、正式名称は「Mini-Mental State Examination(ミニメンタルステート検査)」。国際的に用いられている検査で、2006年に日本語版が完成しました。現在は日本国内でも広く活用されています。
短時間で簡潔に行える検査で、低下している認知機能の種類や低下度合いを客観的に確認できます。しかし、あくまでもスクリーニング検査なので、MMSEの結果だけで認知症の診断はできません。認知症の診断はMRI・CTによる脳検査や、本人や家族からの聞き取り、鑑別診断なども行った上で総合的に判断します。
実施の流れ
MMSEの所要時間は10〜15分程度です。検査を受ける方の体調の良いタイミングで行います。
検査時に特別な機材などは不要で、使用するのは主に以下の4つ。検査は11項目で構成されており、質問者から出される問題に回答者が1つずつ答えます。1問につき正解なら1点、不正解なら0点として各項目を採点します。
制限時間は1問10秒で、過ぎると次の問題へ移行。質問者は質問内容を勝手にアレンジしたり、ヒントを与えたりしてはいけません。周囲は「テスト」や「検査」といった言葉を使って、回答者の不安を煽らないように注意しましょう。
MMSE検査で使用する物
- MMSEの評価用紙
- 筆記用具(鉛筆と消しゴム)
- 時計または鍵
- 白紙
MMSEの評価項目
・時間に関する見当識:1点×5個 |
MMSEには11の評価項目があります。「検査」と聞くと身構えてしまうケースも多いので、落ち着いて受けるためにも、項目内容を事前に把握しておきましょう。
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1. 時間に関する見当識:1点×5個
時間に関する見当識では、季節や日付などを測定する問題がいくつか出されます。年については、西暦と年号のどちらで回答してもOK。季節に関しては「春夏秋冬」に加えて「梅雨」「初夏・初冬」といった回答でも正解ですが、日付については1日でも間違っていたら不正解です。
例:「今日は何日ですか?」「今日は何曜日ですか?」
2. 場所に関する見当識:1点×5個
場所に関する見当識では、都道府県や場所についていくつかの質問に答えます。現在いる場所(病院や診療所など)についての質問は、正式名称ではなく通称や略称でも正解になります。
例:「ここは何県ですか?」「ここは何地方ですか?」
3. 聴覚言語記銘:1点×3個
新しいことを覚える能力を確認するために、質問者が言う3つの単語を回答者が繰り返します(1個につき1点)。3つすべて答えられるまで行いますが、6回繰り返しても答えられない場合は終了です。その場合は言えた単語の数で採点されます。
例:「梅、犬、飛行機」
4. 注意と計算:5点
作業や動作に必要な情報を一時的に記憶する能力を測ります。暗算での引き算または、単語を逆から言う逆唱課題が出題されます。
たとえば、100から7を繰り返し引き算するように指示されたとしましょう。100-7で「93」と正解したら、再び7を引いた数が問われます。このように7を引く計算を5回繰り返すといった具合です。計算を間違えたり答えられなかったりしたら中止になり、正解数×1点になります。
5. 再生:1点×3個
新しく覚えた記憶を保持し、思い出せるかを確認する項目です。「聴覚言語記銘」の項目で覚えた3つの単語を回答します。単語が合っていれば答える順番は問いません。答えが出てこない場合は、質問者がヒントを出しても問題ありません。ヒントの有無にかかわらず、正解すれば単語1つにつき1点です。
6. 呼称:1点×2個
物品の正しい名称を記憶の中から思い出せるかを評価します。質問者が日常的にありふれた物品を提示するので、その名称を回答します。2つの物品について順番に質問があり、正解すると各1点です。正式名称ではなく通称を答えた場合も正解になります。
例:
1.はさみを見せながら「これは何ですか」と質問する
2.鉛筆を見せながら「これは何ですか」と質問する
7. 復唱:1点
ある程度の長文を一時的に覚えていられるかをチェックします。質問者が文章を口頭で伝えるので、それを声に出して回答者が繰り返します。一度で正確に答えられたら1点、1つでも単語を間違えたら不正解です。
例:みんなで力を合わせて棒を倒します
8. 理解:1点×3段階
一度に複数の指示を理解して遂行できるか確認する項目です。3段階の指示が出されるので順番に実行します。回答者が途中で混乱したり、指示に従うことができなかった時点で中止。耳が聞こえにくい人の場合は指示を繰り返してもOKです。1段階ずつ正しく作業できれば1点、全部で3点になります。
例:「右手にハンカチを持つ」→「ハンカチを折りたたむ」→「ハンカチを質問者に渡す」
9. 読字:1点
文章の理解力と実行力を評価します。紙に書かれた文章を読み、指示を実行します。文章は音読でも黙読でも構いません。指示通りの行動ができれば正解ですが、実行できなかったり、字が読めなかったりした場合は不正解になります。
例:「手を握ってください」
10. 書字:1点
認知症の方は文章の構成能力が低下するため、文を正しく構成できるか確認します。どのような内容でも構わないので自由に作文をしてもらい、意味が理解できる文章を書ければ正解。自分の名前や名詞だけ、単語を羅列した場合は不正解になります。
11. 描画:1点
目の前の空間情報を把握した後に、再構成する能力をチェックします。ある図形を見せられた後に、同じものを描く検査です。
たとえば「重なった2つの五角形」を模写する場合、それぞれ図形の角が5つあり、1ヵ所交差していれば正解。角が5つではない、線が閉じていない、2つの図形が交差していないなどの場合は不正解です。
MMSEのカットオフ値
・28~30点:異常なし |
MMSEは30点満点の検査です。カットオフ値といわれる、認知症の疑いを判断するラインや点数による評価基準は以下のとおりです。
28~30点:異常なし
MMSEの結果が28~30点であれば、認知症は発症しておらず問題ない状態と評価されます。ただし、MMSEはあくまでもスクリーニング検査なので、確実に認知症でないとはいえません。実際の生活の中で気がかりや不安がある場合は、MRI・CTによる脳検査などを受けることも検討しましょう。
24~27点:軽度認知障害(MCI)が疑われる
24~27点の場合は軽度認知障害(MCI)の疑われます。軽度認知障害(MCI)は認知症そのものではなく、一歩手前の段階にあたります。放置すると気づかないうちに症状が進行しますが、早期に適切な対策を講じることで健常な状態に戻ったり、認知症への進行を遅らせられる可能性があります。これまでに比べ記憶力の低下を感じたり、周囲から指摘されたりすることが増えた場合は、「もの忘れ外来」の受診を検討ください。
23点以下:どちらかというと認知症の疑いがある
MMSEの結果が23点以下だった場合、認知症の疑いがあると判断されます。ただ先述の通り、MMSEの結果のみをもって認知症の診断はできません。医師に総合的な判断を仰ぐようにしましょう。なお、23点~21点については認知症の重要度の判定例が軽度とされるため、いずれにせよ早急に医療機関で詳しい検査や診断を受け症状緩和に注力することが大切です。
実施時の注意点
MMSE検査の実施にあたっては、いくつか注意したいポイントがあります。 検査を行うこと自体が本人の不安につながらないように周囲のサポートが必要です。
本人へのケアを欠かさない
認知症の疑いがあり検査をする場合、誰よりも本人が不安です。ご家族や周りの方々も不安になるものですが、まず本人に最大限のケアを行いましょう。前向きな気持ちで検査できるような声かけをしたり、寄り添った態度で接したりすることが大切です。
確定検査ではない
MMSEは確定検査ではないため、点数が低ければ認知症で、高ければ確実に安心というわけではありません。
MMSEには文章理解や記述、描画などの要素があり、学歴や職歴による影響を受けやすいです。また判断基準には年齢が考慮されていないため、65歳以下の方は判断が困難。MMSEの結果だけでは、認知症について断定できないことは理解しておきましょう。
改訂版長谷川式認知症スケールとの違い
MMSE | 改訂版 長谷川式 簡易知能 評価スケール (HDS-R) |
|
---|---|---|
所要時間 | 10〜15分程度 | 10〜15分程度 |
項目数 | 11項目 | 9項目 |
満点 | 30点 | 30点 |
認知症疑いとなる基準 | 23点以下 | 20点以下 |
軽度認知障害(MCI) 疑いとなる基準 |
24点以上27点以下 | − |
回答方法 | 口頭、記述、描画 | すべて口頭 |
認知症のスクリーニングテストには複数の種類があり、目的や所要時間などから最適なものを選んで行います。MMSEのほかに日本では、「改訂版長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」がよく使われており、いくつかの質問内容が類似しています。
MMSEでは、見当識や記憶力・注意機能以外にも言語能力や視空間認知能力なども評価できます。
一方、改訂版長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は記憶力に重点が置かれているのが特徴。MMSEは世界各国で活用されていますが、改訂版長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は主に国内で使用されています。
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MMSEの実施希望はかかりつけ医へ相談を
MMSEは認知機能の低下を測る目的で、医療機関で実施するテストのこと。認知機能の低下について客観的かつ簡易的に知ることができます。ただし確定検査ではないため、MMSEだけで認知症かどうかを断定することはできません。認知症が心配でMMSEを受けたい場合も医師の判断が必要なので、かかりつけ医へ相談しましょう。
万が一ご家族などが認知症と診断された場合は、周囲の方々のサポートが必須。介護施設へ入居して、プロの手厚いサポートを受ける選択肢もあるでしょう。「LIFULL 介護」では、認知症の方が入居相談できる施設情報を掲載中。オンライン見学が可能な施設もあるので、ぜひチェックしてください。
イラスト:坂田 優子
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