【老後のお金に備える】認知症保険が注目される理由|各社商品の特徴
超高齢社会の進展とともに、介護、なかでも認知症に対する不安が増しているようです。
それに応える形で数年前から認知症に特化した保険や特約(以下、認知症保険)が発売され、一つのヒット商品となっています。
それだけ、消費者ニーズが高い表れといえますが、今回のコラムでは、認知症保険について取りあげ、認知症患者の現状と将来を踏まえて、認知症保険が求められる理由と最近の商品動向をご紹介したいと思います。
認知症保険とはそもそも何か
認知症保険とは、民間介護保険(以下、介護保険))の一種で、認知症に特化した保障性商品です。
したがって、介護保険でも所定の要介護状態等の要件を満たせば、認知症もカバーされます。
ただ対象が一つの疾病に特化しているという点では、がん保険も同じですので、医療保険とがん保険の関係に似ているかもしれません。
認知症保険は、各社所定の認知症と診断された場合等に一時金あるいは年金が受け取れる「治療保障」タイプと認知症患者が第三者に損害を与えたり、ケガをしたりした場合の費用を補てんする「損害補償」タイプの2つに大別できます。
前者は生命保険会社、後者は損害保険会社が販売しています。
認知症の人は増え続けている
実は、「認知症」は病名ではなく、記憶力や認識力、判断力といったものが障害を受け、社会生活に支障をきたす状態のことをいいます。
この状態を引き起こす原因はさまざまですが、認知症の最大の原因は「加齢」。
そのため、高齢になるほど発症リスクが高まるわけです。実際、超高齢社会の進展とともに、認知症患者数も増加しています。
厚生労働省の推計では、団塊の世代全員が75歳以上の後期高齢者となる2025年には、患者数が700万人を超え、高齢者に占める認知症有病率は2割以上。
80代の半数は認知症とも言われますので、高齢者の増加にともなって、その後も年々患者数は増加する見込みです(図表参照)。
認知症を発症すると介護費用は2倍に!保険が注目される理由
認知症保険が注目されるようになった背景として2つの理由が挙げられます。
1つ目は、"人生100年時代"といわれるように平均寿命が延び、死亡リスクよりも長生きリスクをカバーする生存保障分野のニーズが高まってきたこと。
そして、2つ目は、認知症になると介護費用も高額になりがちだということです。
厚生労働省の調査によると、要介護の主な原因の第1位は認知症です。要介護度別にみても、要介護1~4まではすべて認知症が1位となっています。
通常の介護に比べて、認知症介護の場合、常時付き添いの必要や介護サービスを多くor長時間受けるなど、経済的に費用負担のかさむケースが少なくありません。
たとえば、公的介護保険の要介護1の場合、1ヵ月の介護費用の平均は、認知症がなければ2.1万円ですが、認知症が重度になると5.7万円。
1年間の差額は43万円以上にのぼるなど、認知症の有無によって、2倍以上の差が生じています(出所:家計経済研究所「認知症の状態別にみた費用」)。
このような理由から、認知症保険の必要性を感じる方が多いのではないでしょうか。
認知症保険・各社商品の特徴
では、タイプ別におもな認知症保険の商品を見てみましょう。
※下記保険商品の情報は2019年2月時点のものです。条件等は変更となる場合があるため、各保険会社へお問い合わせください。
生命保険会社等が販売する「治療」タイプ(単品商品)
①太陽生命「ひまわり認知症予防保険」
- おもな特徴
- ・告知項目が少なく引受け基準が緩和された緩和型医療保険をベースにした商品(当初1年間の保険金削減期間あり)
・認知症と診断されると認知症診断保険金、さらにその状態が180日継続すると認知症治療給付金が支給される
・診断されなくても契約後1年後を初回に、2年ごとに予防給付金が支給されるなど認知症予防もカバーできる
・7大習慣病をはじめ、シニアに多い老人性白内障、熱中症、骨粗しょう症による骨折などに対する医療保障もあり - 発売開始年月
- 2018年10月
- 加入可能年齢
- ①20~75歳
②76~85歳 - 保険期間
- ①10年/終身
②終身 - 支給条件
- 所定の認知症と診断確定
- 保険金支払い形式
- 一時金
- 加入例
- ●保障内容
・予防給付金:2年ごとに3万円
・認知症診断保険金:100万円
・認知症治療保険金:200万円
・その他(入院一時金、入院給付金、手術給付金など)
●月額保険料
50歳男性:1万4,015円
50歳女性:1万5,068円
②朝日生命「あんしん介護 認知症保険」
- おもな特徴
- ・介護保険「あんしん介護」の保障内容を絞り込んで認知症に特化させた商品
・一時金だけでなく終身保障の年金でも受け取れる
・支給条件が認知症の診断だけでなく要介護1以上の認定を受ける必要がある
・要介護1に認定されると保険料の払込みが免除される - 発売開始年月
- 2016年3月
- 加入可能年齢
- 40~75歳
- 保険期間
- 終身
- 支給条件
- 要介護1以上かつ所定の認知症と診断確定かつ日常生活自立度判定基準※のランクⅢ以上と判定
※認知症高齢者の日常生活自立度とは、高齢者の認知症の程度を踏まえた日常生活自立度の程度を表すもの。公的介護保険の要介護認定では認定調査や主治医意見書でこの指標が用いられており、要介護認定では、コンピュータによる一次判定や介護認定審査会における審査判定の際の参考として利用される。 - 保険金支払い形式
- 一時金・年金
- 加入例
- ●保障内容
・認知症介護年金(終身):60万円
●月額保険料
50歳男性:4,242円、50歳女性:3,585円
③損保ジャパン日本興亜ひまわり生命「リンククロス笑顔をまもる認知症保険」
- おもな特徴
- ・軽度認知障害(MCI)、認知症による保障、骨折治療保障、不慮の事故などによる災害死亡保障をカバーした商品
・三大疾病保険料免除特約がある
・限定告知プランがある(対面販売のみ) - 発売開始年月
- 2018年10月
- 加入可能年齢
- 20~70歳
- 保険期間
- 終身
- 支給条件
- 所定の軽度認知障害あるいは所定の認知症と診断確定
- 保険金支払い形式
- 一時金(所定の取扱条件の範囲内で、年金での受取りも可)
- 加入例
- ●保障内容
・認知症一時金:100万円
・軽度認知障害一時金:5万円
・骨折治療給付金:10万円(10回限度)
・災害死亡給付金:100万円
●月額保険料
50歳男性:4,100円(免除特約あり)、3,050円(免除特約なし)
50歳女性:5,090円( 同上 )、3,580円( 同上 )
④セント・プラス少額短期保険「認知症のささえ」
- おもな特徴
- ・製薬会社大手のエーザイと共同開発した商品
・1年更新だが、認知症状態が90日以上継続すれば認知症診断一時金が受け取れる
・認知症以外であれば要介護認定を受けた後でも申込み可
・更新により満100歳まで継続可
・契約日から90日の免責期間があり、これを超えて6ヵ月以内に認知症と診断された場合、給付金の50%が受け取れる - 発売開始年月
- 2018年2月
- 加入可能年齢
- 40~90歳
- 保険期間
- 1年(満100歳まで更新可)
- 支給条件
- 所定の認知症に該当し見当識障害があると診断され、その状態が90日継続した場合
- 保険金支払い形式
- 一時金
- 加入例
- ●保障内容
・診断一時給付金:80万円
●月額保険料
50歳男性:638円
50歳女性:638円
生命保険会社が販売する「治療」タイプ(特約)
⑤メットライフ生命「終身認知症診断一時金特約」
- おもな特徴
- ・医療保険に終身認知症診断一時金特約として付帯する
・引受基準緩和型医療保険にも付帯可
・認知症と診断されればすぐに一時金が受けられるが、当初180日は保障対象外 - 発売開始年月
- 2017年7月
- 加入可能年齢
- 30~70歳
- 保険期間
- 終身
- 支給条件
- 所定の認知症に診断確定(契約から181日以降)
- 保険金支払い形式
- 一時金
- 加入例
- ●保障内容
・認知症診断一時金:300万円
●月額保険料
50歳男性:3,270円
50歳女性:4,890円
(別途、医療保険等の保険料がかかる)
損害保険会社等が販売する「損害補償」タイプ(単品商品)
⑥東京海上日動火災保険「認知症あんしんプラン」
- おもな特徴
- ・一般社団法人セーフティネットリンケージとの連携のもとに開発した商品
・認知症と診断されてからも加入可 - 発売開始年月
- 2018年10月
- 対象者
- 40歳以上の認知症患者あるいはその家族
- 支給条件
- 所定の認知症に診断確定あるいは見当識障害がある
- 保険金支払い形式
- 一時金
- 補償内容
- ・行方不明時の捜索費用補償 (1事故30万円、保険期間を通じて100万円を限度)
・個人賠償責任補償(1億円)
・被害者死亡時の?舞費?補償(?律15万円)
・交通事故等によるケガの補償(死亡後遺50万円)
・付帯サービス(捜索支援サービス) - 保険料
- 月額1,300円(補償内容によって異なる)
認知症保険の変遷
最初に認知症保険として登場したのは、2016年3月発売の太陽生命「ひまわり認知症治療保険」です。
続いて同年4月に朝日生命の「あんしん介護 認知症保険」が発売されて以降、当初の予想をはるかに超えた売れ行きに各社が次々と追随。
翌年2017年 7月にメットライフ生命の「終身認知症診断一時金特約」、2018年2月にセント・プラス少額短期保険の「認知症のささえ」、同年4月にフコクしんらい生命の認知症診断給付金付「介護保障定期保険特約」、三井住友海上あいおい生命は介護特約を改定した「認知症一時金給付特則」を。
同年7月に損保ジャパン日本興亜ひまわり生命の「リンククロス笑顔をまもる認知症保険」、同年10月に、富国生命の主力商品「未来のとびら」に付帯する新しい特約として「あんしんケアダブル」などが発売されています。
さきがけとなった太陽生命も、累計販売38万件という従来商品を同年9月いっぱいで打ち切りとし、10月に「ひまわり認知症予防保険」として発売。
すでに販売件数が4万5000件にのぼるなどの好調ぶりを見せています。
一方、損害補償タイプとしては、2017年8月にリボン少額短期保険の「リボン認知症保険」が認知症に特化した初めての損害保険として、単体商品として販売しています。
2018年6月には、一般社団法人全国地域生活支援機構JLSA(引受保険会社は損保ジャパン日本興亜)が同社団の個人会員向けに「わたしのお守り総合補償制度」、同年10月には東京海上日動火災保険の「認知症あんしんプラン」が発売。
2019年1月には、三井住友海上火災保険が認知症等の運転者による交通事故被害者向けに自動車保険「心神喪失等による事故の被害者救済費用特約」を導入するなど、損保でも認知症リスクをカバーする商品の投入が相次いでいます。
自分に合った保険内容で選ぶ
認知症保険は、各社保障内容が異なるため、保険料だけの比較は難しいのですが、ほとんど商品は、男女の保険料設定に差がある点は共通しています。
おおむね、男性よりも女性の方が長生きですので、女性の方が保険料は高め。
セールス戦略的に、あえて女性の保険料を抑えている商品もありますが、いずれにせよ、各社さまざまです。
また、前述の通り、認知症は高齢になれば発症率は高くなりますので、リスクが高まる年代から加入するとなれば、保険料負担も大きくなりがちです。
さらに、認知症は予防が重要ということで、最近の認知症保険は、予防機能を付加したものなど進化し続けているよう。
いずれにせよ、加入する場合は、自分に合った保険内容が何かを明確にした上で商品をどう選ぶかが重要でしょう。
イラスト:安里 南美・上原ゆかり
この記事の制作者
著者:黒田 尚子(ファイナンシャル・プランナー)
CFP®資格、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
1998年FPとして独立。2009年末に乳がんに告知を受け、自らの体験から、がんなど病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力。著書に「がんとお金の真実(リアル)」(セールス手帖社)、「50代からのお金のはなし」(プレジデント社)、「入院・介護「はじめて」ガイド」(主婦の友社)(共同監修)などがある。