【老後のお金に備える】自分に合った認知症保険の選び方・注意点

認知症によるリスクや介護などのための費用を準備する方法として、認知症保険へのニーズは年々高まりをみせ、ここ数年、認知症に特化した保険商品が次々と登場しています。

基本的に、認知症保険は、認知症を発症あるいは要介護状態なる前に加入するものですが、中には、認知症と診断された後からでも加入できる商品や要支援状態あるいはMCI(軽度認知障害)も保障する商品、認知症と診断される前に予防給付金が受け取れる商品など、新しいタイプも発売されています。

今回は、ニーズ別に自分に合った認知症保険の選び方と注意点をご紹介しましょう。

「治療保障」か「損害補償」の2つのタイプから選ぶ

認知症保険には、生命保険会社が扱う、各社所定の認知症と診断された場合等に一時金あるいは年金が受け取れる「治療保障」タイプ。

損害保険会社が扱う、認知症患者が第三者に損害を与えたり、ケガをしたりした場合の費用を補てんする「損害補償」タイプの2つがあります。

治療保障タイプ

認知症にかかる費用を定額で受け取れる、いわば、認知症によって増える支出(介護費用、医療費、認知症高齢者見守りサービスなど)をまかなうための生命保険です。

おもに、認知症に特化した民間介護保険がベースになっています。

損害補償タイプ

認知症患者が引き起こすトラブル(損害賠償請求、火の不始末、交通事故、示談交渉など)にかかる費用の実損分を一定の上限まで補償する損害保険です。

おもに、個人賠償責任保険(個人の日常生活や住宅の使用・管理等に起因して、第三者の身体や財物に損害を与え、賠償責任が生じた場合の損害を包括的にカバーできる)がベースになっています。

治療保障タイプは、いわば認知症に特化した民間介護保険であり、損害補償タイプの多くは、個人賠償責任保険をベースにしています。

この保険は、個人の日常生活や住宅の使用・管理等に起因して、第三者の身体や財物に損害を与え、賠償責任が生じた場合の損害を包括的にカバーできるというものです。

認知症による支出増は、個々の状態や環境などによってケースバイケース。とはいえ、基本的に個人の裁量によって必要保障額を決められます。

それと比較すると、認知症による法律的な損害賠償額は高額になりがち。さらに、本人だけでなく、家族に対して請求される可能性もあります。

そのため、おもに、損害補償タイプは、家族を契約者、本人を被保険者として、加入するケースも想定されています。

いずれにせよ、それぞれのタイプによって、ニーズはもちろん、給付金の受け取り方などが異なりますので、認知症保険の加入を検討する場合、まずは、どちらの認知症リスクをカバーしたいのかを明確にすることが重要です。

「一時金」か「年金(併用)」保険金の受取り方法で選ぶ

認知症保険は、ほかの民間介護保険と同じく、定額の給付金を一時金で受け取れるタイプと終身年金で受け取れるタイプがあります。

一時金タイプは、「できるだけ割安な保険料で加入したい」「まとまったお金が必要となる初期費用などに備えたい」という人向きの商品です。

一時金の額は、保険会社や保険商品によって30万円~300万円など幅広く、個々のニーズや保険料に応じて選べます。

年金タイプは、「初期費用などは預貯金でまかなうが、認知症介護が長引いた時の負担増に備えたい」人向きの商品です。

年金の額は、10万円~60万円(10万円単位)で、要介護認定や日常生活自立度判定など身体の状態に連動して給付金額が増減する商品もあります。

なお、保険料は高額になりますが、両方に加入することも可能です。

民間介護保険加入のメリットと注意したいポイント

「認知症+α」の保障内容の有無で選ぶ

認知症保険には、各社所定の認知症の状態になった場合のみを保障する商品と介護保障や医療保障、死亡保障が付加されている商品があります。

つまり、単体で加入するのか、特約で加入するのかということです。

例えば、医療保障付きのものあるいは医療保険や条件緩和型医療保険に特約として認知症保険が付帯されている場合は、認知症以外の所定の疾病も対象となります。

認知症以外に、幅広い介護や疾病、死亡リスクなどに同時に備えたいなら、これらも保障している商品を選んだ方が、複数の商品に加入するよりも保険料が割安になる可能性は高いでしょう。

ただし、当然のことながら保障範囲が広い分、保険料は割高です。また途中で、いずれかの保障が不要になったときに見直ししにくいのも難点です。

加入条件・加入年齢で選ぶ

認知症保険は、原則として、所定の要介護状態と認定あるいは認知症と診断される前に加入するものです。しかし、中には、認定・診断後でも加入できる商品があります。

現在、認知症保険を取り扱う国内生保の担当者によると、同保険の加入者のボリュームゾーンは60~70代で、女性が7割を占めているそうです。

もちろん、医療保険に付帯するタイプの場合、若年層の加入者も少なくありません。

ただ、認知症保険という商品の、あまり早く加入してしまうと、実際に必要な時期に保障額の不足やニーズと保障内容のミスマッチが生じていることも予想されます。

また、30~50代は他に優先させるべき貯蓄あるいは保障ニーズがあることがほとんどです。

となると実際に加入する時期は、介護や認知症が切実で身近な問題として感じられる60代以降というのが現実的なのかもしれません。

そうなると、すでに何らかの持病を抱えていて健康体としては加入できない場合も考えられます。

そのため、認知症保険に加入を検討する年代によっては、持病の有無や要介護認定・認知症診断の有無といった、加入条件や加入可能年齢などの条件を満たす、自分が加入できる商品の中から選ぶというのもポイントの一つと言えます。

予防給付の有無や付帯サービスで選ぶ

最近、民間介護保険でも、介護保険の要支援で保障する商品や、予防に着目した認知症保険が発売されています。

例えば、認知症を発症しなければ2年ごとに3万円の予防給付金が受け取れるものや、MCI(軽度認知障害)で5万円の給付金が受け取れるものなど。

なお、予防給付金については、認知症予防に使わなければ、従来の保険商品の健康祝金と同じ位置づけです。

これらの商品の目的は、認知症予防に努めること。軽度の段階で認知症を発見することで、進行を防ぐ点にあります。

いわゆる健康増進型保険と同じく、わざわざ保険に加入しなくても、自分でできるという人は不要でしょうが、逆に、予防へのインセンティブとなるとお考えの人にとっては、最適な保障なのかもしれません。

このほかに、多くの認知症保険には、認知症予防アプリ、診断書取得代行サービス、介護・健康相談サービスなど認知症保険の加入者向けサービスが付帯されています。

認知症保険を選ぶときの注意点

認知症保険の加入条件と同じく、認知症保険の給付条件は各社異なります。

そこで、認知症保険を選ぶときには、まず給付条件を確認しましょう。各社共通している条件は「所定の認知症」というキーワード。

これにおおむねプラスする形で、以下のような条件が設けられています。

とりわけ、下記の⑤のように、給付までに一定期間が設けられている商品については、すぐに給付が受けられるわけではない点に注意が必要です。

注意したい認知症保険の給付条件

  • ①器質性認知症(脳の組織の変化によって起きる認知症)と診断確定
  • ②見当識障害の有無
  • ③所定の要介護状態の認定(要介護1、2など)
  • ④認知症高齢者の日常生活自立度判定基準がⅢ、Ⅳ、Mのいずれかと判定
  • ⑤所定の認知症の状態が一定期間(180日以上)継続の有無

また、認知症保険には選ぶときだけでなく、その後にも注意が必要です。

それは、認知症保険に加入している事実や保障内容を家族や周囲に伝えておくこと。認知症を発症すると、加入していることを本人が忘れてしまうケースも少なくないからです。

それを防止するためには、本人に代わって家族などが保険金を請求できる「指定代理請求人」を決めておくこともお勧めです。

まとめ

認知症保険は、認知症にかかる経済的リスクに備える方法の一つです。ただし、商品内容は横並びではなく、保険料もどれが割安なのか比較するのも難しくなっています。

そのため、加入を検討する場合は、まず自分が認知症によって、どんなリスクがあるのかを洗い出すことが第一です。

そして、それらのリスクに対して、人的保障や公的保障、預貯金などでカバーできないかを考えます。その上で不足するのであれば、ようやく民間保険が登場するわけです。

しかし、ここでも、既契約の保険があれば、保障内容が重複していないかを確認します。

とくに、損害賠償タイプの認知症保険について、火災保険や自動車保険などにも個人賠償責任保険が付帯されていますので、そちらでまかなうこともできるはずです。

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この記事の制作者

黒田 尚子

著者:黒田 尚子(ファイナンシャル・プランナー)

CFP®資格、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
1998年FPとして独立。2009年末に乳がんに告知を受け、自らの体験から、がんなど病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力。著書に「がんとお金の真実(リアル)」(セールス手帖社)、「50代からのお金のはなし」(プレジデント社)、「入院・介護「はじめて」ガイド」(主婦の友社)(共同監修)などがある。

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