【体験談から見る】高齢者の水分補給の難しさ
水分補給のタイミングは、「喉の渇き」がひとつの目安になっている方も多いと思います。
しかし、高齢者は喉の渇きを感じにくい方も多いため、気づかぬうちに脱水状態になっていることも多々あります。
あるいはトイレが近くなるため、意識的に水分補給を控えるなどで必要な水分がとれないことがあり、命にかかわる大事に至ることもあるのです。
寺内元治さん(仮名)82歳のエピソード
「喉が渇かない」と、水分補給を促してもなかなか水分の摂取量が確保できない寺内元治さん(仮名)82歳は、妻の嘉代さん79歳と二人暮らし。
元治さんは日常生活動作が低下し、立ち上がりや歩行に介助が必要なため要介護2の認定を受けています。1階の居間の一角にベッドを置き1日の生活の大半をここで過ごしています。
元治さんは大のエアコン嫌いなため、真夏の暑さでもエアコンはつけず、ゆるい風の扇風機をかけるだけ。
室内で過ごしていても、熱中症が心配だからと近くに住む息子さんが訪ねるごとに声をかけてはいるものの、なかなか応じてくれないと嘉代さんも困っている様子。
せめて水分を工夫してとってもらいたいと思っています。
元治さんの水分摂取量が少ない原因は?
元治さんと話をしていくうちに、様々な原因が浮かび上がってきました。
- もともと水分摂取量自体が少なかった。
- 自分一人でトイレに行けないため、水分摂取を控えていた。
- おなかがあまり空かないので、水分でおなかがいっぱいになってしまう。
- 「飲まなければいけない」と思うと負担になる。
- 「水」は味気なく飲みにくい。
- 水分補給の際、むせる時があるので苦しい。
水分不足に対する対策
1.自分でトイレに行きたい元治さんをどうサポートすればよいか
・体が思うように動かずとも、元治さんはオムツではなく自力でトイレに行きたいとおっしゃるので、日中は嘉代さんやヘルパーさんに付き添ってもらいトイレへ。
・夜間だけでもポータブルトイレを活用してみることで不安が軽減。
はじめはポータブルトイレを活用することに抵抗があるかもしれません。
動けるときはできるだけトイレを利用してポータブルトイレは必要なときだけにする方法もあります。見た目が車イスのような家具調になっており、部屋に設置しても違和感なく使用できるものもあります。
福祉用具については担当のケアマネジャーに相談してみましょう。
2.水分=水だけではなく、1日の水分量全体をみてみよう
水だけを単独で飲むのは苦痛が生じることでしょう。
1日の水分摂取量は1,500mlを目安とし、水以外にもお茶や甘味の少ないドリンク、料理や味噌汁などでも水分補給ができます。料理として水分補給できると水だけでおなかいっぱいになる負担はなくなるかと思います。
飲み物として水分補給をする場合、コップ一杯程度(200ml程度)を1日6回~8回くらいに分けて飲むといいでしょう。
元治さんのようにベッドで過ごすことが多い場合は、500mlのペットボトルやクーラーポット、吸い口のついた容器にお茶などを入れておくと、どれくらい飲んだか把握しやすいと思います。
水分を補給するタイミングは、朝起きた時、朝食、昼食、夕食、入浴後、寝る前など、習慣化しておくと少しづつ水分補給ができるようになるので安心です。
3.むせる時がある場合は、誤嚥性肺炎にご注意を。
麦茶や紅茶などにゼライスを加えてやわらかく崩したゼリーにすると、のど越しが良く水分補給にもなります。
軟らかく喉をうまく通る程度の食感のゼリーはちゅるちゅると飲むことができますので液体が気管に入る誤嚥防止にもつながります。
見た目や食感が変わると飲んでみようという気持ちも生まれてくるかもしれません。
管理栄養士のアドバイス
元治さんの場合は、周囲への負担や身体の不安なども水分補給を控えさせていた原因になっていたようです。
決して水分を飲みたくないと意地を張っていたわけではないので、「飲みたくても飲めなかった理由」があったならば、一つひとつ解決するための対策を周囲の方と一緒に考えてみてはいかがでしょうか。
室内の温度・湿度に関してはまだまだ課題が残りますが、冷感シーツやタオルケットなどを活用して体温調整を試みるのも気持ちがいいと好評です。
体温管理が難しい高齢者には様々な工夫をこらして接することが必要ですね。
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著者:徳田 泰子(「株式会社ヘルシーオフィスフー」代表取締役。管理栄養士・調理師)
病院での栄養管理業務に約10年間携わり、健康であるためには日々の暮らしにおいて「おいしく、楽しく」食事をとることが重要であると考え起業しました。
家族の在宅での介護・看取りの経験からグループホームをはじめ高齢者施設での栄養サポートを行い、安全・かんたん・おいしい食事づくりのご支援をさせて頂いております。
高齢者食支援専門サイト「スマイリーフード」http://foo.co.jp/管理運営。