【栄養士が解決】うまく食べられないことが、夫婦喧嘩の元になっていませんか?

うまく食べられないことが、夫婦喧嘩の元になっていませんか?

75歳の上野幸助(仮名)さん。脳梗塞を発症し、後遺症で右半身麻痺、軽度の摂食・嚥下障害があります。

病院でのリハビリを経て、室内では4点杖を使えば、介助なしで移動することができます。屋外は電動車いすに乗って、近所のデイサービスに自力で通っています。

食事の様子は、右麻痺の為左手に利き手交換したので箸が使えずスプーンを使っています。右くちびるの閉じる力が弱いため、食べ物がこぼれたり、よだれが出たりすることがあります。

幸助さんのエピソード

○月×日 この日はとてもいい天気だったためか、いつもよりおしゃれをして、上野幸助さん(仮名)はデイサービスにいらっしゃいました。

お迎えの職員が「上野さん、おはようございます!今日は一段とダンディですね。そのシャツは奥様からのプレゼントですか?」と、声をかけると、「あいつはそんなに気が利くやつじゃない!昨日も大ゲンカしたんだ。」

話を聞くと、ケンカをしたのは夕飯の時。

「こんなに時間がかかって、こんなにこぼすなんて、もっとしっかり食べてください。」と、奥様に言われて、上野幸吉さんは、怒ってしまったらしいのです。

上野さんの通っているデイサービスは、上野さんのように右麻痺、嚥下障害というハンディキャップがあっても、ご本人がご本人のペースで食事ができるように、いろいろな工夫をしています。

まずは、食べやすい姿勢を整えます。椅子やテーブルの高さを調節し、麻痺側に傾かないようにクッション等で骨盤を安定させます。

次に食形態。上野さんは軽度の嚥下障害はありますが、咀嚼は充分にできるので、液体には薄いトロミをつけて、主食は軟飯、副食は一口大にしています。

そして、利き手交換し左手を使って食事をしているので、らくらく箸、もちやすいスプーンを使い、食器もすくいやすく淵に工夫をしてある自助食器にきれいに盛り付けています。

そうすることで、同じテーブルの方より若干時間はかかるものの、30分以内にいつも完食しています。時間がかかる?こぼす?話を聞いた職員は、その状況が想像できませんでした。

夕方、上野さんをお迎えにきた奥様に、家での食事の様子をお聞きしました。

「食事が大変なんです。大体1時間以上かかりますし、食べた後はその辺に食べこぼしが沢山。右手が麻痺しているので、左手でスプーンを使うのですが、お皿から食べ物がうまく取れずに皿からこぼすんです。口に運ぶまでもこぼしてしまうから、もっとテーブルに近づいてっていうんですけど、やらないのよね。食事は食べやすいように細かく刻んであげているのに、よく噛まないからむせることも多いし・・。いやになっちゃうわ。だから、一緒に食べないで、終わったころに片付けに行くんですよ。」

この奥様の言葉から家の様子が想像できました。

ダイニングテーブルの椅子は、小柄な上野さんには座面が高くて座りにくい。座りなおしをすることはおひとりでは難しいので、浅く座ることになり、のけぞり姿勢になります。

そうするとテーブルとの距離が遠くなるため、すくいにくいし、途中で落ちるし、食べる時も顎が上がるのでむせやすい。

食形態は、半年前に病院で指示された刻み食を続けています。

刻み食がフラットなお皿に盛り付けられていたら、私たちでもうまくすくえず、皿からこぼすはずです。硬い食材は刻んでも硬いままで、ぽろぽろのまま喉に送られるので、むせる原因になります。

皿からすくいにくい、むせて食事が中断する、一人でたべて食事が進まない、この状態では、食事に1時間以上かかるはずです。

奥様に、デイサービスでの昼食の様子をお伝えすると、「信じられない!!」

百聞は一見にしかず。次の通所時にお昼ご飯を一緒に食べてもらうことにしました。

○月△日、この日も上野さんは、ダンディに車いすで通所してきました。奥様は、お昼近くに来所し、一緒にお昼ご飯の時間です。

まず、恒例のみんなで口腔体操。そして椅子にしっかり深く座って姿勢を整えます。

この日の献立は、軟飯、味噌汁(薄いとろみ)、肉じゃが(一口大)、ほうれん草のお浸し(柔らかくゆでる)、キャベツとツナのサラダ(柔らかくゆでて、マヨネーズでまとめる)。

淵に反り返りがあり、すくいやすい有田焼の食器に、刻むのではなく、食べやすい柔らかさにつくられた料理が、とりやすい大きさに包丁が入れられて、きれいに盛り付けられて出てきました。

それを上野さんは、ピンセット型らくらく箸と柄が太くてつかみやすいスプーンを上手に使って、こぼすことなく、むせることなく、30分で完食したのです。

奥様は、「ここの食事はおいしいって評判なのよね」と幸吉さんの事は気にせず食べていましたが、途中で、「こぼしていない。むせていない。エプロンしていない。」ことに気づいてビックリ! 

「家とは全然違うのは、どうしてですか?」と質問されました。姿勢、食形態、食具、自助食器を順番に説明すると、そのたびに「ガッテン!!」「ガッテン!!」

「目からうろこでした。こぼす、むせるのは仕方がないとおもっていたから、誰にも相談しなかったのよね~。箸とスプーン、有田焼の食器、全部買って、家で使います。食事も刻まないで柔らかくすればいいのなら、私も楽だわ」

これで、1件落着。今は、家でも仲良く一緒にテーブルについて、楽しく食事をしています。

管理栄養士のアドバイス

食事をこぼす。小さなこどもや高齢者には、時々みられる光景ですね。その時、私たちは「こぼすからエプロンしましょう」と、安易に済ませていないでしょうか。

どうして食事をこぼすのか?こぼさないで食べる方法はないのか?と、少し考えてみましょう。

ポイントは、「1.身体機能」と「2.食事環境」の2つです。
 
1.身体機能は、腕がどのくらい上がるのか、箸を持てる指の動きなのか、噛むことに問題はないか、飲み込みの機能は低下していないかなどを観察します。

2.食事環境は、身体機能に合わせることが重要です。上野さんのように環境整備するだけで、食べられるようになる方は多いと思います。

姿勢は整っていますか。箸、スプーン等の食具は使いやすいものですか。食形態は摂食嚥下機能とあっていますか。

誰かと一緒に食事していますか。それが大好きな人と一緒の食事なら、いつもは動きにくい腕や口の機能もスムーズに動いてくれはずです。食事が楽しい時間を演出してくれますように・・・。

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この記事の制作者

安田 淑子

著者:安田 淑子(beside びさいど 在宅訪問管理栄養士)

北海道登別市出身。高血圧の母が行っていた減塩食をきっかけに栄養士を目指し、上京しました。
総合病院、デイサービス、歯科医院での経験を経て、2010年から複数の医療機関と契約し、在宅訪問栄養指導を行っています。笑顔で楽しい、うれしいと言える空間づくりのヒントをお伝えできればと思っています。

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