【はじめての方へ】高齢者の骨折|70代から急増するワケとその予防法
高齢者に骨折が多いのは、筋力低下による転倒などいくつかの理由が考えられます。ここでは骨折しやすい3つの理由、骨折しやすい部位、骨折しやすい人の特徴や予防法について解説します。
高齢者が骨折しやすい3つの理由
高齢者が骨折しやすい理由としてあがるのが次の3つです。
- 骨粗しょう症で骨そのものの強度が落ちる
- 筋力低下に伴い転倒しやすい
- 栄養不足で皮下脂肪が菲薄化する
これら3つの理由を解説していきます。
また、あまり知られていませんが、高齢者に多い糖尿病や腎機能障害のある方も、骨粗しょう症が一般の方より急速に進行し骨折しやすいといわれています。
骨を強くするのに役立つ栄養素の1つはビタミンDです。通常、ビタミンDは腎臓で活性型ビタミンDとなり、腸管からのカルシウムの吸収を促進することで、骨を丈夫にする役割があります。
しかし、腎機能が低下するとビタミンDを活性化できず腸管からのカルシウム吸収が低下します。血液中のカルシウムが足りなくなると、逆に骨のカルシウムを血液中に溶かし出すようになるため骨粗しょう症が進むのです。
1.骨粗しょう症で骨そのものの強度が落ちている
骨粗しょう症の有病率は加齢とともに上昇し、80歳代の女性では約5割が骨粗しょう症であると言われています。
日本における骨粗しょう症の有病者数は1300万人。うち女性だけで約1000万人と言われていますが、病院への受診率は低く、治療をうけている方は全体の約20%しかいません。
一度骨折をして病院で手術などの治療を受けたにもかかわらず、骨粗しょう症の治療をしなかった場合、骨折を繰り返すことになります。
2.筋力低下に伴い転倒しやすい
60歳を過ぎると筋肉量の減少が加速します。特に太ももを持ち上げる腸腰筋(ちょうようきん)の減少は、歩行時の足の動きが鈍くなったり、つまずきやすくなるため転倒の危険性が増加。その結果、骨折となりやすいのです。
3.栄養不良で皮下脂肪が菲薄化している
加齢により皮膚を形成する表皮、真皮、皮下組織の菲薄化(薄くなる)。そして、皮下脂肪の減少により、転倒時に骨を守るクッション機能が働かなくなり、骨折しやすくなります。
骨折しやすい部位には理由がある
高齢者の骨折の中でも以下の三つは特に多い骨折部位としてあげられます。
1.足の付け根の骨折(大腿骨近位部骨折)
2.胸から腰にかけての背骨の骨折(椎体骨折)
3.手首の骨折(橈骨遠位端骨折)」
これらの部位が骨折しやすい理由を紹介していきます。
1.足の付け根の骨折(大腿骨近位部骨折)
つまづいて転び、尻もちをついたときに多く起こる骨折です。特におしりの脂肪が少ない方は直接骨に衝撃が伝わり骨折しやすくなっています。
この骨折、通常は足を動かすことが出来ないほどの痛みを伴うため、救急車で病院に搬送されることになります。
しかし、稀に普通に歩くことが出来る方もいるので、歩けていても折れている可能性があるため要注意です。
2.胸から腰にかけての背骨の骨折(椎体骨折)
背骨はだるま落としのような円盤のような骨が積み重なった構造をしてます。骨の強度が低下することで、この円盤がつぶれてしまうために起こる骨折。特に多いのは胸腰椎移行部(S字の後弯から前弯に移行する場所)です。
3.手首の骨折(橈骨遠位端骨折)
転倒して手をついたときに起こりやすい骨折です。転倒しやすく骨粗しょう症の高齢女性に多く見られます。
骨折予防で注意したい二つのこと
骨折の予防のために大切なことは大きく二つ、「転倒予防」と「骨粗しょう症の予防と治療」です。
日常生活において歩行運動を積極的に行なうことが転倒予防としてたいへん有効です。厚生労働省の示す目標では、70歳以上の高齢者でも男性なら6,700歩、女性5,900歩とされています。朝起きたらまず万歩計を付けて実践しましょう。
しかし、高齢になれば移動速度やバランス感覚が多少悪くなるのは自然なこと。そのため、たとえ転んでも折れにくい強い骨を作ることも重要です。これは骨粗しょう症の予防と治療とイコールになります。ポイントは以下の3つ。
- 適度な運動負荷
- カルシウムや蛋白質を意識した食生活
- ビタミンDの生成のために日光に当たる
骨密度は貯金のようなもの。若い時(20-44歳くらいまで)に貯めた骨量は年齢とともに少しずつ減っていきます。増えることはありません。
上記の3つはあくまでもその進行を遅らせるための対策です。どんなに頑張っても残念ながら骨密度を再び上げる効果はありません。
病院で骨粗しょう症と診断された場合には、あくまでも薬による治療が必要だということをお忘れなく。
骨粗しょう症は足音のない病気
骨粗しょう症は、骨折するまでは全く症状のない、足音のない病気です。骨折したことのない人は骨折しないこと、骨折したことのある人は2回目の骨折を起こさないことが重要です。
いまの骨の状態を知り、骨粗しょう症の疑いがある場合は治療をはじめること。そして、転倒しない環境、服装、靴などで行動し予防することが予防の第一歩となります。
また骨折を伴う骨粗しょう症と診断された場合は特定疾病とみなされます。40~64歳未満でも骨粗しょう症と診断された場合は「2号保険者」として、介護保険が適用され、要介護認定の対象となります。
公的介護保険サービスも利用できるので、必要に応じて検討しましょう。
要介護認定の申請方法|介護保険サービスを受けるには?転倒しない環境作りを
高齢者に多い骨折の原因はほとんどが転倒です。そのため転倒しないための環境作りや服装、靴を身につけることが予防につながります。また、専門医の診察を受け骨の状態を知ることで、骨密度をを維持するための運動、食事や外出を生活に取り入れていくことも大切です。
高齢期の立ち上がりは転倒の危険も|ふらつき改善で転倒予防イラスト:坂田 優子
この記事の制作者
著者:橋本 優子(看護師編集者)
大学卒業後、出版社にてビジネス誌の編集に携わる、その後、出産をきっかけに看護師資格を取得。病院勤務後、「看護」「医療」の知識を活かした情報発信をするため、現在は健康に関する記事の企画、取材、執筆、編集までを行う。
監修者:上野 正喜(医療法人社団慶泉会 町田慶泉病院 副院長)
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
日本専門医機構脊椎脊髄外科専門医
日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医
日本骨粗鬆症学会認定医