【専門家が解説】高齢期の立ち上がりは転倒の危険も!ふらつき改善で転倒予防
立ち上がりは、日常生活における基本的な動作の一つです。
高齢の方で立ち上がり時にふらつきがみられる場合は、転倒・転落の危険を伴います。
このページでは、知っておきたい安定した立ち上がり方法と、要介護にならないための介護予防体操を紹介します。
高齢者の「立ち上がり」が危険な理由
立ち上がる際に最も注意すべきは、バランスを崩し転倒しないことです。
高齢者は骨折しやすく、例えば脚の付け根である大腿骨を骨折すると手術が必要になる場合や、骨折によって血の塊(血栓)が血管に詰まり、死に至る場合があります。
また、病院のベッド上で安静にしている期間が長くなると、全身の筋力低下により寝たきり状態になるリスクも上がります。
このように、たった一度の転倒によって生活が一変することもあるので、ふらつきがなく安定した立ち上がりが出来ることが大切です。
自宅の転倒場所は「リビング」が最多
「平成22年度 高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査結果(全体版)」によりますと、自宅で転倒がおこる場所としては「庭」が36.4%と最も多く、次に「居間・茶の間・リビング」「玄関・ホール・ポーチ」「階段」「寝室」という順番になっています。
室内での転倒場所をみていくと「居間・茶の間・リビング」が20.5%と最も高い割合となっており、次に「玄関・ホール・ポーチ」が17.4%、「階段」13.8%、「寝室」10.3%、「廊下」8.2%、「浴室」6.2%の順番となっています。
例えば「居室内で一人でトイレに行こうとした」という状況に、事故が多くみられています。
日ごろから意識的に運動やリハビリを行っておらず、足腰の筋力が低下している高齢者は特に注意が必要です。
3つのステップで安定した立ち上がりを
筋力が低下している高齢者でも、人の手を借りず安定して立ち上がる方法があります。
ここでは、3つのステップに分けて立ち上がりの動作を解説していきます。
- ステップ1:イスなどに座っている姿勢から重心を前に移動させ、足の裏に重心を移動させる段階
- 座っている姿勢から身体を前に倒していき、それと共に股関節がしっかり曲がっていきます。お尻辺りにあった重心が徐々に足の裏に移動して、踏ん張るための準備が行われます。
- ステップ2:立ち上がるために座っている所からお尻が離れる段階
- 足の裏に移動した重心を更に前下方に移動させます。重心が前下方へ移動することにより、座っている所からお尻が離れ、足の裏に体重がしっかりかかり立つための準備を行います。
- ステップ3:お尻が浮いた姿勢から立つ姿勢になる段階
- お尻が離れると、ゆっくり身体と股関節を伸ばして立つ姿勢をとります。
立つ姿勢を行うためには大きな力は必要とはせず、ステップ1・2の時に足の裏にしっかり体重を乗せることが出来ていると楽に立つことができます。
イスからの立ち上がる際に転倒も。その原因
立ち上がり時にふらつくことや、立ち上がれない理由は多々あるものの、以下の3つの原因がよく見られます。
姿勢が悪い
高齢者の座っている姿勢の多くは、体幹の筋力低下や脊椎の変形などが原因で背中が丸まった姿勢となっています。
このような姿勢で立ち上がろうとしても、身体が前に倒れず、足の裏に重心が移動しにくいため、踏ん張る準備が整いません。そのため、上手く立てずに尻餅を付くように後ろに倒れやすくなってしまうのです。
関節の曲げ伸ばしが不十分
ふらつかずに安定した立ち上がりを行うためには、各関節の曲げ伸ばしが必要です。その範囲は以下のようになります。
股関節を曲げる角度:100~0°
膝関節を曲げる角度:80~0°
足関節のつま先を上げる角度:20~0°
※これらの範囲内の角度で立ち上がりが行われます。
これらの関節の動かす範囲が1つでも狭くなると、その動きを補うように他の関節が大きく動いてしまい、立ち上がりなどの安定性が低くなってしまいます。
その結果ふらつきやすくなり、立ち上がり時において補助を必要とする機会が多くなります。
必要な筋力が弱くなっている
安定した立ち上がりを行うためには多くの筋肉が必要となります。
多くの筋肉の中で特に重要な筋肉はしっかり座るためや、立つために必要なお尻の筋肉(大殿筋;だいでんきん)、体を前に倒す筋肉(腸腰筋;ちょうようきん)、立ち上がる時の足の踏ん張りに必要な太ももの筋肉(大腿四頭筋;だいたいしとうきん)があります。
特に高齢者の場合は、これらの筋肉が弱くなりやすいため、介護予防体操を積極的に行うことが大切です。
【動画でわかる】介護予防体操で安定した立ち上がりを
ここまで紹介したことで、正しい立ち上がり方法や筋肉を維持する必要性が理解できたかと思います。
ここからは、スムーズで安定した立ち上がりを行うための介護予防体操を紹介します。
- 決して無理はせずに、継続できる範囲内で実施してみてください。もしも痛みなどが生じた際は体操を止め、医師の診断を受けましょう。
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- 1.つま先上げ
- ① イスに座り、少しだけ足を前に出します。その際、両手はイスをしっかり持ちます。
② しっかりと姿勢を保ったまま、つま先を上に上げます。
③ この介護予防体操を10回繰り返し行います。 - 2.かかと上げ
- ① イスに座り、少しだけ足を後ろに下げます。その際、両手はイスをしっかり持ちます。
② しっかりと姿勢を保ったまま、かかとを上に上げます。
③ この介護予防体操を10回繰り返し行います。 - 3.お尻の前後介護予防体操
- ① イスに座り、両手を腰にそえます。
② ①の状態から片方のお尻に体重をのせて反対側のお尻を軽く浮かせます。
③ その浮いたお尻を前へ移動させます。
④ 前に移動した方のお尻に体重をのせて反対側のお尻も前に出します。
⑤ 前に移動した方法同様に後ろにお尻を戻します。
⑥ この介護予防体操を前後3往復行います。 - 4.足首の介護予防体操
- ① イスに座り、片足をあぐらをかくように上げて、残っている足の上に乗せます。
② 上に乗せている足首を持ち、大きく回ります。
③ ②を行ったら続いて上下に足首を動かします。
④ 逆の足も同じように大きく回した後に、上下へ動かします。 - 5.足の前後介護予防体操
- ① イスにしっかり座ります。
② 右足を前に出し、続いて左足も前に出します。
③ 両足とも前に出したら、次に右足を後ろに下げて元の場所に戻したら、次に左足も後ろに下げて元の姿勢に戻します。 - 6.身体を前に倒す介護予防体操
- ① 背筋をしっかり伸ばして座ります。
② 両足のつま先に両手が届くように身体を前に倒していきます。
③ つま先に両手を付けた状態で5秒間止まります。
④ この介護予防体操を3~5回行います。 - 7.膝を抱える介護予防体操
- イスにしっかり座って右足の膝を抱えて胸に近づけます。
② 膝を抱えて胸に近づけたら10秒間止まります。
③ 右足の膝を下ろしたら逆の左足の膝を抱えて胸に近づき10秒間止まります。 - 8.背筋伸ばし
- イスに背筋を伸ばして座ります。
② 両肘をしっかり伸ばして体の前で両手を組みます。
③ そのままゆっくり両手を上げていきます。その際は常時背筋はしっかり伸ばしておきます。
④ 両手を上に上げたら10秒間その姿勢で止まります。 - 9.お尻上げ
- ① イスに浅く座り、両手を膝の上に置き、両足を軽く後ろに下げます。
② 体を前に倒してお尻をイスから浮かします。
③ お尻を浮かした状態で3秒間止まります。
④ お尻をイスに戻します。この介護予防体操を3~5回行います。
ここで紹介した介護予防体操の内容を全て行うのが大変な方は、行う介護予防体操の内容や、1つずつの実施回数を減らすなど無理は決してせずに、続けて行える内容で実施することが重要になります。
介護予防体操をしっかり行い、イスから立ち上がりしやすいからだ作りを
立ち上がりは生活の基本動作ですが、正しい立ち上がりを行わなかったり、筋肉が弱くなっていると上手くできず、ふらつきや転倒に繋がります。
正しい立ち上がり方法を理解するとともに、ここ紹介した介護予防体操をしっかり行い、イスから立ち上がりやすい身体作りを目指していきましょう。
【PR】介護が必要になったら、操作不要の【簡単テレビ電話】が便利(外部リンク)イラスト:安里 南美
この記事の制作者
著者:野田 政誉士(理学療法士)
(理学療法士、介護支援専門員、福祉住環境コーディネーター2級)
およそ10年間、理学療法士として病院に勤務。現在は臨床と管理業務の両方を行っており、医学的知識だけではなく、マネジメント業務にも力を入れている。
監修者:森 裕司(介護支援専門員、社会福祉士、精神保健福祉士、障がい支援専門員)
株式会社HOPE 代表取締役
医療ソーシャルワーカーとして10年以上経験した後、介護支援専門員(ケアマネジャー)に転身。介護の相談援助をする傍ら、医療機関でのソーシャルワーカーの教育、医療・介護関連の執筆・監修者としても活動。近年は新規事業やコンテンツ開発のミーティングパートナーとして、企業の医療・介護系アドバイザーとしても活動中。