【知っておきたい】誤嚥をふせぐ薬の飲みかたと家庭でできる工夫
加齢とともに飲みこみがうまくいかず、服薬時に誤嚥(ごえん)をした経験はありませんか?
誤嚥をふせぐ服薬方法には、「大きい錠剤を粉砕する」「ゼリーやオブラートに包む」「とろみを付ける」ほか、飲みにくい薬そのものを変更できる場合もあります。
ここでは、嚥下障害の状況にあわせた薬の選びかたや、薬の形状ごとの注意点。飲みこみをサポートする便利なツールなどについて薬剤師が解説します。
誤嚥が起こる原因の多くが嚥下障害によるもの
誤嚥性肺炎を引き起こす
誤嚥とは、食べ物や唾液、胃液などが誤って気管に入ってしまうことをいいます。とくに高齢者は、寝ている間に唾液を少しずつ誤嚥してしまうことがあります。
誤嚥により細菌が肺に入って炎症をきたす誤嚥性肺炎は、高齢者におこる肺炎の7割を占め死亡するケースもあるため、その予防が重要視されています。
誤嚥の原因
誤嚥性肺炎を引き起こす原因のおよそ6割が、脳卒中など脳血管疾患の後遺症からくる嚥下障害です。後遺症で脳神経や筋肉に障害があると、「舌をつかって口の奥に送り込み、飲み込む」といった一連の動き※がスムーズにできず、誤嚥につながりやすくなります。
また、口の中の感覚が鈍くなっている状態では、飲み込めずに残っていることも気付きにくいため、周囲のサポートも大切です。そして、後遺症のほかにも誤嚥の原因となるものがあります。
- ※一連の動きのことを嚥下(えんげ)といいます
【誤嚥の原因】
- 加齢にともなう嚥下(えんげ)機能の低下
- 脳血管疾患の後遺症(片マヒなど)
- 食べ物の塊を咽頭へ送り込む力が弱まってしまう病気
- 飲み込みづらさを生じる心因的な要因
- 薬の副作用による摂食障害(薬剤性摂食障害)
薬を飲むときにご自身や介助者が注意すべきこと
姿勢を変えるだけで飲みこみやすくなる
誤嚥を防ぐためには服薬時の姿勢にも注意しましょう。
椅子にすわって飲むときは、かかとをしっかり床に付けて体を安定させ、お尻をずらして上体を少し後ろに倒すと、重力で飲み込みやすくなります。そのとき首の角度は、上を向くと誤嚥しやすいため、あごを引き、うつむき加減で飲みましょう。
また、口の中や咽頭などにたまりやすいときは、空嚥下(何も口に入れずにする)すると、たまったものを流しやすくなります。薬を飲んだあとは、うつむき加減で、前や左右と首の角度を変えながら、数回ほど空嚥下するのもよいでしょう。
ご自身・介護者それぞれの注意点
あらかじめ、薬の形状や服薬のしかたなど、飲みづらい注意点を知っておくと安心です。また、ご自身が飲むときと、家族など介助者が飲ませるときで注意点も変わってきます。
【自分で飲むときの注意点】
- 飲めたと思っていても口の中に残っていることがある
- 飲み込む力に不安があり、飲む気にならない(服薬意識の低下)
- 徐放性(少しずつ薬の成分が溶け出すもの)の薬をかみ砕いてしまう
- 飲みづらい薬の場合、自己判断で飲むことをやめてしまう
【介助者が注意すべきこと】
- 口の中が乾燥していると、むせたり咳込んだり、口の中に貼りつくことがある
- 粉砕した薬は味やにおいが強く、味覚のしっかりしているひとには不快感がある
- 服薬ゼリーやオブラート、とろみ剤にも種類があり、薬との相性の確認が必要
- とろみ剤は、嚥下障害の程度によって濃度を変える必要がある
嚥下障害の原因が薬の副作用のときもある
気付かないうちに、いつも飲んでいる薬の副作用で、嚥下障害を起こしていることもあります。これを薬剤性摂食障害といいます。
たとえば、頻尿やアレルギー症状の薬、抗精神病薬などによっておこる「口の中の乾燥」は、よくある副作用のひとつです。また、睡眠導入剤や抗不安薬には、「筋肉の伸縮力をゆるめる」といった副作用(筋弛緩作用)があり、日中や食事中でも急に眠気が出ることがあります。
一般的に軽いと思われる副作用でも、高齢者やもともと嚥下障害があるひとの場合は注意が必要です。薬を変えたときや、新しい薬をつかい始めたときなどに、上記のような症状に気付いたら早めに医師へ相談しましょう。
飲みにくい薬は「服薬中断」のリスクがある
継続して飲むべき薬をやめてしまう理由の一つに「薬の飲みづらさ」があげられます。
加齢や身体マヒなどにより咽頭まわりの筋力が低下すると、錠剤が飲み込みにくく、服薬に対してストレスを感じやすくなります。これが原因で服薬を中断してしまい、病状が治るどころか悪化してしまうケースもあるのです。
最近では、高血圧症や脂質異常症などの治療に、2種類の有効成分をひとつにした「配合剤」が使われることも多くなってきました。しかし、この配合剤は、単品の薬よりも錠剤が大きい傾向にあり、飲みにくさを感じる場合があります。これがストレスを生み飲むことをやめてしまう人もいるのです。
また、胃で溶けずに腸で溶けて効く薬は、口の中でかみ砕いて飲むと効き目が弱まり、体調をくずす場合があります。ほかには、水なしでかみ砕いて飲めるのが特徴の「OD錠」でも、口の中に残ることがあるので、十分な水分で流し込むようにしましょう。
薬を飲みやすくする工夫
安全に飲むための姿勢だけでなく、飲みやすくするために工夫できることがあります。なるべき簡単で手間がかからないことが、長続きするコツです。
- カップ
- 紙コップの飲み口の一部をカットし、カットした方を上(鼻側)にして使うと、鼻に縁があたらず、上を向かなくても飲めます。また、細くて長いコップより、口が広がった浅めの湯飲みなどを選びましょう。
- オブラート
- 紙状や袋状のほか、包むのが簡単なカップ状のオブラートもおすすめです。紙状なら、お猪口などの、小さくすこし深さのあるお皿や容器に水をはり、その上にのせて薬を包んで、そのまま水ごと飲みます。
- 服薬ゼリー
- メーカーごとに、味や硬さ、包装など色々あります。よくあるアルミパウチ包装のゼリーは、一度につかう量を容器にとりわけて薬を混ぜ、スプーンなどですくって飲むというのが一般的です。この包装のキャップ部分につけられる、嚥下障害をもつひとに開発された特別なストローが売られているなど、便利なツールの開発が期待されています。
- とろみ剤
- 食事にかぎらず服薬するための水も、とろみをつけた「とろみ水」で飲むと誤嚥しにくくなります。病状にあわせて調節し、重症であるほど多めにつかって濃くします。しかし、濃すぎると胃に届くまで時間がかかり、食道にとどまった薬は、効き目を発揮しにくいばかりか、食道への貼りつきなどを招くことがあり注意が必要です。
- 簡易懸濁(けんだく)とろみ法
- 1回分の錠剤やカプセルをそのまま30mlのお湯(55℃)に溶かした液(簡易懸濁法といいます)で10分ほどおき、そこにとろみ剤を溶いて飲む方法です。直前まで、薬の原型のまま保管できるため、品質の変化も少なく、何の薬か簡単に確認できます。ただし、残さずに飲みきるのが大変なことや手間がかかるほか、薬自体の味が強いこともあって、味覚のしっかりしているひとにはむきません。
- 薬の選びかた
- 薬は、同じ有効成分や規格でも、製造メーカーごとにその形状や味、大きさが異なり、いくつか選択肢のあることが多いです。たとえば、飲み薬をやめて同じ効能・効果をもつ貼り薬へ替えたり、飲むタイミングを毎日から週1回などへ変えたりできるものもあるので、薬剤師へ相談してみるとよいでしょう。
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いかがでしたでしょうか。加齢とともに何らかの持病を抱え、毎日服薬している方が多いと思います。今回ご紹介した「飲みこみの姿勢」や「薬を飲みやすくする工夫」を実践することで、服薬に対する心身の負担を減らし前向きな気持ちで治療に臨んでいただきたいと思います。
飲みこみをサポートする製品も続々と誕生しているので、薬局やドラッグストアの薬剤師などにおすすめを聞いてみるとよいでしょう。
イラスト:安里 南美
この記事の制作者
著者:曽川 雅子(株式会社リテラブースト代表、薬剤師)
東北薬科大学(現・東北医科薬科大学)を卒業後、薬剤師として調剤薬局に勤務。2017年にセルフメディケーションサービスを展開する「株式会社リテラブースト」を設立。処方せん薬に偏ることなく、予防医療やヘルスリテラシーの在り方、そのサポーターと連携の意識を分かち合うため、薬局だけでなく、健康経営を掲げる民間企業へのセミナーも積極的に行っている。