認知症による妄想とは?症状から原因、種類ごとの対応法までを解説

認知症の代表的な症状に妄想があります。被害妄想や嫉妬妄想、見捨てられ妄想など種類もさまざまで、原因や適切な対応方法も異なります。本人に悪意があるわけではなく、根底には悲しみや焦りがあるため、寄り添って解消することが大切です。

認知症による妄想とは

認知症による妄想とは、認知症患者が事実でないことを現実に起きたかのように信じ込んでしまうことです。大事な物を盗られたと主張する「物盗られ妄想」や、悪口を言われたり妻が浮気をしたりと、現実にないことを訴える「被害妄想」などが代表的。他にも、自宅にいてもどこかに帰りたいと訴える「帰宅妄想」もあります。


自身の主張を訴えている過程で、作り話が生じてしまうこともしばしば。妄想の訴えは数ヵ月で終わらず、場合によっては1年以上続くこともあります。

認知症による妄想の原因

  • 不安、寂しさ、苦しみ、負い目、恐怖などの強い感情
  • 周囲への不満

妄想の原因は、認知症の種類によって異なることがあります。アルツハイマー型認知症の場合は、日常生活がままならないことへの不安、周囲に馴染めない孤独感により引き起こされること傾向にあります。また、レビー小体型認知症では、幻視・幻聴によるリアルな恐怖感から妄想が生じることもあります。

妄想は認知症の方にとって、現状に対する抗議や、助けを求めるメッセージの意味合いがあります。身近で親しい人に訴えようとするあまり、ご本人も無意識にその人を「加害者」としてしまうこともあります。

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認知症による妄想の種類

認知症による妄想は上記のように多くの種類があります。種類を特定できれば対策も取れるので、まずはどのような種類の妄想かを見極めましょう。

物盗られ妄想

物盗られ妄想は、認知症の妄想で頻繁に表れる症状です。認知症による記憶障害や不安感などが主な原因。具体的には下記のようなものが挙げられ、背景には自尊心を傷つけられたという思いが潜んでいる場合もあります。

物盗られ妄想の具体例

  • お隣さんに鍵を隠された
  • 嫁が財布を盗んだ

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被害妄想

直接的な攻撃を受けていると訴える被害妄想が起きることも。認知機能の低下により、うまく状況を認識できずに起きる妄想です。認知症によりコントロールできない感情が、周囲の人々や状況に投影されているケースもあります。

被害妄想の具体例

  • 家族に邪魔者扱いされる
  • 病院の看護師にひどい悪口を言われる

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嫉妬妄想

嫉妬妄想は非現実的な訴えであるにもかかわらず、描写はこと細かい点が特徴。たとえば、介護のことを第三者と相談している配偶者について、「妻が浮気をしている。破廉恥なことに、汚れた下着が洗濯カゴに入っていたのが証拠だ」と訴えるなどです。

嫉妬妄想の具体例

  • 妻や夫が浮気をしている

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対人妄想

対人関係にまつわる妄想も訴えの内容が細部までリアルであることが多いです。たとえば、「若い男が家に入り込み、昼に食べようと思っていた冷蔵庫の煮物を食べた。証拠隠滅に器を洗っていったが、置き場所がいつもと違うのでボロが出た」など。背景には強い孤独感や不安があります。家庭内での役割を失い頼られなくなる悲しみや、自分の価値が失われる寂しさに起因することも。

対人妄想の具体例

  • 特定の誰かが家に入ってくる
  • 冷蔵庫の料理を食べられた

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見捨てられ妄想

見捨てられ妄想は、できないことが増え、負い目を感じることで現れる妄想。家族が外出した場合、自分は訳があって出掛けなかったとしても「自分は家族に必要とされていない」と考えてしまいます。強い孤独を感じるようになり、人間不信になって引きこもることで外出やコミュニケーションの機会が減少。認知症がさらに悪化するという悪循環に陥ります。

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幻覚、見間違い妄想

幻覚は主に幻視や幻聴、体感幻覚などがあります。最も多いとされる幻視は、レビー小体型認知症に多く現れる症状。「窓に若い男が立っていて、私を監視している」など、現実に存在しないものが見える状態です。見間違い(錯視)も頻繁に現れる症状で、壁紙の模様が人の顔に見えたり、小さなゴミが虫に見えたりします。

幻覚、見間違い妄想の具体例

  • 窓に若い男が立っていて、私を監視している
  • 死んだ母がずっと自分を呼び続けている
  • 壁紙の模様が時に人の顔に見える
  • 小さなゴミが虫に見える

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帰宅願望

帰宅願望は「家に帰りたい」と訴える症状で、自宅にいても病院や施設にいても、そこではないどこかへ「帰りたい」と訴えます。「家に帰りたい」と訴えて実際に外に出てしまうことも。認知症の代表的な症状である見当識障害により、自分の場所が正確に理解できないことが原因で起こります。

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認知症による妄想へ対応する際のポイント

否定しない

共感する

周囲にサポートを求める

適度な距離感を取る

認知症による妄想への対応には、押さえてきたいポイントがあります。本人の根底にある不安を取り除くことで、落ちつくことができるでしょう。

否定しない

ご本人の訴えが非現実的だったとしても否定せず、まずは耳を傾けることが大切です。否定され、訴えを繰り返すと、本人の中では被害感情や怒り、悲しみ、苦しみが何度も生まれます。エスカレートすると、混乱を深めたり、主張が強くなったりして、誰にでも見境なく自身の境遇を訴えるケースも。まずは否定をせずに話を聞くことで、症状が落ち着くことも珍しくありません。

共感する

認知症による妄想は、訴える内容自体に重要な意味はありません。大事なのは、その裏側に隠された本人のメッセージです。「不安を聞いてほしい」「気持ちをわかってほしい」「人として大切に扱ってほしい」など、根源の感情に注目しましょう。賛同や具体的なアドバイスではなく、置かれた状況への共感や理解が大切です。

周囲にサポートを求める

とくに介護者が妄想の矛先になって巻き込まれている場合など、1人で対応すると大変な心労を伴います。認知症を患った本人にサポートがいるように、家族にも援助が必要です。ケアマネジャーや地域包括支援センターなど、信頼できる機関に相談してサポートを求めるとよいでしょう。

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適度な距離を取る

認知症による妄想には、適度な距離を置くことも必要です。複数人でケアをしている環境であれば、対応する人を代えることで、本人の気持ちが収まるきっかけになることもあるでしょう。

認知症による妄想の種類別対応方法

物盗られ妄想への対応

被害妄想への対応

嫉妬妄想への対応

対人妄想への対応

見捨てられ妄想への対応

幻覚・見間違い妄想への対応

帰宅願望への対応

認知症による妄想の対応方法は、種類によっても異なります。ケースバイケースでの対応が必要なので、以下の内容を参考に本人に寄り添うことが重要です。

物盗られ妄想への対応

「あなたが盗った」と言われても否定も肯定もせず、まずは「大切な物がなくなって困っている」ことに共感して話を聞きましょう。一緒に探してみて物を見つけた場合は、本人が見つけやすいところに置き直して、発見してもらってください。自分で見つけられた安心感と自信は、もの忘れへの不安を少し拭ってくれます。

被害妄想への対応

暴力や暴言を伴う被害妄想の場合は1人で抱え込まず、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談したり、ショートステイを利用したりして適度な距離を取りましょう。ご家族など介護側の方が共倒れしてしまっては、元も子もありません。

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嫉妬妄想への対応

嫉妬妄想が起きた場合は内容に応じて本人の不安を解消しましょう。配偶者が浮気していると主張する場合は「浮気などしておらず、家族はみんな元気で仲よくいる」と伝えること。根底に潜んでいる寂しさや焦燥感を取り除くことが症状改善の鍵です。

対人妄想への対応

対人妄想は、大切な人とのつながりや居場所や役割を失う恐怖、喪失感が引き金になるため、自信や安心感を付けることが大切です。趣味に没頭したり、家事の一部に参加して役割を得たりすることで、「自分は役に立つ人間だ」と実感できて自信がつくでしょう。

見捨てられ妄想への対応

見捨てられ妄想への対応時は、コミュニケーションの機会を増やしたり、本人が鬱々とする場面を減らしたりすることを意識しましょう。一緒に散歩をする、本人が無理なく参加できる家事をお願いするなどが有効です。

幻覚・見間違い妄想への対応

幻覚や見間違いは、連鎖を食い止める環境作りが重要。部屋が暗いと幻視や見間違いを起こしやすいため、室内は明るくして、ハンガーに掛けた洋服はタンスや押入れにしまいましょう。見間違いの要素を減らすことで、少しずつ幻視も減少するでしょう。

帰宅願望への対応

帰宅願望の場合は、本人がなぜ帰ろうとしているのかを同調しながら聞きましょう。話を聞いた後は強引に事実を突きつけるのではなく寄り添うことです。「今日は遅いので泊まっていきましょう」などと答えることで、落ち着くケースもあるでしょう。

認知症による妄想の治療

認知症による妄想は薬によって発症リスクを軽減できます。向精神薬や漢方薬、抗認知症薬であるメマリーなどで、妄想の症状緩和や認知症の進行対策が可能です。レビー小体型認知症による幻覚や妄想は一般的にセロクエル、ビプレッソと呼ばれる非定型抗精神薬・クエチアピンの処方で改善する場合もあります。

ただし薬の投与でさまざまな副作用が現れることもあります。昼夜逆転して眠れなくなったり、症状が悪化したりすることも。とくに高齢の場合は、倦怠感や体調不良による転倒につながるケースもあるので、服薬量などを医師によく相談しましょう。

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認知症による妄想をお持ちの方へのサポート体制

医療のサポート

介護の専門家のサポート

地域のサポート

1人や少人数で介護をしている場合、介護側の負担が大きくなりすぎる懸念もあります。外部のサポートを上手に活用して負担を減らしましょう。

医療のサポート

種類 内容
かかりつけ医 治療方針や薬などに関する医療相談
認知症疾患医療センター 認知症の診断や適医療機関の紹介

医療面は特に本人の健康状態に直結するので、適切なサポートが必要です。医師や専門機関にかかることで最適な治療方法を相談したり、副作用のリスクを軽減できたりします。また、医療機関の紹介も行ってくれるほか、医師同士のつながりを活かして本人に合った病院を紹介してもえることもあります。

かかりつけ医

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介護のサポート

種類 内容
地域包括支援センター 介護サービスや病院の紹介など
ケアマネジャー 介護全般に関する相談
介護施設 施設利用や入居に関する相談

上記の専門家に相談することで、各種機関と情報の共有を図り、適切な医療や介護サポートの実施など生活支援に結びつけてくれます。特にケアマネジャーは本人や家族に寄り添って、悩みに基づいたベストな解決策を導き出してくれます。下記の記事でさらに詳しく解説しているので、参考にしてください。

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地域のサポート

種類 内容
自治体の担当課

要介護認定や各種機関など認知症関連の情報提供

社会福祉協議会 高齢の両親に関する相談、介護支援のサポート、生活・認知症に関する相談

上記の機関を利用することで、認知症支援に関する有益な情報提供を受けられたり、介護関連の相談をできたりします。

介護サービスやサポート制度を利用して認知症による妄想対策を

認知症による妄想症状には種類があり、特徴もさまざまです。種類ごとに対応方法も異なりますが、いずれの場合も本人の気持ちに寄り添い、頭ごなしに否定せず話を聞いてあげましょう。ただし、暴言や暴力を伴うケースなどでは、介護者の心身に大きな負担がかかるため注意が必要です。必要に応じて介護サービスやサポート制度を利用して共倒れを防ぎましょう。

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この記事の制作者

横山由希路

著者:横山由希路(ライター)

町田育ちのインタビューライター。漫画編集、ぴあでのエンタメ雑誌編集を経て、2017年に独立。週刊誌編集者時代に母の認知症介護に携わり、介護をはじめて13年が経った。2020年にひとりっ子でひとり親を介護している経験から、書籍「目で見てわかる認知症ケア」(2刷)を企画・構成した。

HP横山由希路

note横山由希路/ライター

Twitter@yukijinsky

石井道人

監修者:石井道人(医師)

ファミリークリニックあざみ野 院長

北里大学医学部卒。東京都立多摩総合医療センターで救急医療、総合診療を学ぶ。2013年より北海道・喜茂別町で唯一の医療機関に管理者として赴任。
乳幼児健診から看取りまで、町民二千人の健康管理を担う。2020年神奈川県横浜市にて開業。

日本プライマリ・ケア連合学会認定指導医
日本救急医学会認定救急科専門医
日本内科学会認定内科医
日本医師会認定認知症サポート医

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