感情失禁とはどんな状態?認知症との関係性や対応を紹介

感情失禁とは、感情を上手にコントロールできない状態を指します。感情の調節がうまくいかず、泣いたり笑ったり怒ったりといった感情を過度に出してしまう状態です。

ここでは、感情失禁に関する基本的な知識や具体的な症状、感情失禁が起きやすいとされる認知症との関係性、感情失禁の人との向き合い方などをわかりやすくまとめました。

身近に感情失禁のある人がいたり悩んだりしている場合にはぜひご参考になさってください。

本記事は2022年5月9日時点の情報です。

感情失禁とはどんな状態?

感情失禁とはどのような状態なのでしょうか?基本的なポイントをまとめます。

感情のコントロールが上手にできない状態

感情失禁は情動失禁とも呼ばれるもので、感情の調節がうまくいかず、泣いたり笑ったり怒ったりといった感情を過度に出してしまう状態です。症状が出ている本人も、なぜ過度な感情が出ているのかわからないため、周りの人が症状への理解を持つことが大切です。

感情失禁は認知症の高齢者に多発しやすい

感情失禁は、脳卒中等で脳の細胞が壊れて本来の機能を失うことが原因で起きるものです。血管性認知症は60~70代からの発症が多いため、感情失禁も高齢者に多く見られます。

感情失禁は若い人でも発生する可能性はある?

感情失禁は、50歳代など比較的若い人でも発生することがあります。

血管性認知症やアルツハイマー型認知症と血管性認知症を併発する混合型認知症は、高齢者のみに発症するものではありません。若いうちに脳障害が起こり血管性認知症となった場合には、比較的若い人でも感情失禁が発生するケースがあるのです。

脳卒中や頭部の外傷などが原因となる場合も

脳卒中やアルツハイマー型認知症以外でも、頭部に受けた外傷が原因となって感情失禁が発生することもあります。これは感情失禁が、脳血管にダメージを受けることが原因となって発生するためです。

脳血管がダメージを受ける脳卒中や脳梗塞などは、再発する可能性がある病気です。再発を繰り返して脳のダメージが増えることで、感情失禁の症状も悪化してしまいます。そのため、再発させないためのリスク管理や治療をしっかりと行うことが大切と言えるでしょう。

また極度の緊張から解放されたり、危機的な状況から脱したりした際に起こることがある「泣き笑い」も、感情失禁に含まれます。

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認知症との関係性は?

ここからは、感情失禁の原因となる認知症について解説していきます。

血管性認知症とのかかわり

認知症にはさまざまな特徴がありますが、そのひとつとして感情が変化しやすいことが挙げられます。精神状態が不安定となり感情が調節できなくなることで、感情失禁の症状が出てしまうのです。

血管性認知症の症状

いわゆるもの忘れの状態となる「記憶障害」、人や時間、場所の認識ができなくなる「見当識障害」、物事を計画的にこなせなくなる「実行(遂行)機能障害」などが認知症の主な症状です。

特に、血管性認知症は損傷部位の違いや日によってあらわれる症状に波があり、できること、できないことの能力差が大きい「まだら認知症」の症状が出やすいことが特徴です。

脳血管にダメージを受けている部分の機能のみが低下し、正常な部分の機能はそのままです。そのため症状にムラができたり、日によって、もしくはタイミングによって症状に波ができたりといった症状が起こりやすくなります。

血管性認知症は脳出血やくも膜下出血といった脳の血管の病気が原因となり発症する認知症です。認知症の中ではアルツハイマー型認知症の次に患者数が多く、全体の2~3割を占めています。男性の発症割合が高く、女性の2倍以上です。発症後の余命は男性が5年程度、女性が7年程度とされています。

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感情失禁のある人に出やすい症状

次に、感情失禁のある人に出やすい具体的な症状について解説していきます。ここでお伝えする症状は落ち着いている日もあれば悪化する日もあるため、常に出ているわけではありません。

感情が不安定になる

感情が安定しない症状は、感情失禁の人に出やすいとされます。具体的には、少し感情を刺激されただけですぐ怒ったりする、急に泣いたり笑ったりする、ちょっとしたことで感情がコロコロ変わる、急に無表情になるなどの症状です。

その場にそぐわない感情が出る

時や場所にそぐわないような感情が出てしまうことも特徴です。例えば、お葬式の最中に笑ってしまう、家族や友人と楽しく団らんしている最中に泣き出してしまうといったものは、感情失禁で起こりがちな状態と言えるでしょう。

自分の気持ちとは裏腹な感情が表出する

感情失禁の症状として、本人が抱いている気持ちとは異なる感情が表に出てしまうことも挙げられます。嬉しく感じているのに怒ってしまう、内心では怒っているのに笑ってしまう、悲しい気持ちはないのに涙が出てきてしまうなどが具体的な症状です。

感情失禁のある人との上手な向き合い方

感情失禁は、脳に関する疾患に付随して生じるものです。脳に関する病気の治療法はあるものの、現時点では感情失禁のみを治療する方法は存在しません。そのため周囲の人は、感情失禁のある人と上手に向き合い、接していく必要があります。

それでは身近に感情失禁が見られる人がいる場合、どのように向き合えば良いのでしょうか?感情失禁のある人との上手な向き合い方を解説します。

感情失禁の症状について理解しよう

感情失禁とはどのような症状なのか、周囲の人がきちんと理解しておくことが大切です。突然怒鳴る、食事中に泣きだすなど、感情失禁に直面すると戸惑いや恐怖を覚えることも多いでしょう。

しかし、感情失禁がどういった原因で起き、どのような症状が出るのか理解することで、気が楽になり落ち着いて関わることができます。

感情失禁が起こるタイミングを知ろう

感情失禁が起こるタイミングを把握しておくことも、感情失禁のある人と上手に向き合うポイントです。

感情失禁はいつも表出しているものではありません。「おはよう」などの挨拶で怒る、食事を見ると悲しくなるなど、感情失禁が起きるきっかけは人それぞれです。いつ感情失禁が起きるのかタイミングをつかむことができれば、接しやすくなるでしょう。

とはいえ、いつ感情失禁が起きるのか、タイミングを知ることは簡単なことだとは言えません。自分ひとりだけでなく家族や親戚、病院、ケアスタッフなど感情失禁のある人と関わる周囲の人々と情報を共有し、タイミングを見つけましょう。

冷静に対応することがコツ

感情を高ぶらせることなく落ち着いて冷静に対応することもまた、感情失禁のある人と上手に向き合うコツです。本人の感情とは関係なく怒ったり笑ったりしているため、同じように怒ったり笑ったりしてしまうと本人はより混乱し、興奮してしまいます。

感情失禁のある人が怒るタイミングではないのに怒っていたら、今は怒るときではないことを説明しながら落ち着いて日常会話を続けましょう。感情に惑わされずに冷静な対応をしていれば、感情失禁を起こしている人も次第に落ち着いてくれることが多いと言われています。

認知症への対応方法とは?

認知症の代表的な症状である感情失禁ですが、認知症にはほかにもさまざまな症状が起こります。認知症の人に対する対応方法についても知っておきましょう。

日常生活が送りやすくなるよう周りの環境を整える

住まいの環境を整え、日常生活を送りやすくすることは、認知症への対応において大切なポイントです。特に血管性認知症を患うと知覚麻痺や運動麻痺といった症状が現れることがあり、転倒してしまうなど安全な日常生活を送ることが難しくなる可能性があります。

一方で、危険から遠ざけるために周囲の人がすべて世話を焼いてしまったりすると、認知症が一気に進む原因となってしまうかもしれません。

安全な生活と本人ができるだけ動くことを両立するため、動きなどを補助してくれる福祉用具を活用しましょう。上手く福祉用具が活用できれば、周囲の人の負担を軽減することにもつながります。

規則正しい生活を送れるようサポートする

規則正しい生活のサポートも、認知症の対応において重要です。認知症を発症すると、感情失禁のように気持ちの変化が起きやすくなります。さらに記憶障害や実行機能障害、見当識障害も症状として現れてくるため、これまでできたことができない不安や苛立ち、もどかしさから無気力になってしまう場合も。

そうすると日中の活動量が減り、昼夜逆転や不眠といった症状が出てきてしまう可能性があり、周囲の人も深夜の徘徊やせん妄などの対応を深夜にしなければならなくなるかもしれません。

規則正しい生活を送れるよう、午前中にしっかりと日光を浴び、日中は散歩をして、夕方は静かな場所でゆっくり過ごすといったように、日課を決めてこなせるようサポートしましょう。また、しっかり睡眠をとれるよう、適度な照明や心地良い室温に保つなど、寝室の環境を整えることも心がけてください。

認知症の人との信頼関係を築き、気持ちに寄り添う

認知症の人と接する上で基本と言えるのが、信頼関係を築くことです。認知症の初期段階では物事を上手く行えないことを本人が自覚しているため、以前のように上手くできずに自信をなくし、介護する人に当たってしまうこともあります。

また「こんなこともできないと思われたくない」となかなか周囲の人に手助けを求められず、精神的に不安定になってしまうケースも考えられます。

そのため、認知症の人の気持ちに寄り添って信頼関係を築き、助けを求められるようになることが大切なのです。周囲の人が親身になって話を聞いたり温かく接したりすれば、本人も落ち着いて生活できるでしょう。

ただ、信頼関係が深すぎるばかりに、周囲の人への要求がヒートアップしてしまう場合も考えられます。要求がストレスに感じてしまう場合には、信頼しているからこその行動であることを踏まえた上で、話し合いをしてみましょう。

認知症の症状から予防・対応方法まで

感情失禁の主な相談機関

認知症の人にどう対応して良いかわからない場合には、専門家への相談も視野に入れてみるのもひとつの手です。また認知症は早期に対応することで症状の予防や改善につなげられるため、普段と様子が違うと感じたら相談してみましょう。具体的には、以下のような相談先があります。

かりつけ医

認知症の人が普段から通院していて本人の体の状態なども把握できているかかりつけの医療機関があれば、まずはかかりつけ医に相談するのがおすすめです。

認知症の専門的な病院は、受診するのに抵抗があるためになかなか受診できない側面があります。かかりつけ医であれば心理的にも安心して受診できる上、かかりつけ医が紹介してくれた専門の病院であれば、専門の病院を受診することに対するハードルも少し下がるのではないでしょうか。

認知症のかかりつけ医は変更できる?

感情失禁は精神科で相談してもいい?

精神科の中には認知症に関する相談を受け付けているクリニックもあるため、感情失禁に関しても相談が可能です。先ほど述べたように感情失禁自体は治療できるものではありませんが、悪化させないための生活習慣の指導や、詳しい検査が必要な場合には総合病院への紹介なども行ってくれるでしょう。

もの忘れ外来

今出ている症状が認知症なのか、老化に伴うもの忘れなのか判断に迷う場合に受診してほしいのが、もの忘れ外来です。認知症の代表的な症状のひとつである記憶障害は、もの忘れと同じような症状が出ますが、全く異なるもの。そのため本人も家族も、どちらなのか判断することは難しいとされます。

もの忘れ外来は認知症の治療や早期発見のために、総合病院などに多く併設されています。認知症の分野の専門家である精神科・神経内科などの医師や臨床心理士が在籍しているので、初めての受診でも安心です。問診や脳の働きをチェックする神経心理学検査、脳画像検査などが行われます。

もの忘れ外来とは?検査や費用、医師の選び方を解説

地域包括支援センター

認知症の症状か悩んだとき、もの忘れ外来と共に選択肢に上がるのが地域包括支援センターです。全国すべての市町村に設置されているもので、悩みに応じて初期の認知症を支援するチームや認知症疾患に造詣の深い医療センターと連携して支援してくれます。

また、医療や介護に関してその地域でどのようなサポートが受けられるのかも教えてもらえるので、まず相談する先として選ぶのも良いでしょう。

また自治体によっては認知症の簡単なチェックシートも公開されているので、病院や支援センターを受診する前に1度チェックしてみるのもおすすめです。

地域包括支援センターとは?その役割と賢い活用法

電話相談など

とりあえず相談してみたいと思ったときに活用したいのが、「認知症に関する電話相談」です。65歳未満の認知症や家族向けの「若年性認知症専用コールセンター」も設置されています。病院を受診するか悩み、不安な日々を過ごすのであれば、電話をすることで少しでも気持ちを軽くしてみましょう。

地域によっては認知症の人や家族、地域の福祉や介護の専門家が集った「認知症カフェ」で情報交換を行うこともできます。地域包括支援センターや自治体の高齢者福祉担当課などでたずねてみましょう。

認知症カフェとはどんな場所?誰でも参加できるの

まとめ

感情失禁の症状が出ると、本人もどうしてその感情になるのか理解できず、本人だけでなく周りの人たちも初めは戸惑ってしまうかもしれません。しかし病気によって起こるものだと把握しておけば、周囲は落ち着いて対応でき、本人も過剰反応することなく対応することができるでしょう。

認知症の症状として見られる場合も多いので、信頼関係を築きながら接することも心がけてください。もしも不安な場合は、かかりつけ医などに相談してみましょう。

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この記事の制作者

堀 ひとみ

監修者:堀 ひとみ(株式会社HSKAI代表取締役)

一般社団法人ナラティブアプローチ協会代表理事
1999年より介護職の養成スクールを運営し現在に至る。
介護保険サービス事業を運営(介護付き有料老人ホーム、認知症高齢者共同生活介護(グループホーム)、デイサービス等)
著書に「究極の介護って何?(2020年)」「こんな老人ホームに親を入れたいと思われる老人ホームのつくり方(2021年)」など。

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