認知症のBPSDとは?中核症状との違いや、原因、悪化させないコツについて解説

認知症の症状には、もの忘れや帰宅できないといったものから、幻覚、暴力、うつなど様々なものがあります。

これらの症状は、大きく中核症状とBPSDに分けられます。

どういった症状がBPSDなのか、悪化させないコツや対応方法などを詳しく解説します。

認知症のBPSD(行動・心理症状)とは

認知症の症状には、中核症状と、周辺症状と呼ばれるBPSDがあります。

BPSD(Behavioral and psychological symptoms of dementia)は認知症の行動・心理症状のことをいい、国際老年精神医学会は「認知症患者にしばしば生じる、知覚認識または思考内容または気分または行動の障害による症状」と定義しています。

中核症状とは脳の精神機能ではなく、認知機能の障害を指します。一方、BPSDはうつや妄想などの精神症状と行動障害を合わせたものです。行動障害は介護側が困るという意味合いから問題行動とも言われています。

BPSDは4つのカテゴリーに分類できます。そして、行動・心理症状がそれぞれ異なります。  

カテゴリー 行動・心理症状
活動性亢進
(中核症状関連の症状・行動)
焦燥性興奮、易刺激性、脱抑制、
徘徊や攻撃的行動などの異常行動など
精神症状(精神病様症状) 幻覚・妄想、夜間行動異常
感情障害
(行動コントロールの障害)
不安、うつ
アパシー(対人関係の障害) 自発性や意欲の低下、情緒の欠如、
不活発、周囲への興味の欠如

BPSDは感情面のケアや薬物治療などを用いて改善される可能性があります。

ですが、本人を取り巻く環境や人間関係が大きく影響しており、個人差があります。そのため、BPSDの症状が表れているからといって、適切なケアが行われていないわけではありません。

(参照元:BPSDの定義、その症状と発症要因|認知症介護情報ネットワーク

どんな症状がBPSDなのか

区別のしにくい中核症状とBPSDですが、その違いについて解説します。

中核症状とは

中核症状とは、脳の細胞が壊れ、その役割が失われることで起こる症状です。

  • 時間や場所がわからなくなる
  • 今までできていたことができなくなる

などは、中核症状に分類されます。

具体的な症状は、以下の6つです。

記憶障害 食事をしたことを忘れる・物忘れが激しいなど
失語 言葉が出てこない・言葉の意味がわからなくなるなど
失行 箸を上手く使えない・服をうまく着られないなど
失認 時計が読めない・ものによくぶつかるなど
見当識障害 迷子になる・友人や家族がわからないなど
実行機能障害 料理が作れない・要領が悪くなるなど

(参照元:中核症状と行動・心理症状(BPSD)〜知っておきたい認知症のこと〜|社会医療法人 甲友会

BPSDとは

BPSDとは、認知症の中核症状に、周囲の環境や対応、性格などが影響して起きる、行動や心理症状です。中核症状に対して二次的に起きるという面から、周辺症状とも呼ばれます。

主な症状は、以下のとおりです。

  • 幻覚
  • 妄想
  • 興奮
  • 不穏
  • 徘徊
  • 焦燥
  • 社会的に不適切な言動
  • 性的逸脱行為
  • 暴言
  • 抑うつ

怒りっぽくなったり、何かを家族のせいにしたりするような兆候があれば、BPSDを疑ってください。

中核症状とBPSDの違いーAさんの例

中核症状とBPSDの違いは1人の例でみるとわかりやすいでしょう。

Aさんの症状

  • 見当識障害が起こり、時間や場所がわからなくなってしまったAさん。初めは家族に時刻を頻繁に尋ねていましたが、やがて買い物から自宅に帰るまでの道を忘れてしまうようになりました。

    だんだんと家族に暴言を浴びせることが多くなるAさん。さらには家を飛び出し、帰って来られなくなることも増えてきました。

この場合、中核障害とBPSDは以下のように整理できます。

中核症状
・時間がわからない(時間の見当識障害)
・場所がわからない(場所の見当識障害)
BPSD
・怒りやすくなる
・家を飛び出して徘徊する

Aさんの場合、家族に時間を聞いても困った顔をされるため、傷つけられたと感じ、家族への暴言が多くなっていったようです。また場所の見当識障害のため、自宅にいてもここがどこだかわからず、確かめるために家を飛び出してしまいます。

なぜBPSDが起こるのか

BPSDが起きる原因には背景因子誘因があります。

背景因子は多数あり、遺伝的要因や神経生物学的要因、社会的要因などがあります。そしてそれぞれ介入が困難なものと可能なものに分類できます。

背景因子によってBPSDが生じやすい基盤が作られ、不安や不満が溜まっていきます。そして、ストレスが溜まっているところにケアしている者からの厳しい言葉などの誘因が加わるとBPSDが発症します。

ただし、BPSDを発症させるスイッチは、認知症患者によって異なります。ケアするご家族にとっては大したことではなくても、ある言葉がスイッチになってしまうケースもあります。

しかし、行動障害型前頭側頭型認知症のようにスイッチがなくBPSDの症状が起きるケースもみられます。

BPSDへの対応、悪化させないコツ

BPSDを引き起こす背景因子は介入困難なものと、介入が可能なものの2つに分けられます。それぞれについて理解することで、適切な対応方法を考えることができます。

介入困難背景因子

介入困難背景因子は、主に以下の5つです。

  • 脳病変
  • 認知症状(中核症状)
  • 高齢期疾患(身体合併症)
  • 認知症をオープンにすることが恥ずかしいといった地域文化
  • その人の歩んできた歴史、性格、価値

これらの背景には第三者が介入することはできませんが理解することは必要です。介入困難因子であっても何がその人のBPSDのトリガーになっているのかを理解して、寄り添うことが重要です。

介入可能背景因子

介入可能困難因子には介護者が対応できる要因です。そのため、BPSDを早い段階で抑止できる可能性があります。介入可能背景因子には、主に以下の8つがあります。

薬剤

ドネペジルなど認知症治療薬の処方がBPSDの発症に関与していることがあります。また、多くの薬剤が投与されている場合や、向精神薬なども要因となる場合があります。

居住環境

生活騒音や、同居している方との関係性がBPSDの発症に影響している可能性があります。

せん妄(意識障害)

身体的または身体的ストレスや薬品に含まれる成分への反応が、引き金となる場合があります。

体調

便秘や脱水、発熱などが引き金となり、焦りやイライラの原因になる場合があります。

ケア技術・関係性

介護者による失敗の指摘や避難が、被介護者のストレスを強め、BPSDの引き金となる可能性があります。

社会資源

地域の介護保険サービスやインフォーマルサポートの充実、ケアマネジャーの力量など、一つひとつの要因がBPSDに影響を与える場合があります。

不安・喪失感

記憶障害や見当識障害により記憶が失われ、目標に向けた効果的な行動ができなくなることから、不安感や喪失感が生まれ、BPSDに影響を与える場合があります。

BPSDを軽減する対応のコツ

介入背景因子がわかると、BPSDを軽減させるための対応のコツも見えてきます。

薬剤の調整

改めて医師、薬剤師と相談し、必要に応じて薬剤を減量、あるいは中止。

生活環境を整える

騒音を回避、また室温の適切な管理を行う。必要に応じて同居する人を変える。

せん妄(意識障害)を軽減

医師、薬剤師と相談し、必要に応じて抗精神病薬によるせん妄治療。または本人が安心して過ごせる環境作りでせん妄の症状を軽減。

体調管理

適切な栄養がとれる食事や水分量を管理して、体調や排便を調整することで本人が不快になる要素を取り除いていきます。

ケア技術・関係性によるアプローチ

介護される方のミスを責めたり、話を否定したりせずに、その方の要望を理解しようとコミュニケーションをとります。

社会資源の活用

その方の要望に適した介護サービスを調整し、また介護保険ではカバーできない部分を地域ボランティアや民間のサービスで補うことで十分なサービスが受けられるようにします。場合により、スタッフの担当や配置を変えます。

不安・喪失感

本人から「できること」を奪わない介護を行います。できないことも、サポートをすることで本人にやってもらう、または日常の中で何かの役割を担っていただきます。

BPSDに対する治療薬はある?

BPSDは、治療薬でも改善が期待できます。ただし、BPSDの治療で、すぐに薬を用いることはできません。最優先されるのは、非薬物的介入です。

かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドラインでは、様々な確認要件を満たした場合に、低用量で治療薬を開始し、症状を診ていくことが定められています。

主な治療薬は、以下の5つです。

  • 抗認知症薬
  • 抗精神病薬
  • 抵うつ薬
  • 抗不安薬
  • 睡眠薬

それぞれの薬の使用には、ガイドラインがあるので、そちらも参考にしてください。

かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン

BPSDの予兆

BPSDの予兆に気づくことで、本人はもちろん、介護をする人の生活の質を守ることができます。

予兆を示す主な行動には以下の5つがあります。

  • 服従……やりたくないことをやらされる
  • 謝罪……何かができないときに「ごめんなさい」と謝る
  • 転嫁……何かができないときに、自分ではないもののせいにする
  • 遮断……聞こえないふりや寝たふりをする
  • 苛立ち……気に入らないことに対して独り言で怒る

これらの言動が現れたときはBPSDが起きる予兆であり、言動の裏には気づいてほしいというメッセージが隠されています。早期に気づいて対応することでBPSDを回避できる可能性あり、研究が進められています。

症状別の対応方法について

BPSDの症状は様々です。そのため、それぞれの症状に適した対応が必要になります。以下では、主な症状についての対処法を紹介しているので参考にしてみてください。

介護拒否

用意した食事をとらなかったり、薬を吐き出してしまったりなどの介護拒否の症状が出る場合があります。主な介護拒否のシーンは、以下の6つです。

  • 食事拒否
  • 服薬拒否
  • 入浴拒否
  • 着替え拒否
  • トイレ拒否
  • 外出拒否

それぞれの対応方法は、以下で解説しています。

認知症による介護拒否への対応

暴言、暴力

認知症による暴言や暴力は、主に3つの対処方法があります。

  • 感情的な距離をとる
  • 物理的な距離をとる
  • 誰かに話す

「なぜ暴言や暴力を行うようになってしまうのか」や、それぞれの対処法については、以下の記事で具体的に解説しています。

認知症による暴言・暴力へ対応するには?

徘徊

徘徊は周囲の人々からすれば不安なことですが、行動の裏には本人なりの理由があります。そのため、対応を間違えるとさらなるBPSDを発症させてしまう可能性があります。

徘徊をさせないことではなく、徘徊したときにどのような対処をするのかが重要です。具体的な対応は、以下の記事で解説しています。

認知症による徘徊―その原因と対応方法

被害妄想

認知症による被害妄想は、介護者のストレスにもなります。主な妄想として、以下の3つがあります。

  • 物盗られ妄想
  • 暴言・暴力などの被害妄想
  • 嫉妬や対人関係の妄想

これらは介護疲れの原因にもなります。しかし、被害妄想の原因や対策を理解していれば、ストレスを軽減できます。

認知症による被害妄想への対応方法は?

異食

異食とは、食べ物ではないものを口に入れてしまうことです。そのままにしてしまうと、ビニール袋を飲み込んでしまったり、洗剤を飲んでしまったりと健康面に危険が及びます。

異食を予防するためには、以下の4つの方法があります。

  • 食べ物と誤認させない
  • メリハリをつける
  • 空腹感を抑える
  • 楽しみを増やす

具体的な対策や異食の原因については、以下の記事で解説しています。

認知症によって起こる異食とは?その理由と対処法を教えて

弄便(ろうべん)

弄便(ろうべん)とは自分の便を触り、周囲の物などにこすりつけてしまう行為です。介護者の精神的疲労の原因になります。

対策としては、小まめな排せつケアがポイントとなります。具体的な方法については、以下の記事を参考にしてください。

認知症の弄便(ろうべん)をやめさせる方法は?

昼夜逆転

認知症の人は、夜中に掃除したり外出しようとしたり、昼夜逆転の生活をすることがあります。介護者の生活を乱す他、夜間外出による交通事故などの危険もあります。

主な対策として、6つがあります。

  • 睡眠日記をつける
  • 環境を整える
  • 身体の状態を整える
  • 日中の活動量を増やす
  • 安心習慣を作る
  • 医師・薬剤師に相談する

具体的な対策については、以下の記事を参考にしてください。

認知症の症状?母の昼夜逆転に困ってます

収集癖

収集癖は、場合によっては部屋に大量の物をため込んでしまうこともあります。収集癖への対策としては、なぜ集めてしまうのかを理解する必要があります。

どのような理由で集めるかを理解した上で、対策を考えましょう。具体的な対策としては、以下の記事を参考にしてください。

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この記事の制作者

橋本将吉

監修者:橋本将吉(内科医)

杏林大学医学部医学科を卒業。2011年に株式会社リーフェ(リーフェグループ)を設立し、医大生向けの個別指導塾『医学生道場』の運営と、健康情報の発信を通した啓蒙活動に力を入れる。実際に現役の内科医として診療を行う一方で『医学生道場』にて医学生の指導を行いつつ、YouTuber『ドクターハッシー』としての顔も持つ。

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