【2021年最新】認知症リハビリ|音楽療法で心身を活性化
音楽療法とは、音楽を聴いたり歌ったりすることで、脳の活性化や心身に安定をもたらすリハビリテーションの一種です。
認知症の高齢者にもその効果が期待され、近年は介護施設や医療現場などで用いられています。
音楽療法とは?音楽の力を心身の健康に取り入れる
音楽療法とは
「音楽のもつ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の障害の軽減回復、機能の維持改善、生活の質の向上、問題となる行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること」(日本音楽療法学会)
と定義をしています。
ただ音楽を聴いたり、楽しむだけでは「専門的な」音楽療法とはいえませんが、「音楽を一定の目的をもって、意図的・計画的に使用する」のであれば、特殊な音楽でなく、どのような場所や状況でも実践できる汎用性の高い療法とも捉えることができそうです。
介護の場面で大切なのは、ご本人の状態を十分に理解し、気持ちに沿って音楽を活用しよりよい状態に向かうように することでしょう。
たとえ専門的な音楽療法といえなくても、音楽の力を心身の健康に取り入れようとする実践は、やってみる価値があると思います。
音楽療法が認知症にもたらす効果とは
音楽療法が認知症に与える影響を具体的に解説します。
リラックスやストレス軽減
心地よい音楽により、認知症の症状によって引き起こされる不安や緊張をなだめる効果が期待されます。
ほとんどの場合、妄想や攻撃的な言動などはこれらの不安や緊張により生じている場合が多いので、結果として軽減する可能性があります。
脳を活性化する
メロディを聴き、リズムに体を揺らし、歌詞を思い出し、声を出すなど、音楽を通してさまざまな脳の部位が協調して働くことによって、脳が活性化され、とても良い刺激となります。
自信を取り戻す
記憶障害があっても、昔覚えた歌や曲は覚えているものです。
忘れてしまう、わからなくなってしまうという体験が多い中で、いつまでも覚えている、忘れられないことがあるというのは自信の源にもなり得ます。
昔を思い出す「回想法 」として
懐かしい音楽からその頃の思い出がいきいきとよみがえることもあります。
仕事で必死だった自分を支えてくれた歌、子どもと一緒に口ずさんだメロディなど、輝いていた頃の自分の姿と活力を蘇らせてくれるかもしれません。
いきいきとした心を取り戻す「回想法」心の扉を開く
認知症の人は、不安や孤独感から閉じこもりがちになることがあります。また、言語機能障害などにより、交流したくてもコミュニケーションがうまくとれない場合もあります。
周囲の人と同じリズムにのりメロディを口ずさむうちに、認知症の人が少しずつ打ち解け、心の扉を開くきっかけを与えてくれる かもしれません。
気持ちを表現する
認知症によって言葉が不自由になると、自分自身の気持ちを表すことが難しくなり、鬱屈した思いやエネルギーが溜まることもあるはずです。
大声を出す、楽器を鳴らす、手拍子をすることで、ご本人の表現できなかった心の叫びが発散されるかもしれません。
介護施設で行われる音楽療法
音楽療法には、音楽を聴く「受動的音楽療法」と、歌を歌ったり楽器を奏でる「能動的音楽療法」があります。
介護施設では多くの場合、集団に対して実施され、音楽療法士が演奏をして受動的音楽療法として音楽を聴いてもらったり、伴奏をして合唱や合奏してもらう能動的音楽療法を行っています。
いずれの場合も、音楽療法士はその集団全体だけではなく、一人ひとりの様子を注意深く観察しながら、その場に適した演目やプログラムを導入していきます。
残念ながら現時点では、日本の音楽療法士の人数は十分とはいえません。そのような専門的な音楽療法を実施している施設はまだまだ少ないでしょう。
音楽療法士の資格を持たない職員等がCDを流して聴いてもらったり、ボランティアさんに楽器を演奏してもらったり、カラオケを歌ってもらったりしている施設も少なくない状況です。
歌を音楽療法として活用する老人ホームの事例 【取材しました】老人ホームでの音楽療法音楽療法の起源と歴史
音楽が心身に影響をもたらすことは古来より知られていました。特にその効果を活用してきたのが宗教や祭礼だといえるでしょう。キリスト教の礼拝では讃美歌が、仏教では読経のメロディや木魚のリズムが人々にやすらぎを与えてきました。
祭囃子や校歌斉唱に胸が躍り、心が一つになる体験をされた方もいるでしょう。
このように、音楽は深く私達の感情や心と結びつき、その影響は時に身体に及びます。その音楽の効果を利用したのが音楽療法です。
歴史的にみると、最初に音楽を治療法として意識的に活用したのは、第一次世界大戦時の傷病兵に対して米国で行われたものと言われています。
その後米国内で広く音楽療法が導入され、音楽療法の質を保つため、米国音楽療法学会(AmericanMusicTherapyAssociation) により「認定音楽療法士」の資格ができ、専門職としての音楽療法士の地位が確立されています。
一方、日本では、日本音楽療法学会認定の音楽療法士が音楽療法の担い手として活躍しています。
音楽療法を一定の教育や訓練を受けた音楽療法士が行うものと定義するなら、その歴史は音楽療法の先進国米国でも100年足らずです。
しかし、音楽のもつ潜在的な力や人類との深いかかわりからすれば、広い意味での音楽療法はもしかしたら人類最古の療法といえるかもしれません。
わが国でも今後、音楽療法の研究が進むにつれ、果たす役割はますます広がっていくことでしょう。
認知症の人と音楽のかかわりの実例
シンガーソングライターになったAさん
音楽が好きなAさん。あるとき、スタッフが誰も聴いたことのない歌を口ずさんでいました。
つらいことがあっても自分を励まそう、といった歌詞の歌です。「誰の歌?」とたずねると「あたしの歌、あたしの自作」「この歌を歌ってがんばるんだ」と。シンガーソングライターの誕生です。
しかし、その歌はご自身がつらい状況でなくても歌われているようです。そしてとうとう、どうやらスタッフ(私)の仕事が忙しいときに歌っているらしいと気がつきました。
そうした表情を見せないようにしていたにもかかわらず、Aさんの感受性はそれを見逃さず、さりげなく私を励まそうとしていたのでしょうか。
認知症症状があっても、いやむしろ認知症だからこそ、言葉や論理の枠を越えた感性が磨かれ、音楽を通して発揮されたのかもしれません。
歌で親方になったBさん
Bさんはレビー小体型認知症を抱える男性。パーキンソン様の症状により、小声でぼそぼそと話され、言葉も流暢とはいえない状態です。グループホームの女性入居者陣からは「おとなしい人」とみなされていました。
あるとき、パワフルな歌唱で知られる男性歌手の曲を流したとき、いつものBさんからは考えられない大きな声で歌い始めました。
歌詞も流れるように出てきます。それを周りで聴いた女性陣はびっくり。
「すごい声だねぇ!」と感想を告げられると、またぼそぼそ声に戻り「お、親方だったから、声ださないと職人、言うこときかないから」と。そんなことは全く知らなかった女性陣は再度びっくり。
陰で「あの人は覇気がないねぇ」と言っていたCさんは、見直したのか、これまでBさんに淹れてあげたことのないお茶をこっそりと差し出すのでした。
生活の中にこそ音楽を取り入れよう
たとえ専門的な音楽療法ではなくとも、また、日常の介護の場面や自宅生活でも、音楽を取り入れることはよい効果があるでしょう。
ご本人の好みそうな歌や曲を流したり、一緒に歌ったり、手拍子やちょっとした楽器を取り入れたりと、日常で「音・歌を楽しむ」という観点で音楽を有効活用していきたいものです。
ただし、加齢や認知症状の状態によっては注意しなければならない点もあります。気をつけたいポイントを下に挙げます。
聴力を確認する
高齢になると概して音を聴きとる能力が低下します。大音量でなければ聴きとれなかったり、特に高音域が聴き取りづらくなるため、音楽全体のバランスが崩れて聞えることもあります。
このため、昔は楽しめた楽曲が高齢になって楽しめない場合もあります。
疲れやすさに注意する
認知症の症状として、脳の疲れやすさ、集中力の低下、注意力の持続困難が挙げられます。
どんなに楽しい音楽でも、長時間集中したり注意を向け続けると疲労が溜まり、かえってストレスになりかねません。イージーリスニングなどあまり集中の必要ない楽曲を選んだり、インターバルを挟む、適度に切り上げるなどの工夫も必要です。
本人の好みや歴史、状態を把握する
認知症の人はさまざまな時間を生きています。時には子どもの頃や青春時代に戻っていて心に響く音楽もそれに合わせて変化しているかもしれません。
また、人間は、悲しいときには悲しい曲を、楽しいときには楽しい曲を好む傾向もあります。ご本人にとっての「今」の人生に合わせて、こちらがさまざまな楽曲を学んでおくことも大切でしょう。
ともに楽しむ
すばらしい音楽は、一緒に楽しむ人がいればますます味わい深くなります。
周りの人がともに聴き、歌い、奏でることも大切です。うまくテンポがとれない、歌詞が出てこないときも、音楽仲間が励まし受け入れてくれれば安心です。人間にとって、最高の伴奏は人間なのです。ともに楽しみましょう。
音楽は、人間にとってとても身近なものです。どんな人でも、人生の場面ごとに、心に残った音楽、忘れられない音楽に出会ってきたことでしょう。
それはドラマのBGMのように、私たちの過去に寄り添い、いまもまた傍で喜びを盛り上げ、悲しみをなぐさめてくれます。それは認知症の人の心も、介護する人の心も同じです。
音楽療法を活用し、どちらのこころも応援する力にしたいものです。
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この記事の制作者
著者:志寒浩二(認知症対応型共同生活介護ミニケアホームきみさんち 管理者/介護福祉士・介護支援専門員)
現施設にて認知症介護に携わり10年目。すでに認知症をもつ人も、まだ認知症をもたない人も、全ての人が認知症とともに歩み、支え合う「おたがいさまの社会」を目指して奮闘中。
(編集:編集工房まる株式会社)
監修者:伊東 大介(慶應義塾大学医学部神経内科・准教授)
1967年生まれ。1992年、慶應義塾大学医学部卒業。
2006年より、慶應義塾大学医学部(内科学)専任講師。総合内科専門医、日本神経学会専門医、日本認知症学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本医師会認定産業医。
2012年、日本認知症学会学会賞受賞。