みなさんは、音楽療法をご存知ですか?

音楽療法とは、からだの機能回復や活性化を促し、こころの健やかさを保つ目的を持った音楽活動です。治療ではありませんが、科学的にも症状を軽減し、幸福感を高める効果が検証されています。

入居者の心がおどる、音楽の時間


【多い時には50名以上の入居者が参加する、人気のレクリエーション】

東京都世田谷区にある、介護付き有料老人ホーム『ツクイ・サンシャイン成城』では、毎月3回音楽療法のレクリエーションが行なわれています。今回は取材を通して、その人気の秘密をご紹介します。


【音楽療法講師・吉良さんのほがらかなあいさつでレクリエーションが始まる】

吉良さん「みなさん、おはようございます!」

開始直前にBGMが行進曲に切り替わり、会場内はハツラツとした雰囲気に満ちています。まずはウォーミングアップ。車椅子の方もいらっしゃるので、座ったままの態勢で行ないます。講師の動きを真似しながら大きくからだを動かします。深呼吸や腕の曲げ伸ばしを中心としたストレッチで、声を出しやすい状態に整えていくのだそう。私も一緒にやってみました。ゆっくりとからだが緩むのを感じます。

からだが温まりリラックスしたところで、ピアノの伴奏に合わせみんなで童謡「朧月夜」を合唱しました。「♬菜の花ばたけに、入日うすれー、見わたす山の端、かすみ深し。春風そよふく、空を見ればー、夕月かかりて、にほひ淡し♪」口ずさむと、春の夕景がくっきりと目の前に浮かぶようです。

続いて登場するのは、昔懐かしいスターが歌う名曲の数々!顔写真をヒントにしてクイズ形式で歌手名を当てっこしました。「『星影のワルツ』は千昌夫の曲だね!あれは売れたねえ。」答えが当たると、わぁっと盛り上がります。


【ピアノのリズムに合わせて自然と身体が動きます】

ある入居者の女性はこう話します。

「うちはお寿司屋さんをやっててね。『星影のワルツ』がヒットした頃に、うちのお店で千昌夫さんがドラマの撮影をする機会があったの。うちの主人が親方で、千昌夫さんが寿司屋の小僧役でしたね。まぁ、ファンが沢山来てすごかったですよ。」

思い出すほどに、当時の思い出がいろいろと甦ってくるようで、「湖畔の宿」、「湯の町エレジー」、「人生の並木路」と曲が紹介されるたび、参加者は嬉しそうな表情で思い出話に花を咲かせていました。


【鳴子、シードラム、トーンチャイムなどを用いて入居者も一緒に演奏する】

入居者も参加しリズム奏も楽しみました。演奏を担当することになった方は、使い方を教えてもらいながらチャレンジします。楽器を使うのは、腕を動かすことにより血流を良くする効果があるからだそうです。曲に合わせて、さまざまな音色とリズムがいろどり豊かに刻まれます。

最初はやや小さかった歌声も、終盤になるにつれ楽しそうな笑い声や、手を叩く音が会場内に響き渡るようになり、見ている私も元気のおすそ分けをもらった気分。本当にあっという間の1時間でした!

楽しむことがそのまま機能訓練になる

2015年4月からツクイ・サンシャイン成城で講師を担当する吉良さん

【2015年4月からツクイ・サンシャイン成城で講師を担当する吉良さん】

 音楽療法レクリエーションを担当するのは、音楽療法士の吉良まゆみさん(Leaf 音楽療法センター所属)です。レクリエーションでは「声を出す」ことを長期の目標として目指しながら、身体機能の回復や脳活性などの訓練を織り交ぜて、毎回のプログラムを組み立てているそうです。

吉良さん「今回はとにかく回想・想起を促すことを重点的に行ないました。音楽を耳から、写真を目から。ふたつの感覚を同時に使って情報をリンクさせることによって、脳が活性化され記憶が甦りやすくなります。」


【懐かしいメロディに自然と口ずさむ入居者のみなさん】

入居者にとっては、日常の楽しいひとときですが、そこで行なうひとつひとつの動きは、すごく考え抜かれてプログラムされているのだなと驚きました。しかも表情や楽器を奏でる音から、入居者の状態を微細に感じ取り、変化を見守るまでが音楽療法士の仕事なのだそうです。そういった観察結果は毎回報告書にまとめます。

音楽療法は寄り添いの技術

音楽療法の仕事をする中で、大切にしていることをひとつ吉良さんに尋ねてみました。「ひとつは難しいですね」と逡巡しながらも、吉良さんが最終的に選んだのは「受容する」こと。

―—「受容する」とはどういったことなのでしょうか?

吉良さん:年齢を重ねるにつれ、誰しもお元気だった頃と比較して身体機能が衰えていきます。そのことに対して、時には感情的になったり、寂しい気持ちが生まれたりするもの。そういう”どんな状態でも私は受け入れますよ”ということですね。そのために、みなさんの居心地をよくするのが私の役割なんです。


【小さい頃からおばあちゃん子だったという吉良さん】

――音楽療法をする中で印象的なエピソードはありますか?

吉良さん:ご入居者がなにげなく歌を口ずさんでいるときに私も一緒にハモってみたり、さりげなくピアノで伴奏をつけて差し上げると、ご入居者の表情がどんどん明るくなり、もっと歌ってくださったり、思い出話をされることがありました。音楽を使って相手に寄りそうと、こんなにもリラックスして自分を表現できたり、心が癒えるんだと改めて実感しましたね。ご入居者が生き生きとしていく姿を見ることがすごく嬉しいです。

取材を終えて:音楽を通じて心が響き合う

レクリエーションでは、メロディに結びついた記憶の断片がよみがえったときの入居者の生き生きとした表情が印象的でした。そして、その変化を見て取ったときの吉良さんの嬉しそうな表情も。そんなやりとりを見た私も、何度も胸がいっぱいになりました。

「楽しく唄う」だけではなく、入居者の些細な表情の変化も観察し、一人ひとりにしっかりと向き合うこと。そのあり方をすごく大事にされていると感じました。みなさんも、吉良さんが届ける音楽の時間を体感しに、ぜひ一度ツクイ・サンシャイン成城へ足を運んでみてください。