【特定疾病】65歳未満でも介護保険の対象となる「初老期における認知症」とは?
65歳未満で発症する認知症を「若年性認知症」と呼びます。
介護保険サービスは通常65歳以上の方が対象ですが、40歳から64歳の初老期における若年性認知症は特定疾病ですので、条件を満たせば65歳未満の方でも介護保険サービスが受けられます。
ここでは若年性認知症について詳しく解説します。
若年性認知症とは
認知症のうち、65歳未満で発症するものを「若年性認知症」と言います。
日本で行われた最近の調査では、若年性認知症の有病率は人口 10 万人あたり 50.9人、有病者数は 3.57 万人と推定されています(2021年現在)。
認知症にはさまざまな病気がありますが、「若年性認知症」という呼び方は病気の種類とは関係ありません。
条件を満たせば介護保険サービスが利用可能
若年性認知症のうち40歳以上65歳未満の初老期の方が患っている認知症は介護保険の特定疾病となっています。
そのため、40歳から64歳であっても、条件を満たせば介護保険サービスを利用することができます。
介護保険が利用できる条件
介護保険の特定疾病として認められるためには、次にあげる2つを満たす必要があります。
- 1 認知症の診断基準を満たす
- ・記憶障害や認知機能(言葉を使う、物事を判断する、計算するなどの脳の機能)の障害によって、さまざまな症状が出ている
・その症状によって、社会生活や仕事が困難になっている - 2 外傷性疾患、中毒性疾患、内分泌性疾患、栄養障害を除く
- 認知症症状の原因が、事故やケガ、病気、栄養状態の悪化などによって起きているのではない。
介護保険サービスを利用するには要介護度の認定を受ける必要があります。まずはお住まいの市区町村に問い合わせてみましょう。
若年性認知症の種類
若年性認知症は年齢で区切った呼び方です。
そのためその中には、さまざまな病気が含まれています。ここでは代表的な病気を簡単に解説します。
アルツハイマー型認知症
認知症のなかで最も多くみられる病気です。
脳にアミロイドβやタウタンパク質という物質が異常にたまることで、脳全体が萎縮して発症します。
また、若年性アルツハイマー型認知症の一部には、遺伝性もあります。
はじめは物忘れ(記憶障害)、日時や場所の認識ができない(見当識障害)、手順や計画が必要なことができない(実行機能障害)などの症状が見られます。
進行すると服の着脱などの簡単な生活動作が難しくなり、5〜10年ほどで会話や身の回りのことができなくなって介護が必要となります。
根本的な治療薬はありませんが、進行を遅らせる薬が使われています。
血管性認知症
脳の血管が詰まったり破れたりして、脳梗塞や脳出血を起こしたことで発症する認知症です。男性に多く見られます。
他の認知症と同様に記憶障害や見当識障害、実行機能障害などの症状が現れます。
これに加えて、運動麻痺や知覚麻痺などのさまざまな症状が現れます。できることと、できないことの差が激しかったり、1日のなかでも症状に波が見られたりします。
ご本人が症状を自覚しやすい、感情のコントロールが難しいなどの特徴もあります。
根本治療はありませんが、リハビリテーションによってできなくなったことができるようになったり、いまできることができなくなるのを防いだりします。
また、何より重要なのは、脳梗塞や脳出血の再発を防ぐことです。
高血圧や糖尿病などの生活習慣病を持っている方は内科的治療(内服を続けるなどの治療)をきちんと継続しましょう。
前頭側頭型認知症
脳の前頭葉や側頭葉が萎縮(いしゅく:縮んで小さくなる)することで理性的な行動ができなくなったり、言葉を理解しづらくなったり、言葉が出にくくなったりなどの症状が現れます。
初期のころは、記憶障害が目立たないことが多いです。進行すると無気力や無関心の症状が強くなり、行動の異常が見られることもあります。
根本の治療法はないため、症状を緩和させるための対処療法やケアが、治療の中心となります。
患者さんの多くは40歳代から60歳代と、比較的若い年齢で発症します。
また、ピック病は前頭側頭型認知症の一つです。
レビー小体型認知症
中枢神経(脳の大脳皮質や脳幹など)や自律神経系などに「レビー小体」と呼ばれる異物が溜まり、その影響で神経細胞が壊されて発症します。
発症の初期には、記憶障害などの認知機能の低下はあまり目立たないことが多いです。
その代わり、動作が遅くなる、歩き方が小刻みになるなどのパーキンソン症状や、幻視(見えないものが見える)、レム睡眠行動障害(大きな声ではっきりした寝言や寝ぼけ行動)、自律神経症状(立ちくらみや便秘など)など、多彩な症状が出てきます。
立ちくらみによる転倒や誤嚥性肺炎を引き起こすことで、介護や医療が必要になることもあります。
根本的な治療法はなく、症状の進行を抑えるための薬を使用したり、リハビリテーションを行ったりします。
若年性認知症で受けられる支援
若年性認知症の対象年齢は、働き盛りの世代です。
東京都健康長寿医療センターの調査によると、若年性認知症患者の約6割は発症時に仕事をしていましたが、そのうち約7割が仕事を辞めています。また、患者の約6割が、病気の影響によって世帯収入の減少を感じていました。
若年性認知症の方やご家族は、必要に応じて経済的な支援を受けることも考えましょう。
介護保険サービスの利用だけでなく、精神保健福祉手帳の申請も可能です。
取得すると税金の免除や減免、NHK受信料の減免、公共料金の割引、公営住宅の優先入居、各種手当の支給などの支援を受けることができます。また障害年金も受けることができます。
支援を受けるためにはまず、診断を受けることが必要です。気になることがあれば早めに、かかりつけ医に相談しましょう。
気になることがあれば早めに受診を
気になる症状が見られても、本人に病気の自覚がなかったり、家族が認めたくなかったりして、認知症は受診につながりにくいものです。
特に若年性認知症の診断には高度な診断技術が必要で、診断を受けるまでに時間がかかることも少なくありません。
実際、若年性認知症患者の多くが、認知症疾患医療センターという専門機関で診断を受けています。
心配なことがあればかかりつけ医に相談し、専門の医療機関を受診できるように、紹介状を作ってもらいましょう。
イラスト:坂田 優子
この記事の制作者
著者:矢込 香織(看護師/ライター)
大学卒業後、看護師として大学病院やクリニックに勤務。その後、メディカル系情報配信会社にて執筆・編集に携わる。現在は産婦人科クリニックで看護師として勤務をするかたわら、一般生活者のヘルスリテラシー向上のための情報発信を行っている。
監修者:内海 久美子(砂川市立病院 副院長・認知症疾患医療センター長)
NPO法人中空知・地域で認知症を支える会理事長、一般社団法人認知症疾患医療センター全国研修会代表理事も務める。
長年にわたり、医師として認知症の診断、治療の傍ら、地域に向けた啓発や関係者とのネットワークづくりに尽力。
「砂川モデル」として全国からも注目され、講演、取材、TV出演など多数。