ALSの方はどの介護施設に入居可能?必要なケアや選び方のコツをご紹介

指定難病のひとつであるALS(筋萎縮性側索硬化症)。「ALSでも介護施設に入居できるのか」「ALSの場合はどんな介護施設を選べばよいのか」など、介護施設探しで悩んでいる方もいらっしゃるでしょう。

今回は、ALSの症状や必要とするサポートなどを踏まえたうえで、ALSの方が入居できる介護施設をご紹介していきます。各介護施設の特徴や費用などもまとめていますので、ALSの受け入れが可能な介護施設を探している方はぜひご参考になさってください。

本記事は5月17日時点の情報です。

指定難病のひとつ、ALSってどんな病気?

ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは、筋肉を動かしにくい、筋肉が痩せるなどの症状が見られる進行性の病気です。脊髄の両側に存在し運動ニューロンの情報を伝える側索(そくさく)が硬化することによって起こるもので、筋肉そのものに異常があるわけではないことが特徴です。

有病率は人口10万人当たり2~7人。女性よりも男性に多いのが特徴です。平均発症年齢は60歳前後となっていますが、約10%の方が40歳以下で発症しています。

ALSの原因

ALSの原因ははっきりしていませんが、さまざまな学説があります。神経の老化との関連や、タンパク質の分解障害、興奮性アミノ酸(脳内に存在し中枢神経の興奮作用をもつアミノ酸)の代謝異常、ミトコンドリアの機能異常など諸説あり、研究が進められています。

ALS全体の約5%には遺伝的な要因もあるとされていますが、現時点では十分に解明されておらず、多くの場合は原因不明です。

ALSの症状

ALSは、運動神経が損なわれるのに対して、脳や脊髄などの中枢神経や、運動神経以外の末梢神経はダメージを比較的受けにくいのが特徴です。そのため、中枢神経と関係の深い知能・感情・記憶などの機能は、ALSが進行しても比較的維持されます。

また、五感をつかさどる知覚神経や、尿意・便意の自覚をはじめ、排せつ機能などをつかさどる自律神経なども、それほどダメージを受けません。

ここでは、ALSで見られる症状をご説明していきます。

上肢の麻痺

ALSでは、上肢の麻痺が見られます。初期の段階でも見られやすいのが、指先の痺れや、筋肉が萎縮することによる手のこわばり。手に力が入りにくい、腕が上がらない、お箸やコップなどが持ちにくく落としやすいなどの症状で気づかれることもあるようです。

ALSが進行していくと、関節の痛みや筋肉のピクつき(痙攣)なども出てきます。

下肢の麻痺

下肢の麻痺によるALSの初期症状としてよく知られているのが、歩行時のつっぱりです。足が前に出ない、足首が上がらない、しゃがんだときに立ちあがるのが難しくなるといった症状で気づかれることもあります。

病気が進行すると、筋萎縮や転倒のしやすさ、筋肉のピクつき(痙攣)、関節痛・筋痛なども目立ち始めます。

顔・舌・のどの麻痺

ALSは、顔や舌、のどなどの麻痺(球麻痺)も特徴です。呂律(ろれつ)が回らなくなるため、意思を思うように伝えられません。また、嚥下(えんげ)障害も現れます。摂食・嚥下は、次の5つのステージにわかれています。

  • 認知期(食べものを認知して口に取り込む)
  • 準備期(咀嚼して嚥下しやすい形に整える)
  • 口腔期(咽頭に送り込む)
  • 咽頭期(咽頭から食道に運ぶ)
  • 食道期(胃に運ぶ)

ALSで見られるのは、口腔期と咽頭期の嚥下障害です。口腔期嚥下障害の症状は、食べものを噛みにくい、よだれが垂れてしまうなどがります。

一方、咽頭期嚥下障害では、食べものや飲みものが飲み込みにくく「つまったりむせたりする」「食べものがのどに残る」「痰がうまく出せない」などの症状が見られます。

ALSでは『痩せ』が見られますが、筋肉そのものが痩せるほか、食事がうまくとれないことも原因です。

呼吸障害

呼吸筋の麻痺などによる呼吸障害も、ALSの特徴です。ALSの初期では、以下の症状が見られます。

  • 長く話せない
  • 大声を出しにくい
  • 動作時に息切れしやすい
  • ぐっすりと眠れず日中ウトウトしてしまう

進行期の症状には、会話をするのに努力を要したり、安静時にも息が苦しかったりといったものがあります。

ALSの治療法

ALSでは、進行を遅らせるための薬の投与が行われます。用いられる薬は、リルゾールやエダラボンなどです。リルゾールは内服により、エダラボンは点滴注射により投与されます。

ただし、これらの薬はALSの進行を遅らせるものであって根本的に治すものではありません。そのため治療のメインは対症療法であり、さまざまなサポートが必要となります。

ALSの方が必要とするサポート

ALSの進行により必要となってくるサポートには、日常生活援助のほか、医療ケアなどがあります。ここでは、それぞれのサポートについて、詳しくご説明します。

日常生活援助

ALSの方は、食事・着替え・歩行・入浴などの日常生活の援助が必要となります。それは、前述のようにさまざまな麻痺が進行していくからです。

日常生活の援助を行う際には、本人にできる範囲で行ってもらうことも重要です。

例えば、食事介助では介護用のスプーンを利用する、着替えをするときは簡単に着脱が可能なジッパー式の洋服や下着を用意する、などの工夫をするとよいでしょう。日常生活の動作のすべてを援助するのではなく、進行度に応じたサポートを行うことで、筋力の維持が図れます。

在宅介護の場合は家族の負担が大きく、介護疲れで気力・体力ともに疲弊し、もう限界…という方も多くいらっしゃるようです。デイサービスやショートステイなどの公的介護サービスを利用することで、負担を減らすことも検討しましょう。

ただし、ALSの対応が可能な施設がなかなか見つからないこともあるため、地域包括支援センターやケアマネジャーに相談してみることをおすすめします。

痰の吸引

ALSでは、病気が進行すると24時間体制で痰の吸引を行う必要があります。理由は、球麻痺により痰を自分で出すことが困難となるため。

気道に痰が溜まると、呼吸をするときの抵抗が大きくなって息切れしやすくなります。また、痰の存在により無気肺(肺に空気が入らない状態)となるなど、呼吸状態を大きく悪化させてしまう可能性もあります。そのため、ALSの方にとって、痰の吸引を行うことは大切なのです。

胃ろうの管理

ALSの方は、胃ろうの管理が必要になります。胃ろうとは、腹部に小さな穴を開けてチューブを通し、栄養を胃に直接注入する医療措置のことです。病気が進行すると上肢麻痺や嚥下障害などが起こるため、胃ろうが必要となるのです。

胃ろうをつくるためには手術が必要ですが、栄養を摂り入れる必要性や、管理のしやすさを考慮すると、ALSの方やその家族にとって大きなメリットがあります。実際に栄養を投与する際には、食事のタイミングで管をつなぐことが必要です。

呼吸の管理

将来的には呼吸管理も必要となります。呼吸管理で用いられるのは、主にNPPVや気管切開などの方法。NPPVとは、鼻マスクを装着することで就寝時などに呼吸をサポートする呼吸管理法です。

気管切開は、のどを切開して気管に気管カニューレを入れ、人工呼吸器を装着します。気管切開の場合は、切開部分のガーゼ交換や、首回りに装着したバンドのゆるみがないかの確認を毎日行う必要があるほか、気管カニューレの交換なども数週間に1回必要となります。

リハビリ

リハビリも、ALSの方にとって重要です。ALSの方に対して行われるリハビリは、身体の疲労をやわらげることや筋力の低下などを防ぐことが目的です。

杖や車いすなど、病気の進行に合わせた補助具を用いて、歩く訓練や操作訓練などを行います。また、リハビリの内容には、呼吸のリハビリなども含まれます。嚥下障害に対しては、口の運動や飲み込み訓練などのリハビリもあります。

メンタルケア

メンタルケアも、大切なポイントです。身体が動かなくなっていくこと、思いを伝えられなくなっていくことなどに、苦痛を感じる方が多いからです。ALSの方が死を望むケースも少なくなく、場合によっては精神科の受診が必要となることがあるかもしれません。

コミュニケーション障害に対しては、症状が進行しても意思疎通が図れるように訓練をしておくことが大切です。方法としては、文字盤によるコミュニケーションや、口文字によるコミュニケーションなどがあります。手を動かせる場合は、パソコンやタブレットを利用する方法もあります。

ALSは人工呼吸器の装着も|その治療法と受けられる支援

介護施設・老人ホームにはどんなものがある?

介護施設・老人ホームには、公的施設と民間施設があります。公的施設を運営するのは社会福祉法人や医療法人、民間施設を運営するのは株式会社などの民間企業です。それぞれの施設ごとの特徴をご説明します。

公的施設(介護保険施設)

まずは、公的施設の入居条件や受けられるサポートなどを見ていきましょう。

特別養護老人ホーム(特養)

特別養護老人ホーム(特養)は、原則要介護度3以上で入居可能な入所型施設です。食事・入浴・排せつなどの日常生活のサポートをはじめ、リハビリやレクリエーションなどの介護サービスなどを受けられます。

部屋のタイプにより、ユニット型個室の新型と従来型個室や多床室などの旧型に分けられ、新型では月15万円程度、旧型では月10万円程度の費用がかかります。また、看取りも行われています。

特別養護老人ホーム(特養)について詳しく見る

介護老人保健施設(老健)

介護老人保健施設(老健)は、退院後に在宅復帰を目指す目的で入居する施設です。要介護度1以上で利用でき、日常生活のサポートや医師・看護師による医療的な管理、リハビリなどを受けることが可能です。

月額費用は4人部屋で9~12万円程度、2人部屋や個室では特別室料が別途かかります。自宅の生活を目指す施設であるため、入居期間は原則3~6か月となっています。

介護老人保健施設(老健)について詳しく見る

介護療養病床

医学的管理を必要とする要介護度1以上の方が入居できる施設で、介護療養型医療施設とも呼ばれています。一般的な介護のほか、医療的管理、リハビリなどを提供しています。

医師の配置は、入居者100人に対して3人。また、ほかの施設と比べて看護師も多く配置されるなど、医療環境が整っていることがポイントです。4人部屋の月額費用は9~17万円程度、個室の場合は特別室料が加算されます。

※介護療養病床は2024年3月を目途に廃止が決定し、後述の介護医療院などへ転換が決定しています。

介護療養型医療施設について詳しく見る

介護医療院

生活施設としての機能と、ターミナルケアなどの医療機能を併せもつ施設として、2018年に創設された施設です。対象は要介護度1以上で、長期療養が必要である方向けの施設です。医療ケアのほか、介護・リハビリ・レクリエーションなどが受けられます。

介護医療院にはⅠ型とⅡ型がありますが、Ⅰ型は医師配置の基準がより高く、重篤な身体疾患を有する方も利用可能です。一方でⅡ型は、容体が比較的安定している方を受け入れています。費用は、月10~20万円程度となっています。

介護医療院について詳しく見る

民間施設

続いて、民間施設をご紹介します。

介護付き有料老人ホーム

介護付き有料老人ホームでは、介護・医療ケア・リハビリ・レクリエーションなどのサービスを提供しています。要介護度1~5の方を対象とする介護専用型のほか、自立・要支援の方も対象となる混合型などがあります。看護師が少なくとも日中は常駐。費用は月15~40万円程度です。

介護付き有料老人ホームとは

住宅型有料老人ホーム

自立・要支援1~要介護5の方が生活支援を受けながら生活できる施設です。介護サービスを受けるためには、外部の在宅サービス業者と契約する必要があります。月額費用は15~30万円程度、介護サービスを必要とする場合はその費用が別途かかります。

住宅型有料老人ホームとは

サービス付き高齢者向け住宅

相談員が常駐しており、安否確認のほか生活相談サービスを受けられます。60歳以上の方であれば入居が可能で、介護が必要な場合には基本的に在宅サービスを利用します。

厚生労働省の基準を満たしており「特定施設入居者生活介護」の指定を受けたところでは、施設のスタッフから介護サポートを受けることが可能です。月額費用は5~25万円程度。在宅サービスを利用する場合は、その費用が別途発生します。

サービス付き高齢者向け住宅とは?老人ホームとの違い

ALSの方はどんな介護施設を選べばよい?

ALSの方が介護施設を選ぶときは、どのような点に注意したらよいのでしょうか。介護施設選びのポイントと、ALSの受け入れができる施設を見ていきましょう。

ALSの方が介護施設を選ぶ際のポイント

前述した痰の吸引は夜間も必要になります。そのため、医療ケアを24時間受けられる、看護師が24時間常駐した介護施設であることが必須です。また、病気が進行した場合に備えて、人工呼吸器の設備がある施設を選びましょう。

もうひとつのポイントは、リハビリスタッフの有無です。少しでも現在の状態を維持するために、専門スタッフによるリハビリを受けられる施設を選ぶことをおすすめします。

老人ホームで受けられる医療行為(医療的ケア)

ALSの入居相談が可能な介護施設

ALSの受け入れができる介護施設を3つご紹介します。規定されている医師・看護師の配置や、リハビリスタッフの有無もまとめていますので、介護施設選びの参考にしてください。

表の「スタッフ100:1」は入居者100人に対してスタッフ1人、「スタッフ3:1」は入居者3人に対してスタッフ1人の意味です。

介護老人保健施設

・医師100:1以上(常勤が1人以上必要)

・看護・介護職員3:1以上

(そのうち看護師が2/7程度必要)

・リハビリスタッフ100:1以上

介護医療院

I型の場合

・医師48:1以上(施設で3人以上必要)

・看護師6:1

・介護職員6:1

・リハビリスタッフ配置あり

介護付き有料老人ホーム

・看護・介護職員3:1(要介護者3人に対して1人)

(介護スタッフが24時間常駐、日中は看護師が常駐)

・リハビリスタッフ1人以上

※医療機関と連携しており、医師による定期健診や訪問診察あり

ただし、介護老人保健施設はあくまでも在宅復帰を目指す施設であるため、入居期間が原則3~6か月と決まっています。入居できても「終の棲家」にはなりにくいため、将来的なことを考えると介護医療院や介護付き有料老人ホームを選ぶのがおすすめです。

介護付き有料老人ホームの場合は、夜間も含め、24時間看護師が常勤しているかどうかも確認しましょう。

また、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅でも、夜間の訪問看護等を利用して入居の相談ができる場合もあります。必ずしも施設種別だけで判断せず、場所や予算など条件の合う施設があればALSでも入居可能か確認してみましょう。

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まとめ

ALSの症状や必要なサポートについてご説明しました。ALSの方は、病気の進行に伴って必要とする医療ケアが増えていきます。そのため、ALSの方が入居する介護施設は、医療ケアが受けられる施設であることが必須条件です。また、呼吸管理ができる介護施設を選んでおくと、ALSが進行しても安心して過ごせるでしょう。

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この記事の制作者

武田 拓也

監修者:武田 拓也(ファイナンシャルプランナー(AFP)、社会福祉士)

株式会社FAMORE代表取締役
有料老人ホームの管理者、外資系金融機関を経て、真にお客様のためになる提案をするため独立型FP事務所を開設。NPO理事として地域福祉の取り組みを実施している。
NPO法人あかし福祉士ネットワーク 事務局長
兵庫県社会福祉士会東播ブロック 理事長

公式株式会社FAMORE

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