【入居前に確認!】老人ホームで受けられる医療行為(医療的ケア)
日常的に医療行為が必要な方は介護施設への入居を検討する際に、その医療行為が施設で受け入れ可能かどうかの確認が大切です。ここでは介護施設での医療行為について解説します。
医療行為とは?医療的ケアとは?
「医療行為」とは、医師の医学的な判断や技術がなければ患者さんや利用者さんに危害を与えかねない行為のことです。そのため、本来であれば医師や看護師の資格がなければ実施できません。
しかし喀痰(かくたん)吸引や経管栄養などの医療行為を日常生活の一部として受けることで、自宅や介護施設など病院以外の場所で生活できる人が増えてきました。このように、医療行為のなかでも日常生活に必要な生活援助行為を「医療的ケア」を呼び、現在その一部は介護福祉士も行えるようになりました。
医療的ケアが必要な人が介護施設への入所を検討する場合、そのケアが介護福祉士でも行えるのか、看護師がいなければ受け入れが難しいのかを確認することが重要です。
ここからは自宅や介護施設で行われる医療的ケアについて、看護師でなければできないもの、研修を受けた介護福祉士も行えるもの、一般の介護福祉士も行えるものに分けてみていきましょう。
看護師でなければできない医療的ケア
日常的に行われる医療的ケアのなかでも、特に命に関わるものは看護師でなければ行うことができません。
インスリン注射
インスリンの自己注射は糖尿病の治療法のひとつです。血糖を下げるホルモン「インスリン」を1日に数回、注射で補います。インスリンが効きすぎると正常範囲を超えて血糖値が下がり、放置すると死に至る可能性があります。そのため、看護師による観察や副作用発生時の対応が求められます。
糖尿病のインスリン注射器の使い方と副作用の対処法人工呼吸器の管理
肺や心臓、神経や筋肉の病気がある人の中には、全身の状態や生活の質の改善を目指して日常的に人工呼吸器を使用することがあります。自宅や施設で扱う呼吸器のことを「在宅人工呼吸器(HMV)」と言います。在宅人工呼吸器は命に関わる医療的ケアのため、看護師による専門的なケアが必要です。
在宅人工呼吸器の使い方と注意点在宅酸素療法
在宅酸素療法(HOT)は自宅で酸素吸入を行う治療法です。慢性呼吸不全や慢性心不全の患者さんが利用します。自宅や施設に専用の機械を設置し、鼻に装着したチューブと接続することで、直接酸素を吸います。その人、そのときにあった酸素量を投与しなければ症状を悪化させることがあります。
在宅酸素療法の注意点や費用中心静脈栄養
病気によって口からの栄養摂取が難しい人や、消化管機能が低下して長期間の点滴が適切と判断された人は、心臓近くにある太い静脈に点滴することで栄養などを補給することがあります。これが中心静脈栄養です。
中心静脈栄養を実施する際には、輸液製剤の混注や輸液バッグの交換などの専門的な技術が求められます。また感染症になったりカテーテルを自分で抜いてしまうなどのトラブルが生じることがあり、看護師による管理が必要です。
中心静脈栄養(IVH)の特徴|自宅介護の注意点まとめ褥瘡(じょくそう)ケア
褥瘡(じょくそう)とは圧迫されたところの血流が悪くなり、その部分に酸素や栄養が行き届かなくなって、皮膚、皮下組織、筋肉などが死んでしまうことです。「床ずれ」と呼ばれることもあります。褥瘡の状態に応じて処置を行うため、専門知識を持った看護師がケアを実施します。
在宅での褥瘡の治療と予防法についてストーマの貼り替え
ストーマとは、腸や尿管をお腹の外に出して作った人工肛門・人工膀胱のこと。装着したパウチと呼ばれる袋に排泄物を溜めることで、日常生活をほとんど制限なく送ることができます。
ストーマではヘルニア・脱出、テープや装具かぶれ、感染症などのトラブルが起きることがあり、悪化した場合は治療が必要になります。ストーマ交換の際には看護師が観察して、トラブルを早期に発見することが大切です。
ストーマ(人工肛門・人工膀胱)のケアと生活上の注意点導尿、バルーンカテーテルの管理
高齢者に多く見られる排尿障害。おむつ以外の対処方法には、バルーンカテーテル(尿道留置カテーテル)や自己導尿などがあります。カテーテルと呼ばれる管を尿道から挿入し、膀胱に溜まった尿を排出します。カテーテルの挿入は医師・看護師しか行えません。
バルーンと導尿の違いとメリット・デメリットを比較研修を受けた介護福祉士が行える医療行為
医療的ケアを日常的に必要とする人が増えたことをきっかけに、研修を受けた介護福祉士であれば、喀痰吸引・経管栄養を実施できるようになりました。
喀痰(かくたん)吸引
窒息を防ぐために、専用の機械を使用して1日に数回、定期的に痰(たん)を吸い出す「吸引」が必要となることがあります。吸引時は呼吸ができず息を止めている状態なので、酸素が不足しがちです。そのため、専門知識を持った看護師や介護福祉士が対応します。
経管栄養(胃ろう、腸ろう、経鼻経管栄養)
脳や神経、顔、のどの病気で口から食べることが難しい人や、誤嚥(ごえん)による肺炎を繰り返している人は、胃や腸に挿入したカテーテルに栄養剤などを注入して食事を摂ることがあります。消化状態を確認しながら注入を行ったり、カテーテルの抜去や皮膚のトラブルなどに対応したりする必要があるため、専門的な知識や技術が求められます。
胃ろうは誤嚥予防のメリットも!ケアの方法と注意点介護福祉士も実施できる医療行為
特別な知識や技術がなくても安全に実施できる医療的ケアは、研修を受けていない介護福祉士でも実施することができます。介護福祉士が実施できる医療的ケアには次のようなものがあります。
<介護福祉士が実施できる医療的ケア>
血液透析が必要な人は送迎が可能かも確認を
これまで紹介したもの以外で、介護施設への入所を検討する際に気をつけたい医療行為・医療的ケアには血液透析があります。
血液透析とは、病気などの影響で腎臓の機能が著しく低下したときに、人工腎臓を使って老廃物や不要な水分を除去する人工透析のひとつです。多量の血液を体外に導き出し、特殊なフィルターを搭載した機械に通すことで血液中の老廃物や不要な水分を除去します。週3回程度の通院が必要です。
施設で送迎の対応ができない場合、家族が送り迎えを行う必要があります。
医療的ケアが必要な人の施設探しの注意点
医療的ケアが必要な人が介護施設を探す場合、必要となるケアはどの職種が実施できるのか、また必要な時間帯はいつなのかを確認してから施設を探しましょう。看護師が配置されている施設であっても、夜間は看護師が不在なところもあり、注意が必要だからです。
また、看護師が配置されていたとしても、医療行為・医療的ケアをどこまで受け入れるかは施設によって異なります。必ず施設の方針を確認しましょう。
【3分でできる】はじめての施設さがし診断老人ホームで受けられる医療行為は?
イラスト:坂田 優子
この記事の制作者
著者:矢込 香織(看護師/ライター)
大学卒業後、看護師として大学病院やクリニックに勤務。その後、メディカル系情報配信会社にて執筆・編集に携わる。現在は産婦人科クリニックで看護師として勤務をするかたわら、一般生活者のヘルスリテラシー向上のための情報発信を行っている。
監修者:伊東 大介(慶應義塾大学医学部神経内科・准教授)
1967年生まれ。1992年、慶應義塾大学医学部卒業。
2006年より、慶應義塾大学医学部(内科学)専任講師。総合内科専門医、日本神経学会専門医、日本認知症学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本医師会認定産業医。
2012年、日本認知症学会学会賞受賞。