【はじめての方へ】ALSは人工呼吸器の装着も|その治療法と受けられる支援

ALS(Amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)は運動神経細胞の異常によって、徐々に全身の筋肉が衰える病気です。

人により進行はさまざまですが、平均して発症から約2~4年ほどで自力での呼吸が難しくなり、人工呼吸器の装着が必要となります。

ここではALSの症状、治療や必要なケア、受けられる経済的な支援について紹介します。
 

ALSは徐々に筋肉が衰える、原因不明の病気

ALSとは、脳から身体に指令を送る運動神経細胞がうまく働かなくなることで、徐々に全身の筋肉が衰える病気です。

この病気のはっきりとした原因はわかっていないのですが、ALSの5〜10%は遺伝性と言われています。

特徴的な症状

ALSの特徴は、一度現れた症状は薬やリハビリテーションでは改善しないことです。初期~進行期と、時間の経過とともに身体の自由が利かなくなります。

一方、眼球運動や、痛みや熱さなどの感覚、排尿・排便の機能は保たれます。

初期

最初に現れる症状として多いのは、手足の筋力の低下です。

ボタンがとめにくい、何もないところでつまずく、物が重く感じるなどがみられます。

食べ物が喉につかえやすくなったり、ろれつがまわらないことで、異変に気づく人もいます。

進行期

腕が痩せて細くなったり、足が突っ張って歩きづらくなります。食事を飲み込むことや、言葉を正しく発音することが困難になります。

さらに進行すると手足を動かせなくなり寝たきり状態に。会話や自力での呼吸、口からの食事は困難です。

このように進行は様々ですが、人工呼吸器をつけない場合、発症から余命までの期間は平均して2〜4年といわれています。

診断されるまでに数年かかることも

思い当たる症状や心配なことがあればまず、かかりつけ医や近隣の脳神経内科を受診しましょう。

専門の施設では画像検査や筋電図検査、髄液検査などを行いますが、ALSを確定診断できる検査はなく、検査結果と経過から総合的に診断を行います。そのため、最初の受診から診断がつくまでに数年かかることもあります。

ここまで、ALSの検査と診断についてみてきました。次にどのような治療を行うのか、詳しくみていきます。

ALSの治療は進行を遅らせ、痛み・苦痛を和らげること

ALSの根本治療は今のところありません。症状の進行を遅らせる薬物治療に加えて、痛みや苦痛を和らげるリハビリテーションや、呼吸・食事のための治療を行います。

薬物治療

神経細胞を保護するリルゾール(内服薬)や、神経細胞を破壊させる物質を除去するエラボン(点滴)などの薬を使用します。

どちらも、ALS患者さんの生存期間や人工呼吸器装着までの期間を数か月間延長させる効果があります。

リハビリテーション

身体を動かさないことでさらに筋力の低下が進み、関節が動かしづらくなります。リハビリテーションを行うことで、痛みの予防にもつながります。

また、食べ物を飲み込む力や呼吸で使う筋肉を維持するための訓練を実施します。

食事について

口からの食事が難しい場合は、食べ物を直接胃に注入するため、胃ろうをつくる手術を行います。

高カロリー食により体重減少を抑えることは、筋力低下の抑制につながります。

呼吸について

自力で痰を出すことが難しくなるため、機械を使って数時間おきに数回、痰を取り除きます。

呼吸が難しくなると人工呼吸器を使用します。はじめは寝ている間を中心に、マスク型の人工呼吸器を使います。症状が進行すると終日の装着が必要となるため、喉から気管に人工呼吸器の管を直接挿入する気管切開を実施します。

最近の人工呼吸器は小型であり、装着しても自宅で過ごしたり、外出も可能です。

在宅でご家族がケアをする際、ポイントとなるのは「食事支援」「呼吸支援」「コミュニケーション支援」「治療方針の決定」「介護施設の検討」の5つです。

食事支援

誤嚥(誤嚥)を防ぐため、食事の際には体を起こし、食後もしばらくはこの姿勢をキープします。

ひとくちの量は少なめにし、ピューレ状の果物や牛乳に浸したパンなど、水分が多く滑らかなものを準備しましょう。

汁物には薬局で売っている増粘剤(とろみ剤)を入れて、とろみをつけます。

呼吸支援

吸引器を用いて痰を取り除く吸引や、人工呼吸器の操作や管理を行います。

コミュニケーション支援

声を出す脳の指令が、喉や舌に伝える神経がうまく働かないことで発声が困難になったり、気管切開を行うことで声を失ってしまう場合があります。

そのため、イラストや50音が書かれたコミュニケーションボード、ICT機器を使って、指や目線でコミュニケーションを取っていきます。

治療方針の検討

ALSと診断されたときから、患者さんとご家族、医療者がチームになって話し合い、胃ろうや人工呼吸器などの方針を決めていきます。

症状の進行について情報を共有し、ご本人の意思が尊重されるよう支援します。一度で終わらせず、必要があれば何度も繰り返し話し合います。

介護施設の検討

在宅ケアは家族の負担が大きいです。最近はALSを抱える方も入居の相談ができる老人ホーム・介護施設が増えています。問い合わせの際は、ALSの方の入居実績の有無や、人工呼吸器の対応可否についても必ず確認しましょう。

自宅での介護疲れで限界が来る前に、介護施設を検討することも重要です。

【入居前に確認!】老人ホームで受けられる医療行為(医療的ケア)

利用できる3つの経済支援

ALSの在宅ケアでは通院の費用や治療費のほか、人工呼吸器の使用料など、経済的な負担がかかります。公的な経済支援を利用することで、負担を軽減できます。

介護保険の特定疾病

介護保険は本来、65歳以上でなければサービスを利用することができません。しかしALSは特定疾患に指定されているため、40歳以上65歳未満であっても介護が必要な状態であれば、介護保険のサービスを利用することができます。

特定医療費(指定難病)

ALSは難病法の指定難病です。そのため治療にかかった費用は、自己負担上限額を超えた分について、国からの補助が受けられます。

身体障害者手帳

症状が進行すると、申請することで身体障害者手帳を受け取れます。

重度心身障害者医療費受給者の交付を受ければ、ALS以外の治療費も助成を受けられ、さまざまな福祉サービスを受けることができます。

特定疾病について詳しく見る

イラスト:坂田優子

この記事の制作者

矢込 香織

著者:矢込 香織(看護師/ライター)

大学卒業後、看護師として大学病院やクリニックに勤務。その後、メディカル系情報配信会社にて執筆・編集に携わる。現在は産婦人科クリニックで看護師として勤務をするかたわら、一般生活者のヘルスリテラシー向上のための情報発信を行っている。

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noteKaori Yagome*看護師

Twitter@KaoriYagome

伊東 大介

監修者:伊東 大介(慶應義塾大学医学部神経内科・准教授)

1967年生まれ。1992年、慶應義塾大学医学部卒業。
2006年より、慶應義塾大学医学部(内科学)専任講師。総合内科専門医、日本神経学会専門医、日本認知症学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本医師会認定産業医。
2012年、日本認知症学会学会賞受賞。

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