【理学療法士が解説】杖の種類や選び方のポイント
杖が必要になったとき、どうやって選べば良いのでしょうか。自分の体に合った杖を選ぶことができれば、行動範囲が広がり、元気に生活することができます。ここでは、体の状態や用途に合わせた杖の選び方と、安全に歩くコツを解説します。
杖の種類
まず、杖にはどんな種類があるのかをみていきましょう。
- 1.T字杖(長さ固定タイプ、伸縮タイプ、折りたたみタイプ)
- 切って長さを調節する長さ固定タイプと、段階的に調節できる伸縮タイプ、折りたたんで携帯できる折りたたみタイプがあります。
- 初めての方には伸縮タイプがお勧めです。
- 2.4点杖(スモールベース、ラージベース)
- 杖先が4点に分かれて安定性のある杖です。杖先が狭いスモールベースと、広いラージベースがあります。
- ラージベースは平らな床でなければ安定しないため、主に屋内用になります。
- 3.ロフストランドクラッチ
- 腕を通すカフのついた杖です。
- カフでも体重を支えられるため、握力・腕力が弱い方でも安定しやすいです。
- 4.松葉杖
- 脇あてのついた杖です。
- T字杖や4点杖、ロフストランドクラッチと比べて、足腰への負担を大幅に軽減することができます。
- 5.サイドケイン
- 片手で使う歩行器のような杖です。
- 幅も重量もあり長い距離を歩くのには適していませんが、脳血管疾患で中~重度の半身不随がある方でもしっかり体重をかけることができます。
- 6.ポール
- 真っ直ぐな形をした杖。2本セットで使います。
- 背筋が伸び、上半身を使い、バランスもとりやすいため健康づくりのウォーキングで使う方が多いです。
どれも福祉用具の販売店で購入することができますし、T字杖とポール以外は公的介護保険でレンタルすることも可能です。
入院中や介護施設を利用している間は、その施設の備品を貸してもらえる場合があります。しかし、限られた備品の中からの貸し出しであるため、必ずしも体に合ったものになるとは限りません。
体の状態や用途に合わせた杖の選び方
次に、体の状態や用途に合わせた杖の選び方を表にまとめてみました。
杖なしでも歩けるが、より安心して歩くために杖を使いたい | T字杖(長さ固定タイプ、伸縮タイプ) |
外出先で疲れたとき、坂道を歩くときや階段を上るときなど、必要なときだけ杖を使いたい | T字杖(折りたたみタイプ) |
体重をかけても心配のない杖を使いたい | 4点杖(主にスモールベース) |
杖を使いたいが、握力・腕力が弱い | ロフストランドクラッチ |
足を骨折してギプス固定しているため、体重がかけられない | 松葉杖 |
脳血管疾患で半身不随があり、杖にしっかり体重をかける必要がある | サイドケイン |
ウォーキングで使いたい。背筋を伸ばして歩きたい | ポール |
いかがでしょう。体の状態や用途に合う杖は見つかりそうですか?
杖の高さの合わせ方と使い方、安全に歩くコツ
杖の種類を選んだら、正しい使い方を見ていきましょう。体にフィットさせるための高さの合わせ方や安全に歩くためのポイントを説明していきます。
杖の高さの合わせ方
1. 杖の高さの合わせ方
- 足の大転子という骨の出っ張りと、グリップの高さが合うように調整します。こうすると、握ったときに肘が少し曲がって力を入れやすくなります。円背がある場合は、背中を伸ばしやすくなります。ポールは、グリップがおへその高さになるように調整するのが一般的です。
2. 杖の持ち手を確認する
- 杖は利き手で持つと安定します。ただし、片方の足に痛みや筋力低下がある場合は、そうではない方の足側の手で持ちます。例外として、松葉杖を使って悪い方の足に体重をかけないように歩く場合は、両側か悪い方の足側で持つことになります。
3. 杖の握り方を確認する
- T字杖や4点杖は、グリップの短い方を前にして、人差し指と中指で支柱を挟むように握ります。ときどき前後反対に持っている方を見かけますが、杖が斜めになり滑りやすくなるため、注意が必要です。
安全に歩くための4つのポイント
1.杖をつく位置
- 杖をつく位置は、足の小指から外側に15cm、前側に15cmが目安です。
2.杖をつく順番
- T字杖や4点杖を使って歩く場合、「杖→反対の足→杖側の足」の順番で歩くと安定します。(3動作歩行) これが楽に行える場合は、「杖と反対の足→杖側の足」の順番で行っても良いでしょう。(2動作歩行)
3.階段の上り下りのときに足を出す順番
- T字杖や4点杖を使って階段を上るときは、「杖→良い方の足→悪い方の足」の順番で上り、下りるときは「杖→悪い方の足→良い方の足」の順番で下ります。
4.付き添い歩きのコツ
- 片方の足に痛みや筋力低下がある場合は、その足の側にバランスを崩すことが多いです。そのため、悪い足の側に横に付き添うと安全です。
杖を安全に使うために注意したいこと
杖を安全に使い続けるために、注意する点があります。意外と知られていませんが、とても大事なのでご紹介します。
1. 杖先のゴムがすり減っていないか確認する
杖を長く使っていると、杖先のゴムがすり減ってきます。
これを放っておくと、杖先が滑りやすくなり危険ですので、ときどき確認しておきましょう。杖先のゴムは福祉用具の販売店で購入できます。
2. 杖を握っている手は痛くないか
杖に体重をかけて歩いている場合、握っている手が痛くなってしまうことがあります。
グリップ(握る部分)にクッション性のある杖やグリップにつけるカバーがありますので、試してみてください。
3. 杖をうまく立て掛けられず、倒れてしまうときには
杖をテーブルや手すりにうまく立て掛けられず、床に倒れてしまうことがあります。
倒れた杖を拾おうとしてバランスを崩す危険もあるため、注意したいポイントです。
杖をひっかけるクリップ型のグッズが販売されていますので、検討してみてください。
4. 松葉杖は脇で体重を支える物ではない
松葉杖は脇で体重を支えて使う物ではありません。脇には多くの神経が通っているので、圧迫するのは危険です。
松葉杖と脇の間に指4本分くらいのすき間が空くように長さを調整し、脇で挟むようにして使いましょう。
「転ばぬ先の杖」という考え方
はた目から見ていて歩きが不安定でも、本人は杖の必要性に気づいていないことがあります。
また、杖を持つことで年寄り扱いされると感じる人もいます。こうした方には、杖を使うことのメリットをアピールすると良いかも知れません。
転倒の原因は、筋力低下だけではありません。
視力が低下したり、足元が暗かったりして、小さな段差に気づかずにつまずくことがあります。
急いでいたり、考えごとをしていたり、周りの人たちの歩きに合わせることに気を取られて足元に気が向かず、バランスを崩すことがあります。
杖は、そんな場面で転倒から身を守ってくれるグッズです。
また、杖をついていると周りの人が気づいて道を譲るなどの配慮をしてくれます。膝や腰の負担も軽減されます。
杖には、「健康づくりを支える転ばぬ先の杖」という側面もあるんです。
まとめ
歳を重ねて徐々に体力が落ちたり、病気やケガをしたりして歩きが不安定になると、行動できる範囲が狭くなります。
そして、できることが減り、活力・体力が低下していきます。
ですが、体に合った杖に出会うことができれば安全に歩くことが可能です。
自信につながり、活力も体力も良い状態に保つことができるでしょう。
今は杖の種類が豊富で、デザイン性の良い物もたくさんあります。
ここでお伝えしたことを参考にしていただき、体に合った自分らしい杖を探してみてください。
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イラスト:安里 南美
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この記事の制作者
著者:安藤 岳彦(介護老人保健施設ひまわりの里 リハビリテーション部長)
認定理学療法士(地域理学療法、健康増進・参加)、中級障がい者スポーツ指導員
1999年秋田大学医学部付属医療技術短期大学部理学療法学科を卒業。
医療法人社団三喜会鶴巻温泉病院に勤務。介護老人保健施設ライフプラザ鶴巻、医療法人篠原湘南クリニッククローバーホスピタル、医療法人社団佑樹会・介護老人保健施設めぐみの里の開設を経て、現職。療養・生活に寄り添うリハビリ専門職として、日々の業務に従事しています。