親の介護私ばかり…どうすれば?理不尽の背景や本来の介護義務について

親の介護を自分だけが担っている状況は、心身共に負担が大きく、つらさやしんどさを感じる人が少なくありません。親の介護に関する理不尽な状況を少しでも改善するために、参考になるアイデアや知識をまとめました。

「私ばかり親の介護をしている」と感じるときの3つの対策

・親族間で役割分担をする

・介護サービスを利用する

・施設入居を検討する

親の介護を「自分ばかりがしている」と感じたとき、心と体の負担を軽減するためにも、まずは次の3つの対策を講じるところから始めてみましょう。

親族間で役割分担をする

介護者の役割を分担する第一歩は、関係する親族全員で話し合い、現状認識の共有をし、それぞれの「何ならできて、何ができないのか」を明確にすることです。

介護の負担がひとりへ集中している現状をまず共有し、つらいと感じていること、助けてほしいポイントなどを、主たる介護者から具体的に伝えてみてください。そのうえで、誰がどのようにフォローするのか、新たな介護プランを考えていきましょう

たとえば、資金援助をする・月に数度の通院だけ手伝う・定期的に親へ電話をかけるなど、遠方に住んでいる親族にもできることはたくさんあります。重要なことは親族間での物理的な距離よりも精神的な距離が近いことで、より主介護者の孤立を避けることができます。

関連記事【トラブル回避】親の介護|兄弟姉妹の役割分担

介護サービスを利用する

役割分担をしても主たる介護者の負担が大きくなりすぎてしまう場合、介護サービスを利用するのも一手です。これらのサービスを活用することにより、親や介護者の生活は大きく変えずに、食事や入浴・リハビリなど、特に困っているところだけをプロに頼ることができます

介護サービス例

  • 自宅で生活支援や介護・看護が受けられる「訪問サービス」
  • 日中だけ施設へ通う「通所サービス」
  • 一時的に施設へ入居する「短期入所サービス」

関連記事【表で比較】介護保険サービスにはどんなものがある?その種類と内容

施設入居を検討する

要介護者のお体の状態によっては、老人ホーム等、介護施設への入居も検討すべきかもしれません。たとえば夜間に何度もトイレへ行きその度に介助が必要だったり、認知症の症状があり24時間のケアが求められたりするようなケースでは、同居介護で共倒れする前の早期対策が重要です。

早めの施設入居には、「親が少しでも元気なうちに新しい生活を始めてもらえる(新生活へのストレスを最小化できる)」というメリットもあります。

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「親の介護で私ばかりつらい・しんどい」のは、懸命に向き合っている証

キーパーソン(主たる介護者)として日々親の介護へ向き合っているときに陥ってしまいがちなのが、「実際に介護を行っている自分にだけ、親がつらく当たってきてしんどい」という状況です。

口だけ出して実務を行わない親族・兄弟にはやさしいのに、日々お世話をしている自分にだけきつく当たられると、体力面・金銭面だけでなく、精神面でも親の介護が大きな負担となってしまいますよね。

実は認知症を患った人には、「もっともよく面倒を見てくれる人に頼って、だだをこねるような態度に出る」という傾向があります。つまりあなたへの言動は、ケアが足りないのではなく、むしろ日ごろ懸命に介護を行ってきた事実の証明だとも考えられるのです。

介護の現状につらさ・しんどさを覚えたら、どうか無理はせず、介護サービスや施設などをうまく頼ることも検討してみてください。

出典:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「どうして私にばかり辛く当たるのでしょうか」

なんで私ばかり…そもそも親の介護は義務なの?

「親の介護」とは、そもそも誰が担うべきもので、それを放棄した場合、法律ではどのような取り扱いになるのでしょうか。民法第877条には、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と記されています。

ここで言う扶養とは、自力で生活を成立させられない親族に対する“金銭面の支援”のこと。つまり、介護が必要な親を金銭的に支援することは、直系血族である子どもの義務だと法律で定められているのです。

もし扶養義務者が親の介護を放棄したり、それによって親がけがを負ったりしてしまった場合、「保護責任者遺棄罪」や「保護責任者遺棄致傷罪」などの罪に問われる恐れもあります。

ただ、これはあくまで義務であり強制ではありません。金銭的に支援が難しいなどの理由がある場合、扶養義務者はその旨を家庭裁判所へ申し出て、実現可能な扶養の程度や方法を実情から判断してもらうこともできます。

出典:民法第八百七十七条(扶養義務者)

親の介護は誰がするべき?

扶養義務のある直系血族、および兄弟姉妹が複数いる場合、その中で誰が主となって介護を行うのかは、当事者間での話し合いで決定することになります。

法律上、「誰が優先して介護を行うべきか」の順位は定まっておらず、兄弟姉妹の年齢や同居の有無などの条件も関係しません

もし話し合いで解決できない場合、民法878条、および第879条により、扶養すべき者の優先順位や、それぞれの扶養の程度・方法を、家庭裁判所に定めてもらうこともできます。

自分ばかりが介護を担っていて、他の親族(扶養義務者)の協力を得られないときは、家庭裁判所への調停の申し込みが、現状を打開する一手になるかもしれません。

なお、直系血族である子に配偶者がいても、扶養義務が生じるのはその子のみです。つまり法律的には、子の配偶者(結婚して戸籍に入ったいわゆる「嫁」や「婿」)に、義理の親を介護する義務はありません

出典:民法第八百七十八条(扶養の順位)

親の介護費用は誰が支払う?

介護費用の負担割合については、法的に定められているルール等が存在しません。

そのため、扶養義務のある子や兄弟姉妹で話し合い、誰がどの程度の支払いを行うのか自分たちで決定することになります。

「遠方に住んでいてあまり介護に関われない分、費用は多めに出す」など、実情を鑑みた不公平感のない取り決めができるとよいでしょう。

なお、厚生労働省が実施した令和4年国民生活基礎調査によると、介護サービスを利用している人のうち、「要介護者本人やその配偶者の収入“以外”を介護費用に充てた」と回答した人の割合は、全体の1割にも達していませんでした。

つまり介護を要する人のほとんどが、自身の収入や貯蓄から介護費用を捻出しているということです。

まずは親の資産内でやりくりできる介護プランを立て、介護者の負担が大きい部分は追加サービスの利用を検討する、といった流れで話し合ってみることをおすすめします。

出典:総務省「国民生活基礎調査 令和4年国民生活基礎調査 介護」

関連記事親を介護施設に入れたいがお金がない…介護費用はいくら?誰が払う?対策7つを紹介

こうなる前に。「親の介護」が限界を超えたときのリスク

親の介護は、介護者にとって肉体的にも精神的にも負担が大きい行為です。親族の助力を得るのが難しく、自分だけがお世話をしなければならないようなケースでは特に、介護疲れに起因する「介護うつ」や介護を理由とした「介護離職」、「要介護者への虐待行為」などの発生リスクが高まります。

誰かひとりが我慢することで成り立っている状況は、いつか破綻してしまうものです。「親の介護がつらい」と声を上げるのは勇気のいることですが、親との共倒れを防ぐためにも、「家庭裁判所への申し立ても視野に、親族と役割分担を話し合う」「使える介護サービスは使い尽くす」などの手段で、早期の段階でケアマネジャーなどの専門職に相談をして、できる限り無理のない介護プランを再検討してみてください。

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親御さんの入居におすすめな介護施設

・サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)

・有料老人ホーム

お体の状態などさまざまな事情によって、自分ばかりが親の介護をする状況に限界を感じたときに、入居を検討できる施設にはたとえば次のようなものがあります。

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)とは、自由度の高い自宅と同じような環境で暮らしながら、スタッフによる安否確認や生活相談などのサービスが受けられる賃貸住宅です。

主に、比較的介護度が低く、自立した生活が送れる高齢者を対象としています。

介護施設というよりも「介護サービスが利用できる住まい」という位置づけなので、老人ホーム等への入居に抵抗のある親御さんも、選択肢のひとつとして検討しやすいでしょう。

自分らしい生活は維持しつつ、必要な介護サービスだけを受けたい人におすすめです。

関連記事サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)とは?費用や入居条件、他施設との違い

有料老人ホーム

有料老人ホームとは、食事・家事・介護・健康管理のうち、いずれかひとつ以上のサービスを提供している高齢者向け施設のことです。介護付き、住宅型、健康型など複数の種類があり、お体の状態によって、必要なサービスがついた施設を選択できます。

選ぶ施設によってはサ高住よりもより手厚いサービスが期待できるほか、レクリエーションなどで他の入居者と交流できる機会も多いので、自分に合ったサポートを受けながら楽しく暮らしていきたい人におすすめです。

有料老人ホームの種類とサービス

関連記事有料老人ホームとは?介護付・住宅型・健康型の違いや定義、料金、人員基準など

まとめ

「自分だけが親の介護を担っている」という状況は、肉体的にも精神的にも、介護者への負担が大きいものです。親族とうまく役割分担できるのが理想ですが、各々の事情もあり、理想通りにはいかないケースは多いでしょう。

介護疲れが限界を迎えると、介護うつなどを発症してしまうリスクもあります。主たる介護者へかかる負担をできる限り軽減するために、訪問介護や特別養護老人ホームなど、使える介護サービスは可能な限り使い尽くすことを検討してみてください。

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この記事の制作者

山本 武尊

監修者:山本 武尊(主任介護支援専門員・社会福祉士)

地域包括支援センター 元センター長。介護現場の最前線で業務をすると共に、介護業界の低待遇と慢性的な人手不足の課題解決のため介護に特化した社会保険労務士として開業。
現在は介護関連の執筆・監修者、介護事業所向け採用・教育・育成や組織マネジメントなど介護経営コンサルタントとしても幅広く活躍中。

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