在宅介護の限界はどこ?専門家が判断する「老人ホームの入居どき」を解説します


「家族を老人ホームに入れたいなんて、わがまま?」
「本人もずっと家で暮らしたいというし」
「そもそもお金もないし……」

ご家族の老人ホーム入居に悩んでいる方へ、どんな状態になったら老人ホームの「検討どき」か、LIFULL介護(ライフルかいご)編集長の小菅が解説。「まだ入るべきではない…?」と考える介護者の疑問に答えます。また、ご本人が入居を拒否している場合の

登場人物
小菅プロフィール
小菅プロフィール 老人ホーム・介護施設紹介業で主任相談員として1500件以上の施設入居相談に対応した経験を持つ。現在は「LIFULL介護」の編集長。介護で人生を諦める人がいなくなることを願って、執筆、講演活動も行っている。
大田プロフィール
大田プロフィール LIFULL介護編集部のメンバー。介護に関する編集歴は5年。知れば知るほど介護の世界は複雑で深い…。

老人ホームへの入居理由、2つのパターン

大田プロフィール
大田

小菅さんは、編集長の前は老人ホームの入居相談業務に長く携わっていたんですよね?どのような理由で老人ホームへの入居を検討される方が多かったのか、教えてください。

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小菅

はい、では実際に私の経験上の話をしていきますね。

1.介護者が心身の限界を迎える

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小菅

どういった理由で老人ホームへの入居を検討されるかは、その高齢者がご家族と同居しているか、もしくはお一人暮らしされているかで異なると思います。

同居していたら、一緒に暮らす介護者(介護をする家族)が「さすがにこれ以上は限界だ」と感じたときが非常に多かったです。

大田プロフィール
大田

ちなみに「限界だ」とは、どういう理由で限界だと感じる方が多かったですか?

小菅プロフィール
小菅

例えば「親が一人でトイレに行けなくなる」という状態が、介護施設への入居を検討するポイントの一つです。

ご高齢の方は、夜間トイレに行く頻度が多くなる傾向があります。一晩に2回、3回行く方もいらっしゃるわけです。トイレに行くのにサポートが必要な場合、介護者はその都度起きなければなりません。トイレ介助をして、また眠るというサイクルを一晩に何回も繰り返すことで、介護者の疲労は蓄積していきますよね。

特に、今の介護者は世代・性別を問わず仕事をもっている方が多く、仕事と介護の両立ができなくなり、介護施設を検討する方もいらっしゃいます。

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大田

なるほど。トイレの介助で限界を迎えられるパターンが多くみられるんですね。

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小菅

そうですね。スムーズに介助できればいいのですが、トイレまで間に合わず失禁してしまい、その処理に時間を要することだってあります。体力的、精神的にも負担が大きいですね。

2.一人で暮らすことが難しくなる

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大田

独居、つまりお一人暮らしの場合だと、どういう理由で入居を検討される方が多いですか?

小菅プロフィール
小菅

シンプルに「一人暮らしが難しくなった」というケースです。認知症がきっかけになることも増えています。

例えば、外出したけれど一人で帰って来られなくなり、警察に保護される。これが何回か続くと、離れて暮らすご家族も心配になりますよね。

あるいは火の不始末によるボヤ騒ぎが起きたとします。集合住宅に住んでいたら、火災を起こせば他のお部屋への延焼も考えられ、大家さんから「次の契約更新は無理です」と言われる場合もあります。

こうした認知症の症状のある方が住み替えるとしても、なかなか賃貸物件を借りづらくなってくるわけです。そこで老人ホームをはじめとする高齢者向け住宅に住み替えるケースが非常に多かったですね。

大田プロフィール
大田

なるほど、一人では住み続けられないし、誰も同居してサポートができないとなれば、老人ホームが選択肢に入ってきますね。

小菅プロフィール
小菅

そうですね。あと、脳疾患などの病気がきっかけで身体に麻痺が残り一人暮らしが難しくなってしまう方も多いです。退院するときにドクターやメディカルソーシャルワーカーという退院調整の相談員から、「自宅生活は難しい」として介護施設をすすめられる場合があります。

同居する介護者の「私が頑張れば……」、限界を判断するポイント

大田プロフィール
大田

専門的な第三者が判断してくれれば、スムーズですよね。一番苦しいのは、介護者が「辛いけど、もう少し私が頑張れば、おうちで暮らし続けられる」と思っている時だと思います。

家族をケアするときって「私はこれ以上頑張れないです」という限界を自分で客観的に判断することって難しいと思うんです。「家族なんだから大事にして当たり前」って価値観はありますし。

小菅さんとしては「私が頑張れば……」って思ったとき、その「頑張り」が、どういう状態だったら入居を検討するべきだと思いますか?

小菅プロフィール
小菅

そうですね。一番は、生活に支障をきたすような状況だと、もう限界だと思うんです。

例えば、親の身体介護で腰を痛める家族は多いと思います。介助の指導を受けて在宅介護しているわけではないので、正しい知識がないまま見よう見まねで介護をする方って多いんです。

無理がたたって、自分自身の体調や体の状態が悪化してしまい、通常の生活ができなくなってしまったときはもう「限界」と考えていいと思います。

それが一過性のものであって、「ちょっと頑張りすぎちゃったのでお休みをしたい」と、少し休むことで回復できるならいいでしょう。ある程度の期間ショートステイを使えるところや、介護老人保健施設などに短期間入ってもらって、介護者がちゃんと回復する。そしてまた同じような状況にならない方法が見出せるのであればいいと思います。

しかし、正直それは難しいんですよ。結局また同じことを繰り返してしまう。そうして、介護者も要介護者も共倒れ、というケースに至ることもあります。共倒れ一歩手前という状況は、老人ホーム相談業務をしていれば当たり前に見る一般的なケースです。

そのため、まずは介護者が健康であることが最重要だと思います。そう考えると、やはり生活に支障をきたすような状況が、入居のタイミングかなと思っています。

大田プロフィール
大田

なるほど。倒れないようにするってことは、実際に支障をきたす前に「これは無理そうだな」と判断することが大事ですね。

小菅プロフィール
小菅

そうですね。

大田プロフィール
大田

トイレ介助だけでなく、介護者が睡眠時間を削るようになったら、そこがやはり在宅介護の限界、老人ホームの考えどきと言えそうですね。睡眠時間が削られると心身共に疲弊して行きますからね。

小菅プロフィール
小菅

そうですね。例えば日中に仕事をして、家に帰ったら親の介護をしなければならない。睡眠不足が原因で仕事のミスが増えてしまったとか、仕事のほうでも支障をきたしている状態は望ましくないでしょう。

じゃあそこで仕事を辞めて介護に専念するとなったら、これがいわゆる「介護離職」になります。

ただし介護離職をしたからと言って、介護の負担が楽になるかというと、決してそういうわけではありません。今まで以上に親と接する時間が増えて、肉体的、精神的な疲労が増えていく一方になります。「仕事はやめたけど全然負担が変わらない。むしろ以前より増えている」というケースも見たことがあります。

しかも仕事を辞めているので、金銭的なストレスも発生します。やはり、限界が来る前に介護施設を検討するべきだと思います。

要介護度と「介護の辛さ」は関係ない。老人ホーム=要介護度が高い人が行く場所、ではない

大田プロフィール
大田

お金や介護度の点で「現状の生活はつらいけど、まだがんばれるから、家族が老人ホームに入るのはまだ先」と思っている方もいると思います。

例えば、特別養護老人ホーム(以下、特養)は要介護3以上でないと入れません。今、ご家族が要介護2だったら、「要介護3になるまではなんとか自宅で頑張るぞ!」と考えている方も多いのではないでしょうか。有料老人ホームと特養では、一般的に特養のほうが金額も安いですし。

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小菅

そうですね、いらっしゃいます。それと、「介護施設は、何もかもできなくなってから入る所だよね」と考えているご家庭が意外に多いと思います。ただ、実態はそうではないんですよね。

2020年にLIFULLシニアが「介護施設に入居したタイミングの介護度」をアンケートで調べたんですが、要介護1が最も多く、17.6%でした。さらに、要介護のもう少し手前の要支援1と2の人を合算すると、なんと全体の25%に相当していました。

出典:2020年11月LIFULL senior「介護施設入居に関する実態調査」
https://lifull-senior.com/images/news/pdf/201120_3.pdf
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小菅

老人ホームへの入居は、寝たきり(要介護4・5)になってから入るイメージの方が多いと思うんですが、要介護度が高くなくても入居される方が意外に多いことが分かりました。

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大田

要介護4・5の方のほうが介護しなきゃいけないことが増えて大変そうっていうイメージの方、多いと思います。

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小菅

実は要介護1~3くらいまでの方、つまり体は元気だけど認知症の症状がある方などの介護のほうが大変だと言われています。体は元気なので外出はできます。ただ、判断力・記憶力が低下しているので、外出先から戻って来られないことがある。この場合、安全面での配慮が必要なことが多いんですよ。

あとは「自分は元気だから、動けるから大丈夫」と思って、すたすた歩かれる方が転倒・骨折し、そこから一気に介護度が重くなるケースもあるので、意外と要介護1・2の方へのケアって難しいんですよ。

一見軽そうに見えるこの要介護1・2という数字。実際の介護だとそうでもないぞ、というのは覚えておいていただきたいですね。

大田プロフィール
大田

なるほど。もし「うちのお父さんはまだ要介護度1なのに、入居するのは変かな……」と思っている方がいたら、そんなことは全然ないってことですよね。

小菅プロフィール
小菅

そうですね。介護度はよそのお家と比較しないほうがいいと思います。

例えば「ご近所の〇〇さんのお宅は要介護4だけど、ちゃんと家で介護がんばってる。うちはまだ要介護1じゃないか。だからもっと頑張らないと。」なんて単純比較はできないんですよね。

それぞれ介護が必要な方のお体の状態、家族構成も違えば、使っている介護保険サービスの種類や時間も違います。ご近所のあの人に比べてうちは楽だとか、一概に比較することはできません。

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大田

ご家族の負担は、要介護度では測れないってことですよね。

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小菅

その通りです。要介護1・2は「軽度者」などと括られがちですが、だからといって介護が「楽」ってことではないわけです。

「有料老人ホームより特養の方が安い」時代は終わった

大田プロフィール
大田

「とてもじゃないけど有料老人ホームには金銭的に入れない、特養の順番がくるまでガマンする」という方も多いのではないかと思います。これについてはどうでしょう。

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小菅

そもそも「特養=安い」というイメージは、特養の「多床室」のイメージだと思います。一部屋に4人入居するカーテンで仕切られたお部屋のことですね。そこで考えると、確かに月の費用は7~8万円程度で収まります(※金額は所得により変動します)

しかし最近作られている特養は、全部「ユニット型」という一人個室の仕様で、毎月14~15万円程度かかります。一方、民間の有料老人ホームでも毎月15万円前後の施設が増えてきているので、実は価格も極端に変わりません。

「有料老人ホームは高い。入居金は何百万、何千万も必要で、月々30万円くらいかかる」っていう昔のイメージの方が多いと思います。しかし新規参入も増え価格競争が起こり、ここ10年くらいで、低価格のホームがずいぶん増えてきました。

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大田

なるほど。特養と有料老人ホームの料金の差がどんどん縮まる傾向にあるっていうことですね。

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小菅

そうですね。さすがに有料老人ホームで10万円以下というところはほぼありません。年金だけでは足りず、ご家族が少しずつ援助をして入居している、という人もいらっしゃいます。

基本的に要介護3以上は特養の入居対象となるので、それまでの間は民間の老人ホームにいったん入居する。そして要介護3以上の介護認定が出たときに特養に申し込み、タイミングが合えばそちらに移る、という方法もあります。

大田プロフィール
大田

なるほど。今有料老人ホームでも、頭金となる費用が0円のところも増えているようですね。そういうところを、特養までの入居待ちの選択肢にすることはできますか?

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小菅

そのように利用されている方もいらっしゃいます。余談ですが、特養に晴れて入居できたのに、有料老人ホームに戻ってくる方もいらっしゃるんですよ。

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大田

なんでですか?

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小菅

有料老人ホームのサービス内容の方が良かったとか、当時の入居者やスタッフとの相性が良かったとか、そうした理由ですね。特養が安いのは間違いないと思いますが、スタッフや入居者とまた一から関係性を築く必要があります。どうしても相性はあるので、そこでうまくいく方と、そうでない方がいらっしゃいます。

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大田

なるほど、金額だけで判断したくなりますが、共同生活になりますからね。老人ホーム選びの難しいところですね…。

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小菅

そうですね。

老人ホームに後ろ向きな本人。納得するまで待つのではなく、第三者の手を借りる

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大田

では介護している方が、ご家族に「入居して欲しい」と心に決めたとします。ただ、同居していない親族などが「本人が入居したくないんだから無理に預けなくても…」と言ってくることってあると思うんですね。

大体の場合、本人は住み慣れた家から引っ越さなきゃいけないわけですから、老人ホームに後ろ向きな方のほうが多いと思います。

その場合「本人が納得すればきっと親戚も黙るだろう」と考えて、本人が納得するのを待つっていうことは、できるんですか?

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小菅

これは難しいところです。説得は、できなくはないと思いますが、強引に進めると親子関係がこじれるので、簡単ではありません。

現在ご高齢の方は持ち家比率が高いじゃないですか。しかも、厚生労働省の意識調査の結果では、一般の方の7割が人生の最後は自宅で過ごしたいと考えています。

平成 30 年 3 月 厚生労働省:「人生の最終段階における医療に関する意識調査」より
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小菅

そういったご本人の思いがある中で、老人ホームの話をすると「家族に見捨てられた!」などネガティブな感情を持つ方もいます。とはいえ、ご本人が「老人ホームに入りたい」って思うのを待つとなると、介護は長期化する一方です。その状況が続くことで、介護者も要介護者も共倒れという一番避けたい状況になってしまいます。

そこで大切なのは、まずは子供だけでも、ここなら親を任せられるという老人ホームを見つけること。並行して、「自宅よりも快適に暮らせる場所があるんだけど、お母さんはどう思う?その方が私も安心できるんだ」と率直な気持ちを伝え、話し合ってみるのも良いと思います。

また、かかりつけの先生や担当のケアマネジャーさん、介護保険サービスの担当者などの口から施設入居を後押ししてもらうことも有効です。

大田プロフィール
大田

ご本人の気持ちが変わるのを待つのではなくて、かかりつけ医やケアマネさんなど、周りを巻き込んでご本人に納得していただくことが必要ですね。

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小菅

そうですね。ただしこの説得って、緊急度が高まってからだと遅いんですよ。望ましいのは、親がまだ元気なうちに将来のために介護施設を一緒に見学しておくことだと思っています。

例えば「自分の親は80歳だけど、まだまだ元気です。介護認定もありません」という場合でも、「もしお母さんに介護が必要になったら、おうちで介護されたいのか、もしくは介護施設に興味があるのか、そのへんどうなの?」と、まずそこからお話をしてほしいと思います。

少しでも興味をもってもらえたら、お子さんと一緒に近隣の介護施設を数ヶ所見学して、親の意見を聞いておくといいと思います。そのとき入居時期は未定で構いません。

そこで、親がどういうところに興味を持ったのかを押さえておくと良いでしょう。レクリエーションが楽しそうだったとか、見学で食べた食事がとてもよかったとか。

その後、本格的に介護施設探しが始まったときに、そこを条件に施設探しを進めていけたら、親が入居を前向きに考えられるような老人ホームが見つかると思います。

あらかじめ元気なうちから介護について一緒に考え、老人ホームのネガティブなイメージを払拭できるよう、見学しておくことは大切だと思っています。

大田プロフィール
大田

なるほど。老人ホームって、今すぐ入居しなくても、早いうちから見学しておくことができるんですね。老人ホームへのネガティブなイメージを払拭できれば、いざ本当に必要になった時にも、検討がスムーズに進みそうですね。

小菅 秀樹
小菅 秀樹 LIFULL介護 編集長/介護施設入居コンサルタント

老人ホーム、介護施設の入居相談員として1500件以上の入居相談に対応。入居相談コールセンターの管理者を経て現職。「メディアの力で高齢期の常識を変える」をモットーに、介護コンテンツの制作、寄稿、登壇。YouTubeやTwitterでも介護の情報発信を行う。

在籍LIFULL seniorX(Twitter)@kosugehidekiYoutubeLIFULL 介護 Youtubeお問合せ小菅 秀樹 lit.link 小菅 秀樹さんの記事をもっとみる

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