【はじめての方へ】高齢期の脊髄損傷|一度の転倒で寝たきりの危険性も

脊髄損傷とは

高齢者の脊髄損傷の特徴

脊髄損傷とは、大きな交通事故や高い場所からの転落など大きな外力が加わることで脊椎が骨折、脱臼し、脊髄が損傷する状態です。損傷した部位によって、四肢の運動麻痺、感覚障害、排便・排尿障害などが起こります。

一般的に脊髄損傷の原因は交通事故や高所からの転落など外傷により起こります。

一方、高齢者に多いのは、骨折や脱臼を伴わない脊髄損傷=「非骨傷性脊髄損傷(ひこつしょうせいせきずいそんしょう)」です。

この病気の進行は、まず加齢変化により「頚椎症(けいついしょう)」が起こり、神経の通り道である脊柱管が狭くなると、手のしびれなどの症状が出始めます。この状態を「頚椎症性脊髄症(けいついしょうせいせきずいしょう)」といいます。

そこにちょっとした外傷が加わることで「非骨傷性脊髄損傷」となります。

そのメカニズムについて、次の項で詳しく解説していきます。

頚椎症
①頚椎症性性神経根症 ②頚椎症性脊髄症
↓骨折を伴わない外傷
非骨傷性脊髄損傷
中心性脊髄損傷 横断性脊髄損傷

骨折しなくても起こる「非骨傷性脊髄損傷」の特徴

繰り返しとなりますが、非骨傷性脊髄損傷とは脊髄の骨折や脱臼が伴わずに起こる脊髄損傷の1つ。高齢者に多く見られるのが特徴です。

頸椎も含め背骨は、だるま落としの円盤のようなものが積み重なった構造をしています。背骨の中には穴が開いていて、その穴に脳から伸びた脊髄が通っています。

この脊髄が通るトンネルを脊柱管と言います。背骨は上下が椎間板という軟骨や、靱帯や小さな関節でつながっていますが、高齢になると椎間板が潰れてきたり、骨が張り出してとげの様になり、靱帯が厚く硬くなって脊髄の通り道である脊柱管に張り出してきます。

この状態を「頚椎症」といい、誰にでも起こる加齢変化の1つです。肩こりなどの軽微な症状であることが多く、気づきにくいのが特徴です。

そして、頚椎症が進行したものが「頚椎症性脊髄症」です。ここまで進行すると手のしびれなどが現れはじめます。

すでに症状が出ている人は脊柱管が狭くなり、脊髄が圧迫されるギリギリで持ちこたえているような状態です。

こうした状態で転倒し頭部に衝撃が加わると、骨折がなくても頚髄がダメージを受けてしまい、非骨傷性脊髄損傷=脊髄損傷となります。

徐々に進行する「頸椎症性脊髄症」

非骨傷性頚髄損傷の原因となる頚椎症は徐々に進行します。脊柱管の狭さが限界近くに達し脊髄そのものが圧迫を受けはじめると、外傷などの引き金がなくても頚椎症性脊髄という脊髄の障害を発症します。

頚椎症性脊髄症の症状

始めは手の平や足の裏のしびれなどの症状が出ますが、ボタンをはめたり外したりできない、箸がうまく使えない、字が下手になったなど手や指先の使いにくさ(巧緻性障害)を訴えて病院を受診するケースが多く見られます。

ほかにも鶏のように小刻み歩行になった、歩行がたどたどしくなった、階段では足元をみないと降りられなくなったなど下半身の症状も見られるようになります。さらに進行することで、最終的には自力で排尿や排便ができなくなることもあります。

病院では、このような症状が出たとき手術をすすめられることが多くありますが、高齢者は高齢だからと手術をしり込みされる方が多いのが現状です。

しかし、このような状態を長く放置すると、ちょっとした転倒で頭を打って頸椎に衝撃が加わっただけでも中心性脊髄損傷や横断性脊髄損傷になる可能性があります。次の項で詳しくご紹介します。

「中心性脊髄損傷」「横断性脊髄損傷」とは?

脊髄は脳と同じ中枢神経という回復力の乏しい神経です。一度、症状があらわれるとほぼ回復しないのが特徴で、頚椎症性脊髄症の状態で、たった1回の転倒でも突然寝たきりの状態になる可能性があります。

それを「非骨傷性脊髄損傷」と呼び、「中心性脊髄損傷」と「横断性脊髄損傷」の2種類の症状があります。その症状を詳しくみていきましょう。

中心性脊髄損傷
上半身を中心とした運動麻痺症状がでます。下半身は症状がほとんどないのにも関わらず、両手、腕がしびれて動きが極端に悪くなります。
横断性脊髄損傷

首から下すべてに運動・感覚麻痺症状がでます。首から下の感覚が鈍くなり手足がほとんど動かせなくなります。排尿排便のコントロールにも支障が出ます。

脊髄損傷の予防法

脊髄損傷自体に予防法はありませんし、残念ながら発症後の治療法も今の医学ではありません。しいて言うなら脊髄症状が出る前に神経の通り道を広げる手術することだけが唯一の予防法になります。

手のしびれが現れたらすぐに病院へ行き、専門医に診てもらい適切な治療をうけることが重症化しないための予防となります。

現在、手術療法以外に有効性が確認できている治療法はなく、たとえ初期の段階で診断がついたとしても、治療は手術のみが唯一の有効手段となります。

まとめ

高齢者の脊髄損傷のほとんどが頚椎症を背景としたものです。初期の段階で病院を受診するかどうかがその後、重症化を防げるかどうかの分かれ道になります。手のしびれなど、どんな些細な症状でも専門医に相談するのが予防につながります。

イラスト:坂田 優子

この記事の制作者

橋本 優子

著者:橋本 優子(看護師編集者)

大学卒業後、出版社にてビジネス誌の編集に携わる、その後、出産をきっかけに看護師資格を取得。病院勤務後、「看護」「医療」の知識を活かした情報発信をするため、現在は健康に関する記事の企画、取材、執筆、編集までを行う。

上野 正喜

監修者:上野 正喜(医療法人社団慶泉会 町田慶泉病院 副院長)

日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
日本専門医機構脊椎脊髄外科専門医
日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医
日本骨粗鬆症学会認定医

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