【目安を解説】飲み残し薬は捨てるべき!?正しい管理で医療費の節約も
薬の飲み残しをお金に換算すると、75歳以上の高齢者の分だけでも年間で約500億円分になるとも言われています。
ここでは飲み残しが増える原因と、残った薬の取り扱い方法。また、処方された薬の再利用ができる「節薬バッグ」の活用法について解説。
飲み残した薬を処分する前に、薬に正しく向き合い、ムダなく管理できる方法を紹介します!ぜひご家庭でお役立てください。
約65%の人が飲み残し薬を保管している!その原因とは
「予備の薬は十分にもっておきたい」と思う人が少なくありません。しかし、古くて安全性や有効性の保たれない薬を飲んでしまうと、薬の効果がしっかり現れずかえって病状が悪化したり、湿気を帯びて状態の悪い薬を飲むことでお腹を壊したりして危険です。
ではなぜ飲み残し薬が増えてしまうのでしょうか。
体調や処方内容の変化で飲み残しが増える
特に高齢者は、身体機能の変化に伴い薬の処方内容も変わりやすいため、飲み残しが増える傾向にあります。
また、高齢者以外の人でも体調が回復して使わなくなった薬や、処方されたけれど使う機会がなかった頓服薬などがいつの間にか「飲み残し」として増え、その量は軽視できないものになっています。
適切に対処すれば薬代を節約できることも
「薬の飲み残しについて」のある調査によると、50歳以上の患者さん全員が飲み残し薬を持っており、そのうち期限切れなどの「不要薬」を持つ人は約65%に上ったといいます。こうした飲み残した薬をきちんと対処することで、場合によっては薬代を節約することもできるのです。
また別の調査では、薬剤師が一緒に飲み残し薬を整理した結果、患者さん一人あたりの薬代が約4,000円も節約できたといいます。
では、具体的にどうすればいいのか、ここからは飲み残した薬の3つの対処法を確認していきましょう。
飲み残しを減らす方法①「節薬バッグ」で再利用
薬の飲み残しがあっても、それをどうしたらよいか本人も家族も分からない場合が多々あります。
そこで今、全国各地で普及し始めているのが、飲み残した薬を専用バッグに入れて薬局へ持参し、再利用する「節薬バッグ」です。ここで誤解されやすい「再利用」という表現ですが、一度患者さんの手に渡った薬を、他の患者さんに再利用することはありません。
持参した薬を薬剤師がよく確認し、あくまでも患者さん自身で再利用するという無駄をなくすための取り組みと捉えましょう。
バッグに形式はありません。無料で配布している薬局もありますが、お気に入りの袋を節薬バッグとして持参すればOKです。手渡すときに必ず「飲み残した薬が入った節薬バッグである」ということを伝えましょう。
【節薬バッグを使う4つのメリット】
- ①残った薬をいつ処方調整すべきかアドバイスが貰える
- ②残った薬を処方から差し引いて、薬代が節約できる
- ③使用期限や安全性を調べて貰える
- ④自分から医師に飲み残した説明をしなくても、薬剤師から報告・相談して貰える
かかりつけの医師に対して「飲み残してしまった」と自分で伝えることに申し訳ないと気兼ねする人も多いでしょう。
しかし、医師には言いづらくても薬剤師に気兼ねは要りません。2012年の制度改定で、薬剤師の業務に「飲み残し薬の確認」が追加されたからです。
適切に管理するためにも、かかりつけの薬局に節薬バッグを持参してみましょう。
飲み残しを減らす方法② 使用期限を確認して処分
処方薬の使用期限は製造から3年間が一般的です。ただし、この期限は一定の温度・湿度・明るさ等で未開封の状態で保管された場合の期限のことです。
工場出荷から医薬品卸や薬局での備蓄期間を経るため、患者さんの手に渡るまでさらに時間が経過しています。
そのため、自宅での保管期間は、次の表を目安にしましょう。
【処方された薬の使用期間の目安】
- 錠剤・カプセル剤→6ヵ月~1年
- 散剤・顆粒剤(薬局での分包品)→3ヶ月
- 散剤・顆粒剤(メーカー個装品)→6ヵ月~1年
- 点眼薬(開封済)→1ヶ月
- 点鼻薬(開封済)→1~2ヵ月
- 塗り薬(チューブ)→6ヵ月~1年
- 塗り薬(薬局での混合)→3ヶ月~6ヵ月
- 坐薬→3ヶ月~1年
- シロップ剤→処方日数分のみ
- 一部の鎮痛剤など返還を求められる薬(医療用麻薬など)→薬局や医療機関へ廃棄を依頼
- 注射針などの医療材料→薬局や医療機関へ廃棄を依頼
使用期間を過ぎても、薬のシートに記載されている「製品番号・LOT」を薬局に伝えると再利用できるかどうかが分かります。薬をもらった薬局で調べてもらうとスムーズです。
- ※薬は、時間の経過、光や温度、湿度などで有効成分が減ったり、変色したりすることがあります。
- ※薬の保管温度は、「日本薬局方」で3つ決められています。1.「室温」1~30℃、2.「常温」15~25℃、3.「冷所」1~15℃です。夏場は家屋でも30℃を超えることがあるので、3年間の有効期限であっても、廃棄しましょう。薬の自宅廃棄に抵抗のある人は、薬局に持っていくと、大抵の薬は廃棄してくれます。
飲み残しを減らす方法③そもそも多くもらわない
「この薬、もう飲まないのでお返しします。返金してください」
薬局の窓口にいると、稀にこうした患者さんを目にします。お気持ちは分かりますが、一度人の手に渡った薬は返金・返品ができません。だからこそ、本当に必要な分だけをもらうことが大切です。
また「同じ薬はまだ残っているけれど、先生がせっかく出してくれたから貰います」という方もいますが、災害時などに備えた常備薬の数は「1週間分程度(※)」という目安もあるので、過剰に常備しておく必要性はありません。
※参照元:東京都「自然災害に備えた自宅での備蓄について」
今、手元にある飲み残し薬はいつまで使えるのか。薬剤師に「シートに記載されている製品番号やLOT」を伝えると、使用期限を調べてもらうことが出来ます。
その際に、シートから1錠ずつ切り離してしまうと残薬数が把握しにくくなってしまいます。また、期限を調べて再利用できるのかどうか確認することも難しくなるので注意しましょう。
飲み残しを溜めない3つの保管方法
- ①飲み忘れの薬が、1シート(約10~14日分)を超えたら処方日数を減らしてもらう!
- ②透明な袋に薬袋・薬情・乾燥剤と一緒にして、シートは切らずに保管!
- ③風邪など単発的な受診時には残っている薬を持参する!
イラスト:安里 南美
この記事の制作者
著者:曽川 雅子(株式会社リテラブースト代表、薬剤師)
東北薬科大学(現・東北医科薬科大学)を卒業後、薬剤師として調剤薬局に勤務。2017年にセルフメディケーションサービスを展開する「株式会社リテラブースト」を設立。処方せん薬に偏ることなく、予防医療やヘルスリテラシーの在り方、そのサポーターと連携の意識を分かち合うため、薬局だけでなく、健康経営を掲げる民間企業へのセミナーも積極的に行っている。