【図解】自己判断の服薬拒否は危険!副作用と心身の悪影響
薬はできるかぎり飲みたくないと思う人もいるでしょう。しかし、数値が良くなったから、体調が良いからといって、自己判断で飲んだり飲まなかったりすると、思わぬ副作用や悪影響が出ることもあります。
ここでは、よくある「薬を飲まない理由」から起こりうる副作用、飲まなかったことで生じる悪影響、薬を減らしたいときの知恵などを紹介します。
ご自身だけでなく、ご家族や大切な人と一緒に、正しく薬と向き合うためにお役立てください。
薬を飲みたくない、減らしたい人がすべき最初の一歩
副作用が怖いなどの理由で薬を飲みたくないときもきっとありますよね。いつも測っている数値が良くなったから、量や回数を減らしたほうが身体にとって安全なのでは…と感じることもあるでしょう。
しかし、自己判断で飲んだり飲まなかったりすると体調が一向に回復せず、薬が減ることをかえって遠ざけてしまうことがあります。
医師は、正しく飲んでいることを前提に、その薬の効果や病気の状態を診断します。自己判断で飲むと、数値が良くなっても、それは薬がきちんと効いた結果なのか、身体の状態が変わったのかが正確に判定できません。
減らしたいときは、その理由を添えて、医師に「目標数値」や「どうなったら薬を減らせるか」「薬以外の治療方法があるのか」と聞いてみると良いでしょう。
まずは正しく処方通りに飲むことが、薬を減らすことの第一歩です。
薬を飲まない理由より、飲まずに悪化する病気を恐れるべき
薬を飲みたくないと思う理由は人によって様々な理由があります。例えば高血圧や糖尿病などの診断を受けていても、次のように感じていたら薬を飲むことに前向きになれないものです。
「副作用が怖い。依存性やクセになるのもイヤ」
「知人や家族から飲まない方がいいと言われた」
「本やTVで「薬は飲まなくても大丈夫」と紹介されていた」
「飲み始めたら一生飲まないといけないと聞いた」
「健康食品やサプリメントを飲んでいるので薬は必要ない」
また、薬に関する情報はネットで簡単に手に入る時代ですが、「薬は飲まなくても大丈夫」という偏った一部の情報だけを信じて、実際に体調が悪化したケースもあります。
そして、漢方薬や市販薬も含めて、ほとんどの薬に副作用はあります。しかし、一部の薬や治療をのぞき、副作用が起こる確率は決して高くはありません。むしろ、飲まないことで悪化する病気のほうが心配です。
たとえば、糖尿病で怖いのが、自覚する不調がないために薬を自己調節して重症化を招き、失明や人工透析が必要になるなど、日常生活が元通りにならなくなってしまう人もいます。
薬を飲みたくない理由は、思いきって医師や薬剤師などに打ち明けてみましょう。大切なのは、本当に自身の体に必要な選択は何なのかを知ることです。
万が一、言い出せなくて体調を崩してしまったときには、どのくらいの期間飲まなかったか、実際はどの様に飲んでいたのかを伝えると、そのあとの治療をスムーズに検討できるようになります。
正しく飲まずに起こる副作用の具体例
薬を正しく飲まないことで起こる副作用をご存じですか?その理由と対策は、薬の特徴や治療の段階によっても様々です。
病気や数値をコントロールする薬を飲まないと…
例えば血圧を下げる薬の場合、飲む時間帯を変えたりすると血液中の濃度が安定せずに、血圧の値がバラついたり、めまいやふらつきを起こすこともあります。そのほか、喘息の薬を使用しないと発作が出やすくなったりします。
このような場合、病状が安定しないと医師は判断しさらに他の薬も追加するなど、治療がより複雑化してしまいます。薬を飲む時間は生活のなかでリズム化していくことが大切です。
副作用を予防する薬を飲まないと…
ある薬の副作用を予防するために、一緒に処方される薬があります。その薬を飲まないことで、想定どおりの副作用が出て、治療を続けられなくなってしまうことがあります。
たとえば、一部の鎮痛剤とともに処方される吐き気止めや便秘薬。リウマチ治療薬とともに処方される葉酸製剤など、その薬の作用する仕組みや副作用について知識がないと想像がつきません。
この場合、病気そのものの効能とはちがう効能をもつ薬について、あらかじめ医師や薬剤師にその処方意図を聞き、理解したうえで一緒に飲むことが大切です。
少しずつ増量することで副作用を抑える薬を飲まないと…
鎮痛剤や認知症の薬、禁煙治療薬など様々な種類の薬で、少しずつ増量することが決められているものもあります。理由は、身体への負担や副作用の発症リスクを小さくするというものが多いです。
たとえば、鎮痛剤の中には、最初から維持量(鎮痛効果を安定させるために続ける用量)で飲み始めてしまうと、突然、眠気やふらつきが出て、転倒などのリスクにつながりやすいものもあります。
この場合、友達や家族が同じ薬を飲んでいるからといって、自分も合わせてその量で飲まないように気をつけましょう。
副作用だけじゃない!心身に起こる悪影響
正しく飲まないことが引き起こすのは副作用だけでなく、次のような悪影響を引き起こすこともあります。
薬を飲まないことで起こる悪影響
- 薬が効いているのかどうかの判断が難しくなる
- 病状が悪化していても発見しにくく治療が遅れる
- 保険をつかって治療できる期間が過ぎてしまう
- 乳幼児など月齢や体重ですぐに用量が変わり飲めなくなる
- 薬を開封後、一定期間がすぎ安全に使えなくなる
- 副作用が出たとしても国の救済制度で対象にならない
- 医師との信頼関係に溝がうまれ受診したくなくなる
こうした悪影響から、飲んでいないことを言いたくないために何カ所も医療機関を渡り歩く「ハシゴ受診」は、病状の変化を追えず理想的な治療ができません。
医師に「怒られるかも」「呆れられるかも」と思う気持ちは分かりますが、飲まなかった理由とその想いについて伝える勇気を持ちましょう。
万が一、不安な想いを受けとめてくれない医師だとしたら、セカンドオピニオンを考えるきっかけになります。どのように伝えるかも大切なので、話の切り出しかたについては薬剤師に相談するのがよいでしょう。
イラスト:安里 南美
この記事の制作者
著者:曽川 雅子(株式会社リテラブースト代表、薬剤師)
東北薬科大学(現・東北医科薬科大学)を卒業後、薬剤師として調剤薬局に勤務。2017年にセルフメディケーションサービスを展開する「株式会社リテラブースト」を設立。処方せん薬に偏ることなく、予防医療やヘルスリテラシーの在り方、そのサポーターと連携の意識を分かち合うため、薬局だけでなく、健康経営を掲げる民間企業へのセミナーも積極的に行っている。