【図解】漢方薬のメリットがわかる!正しい飲み方と未病への効果
漢方薬は、薬としての効能をもつ植物や動物、鉱物などを組み合わせて作られた処方薬のひとつです。そもそも「漢方」とは、日本独自に発展してきたものであることをご存じですか?
ここでは、漢方医学と西洋医学の考え方の違いから、漢方薬における飲み方の注意点、メリット&デメリットについて専門家が解説します。
漢方とは日本独自のものだった!漢方医学と西洋医学のちがい
「漢方」とは、奈良時代の日本へ古代中国より医学が伝わり、そこに日本人の体質や、気候・風土にあわせ、発展と実践をつみ重ねた日本独自の医学体系のこと。
そして「漢方薬」とは、生薬とよばれる植物や動物、鉱物などを2種類以上組み合わせて作られたものをさします。中でも植物の根や樹皮、葉、種子、果実などは多く使われている部分です。
たとえば、インフルエンザ初期や喘息、鼻づまり等に処方される「麻黄湯(まおうとう)」は、漢方薬の名前を見ると、麻黄という一つの生薬から出来ているように見えますが、実際は4つの生薬成分から作られています。
では、漢方医学と西洋医学の違いは何でしょうか?
漢方医学は、一番つらい症状だけでなく、体質の偏りや体力の程度、生活スタイルを含めた、その人の様々な要素から薬を選びます。
対して、西洋医学は、病気を起こしている臓器や検査結果で分かった原因を的にして、薬を選びます。
同じ症状でも処方される漢方薬は異なる
かつて「漢方薬が病状に作用する仕組みは不明」とされていましたが、近年の研究で少しずつ、その科学的根拠や裏付けが分かってきました。
これは、各病気を診断するための「診療ガイドライン」に掲載される漢方薬が、2007年時点での56種から10年間で90種まで追加されているという事実からも分かります。なんと、がん診療の現場では、実に9割の医師が漢方薬を処方し、抗がん剤の副作用を軽くするなどの効果がでているそうです。
また、同じ症状でも患者さんによってちがう漢方薬が選ばれたり、異なる症状でも同じ漢方薬が選ばれたりすることがあります。
診察で行われる代表的な選び方と、研究で少しずつ解明されてきた選び方には、その人に最適な処方を見つけるという点で共通しています。
四診(ししん)は漢方薬の代表的な選び方
漢方では、以下の4つの部分を診る方法(四診)から処方を決めていく方法があります。
望診(ぼうしん) | 顔色や表情、態度、姿勢、体型などを確認します。舌の色や形、歯のあとがついているかなどを診る「舌診(ぜっしん)」をすることもあります。 |
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聞診(ぶんしん) | 声の大きさや話し方、咳や痰(たん)の状態、呼吸音などを聞いたり、体臭や口臭を嗅いだりすることもあります。 |
問診(もんしん) | 自覚症状や、これまでにかかった病気、食べ物の好み、ライフスタイル、仕事、月経の様子など、一見、病気と関係なさそうな部分も確認します。 |
切診(せっしん) | 脈を診る「脈診」と腹部を診る「腹診」など、実際に身体に触れて確認します。 |
※他にも、「証(しょう)」や「気・血・水(き・けつ・すい)」など漢方独自の診断に使われる方法もあります。
科学的根拠にもとづく漢方薬の選び方
人の腸管には約1000種類、100兆個にも及ぶ腸内細菌が生息しており、これを腸内細菌叢(さいきんそう)と呼びます。
ある研究では、腸内細菌叢が肥満や薬の効き方、副作用の起こる頻度を左右する可能性が明らかになりました。そして漢方薬もこの影響をうけています。
腸内細菌叢は、食事や年齢、個人差だけでなく、ストレスなどその人自身の置かれた環境により大きく変わります。つまり、そのときの心身の状態によっても選び方が変わってくるものが漢方薬なのです。
漢方薬のメリット・デメリット
漢方医学は、西洋医学では対応しにくい冷え性など体質による症状や、更年期障害など検査値に現れない不調、病名がつかない「未病」の段階にも効果が期待できます。
未病とは、肩こり、ニキビ、便秘、不眠、冷えなど身体が何らかのサインを出している状態のこと。つまり、漢方薬のメリットは、より早期の段階で治療が始められるというところにあると言えます。
対して、デメリットは、効き目に個人差があり、西洋医学なら見える血圧など数値の改善や殺菌効果など、目に見えて評価することが難しい点にあります。
また、漢方薬の薬効は、各生薬がもつ薬効の足し算ではなく、構成生薬の組合せによって得られます。そのため、組合せによっては薬効が強くなったり、逆に弱くなったりする場合もあるのです。
医療現場では、「漢方薬と西洋薬を併用すると治療に有効だった」という例も数多く報告されています。決して、どちらが良いということではなく、治療の幅を広げる選択肢として捉えると良いでしょう。
漢方薬のよくある疑問|正しい飲み方とタイミング
漢方薬は、「飲むタイミングが難しい」と感じる人も多いかもしれません。ここでは漢方薬のよくある疑問について回答していきます。
なぜ食間や食前に飲むの?
漢方薬は「食間」や「食前」と処方されることがよくあります。
有効成分の多くは、糖とくっついた状態(配糖体という)で含まれています。これを飲むと、消化管内で腸内細菌が生んだ酵素により、有効成分と糖が外れて吸収され、薬効を発揮すると言われています。腸内細菌の多くが炭水化物である糖を好むため、食後よりも空腹時の方が吸収は良いだろうというわけです。
飲み忘れたらどうなる?
空腹時に飲み忘れたとしても、あえて食後を飛ばし、次の時間まで待つ必要はありません。食後でも気付いたときに飲み、1日の中で指示された回数を守ることを優先しましょう。
煎じて飲まなければいけない?
医療現場でよく処方される漢方薬は、生薬そのままの「煎じ薬」を加工して作られているため、煮出して飲む必要もなくそのまま飲めます。
水より白湯(さゆ)で飲む方がいい?
漢方薬を飲むときに、水と白湯(さゆ)のどちらが良いのかは、その処方意図によっても変わってくることがあります。
たとえば、冷えなど体質改善のために飲むのなら、水よりも白湯の方が理にかなっています。しかし、前述のとおり、医療機関で処方される多くの漢方薬は加工済のため、基本的には水と白湯どちらで飲んでも構いません。
漢方薬はどんな味がするの?
口に含んだときに味をどのように感じるかどうかもポイントです。あくまでも考え方の一つですが、漢方医学の原点である薬物学の古典によると、薬には5つの味「五味」があるといいます。
「酸っぱい・塩辛い・甘い・苦い・辛い」この一つずつを薬の作用にあてはめており、例えば辛い味のする漢方薬は、発汗作用や発散作用があるとされています。これは脱水症状を起こしているときに、しょっぱいものが美味しく感じる、というものに似た考え方ですね。
もしもまずくて吐き出すくらいの味だったなら、体質やそのときの症状に合っていない可能性があります。そうした際は、オブラートに包んで無理に飲もうとはせず、医師または薬剤師に相談しましょう。
飲み合わせに注意!漢方薬にも相互作用がある
「漢方薬は自然の生薬だから、副作用や相互作用はないのでは?」と思われがちですが、そんなことはありません。人によっては、食欲不振、下痢などの消化器症状や湿疹などの副作用が起こったり、血圧や肝機能などに影響が出たりすることもあります。
高血圧や糖尿病など、持病のある人はあらかじめ医師や薬剤師に相談しましょう。
また、医薬品やサプリメントとの相互作用が心配な漢方薬も一部あるので、あわせて確認しておくと良いでしょう。
イラスト:安里 南美
この記事の制作者
著者:曽川 雅子(株式会社リテラブースト代表、薬剤師)
東北薬科大学(現・東北医科薬科大学)を卒業後、薬剤師として調剤薬局に勤務。2017年にセルフメディケーションサービスを展開する「株式会社リテラブースト」を設立。処方せん薬に偏ることなく、予防医療やヘルスリテラシーの在り方、そのサポーターと連携の意識を分かち合うため、薬局だけでなく、健康経営を掲げる民間企業へのセミナーも積極的に行っている。