【図解】高齢者の服薬|知っておきたい薬のトラブルと予防法
持病が悪化する高齢期はお薬が増えるため、服薬に関するトラブルが起こりがちです。この原因の一つとして、身体機能の低下があります。
たとえば、お薬の一部は腎臓でろ過されて尿と一緒に排泄されます。70歳の腎臓の機能は30歳のときの半分程度にまで低下するといわれており、加齢とともに有害事象も発生しやすくなるのです。
ここでは、お薬の飲み合わせ、複数のお薬を使う多剤併用のときに起こりやすい悪影響の防ぎ方や、副作用が起こりにくい身体づくりを紹介します。
降圧剤や睡眠薬…よく飲む薬で起こるトラブル例
降圧薬や睡眠薬では、めまいやふらつきなどの副作用を想像しやすいと思います。
一方で、便秘薬や鎮痛剤、漢方薬、抗アレルギー薬などのドラッグストアでも買える市販薬は、副作用や飲み合わせが軽視されがちなため注意が必要です。
以下に3つの例をあげてみます。
副作用と気付かず市販薬で治そうとしてしまう
降圧剤を飲むと、副作用として頭痛が現れることがあります。それを知らずに頭痛を治そうとして市販の頭痛薬を飲んでしまうと、副作用として頭痛が出ていることを見過ごしてしまうことになります。
そのため、薬局でお薬を受け取る際は薬剤師に「この薬のよくある副作用は何ですか?」「飲み合わせの悪いお薬や食品はありますか?」と確認してみるとよいでしょう。
睡眠薬が転倒・骨折の原因に
60歳以上の約3人に1人が睡眠で悩んでいるといわれています。そこでよくあるのが、「きっと今夜も眠れない、念のため睡眠薬を飲んでおこう」というケースです。
お薬を飲むときは頭も足腰もしっかりしているのに、夜中にトイレなどで立ち上がった際にはお薬が効いているため、筋肉が緩んでふらついたり、意識がボ―っとして転倒し骨折するトラブルも発生しています。
最近では自然に近い眠りを得られる複数の睡眠薬が誕生しています。効果は強力ではありませんが、副作用が比較的少なく安心して飲めますので、薬剤師に相談してみるといいでしょう。
胃薬の安易な服用は相互作用を招く
高齢者は、加齢に伴う腰痛や関節痛といった足腰の悩みも重なって鎮痛剤を飲む機会も増えてきます。
鎮痛剤と一緒に胃薬を飲む方もいらっしゃいますが、「鎮痛剤を飲むから、胃薬も飲んでおこう」と安易に判断するのは危険です。
確かに、一部の鎮痛剤は胃の粘膜を保護する作用を抑えてしまうため、胃薬も一緒に処方されることが多いのですが、全ての鎮痛剤がその副作用をもっているわけではありません。
逆に処方薬や市販薬に関わらず、胃薬の中には他のお薬と相互作用を起こしやすいものもあるので、注意が必要です。
いずれにしても、治療に必要なお薬に限って飲むことを心がけましょう。
「多剤併用=危険」ではない?ポリファーマシーの正しい理解
多剤併用の中で、その組み合わせが有害に繋がるものを「ポリファーマシー」と呼びます。
何種類以上の薬を飲むことが多剤である、という数は決まっていないものの、「6種類以上だと有害事象が増えた」というデータもあります。ただし、少ないからといって有害事象が起こらないとは限りません。
日本では、75歳以上の4人に1人が7種類以上の薬を飲んでいます。年齢に関わらず、本当に必要な薬なのかを見抜く「服薬リテラシー」が問われています。相互作用の起こしにくい組み合わせで処方してもらえるよう医師や薬剤師に相談したり、お薬手帳などを活用してご自身の服薬リテラシーを高めましょう。
次に、多剤併用による、相互作用の起こりやすいケースや、気付き方のポイントをお伝えしていきます。
相互作用の起こり方とその対策
2種類以上のお薬を使ったときに、互いに影響しあって、お薬の効き目が変化することを相互作用といいます。
薬の効果が強くなる方向へ効き目が変化すれば、副作用に繋がるリスクが高まります。
反対に、効果が弱くなる方向へ変化すると「せっかく飲んだのに全く効かない!」という不安をも仰ぎかねません。
この相互作用はお薬だけではなく、サプリメントや食べ物、喫煙でも起こることを覚えておきましょう。
相互作用の危険性も!注意したい飲み合わせ
- ワルファリン(血栓を防ぐ薬)⇔納豆
- カルシウム拮抗剤(降圧剤)⇔グレープフルーツ
- 一部の抗生物質⇔牛乳、乳製品、カルシウムなどの陽イオン
- テオフィリン(気管支を拡げる薬)⇔喫煙、カフェイン含有飲料
- チザニジン(筋肉の緊張をほぐす薬)⇔喫煙
- カロナール、一部の制酸剤、(解熱鎮痛剤)⇔飲酒
- 一部の抗結核薬⇔赤身魚(マグロ等)
- 一部のパーキンソン病治療薬や抗結核薬⇔チーズ、ワイン
これらの組み合わせは、「時間をずらせば大丈夫」という訳ではありません。お薬によっては、数日にわたって効果が持続するものもあり、その間に相互作用のあるものを摂ると、影響を与える可能性があります。
また、お薬の名前が違っても同じ働きをする成分が含まれるていることもあるので、同じ期間や近い期間に飲むお薬はちょっと面倒でも、毎回薬剤師に確認してもらうと安心です。
ご自分で判断せず、病気や治療のことは医師へ。嗜好品や普段の食事内容を含めた相互作用については薬剤師に聞いてみることを習慣づけましょう。
副作用を見抜く2つのパターン
副作用には大きく分けて次の2つのパターンがあります。
期待した効き目「以外」の作用がでる
鎮痛薬での「胃痛」や、ステロイド系の薬による「むくみ」、ホルモン系の薬で生じる「吐き気」も、副作用の一つです。
期待した効き目より「強すぎる」作用がでる
たとえば、片頭痛や高血圧症、不眠症などでお薬を飲んでいる人が水虫の治療薬を飲むと、種類によっては血液中のお薬の濃度が著しく上がります。それにより、血圧が過度に下がったり、頭痛が悪化してしまうこともあるのです。
その原因は年齢・性別・体質・体調などが考えられます。加えて、他に飲んでいるお薬や健康食品との相互作用でも起こることがあります。
こうした副作用を早期に見抜くために、次のような習慣を付けることがおすすめです。
副作用を見抜くための習慣
- 毎日使わない薬は、使用した日付をカレンダー等にメモしておく
- お薬を飲んだあとに出た不調は、時間も一緒に記録しておく
- 医師や薬剤師に確認していない薬や健康食品は、自己判断で一緒に使わない
- 現れた症状が副作用か判断しづらくなるため、初めての薬を使うときは飲酒を控える
- 一つの疾患で、何カ所も医療機関をハシゴ通い(重複受診)しない
- 飲み残した古いお薬を、自己判断で飲まない
これらを注意しても、実際には「これって副作用なの?」と思う症状が出ることがありますよね。また、「受診するほどではないけれど…」と迷うこともあるでしょう。
そんな時はまず、薬剤師に相談してみましょう。お薬を貰った薬局がベストですが、それ以外の薬局でも大丈夫。
薬剤師はあなたの主な不調のほかに複数の質問を投げかけて、それが副作用なのか、薬のデータをもとに考えます。
そのときに必要となるのが、お薬を飲んだ時間や回数に加えて、相互作用など副作用の可能性を早期に見抜くための「習慣」なのです。
副作用が起こりにくい身体づくりを
ほとんどの薬は肝臓と腎臓のどちらか、または両方で身体の外へ排出されます。
しかし、加齢により、肝臓・腎臓の機能が低下すると、お薬は体内に留まる時間が長くなり、副作用が起こり易くなるのです。
腎臓機能は40歳前後からゆるやかに低下し始め、70歳になると30歳の半分程度にまで低下するといわれています。
また、高齢者に副作用が起こりやすい理由の一つとして体内の水分量が減少することも挙げられます。
水分量が減ると、体に占める脂肪の割合が増えます。お薬は脂肪に溶け込むものも多いため、体内から排出されにくい状態になってしまうからです。
肝臓と腎臓の機能低下には個人差があります。対して、体内の脂肪量は高齢になる前から気を付けることができますね。
しっかりとタンパク質を摂って身体を動かし適度な筋肉量を保ちながら、脂肪を溜めこまない身体づくりをしていきましょう。
イラスト:安里 南美
この記事の制作者
著者:曽川 雅子(株式会社リテラブースト代表、薬剤師)
東北薬科大学(現・東北医科薬科大学)を卒業後、薬剤師として調剤薬局に勤務。2017年にセルフメディケーションサービスを展開する「株式会社リテラブースト」を設立。処方せん薬に偏ることなく、予防医療やヘルスリテラシーの在り方、そのサポーターと連携の意識を分かち合うため、薬局だけでなく、健康経営を掲げる民間企業へのセミナーも積極的に行っている。