【知っておきたい】バルーンと導尿の違いとメリット・デメリットを比較
高齢者に多く見られる排尿障害。自宅で過ごす人の約10人にひとり、さらに施設入所者の約半分にみられます。その理由は、歳を重ねるごとに尿を溜める力や出す力が衰えてしまうからです。おむつ以外の対処方法には、バルーンカテーテル(尿道留置カテーテル)や自己導尿などがあります。
ここでは、これらふたつの違いやメリット・デメリット、介護施設での受け入れについて解説します。
排尿トラブルの原因は「溜められない」と「出せない」こと
排尿トラブルの原因は大きく2つに分けられます。ひとつは尿を溜められない「蓄尿障害」。もうひとつは尿をうまく出せない「尿排出障害」です。それぞれについて解説します。
蓄尿障害
本来であれば尿は膀胱に溜められ、私たちはどの程度尿が溜まっているかを感じることで、漏れてしまう前にトイレに行くことができます。しかし、加齢とともに膀胱に栓をしている筋肉が衰えたり、膀胱が小さくなったりします。
さらに、糖尿病などの病気の影響で排尿を司る神経がうまく働かなくなり、うまく尿を溜められなくなることも。そして、トイレの回数が増える、自分の意思と関係なく尿が漏れる、突然トイレに行きたくなるなどの症状がみられます。
尿排出障害
膀胱に十分な量の尿が溜まると私たちは尿意を感じ、排泄します。しかし、前立腺肥大症や子宮脱などの病気で他の臓器が邪魔をして尿の通り道が狭くなったり、糖尿病や脳血管疾患の影響で神経がうまく働かなかったり、飲んでいる薬の影響によっても尿を出しづらくなることがあります。
このために尿の出る勢いが弱まる、排尿が途切れる、排尿に時間がかかる、尿を出し切れないなどの症状が現れることがあります。
排尿障害の対処法、バルーンカテーテルと自己導尿
蓄尿障害によって尿漏れがある場合、おむつを使用することで生活の幅が広がります。
一方、尿排出障害の場合は、出せていない尿が腎臓へ逆流し、尿路感染症や腎盂腎炎(じんうじんえん)などの細菌感染を引き起こすことも。そのため、バルーンカテーテルや自己導尿など、排尿をスムーズに行うためのケアを実施します。
バルーンカテーテル
膀胱留置カテーテルともいいます。カテーテルと呼ばれる管を、尿道から膀胱まで通して、入れっぱなしに。尿はそのカテーテルの中を通って、蓄尿袋に溜まります。
蓄尿袋には小型でズボンの下に隠して足に巻きつけられるタイプもあり、それを装着することでカテーテルを挿入したまま外見上はわからないように外出することも可能。またバルーンカテーテルを挿入したまま入浴することもできます。
バルーンカテーテルはその素材種類によって2〜4週間ごとに入れ替えが必要です。
自己導尿
1日に5〜6回、自分で尿道から膀胱まで毎回カテーテルを挿入し、トイレで排尿します。毎回カテーテルを挿入する手間はかかりますが、排尿時以外は普段と変わらないので、生活上の制限はほとんどありません。
自己導尿を自宅で行うときには、看護師からどのように行うのか事前にレクチャーを受けます。しっかりと身につけておきましょう。
それぞれのメリット・デメリットと起こりやすいトラブル
バルーンカテーテルと自己導尿のどちらを行うかは、患者さんの状態、患者さん本人の自己管理能力や家族の介護力などを考慮して、医師が総合的に判断します。
しかしバルーンカテーテルは自己導尿に比べて常に膀胱まで管が入った状態のため感染や皮膚トラブルを起こしやすく、尿を溜めなくなることで膀胱が硬くなるなどのデメリットがあります。このため一般的には、可能であれば自己導尿を選択したほうが良いと考えられています。
バルーンカテーテルと自己導尿にはこれ以外にも、それぞれメリット・デメリットや、起こりやすいトラブルがあります。それらについて、みていきましょう。
バルーンカテーテル
メリット
- カテーテルを入れっぱなしにするので、失禁によるおむつ交換や複数回の導尿などの介護者の負担が少ない
- 尿失禁による皮膚へのダメージがほぼなくなるため、失禁に関連した皮膚トラブルや褥瘡などへの影響がなくなる
- 1日の排尿量をしっかりと確認する必要のある場合には確実に計測ができる
デメリット
- 他のケア方法に比べてトラブルが起こりやすい
- カテーテルがずっと挿入されているため生活や外観上の制限が生じる
起こりやすいトラブル
- 痛み
- 感染症(カテーテルを伝って、細菌などが膀胱に侵入しやすい)
- 尿道裂傷、尿道皮膚瘻、尿道下裂(カテーテルが皮膚と触れ続けるため、皮膚トラブルや潰瘍などが起こりやすい)
- 膀胱結石(カテーテルに尿の成分が付着しやすく、固まりやすい)
- 萎縮膀胱(尿を溜めないため、膀胱が硬くなりやすい)
- 尿もれ(バルーンカテーテルのサイズが合わない場合に起こりやすい)
- カテーテルの自己抜去(誤ってカテーテルを抜いてしまうこと)
- カテーテルの詰まり(尿が濁ることでうまく流れなくなってしまうこと)
自己導尿
メリット
- 膀胱に尿を溜めるため、膀胱機能を維持・改善できる
- バルーンカテーテルに比べて感染リスクが低い
- 生活に制限がほとんどない
デメリット
- 自分でできるようになるまでに個人差がある(特に女性は自分から見えにくいため難しい)
- 1日に複数回行う必要がある
- 外出する際に必要物品を携帯する手間がかかる
- 毎回カテーテルを交換するため、コストがかかる
起こりやすいトラブル
- 感染症(カテーテル挿入時に、細菌なども一緒に膀胱に入りやすい)
-
尿道裂傷(カテーテル挿入時に尿道を傷つけて、皮膚トラブルが起こりやすい)
介護施設での受け入れ
バルーンカテーテルの場合、カテーテルが抜けてしまったときに医師または看護師しか挿入することができません。そのため、看護師が日中だけでなく24時間常駐している施設の方が安心感は高いでしょう。自己導尿であっても、患者さんご本人が行えない場合は同様です。
一方、必要物品の準備や、自己導尿のために姿勢を整えることは介護福祉士でも行えます。そのため、患者さんご本人が自己導尿を行えるのであれば、受け入れられる施設の幅が広がります。ただし、ご本人が自己導尿できなくなった場合はどのように対応してもらえるか、よく確認しておく必要があります。
排尿ケアが必要になった場合にはかかりつけ医と相談し、今後の介護施設の利用についても考慮しながらケア方法を決定できると良いでしょう。
バルーンカテーテルとは?老人ホーム探しのポイントは?
イラスト:坂田 優子
この記事の制作者
著者:矢込 香織(看護師/ライター)
大学卒業後、看護師として大学病院やクリニックに勤務。その後、メディカル系情報配信会社にて執筆・編集に携わる。現在は産婦人科クリニックで看護師として勤務をするかたわら、一般生活者のヘルスリテラシー向上のための情報発信を行っている。
監修者:岩本 大希(WyL株式会社/ウィルグループ(株)代表取締役)
大学卒業後、北里大学病院救命救急センター従事。その後、ケアプロ(株)で訪問看護事業の立ち上げ・運営を行う。
2016年ウイル訪問看護ステーション江戸川を開設。東京・沖縄・岩手・福岡・埼玉で展開。
2019年在宅看護専門看護師を取得。(社)オマハシステムジャパン理事、(社)東京都訪問看護ステーション協会研修委員長