【専門家が解説】高齢期になるとなぜ転ぶ?転倒予防に効果的な体操

高齢になるにつれて、足の筋力が低下して、転倒してしまう可能性が高くなります。

なぜ転倒してしまうのかを知り、介護予防体操をしっかり行い転倒を予防しましょう。

高齢者の多くが転倒で救急搬送されている

東京消防庁の調査によると、日常生活事故で救急搬送された高齢者の数は、2015年からの5年間で約1万6千人も増え、2019年には約8万4千人となっています。

この人数のうちで82.1%が転倒を原因としたものとなっており、非常に多くの高齢者が転倒していることが分かります。

高齢者は転倒すると寝たきりになる?

東京消防庁の調査によると、転倒の50%以上が屋内で発生しており、転倒発生場所で最も多い箇所は「居室・寝室」となっています。

若い人であれば、転倒しても打撲など時間の経過とともに回復していく場合が多くみられていますが、高齢者の場合は転倒後の生活に大きな影響を与えてしまいます。

高齢者の転倒による骨折は10%とも言われています。骨折するとベッド上で寝ている時間が長期化し、寝たきりになってしまう危険性があります。

「令和4年・高齢社会白書」によると、要介護と認定される原因の約10%は「骨折・転倒」となっており、非常に大きな問題になっているのです。

寝たきり状態が続くと、歩かないことで筋力が低下し、歩けない状態になり心肺機能の低下などにも影響します。また、精神面にも悪影響を与え認知症になる可能性もあります。

転倒を予防するためには

転倒を予防するには普段の身体作りが重要です。日常的に下半身の筋肉を中心とした筋肉トレーニングや介護予防体操を行うことによって、転倒予防に効果があります。

年齢を重ねると歩行しづらくなる?

厚生労働省の「次期国民健康づくり運動」に関する委員提出資料によると、65歳以降では歩行速度が少しずつ遅くなり、男性80歳以降、女性75歳以降になると日常生活に支障をきたすようになってしまいます。

歩行速度は年齢による筋力・バランス能力の低下との関連があるといわれており、その他にも骨折や脳卒中などとの関連もみられます。

転倒予防には、下半身の筋力が重要になります。歩行速度の低下による転倒防止や転倒予防には、立つ・座る・歩くなどの基本的な移動機能に必要な下半身や体幹の筋力トレーニングが重要になります。

転倒予防に有効な筋肉

下半身には多くの筋肉がありますが、その中でも重要な筋肉は下記の六ケ所です。

  • 下腿三頭筋(かたいさんとうきん:ふくらはぎの筋肉)
  • 大腿四頭筋(だいたいしとうきん:太ももの前の筋肉)
  • 大殿筋(だいでんきん:お尻の筋肉)
  • 中殿筋(ちゅうでんきん:お尻の横の筋肉)
  • 前脛骨筋(ぜんけいこつきん:脛の筋肉)
  • ハムストリングス(太ももの後ろの筋肉)

こうした筋肉を中心に鍛えることが、転倒予防に有効といわれています。

また、下半身だけでなく上半身の筋肉も鍛えることで、しっかり腕を振ることができるようになります。

特に腕の筋肉である、上腕二頭筋(じょうわんにとうきん:力こぶを作る筋肉)、上腕三頭筋(じょうわんさんとうきん:二の腕の筋肉)や三角筋(さんかくきん:肩まわりの筋肉)を中心に鍛えることも重要です。

より安定した歩行を行うためにも、これらの筋肉を意識してトレーニングしていきましょう。

転倒予防のための介護予防体操

実際に自宅でできる介護予防体操を見ていきましょう。

手の運動①
1.椅子にしっかり座って両腕を90°まで上げます
2.両手をパーに広げて背中を丸めていきます
3.背中を丸めたら両手をグーにして胸を張るようにひじを引いていきます
手の運動②
1. 両肘を曲げて両手をグーにします
2. 両肘を前に伸ばしながら両手をパーにします
3. 再度両肘を曲げて両手をグーにします
4. 両肘を横に伸ばしながら両手をパーにします
手の運動③
1. 両手を組み、腕を伸ばしたまま腕を頭の上に上げます
2. 両腕を伸ばしたまま腕を下に下げます
手の運動④
1.両手を胸の前でグーにします
2.片手をパーにして腕を斜め上に伸ばしていきます
3.腕を戻して反対側の腕も同じように行います
手の運動⑤
1. 両手を胸の前でグーにします
2. 両腕を斜め上に開いて手をパーにします
3. 両腕を開いたら元に戻します
足の運動①
1. 椅子にしっかり座って両足を前に伸ばし、つま先をあげます
2. 両足を曲げて後ろに引き、踵をあげます。
足の運動②
1. 椅子にしっかり座り軽く両足を前に出します
2. 両足を軽く前に出したまま、つま先を上にあげます
3. つま先を上に上げたら次につま先を下に下ろします
足の運動③
1. 椅子にしっかり座り踵を上に上げます
2. 踵を上に上げたら次に踵を下に下げます
足の運動④
1. 椅子にしっかり座ったまま、片方の膝を伸ばします
2. 膝を伸ばしたまま3秒空中で止めます
3. 膝を下ろして反対側の膝を伸ばして同じように行います
足の運動⑤
1. 椅子に座ったまま左右の足を閉じます
2. 足を閉じたら次に大きく左右に足を広げます
手と足の運動①
1.椅子にしっかり座って両腕を90°まで上げます
2.両手をパーに広げて背中を丸めていくとともに両足を前に伸ばし、つま先をあげます
3.背中を丸めたら両手をグーにして胸を張るようにひじを引いていくとともに両足を曲げて後ろに引き、踵をあげます。
手と足の運動②
1. 椅子にしっかり座って軽く両足を前に出します。それと共に両肘を曲げて両手をグーにします
2. 両肘を前に伸ばしながら両手をパーにして、つま先を上にあげます
3.再度両肘を曲げて両手をグーにして、つま先を下に下げます
4.両肘を横に伸ばしながら両手をパーにして、つま先を上にあげます
5.再度両肘を曲げて両手をグーにして、つま先を下に下げます
手と足の運動③
1.両手を組み、腕を伸ばしたまま腕を頭の上に上げます
2.両腕を伸ばしたまま腕を下に下げると共に踵を上に上げます
3.再度腕を伸ばしたまま腕を頭の上に上げるとともに踵を下に下げます
手と足の運動④
1.両手を胸の前でグーにします
2.片手をパーにして腕を斜め上に伸ばしていくと共に、反対側の膝を伸ばしたまま空中で止めます
3.腕と膝を元に戻して反対側で同じ運動を行います
手と足の運動⑤
1. 両腕を伸ばしたまま斜め上に伸ばします。その際、両足は閉じるようにします
2. 両腕を曲げて、胸の前でグーを作ると共に、両足を左右へ大きく広げます

まとめ

高齢者の転倒予防のための体操について解説しました。高齢者は毎年約6万7千人近くの人が転倒しています。転倒により、寝たきりの状態になってしまう場合があります。

そのような状況にならないためにも、ここで解説した介護予防体操やリハビリを行い、いつまでも安定した歩行ができるよう心掛けましょう。

イラスト:安里 南美

この記事の制作者

野田 政誉士

著者:野田 政誉士(理学療法士)

(理学療法士、介護支援専門員、福祉住環境コーディネーター2級)
およそ10年間、理学療法士として病院に勤務。現在は臨床と管理業務の両方を行っており、医学的知識だけではなく、マネジメント業務にも力を入れている。

森 裕司

監修者:森 裕司(介護支援専門員、社会福祉士、精神保健福祉士、障がい支援専門員)

株式会社HOPE 代表取締役 
医療ソーシャルワーカーとして10年以上経験した後、介護支援専門員(ケアマネジャー)に転身。介護の相談援助をする傍ら、医療機関でのソーシャルワーカーの教育、医療・介護関連の執筆・監修者としても活動。近年は新規事業やコンテンツ開発のミーティングパートナーとして、企業の医療・介護系アドバイザーとしても活動中。

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