介護が必要な生活にならないために

世界有数の長寿国である日本。厚労省の令和2年簡易生命表によると、その平均寿命は男性81.64年、女性87.74年と過去最高を更新しています。長生きとなった一方で、認知症や寝たきりなど、介護が必要な生活「要介護」状態となる人々も増えています。

要介護状態とならず、生き生きとした生活を送るためには、介護予防が重要です。日頃の生活の中で簡単に行える予防法をご紹介しますので、「老化だから仕方がない」と諦めるのではなく、元気な今のうちから取り組んで健康長寿を実現しましょう。

<要介護とならないためのポイント>
・「快眠、快食、快便」といった日々の生活習慣を整える
・歩くことや軽い筋トレなど、簡単にできる運動で筋力を維持する
・サークルやボランティアなど、社会参加をすることで人と関わる
・介護の前段階であるフレイルを知ることで、要介護となることを予防する

※定期的な健康診断、持病がある方は定期的な治療が必要です。自分では症状に気づくことができない病気が多い為です。また、昨今の医療状況をみると信頼できる「かかりつけ医」を持つことも重要です。コロナワクチン接種ではかかりつけの患者さん以外、受け付けないといった医療機関もでています。
 


 

高齢者に介護が必要となる主な原因とは?

高齢者が要介護となる主な原因は、「認知症」が18.1%と最も多く、以下「脳血管疾患(脳卒中)」15.0%、「高齢による衰弱」13.3%、「骨折・転倒」13.0%と続きます。

男女別にみると、男性では「脳血管疾患(脳卒中)」が24.5%でトップとなり、以下「認知症」14.4%、「高齢による衰弱」11.3%、「心疾患(心臓病)」6.3%と続きます。傾向としては、男性では女性と比較すると、生活習慣病に起因し要介護となるケースが高くなっています。

一方、女性では「認知症」19.9%、「骨折・転倒」16.5%、「高齢による衰弱」14.3%、「関節疾患」14.2%という順となり、加齢や疾病に伴う運動機能の低下によって、要介護となるケースが高くなっています。

男性は「生活習慣病で倒れ、一気に要介護に」、女性は「だんだん動けなくなって、いつの間にか要介護に」というリスクが高いといえるでしょう。

元データ 内閣府 令和3年版高齢社会白書(全体版)

要介護とならないためには、生活習慣がカギ

要介護の原因で割合の高かった「認知症」「高齢による衰弱」「骨折・転倒」「関節疾患」などは、運動機能や生活機能の低下によってもたらされます。また、「脳血管疾患(脳卒中)」「心疾患(心臓病)」も生活習慣病の1つとして数えられる病気です。

これは言い換えれば、要介護にならないためのカギは、日頃の生活習慣が握っているということ。

自立して生き生きとした生活を送り続けたい。そのためには「もう年も年だし」と諦めずに、生活習慣を見直し「介護予防」を行うことが重要です。

介護予防の主なポイントは大きく3つ。食事や睡眠といった「生活習慣」。身体の機能低下を防ぐ「運動」、そして生活意欲を維持する「社会との接点」です。以下で、それぞれ具体的に解説していきます。
 

介護予防のポイント1「生活習慣」

介護予防のポイントの1つめは、日々の生活習慣を整えることです。「快眠、快食、快便」は健康の3大要素ともいわれるように、質のよい睡眠や、適量かつ栄養バランスのとれた食事、そして規則正しい排せつはとても大切です。

<快眠>

夜間に十分な睡眠をとることは心身の疲労回復はもとより、老化防止にも効果があるといわれています。

その理由の1つがいわゆる成長ホルモン。成長ホルモンは、骨や筋肉をつくり子どもの成長に欠かせないものですが、大人にとっても骨や筋肉をつくる、疲労を回復するといった、アンチエイジングに関わるホルモンでもあります。成長ホルモンは、加齢により年々分泌量は減るものの、大人でも分泌されており、眠っている間に分泌量が増えます。

一方で、短い睡眠時間や不眠が続くと、肥満や高血圧の引き金となり、生活習慣病のリスクを高めます。また近年、睡眠不足がアルツハイマー型認知症の発症にも関係しているという研究結果も発表されています。

では、睡眠不足とならないためには、どのくらいの時間、睡眠をとることが必要なのでしょうか?

「8時間睡眠が良いはずなのに、高齢になって早く目が覚めてしまう」とお悩みの方もいることでしょう。睡眠時間は一概に何時間が良いとは言い切れるものではなく、極端な例を除いて、ベストな睡眠時間は、人それぞれ違ってきます。

8時間寝ていても、夜中に何度も目が覚めてしまっては、快眠とはいえません。ポイントは時間ではなく、「朝スッキリ目が覚めて、日中に眠気を感じずに活動できる」という「質の良い眠り」です。

<快食>

「快食」が健康の3大要素の1つにあげられるように、介護予防には食生活も重要な要素です。「快食」とは、「美味しく食事が摂れること」「体調がよく食事が進むこと」「良い気分で食事ができること」などを指します。


高齢になると味覚が衰え、塩気を感じにくくなります。そのため、若い頃と同じ味付けだと、知らず知らずのうちに塩分を摂りすぎてしまっていることも。

塩分の過剰摂取は、血中のナトリウム濃度を上昇させ、高血圧を引き起こし生活習慣病の引き金となります。調理の際は、薄味にするだけでなく、メニューを変える、減塩醤油や減塩味噌などを活用する、酢や香辛料などで味を引き立てるなど、塩気が薄くても美味しく食べられる工夫をするとよいでしょう。

まずは栄養の偏りがなく、バランスの良い食事をすることが大切です。

もちろん、食べすぎや糖分の摂りすぎによる肥満は、高血圧や糖尿病を招きます。高齢者は生きるために体を動かすのに必要なエネルギーである基礎代謝が下がっており、若い頃と同じ量の食事ではカロリーオーバーです。腹八分目が重要です。

一方で意外と知られていないのが、「高齢者の低栄養」です。厚生労働省が発表した「令和元年度国民健康・栄養調査結果の概要」によると、65歳以上の低栄養傾向の者(BMI≦20kg/㎡)は、男性12.4%、女性20.7%となっています。また、85歳以上では、男性17.2%、女性27.9%となりました。

この理由としては「噛む力や消化機能が衰えた」「足腰が悪くなり買い物に行かなくなった」といった身体的機能の低下によるもの、「一人暮らしだから作るのが面倒」「経済的に苦しい」といった環境的理由によるもの、「配偶者の死などで食欲がなくなった」という精神的理由によるものなどが挙げられます。

高齢者の低栄養は、健康障害に直結します。筋力の低下により転倒や骨折のリスクも増え、感染症にもかかりやすくなるでしょう。高齢者は傷や病気の治りも遅く、痛みなどにより動けなくなれば、さらに筋力は低下、食欲も減ってさらに低栄養が加速するという悪循環に陥ります。

そうならないためにも、「快食」を意識した生活が必要です。

低栄養とならないための食事法

①1日3食規則正しく食べる
1回に食べる量が少ないため、食事回数が少ないとエネルギー不足となります。1日3食決まった時間に食べることで、生活リズムも整います。
②栄養バランスのよい食事をとる
毎日同じものを食べ続ける、インスタント食品で済ませがちといったことを避け、多種多様な食品を取り入れ栄養バランスを整えましょう。
③楽しい食事を心がける
家族や友人と一緒に食事をとるなど、楽しい食事を心がけましょう。デイサービスなどを利用し、孤食を避けることもおすすめです。
④栄養補助食品の利用も
毎日の食事で足りない栄養素がある場合はサプリメントや、栄養補助食品の利用もおすすめ。ゼリー状でフルーツ味など様々な栄養素に対応した商品が数多く出ています。

<快便>

あなたは「快便」ですか?介護にならないための生活習慣で見落としがちなのが便通です。「快便」とは、スムーズに便が出て、おなかがすっきりした状態をさします。通常、便通は毎日あるのが健康な状態で、便通が3日以上ない、便通はあるが硬かったり、便が少なく残便感がある状態は、便秘となります。

便秘や下痢で癌が増えるわけではありませんが、便秘や下痢がある方の中には癌などの病気が隠れていることもあるので、きちんと検査を受けておくことも重要です。


女性に多いとされる便秘ですが、実は高齢者は女性に限らず男性も便秘状態である人が多いのです。では、なぜ高齢者には便秘の方が多いのでしょう。

まず挙げられるのが、筋力の衰えによる排便機能の低下です。加齢により筋力が衰えると、腹筋などの力も弱くなり、便を押し出せず、便秘へとつながります。

2つめは腸の動きが弱くなることよるもの。高齢者になると、腸の動きを司る副交感神経の働きが低下します。また、食事や水分の摂取量が減ることで食物繊維が不足し、腸の動きを妨げる要因になります。

さらに、腸内細菌の変化も便秘を招きます。高齢者になると、腸内細菌のバランスが変化、便秘へとつながります。

介護予防のポイント2「運動」

高齢者の介護予防のポイント2つめは、運動です。

人は年齢を重ねると徐々に筋力が低下していきます。そこに、運動不足や栄養不足が加わると、筋肉がやせ衰えたり、骨がもろくなります。また、肥満による運動不足も関節にかかる負担を増大させます。これらの状態は、転倒や骨折を招き、要介護の状態に陥ってしまうことにもなりかねません。

また、運動は生活習慣病や大腸がんの予防につながり、ひいては介護予防にもつながります。高齢者こそ、適切な運動が必要といえるでしょう。

高齢者におすすめの運動は何といっても、歩くこと。「歩くことなんて普段からしている」と思われるかもしれませんが、意外と歩いていないもの。今よりも少しだけ歩く歩数を増やし、それが継続できれば、立派な運動になります。

今よりも歩くためにできること

  • 近所を散歩してみる
  • 買い物は車ではなく、歩いて行く
  • 最寄り駅やバス停を1つ手前で降りて歩く
  • 旅行に行き、歩いて景色などを楽しむ
  • 美術館や博物館など、歩いて見て回る施設を楽しむ

次におすすめなのが、スクワットやもも上げ、踏み台昇降などといった軽い筋トレとストレッチ。これらは、自宅で簡単にできるため、雨の日や真夏の暑い日など、外に出ることが厳しいときでも毎日行えます。

そのほか、ヨガやフラダンス、ゴルフや水泳なども、無理のない範囲で行えば、筋力アップに効果があります。

また、運動は筋力アップというだけでなく、心肺機能を高め感染症予防にもつながります。さらには、ストレス発散やリフレッシュ効果もあり、生活の質(QOL)を向上させてくれます。
 

介護予防のポイント3「社会参加」

介護予防のポイントの3つ目は、社会への参加です。

みなさんは、高齢になってもお仕事を続けていたり、地域のボランティア活動に積極的参加している人を見て、若々しいと感じたことはありませんか?それはきっと、家族以外の人と関わったり、何かの役割を担ったりする「社会の一員」として活動することが刺激となり、生き生きと暮らしているから。

一方、引きこもりがちな独居の高齢者は、変化のない生活が続き、人と関わることも少ないため、状態の変化に気づくのが遅れ、認知症などの状況が進んでから発覚するということもあります。

健康長寿社会をめざした予防政策の科学的な基盤づくりを目指したJAGES(日本老年学的評価研究)によると、「スポーツ組織への参加割合が高い地域ほど過去一年間に転倒したことのある前期高齢者が少ない」「趣味関係のグループへの参加割合が高い地域ほど、鬱の平均点が低い(低いほどよい)」「ボランティアグループ等の地域組織への参加割合が高い地域ほど、認知症リスクを有する後期高齢者の割合が少ない」という相関がみとめられたというのです。

この研究結果からいえることは、サークルやボランティアなど、何らかの組織の一員となり活動することが、介護予防につながるということです。

近年では、自治体をはじめ、NPOなど様々な団体が介護予防事業に取り組んでおり、理学療法士による体操教室を開催したり、地域の集会所などでワークショップなどの交流の場を設ける「高齢者サロン」を開設するなどしています。

皆さんの近所にも、そのような場があるはずですので、介護予防、ひいてはご自身の生きがいのため、地域との交流に参加してみてはいかがでしょう。
 

要介護の前段階「フレイル」

フレイルとは、健常から要介護へ移行する中間の段階をさします。高齢者の多くは、フレイルの時期を経て、徐々に要介護状態に陥ると考えられています。

またフレイルは、加齢による筋力の衰えという身体的問題のみならず、認知機能障害や、うつなどの精神的な問題、独居や経済的困窮などの社会問題まで含まれる、多面的な概念です。

フレイルの時期は、適切な支援や対処を行えば、健常な状態にもどることができる時期でもあります。したがって、介護予防の第一歩はフレイルを予防することでもあります。

介護生活にならないために、まずはフレイルを知ることからはじめてみましょう。
 

まとめ

要介護になってしまう要因の多くは、日頃の生活に気をつけていれば防げるものです。

快眠、快食、快便といった、日々の生活習慣を整えること。歩くことや軽い筋トレなどの運動で、筋力を維持すること。そして、サークルやボランティアなど地域社会に参加することで、人との交流や生きがいを見つけることも、認知症予防などに効果があります。

また、要介護の前段階であるフレイルについて知っておくことで、健常な状態をキープする、フレイル状態であることに気づき、健常な状態へと戻していくことも重要です。

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この記事の制作者

高山哲朗

監修者:高山哲朗(かなまち慈優クリニック 院長)

2002年慶應義塾大学医学部卒業。医療法人社団志嵩会理事長。医学博士。東海大学医学部客員准教授。PEG・在宅医療学会データ委員 NPO法人PDN理事
日本内科学会認定医、日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本医師会認定産業医、緩和ケア研修会修了者、東京都難病指定医
地域の人々の疾病予防・健康管理に注力するほか、医療予測ツールの開発にも従事。

介護付き有料老人ホームや特別養護老人ホーム(特養)、グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅、その他介護施設や老人ホームなど、高齢者向けの施設・住宅情報を日本全国で延べ57,000件以上掲載するLIFULL 介護(ライフル介護)。メールや電話でお問い合わせができます(無料)。介護施設選びに役立つマニュアルや介護保険の解説など、介護の必要なご家族を抱えた方を応援する各種情報も満載です。
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