【専門家が解説】放っておくと怖い猫背|円背(えんぱい)を防ぐ8つの改善体操
年を重ねても、いつまでも美しい姿勢を保ちたいものですね。
猫背のまま高齢期を迎えると、身体機能の衰えから背中や腰の曲がりが進行し、円背(えんぱい)という状態になってしまいます。これにより、体幹バランスや運動機能が低下し、要介護状態にも影響するのです。
この記事では、円背の原因やその影響、予防・改善方法について解説していきます。
円背(えんぱい)は骨折や誤嚥のリスクにも
一般的に、円背とは脊柱が前に倒れた状態を指します。脊柱のうち、特に胸の胸椎と呼ばれる部分が前に倒れることで背中が丸くなり、頭部は視界を保つために必然的にあごが上がる状態になります。
猫背の進行が円背に繋がる
全ての方がいきなり円背になるわけではありません。多くの場合、猫背が進行することで円背になります。
猫背は骨盤が後ろに倒れている状態で、脊柱が丸まり固まってしまっています。そのため、円背を予防するためにはまず猫背の改善が必要となり、それがそのまま介護予防にもつながります。
円背の原因は加齢に伴う筋力低下
普段の生活背景や体の使い方なども影響しますが、加齢に伴う筋力の低下が大きな原因と考えられています。
頚椎と腰椎は後ろ向きに、胸椎のみ前向きに倒れ、S字を描くかたちで全体のバランスを保っています。脊柱は骨の形状から前に倒れやすく、後ろに倒れにくいという特徴を持ちます。
脊柱のうち胸椎のみは初めから前に倒れており、前に倒れている状態が強めに出ている姿勢が猫背です。
猫背からさらに重心が後方へと移り、加齢に伴う筋力の低下が引き金となって前向きにどんどん倒れていきます。その状態で骨盤を後ろに倒してバランスを取り、脊柱全体が固まっている状態になります。これの進行が円背につながっていきます。
円背は日常生活にも支障が出る
① バランス能力の低下
円背の多くの方は、バランスを保つ能力が低下します。
円背になると体幹上半身の重心が変化し、そのバランスを取るために頭部が前方へ突出する姿勢制御をすることが多くなります。この姿勢でバランスを取るためには、下半身にも常に緊張が入るようになってしまうのです。
すると全身の筋肉が本来の力を発揮できなくなり、筋肉が弱っていくことがわかっています。筋肉が弱くなると姿勢を保持する力も弱くなり、結果としてバランス能力も低下していくと考えられているため、介護予防で円背を修正することは重要なことなのです。
② 呼吸が難しくなり、筋肉の働きが悪くなる
円背になると、胸や肋骨が丸くなった状態で固まってしまいます。
背骨を反らす機能が弱くなると、酸素を十分に取り込めなくなります。結果、呼吸が難しくなり、息苦しくなりやすい状態になります。
また、酸素は筋肉を動かすために必要不可欠なもので、車で言えばガソリンに当たります。ガソリンがない車が動かないように、呼吸が難しく体の中の酸素が少なくなれば筋肉の働きも悪くなってしまいます。
③ 圧迫骨折のリスク増大
前述の通り、円背になると背骨が前に倒れる状態となります。背骨が丸くなり続けると重みに耐えきれなくなり、背骨が潰れてしまいます。
歩くだけでなく、最悪前かがみになるだけで背骨が潰れてしまい、圧迫骨折につながりやすくなります。いわゆる「いつの間にか骨折」と呼ばれるものです。
④ 誤嚥(ごえん)リスクの増大
円背になると、人は自然とあごが上がります。
人は食べ物が通る食道と、空気が通る気管が喉にあり、普段は食べ物が気道に入らないようにコントロールしています。しかし、あごが上がると気道が広がり、誤って気道に食べ物が転がり込んでしまいやすくなります。これを誤嚥(ごえん)と呼びます。
誤嚥すると誤嚥性肺炎という危険な病気にもなりやすいため、介護予防の分野ではいかに誤嚥させないかが重要となります。
誤嚥性肺炎を詳しく見る円背の予防・改善方法
前述のように、円背は生活に支障をきたし、要介護状態に繋がるリスクも潜んでいます。
では予防・改善するためにはどうすべきでしょうか?答えは、しっかりと体操をしていくことが重要となってきます。
介護予防では円背の前の、猫背の状態から骨盤を含めた脊柱全体を体操で動かしていくことが大切となります。
特に重要となるのが、脊柱を支持してくれる「姿勢保持筋」をしっかりと使っていくことになります。
首・胸・腰・骨盤・太もも・足首と、全ての支えが強くなってしまえば円背にかかるリスクも大きく軽減することができます。
また、一度円背になってしまっても体操で姿勢を正していく努力をしていくことで改善の可能性があります。予防としても、改善のためにもできるだけ体操の習慣をつけていくことを心掛けましょう。
【動画でわかる】キレイな姿勢を保つ!自宅でできるかんたん体操
骨盤の運動
- ① 椅子に浅く腰掛け、出来るだけ良い姿勢になります。
② 骨盤を後ろに倒し、背中全体を丸めます。
③ 骨盤を前に倒し、良い姿勢に戻します。
④ 良い姿勢のまま5秒間保持します。
⑤ ①〜④を繰り返します。
コツとしては、骨盤を後ろに倒す際に、頭まで下を向かないようにしましょう。頭が下を向くと過剰に腹筋に力が入り、背筋が伸びにくくなります。また、全体として上半身でなく骨盤を動かす意識を持つようにしましょう。あくまで骨盤の体操ですので、骨盤から背骨全体を動かす意識、具体的にはおへその下あたりに力を入れる意識を持つとやりやすいです。
肩と肩甲骨の運動
- ① お腹に力を入れて良い姿勢を保って座ります。
② 拳を握った状態で腕を前に伸ばします。
③ ②の状態で胸を開きながら腕を横に開いていき、肘を曲げながら肩甲骨を背骨の中心に寄せていきます。
④ 肩甲骨を内側に寄せた状態で5秒ほど維持します。
⑤ ①〜④を繰り返します。
コツとしては肘を曲げながら肩甲骨をうちに寄せる動きをするときに、お腹の力を緩ませないようにすることです。お腹の力を入れて背筋を伸ばしながら行うことで肩甲骨の動きがしっかりと出るようになります。
首の運動
- ① 椅子に浅く腰掛け、顎を引きます。
② 頭頂部を上に引っ張られるようなイメージで背筋を伸ばします。
③ 背筋を伸ばしたままの姿勢で5秒ほど止めます。
コツは顎を引いた際に視線を下に向けないことです。顎を引いたまま背筋を伸ばしていくことで頭を保持する力が大きくなり、脊柱をまっすぐ保ちやすくなります。
胸を張る運動
- ① 椅子に浅く腰掛けた状態で良い姿勢を保ち、両手を後頭部に沿わせます。
② 肘を後ろに引くイメージで肩甲骨を脊柱に寄せ、胸を張っていきます。
③ 胸を張った状態で5秒止めます
コツは胸を張る動きの際に肘が下がらないようにすること、肘で動かすのでなく肩甲骨を動かすことです。肘を動かしてしまうと本来動かしたい背筋に力が入らず、腕の方に力が入ってしまうため注意が必要になります。
体を左右に倒す運動
- ① 椅子に浅く腰掛けた状態で良い姿勢を保ち、両手を後頭部に沿わせます。
② やや肘を開き、左右どちらかに体を倒し、倒した状態で5秒静止します。
③ 元に戻し、良い姿勢を保ったまま反対方向に倒して同様に5秒静止します。
コツは左右に倒す際に、体をひねらないようにすることです。この運動では体の横にある筋肉を動かすことが目的の体操になりますが、ひねってしまうと体の正面にある筋肉を使ってしまうためです。また、倒したときに倒した側と反対側のお尻が浮かないようにしましょう。お尻が浮くと体の横の筋肉を上手に使うことができないため、注意が必要です。
体をひねる体操
- ① 椅子に浅く腰掛けた状態で良い姿勢を保ち、両手を後頭部に沿わせます。
② 肘を軽く開き、良い姿勢を保ったまま左右どちらかにひねり、ひねり切った部分で5秒ほど静止します。
③ 元に戻し、反対にひねって同様に5秒静止します。
コツはひねる際に肩の高さを揃えたままひねることです。肩が傾くと脊柱のひねりよりも前屈の動きが優位になってしまい、ひねる動きで使う本来の筋肉が十分に使えなくなってしまいます。肩の高さを揃えてひねりましょう。
腹筋運動
- ① 椅子に浅く腰掛けた状態で腰に手を当てて、骨盤が動かないようにお腹に力を入れます。
② その状態で足を交互に持ち上げます。
コツは足を持ち上げるときに後ろに大きく倒れないようにすることです。腹筋を鍛えるには骨盤を止める必要がありますが、後ろに倒れることで骨盤も動いてしまい、腹筋よりも太ももの筋肉に力が入ります。体が倒れないようにしましょう。
足首の運動
- ① 椅子に座った状態で片足を前に伸ばします。
② 前に伸ばした足の足首を上・下と交互に動かします。
③ 片方の足が終わったら、反対の足も同様に動かしましょう。
コツは足を前に伸ばしたときに背中が丸くならないようにすることです。背筋を伸ばしながら足首を動かすことで歩くときなどの場面でも足首を動かしながら背筋を伸ばす感覚がわかりやすくなります。また、足首を動かすときに指を動かすのでなく、しっかりと足首を動かすことです。指を動かしてしまうと足首の筋肉でなく指の筋肉で足首が動いてしまうため、本来の足首の動きが出にくくなってしまいます。指ではなく、足首を動かすように注意してください。
- 決して無理はせずに、継続できる範囲内で実施してみてください。もしも痛みなどが生じた際は体操を止め、医師の診断を受けましょう。
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https://www.fuku-kuru.tv/taiso
介護予防体操で背筋が伸びた姿勢を心掛けましょう
円背の原因や予防・改善方法など解説していきました。高齢者の介護予防をするにあたって円背はとても大きな問題となりますが、猫背の状態から毎日の体操で十分に予防・改善できるものでもあります。心配な方ほど、毎日の体操を取り組んでみてください。
イラスト:安里 南美
この記事の制作者
著者:福田 翔馬(理学療法士)
広島県の整形外科クリニックにて理学療法士として勤務して7年目。患者様の痛みや生活動作を改善するために、何が原因で症状を出しているのかを考えながら日々精進しています。
監修者:森 裕司(介護支援専門員、社会福祉士、精神保健福祉士、障がい支援専門員)
株式会社HOPE 代表取締役
医療ソーシャルワーカーとして10年以上経験した後、介護支援専門員(ケアマネジャー)に転身。介護の相談援助をする傍ら、医療機関でのソーシャルワーカーの教育、医療・介護関連の執筆・監修者としても活動。近年は新規事業やコンテンツ開発のミーティングパートナーとして、企業の医療・介護系アドバイザーとしても活動中。