高齢者のエコノミークラス症候群の予防
エコノミークラス症候群は、食事や水分を十分にとらないで長時間座っている、足を動かさないなどの状態が続くことで発症することのある病気です。体力の低下している高齢者は閉じこもりがちなことが多く、普段の生活でも発症する危険性が考えられます。
ここでは、エコノミークラス症候群や予防のための運動を解説します。
エコノミークラス症候群とは
エコノミークラス症候群は、深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)や肺塞栓症(はいそくせんしょう)という病気を総称したものです。
飛行機での長時間の移動や災害時の避難所生活など、狭い空間で長時間過ごすことで発症することがあり、エコノミークラス(飛行機の狭い席)症候群と呼ばれています。
1)原因と症状
深部静脈血栓症は、血栓ができて足の血管が詰まった状態のことを指します。
食事や水分を十分にとらないで長時間座っている、足を動かさないなどの状態が続くと、血流が悪くなります。そうすると、下肢に血の塊(血栓:けっせん)ができやすくなるのです。
発症すると、下肢が腫れたり青紫色や赤紫色になったり、痛みを感じます。さらに、血栓が流れて肺に詰まってしまうと肺塞栓症(はいそくせんしょう)という重篤な病気になってしまいます。
肺塞栓症では、急な呼吸困難や胸の痛みなどが起こり、突然死に至る可能性もあります。
2)高齢者は「閉じこもり」「座りっぱなし」にも注意
エコノミークラス症候群の原因には、このほかに日中の活動量や筋肉量、心臓機能の低下などが挙げられます。多くの高齢者はこの状態にあり、加えて外出の頻度が減っていたり、家の中で一日を過ごしたりすることも多いと思います。
高齢者はこうした閉じこもり、座りっぱなしの生活にも注意が必要です。
3)主な治療法
深部静脈血栓症の主な治療法には、以下の3つがあります。
- 薬物療法:血液をサラサラにする抗凝固療法(こうぎょうこりょうほう)、できた血栓を溶かす血栓溶解療法(けっせんようかいりょうほう)
- 手術療法:カテーテルで血栓を取り除く血栓除去術(けっせんじょきょじゅつ)
- 悪化の予防:足を圧迫して血流を良くする弾性ストッキングの使用
4)予防のために心掛けて欲しいこと
エコノミークラス症候群は、発病すると命に関わる可能性のある病気です。そのため、予防がとても大切になります。
予防のためには、以下のことを心掛けると良いといわれています。
1 ときどき軽い体操やストレッチを行う
2 こまめに水分補給をする
3 アルコールや喫煙を控える
4 ゆったりとした服装にして、ベルトはきつく締めない
5 足の運動をする
6 寝るときは足を少し高く上げておく
予防のための6つの運動
エコノミークラス症候群を予防するためには、具体的にどんな運動を行えば良いのでしょうか。
以下、代表的な6つの運動を解説します。
- 1) 足の指でグーパー
- 足の指の曲げ伸ばしを、10回×3セット。
- 2) 踵の上げ下げ
- つま先を床に着けたまま、踵の上げ下げを10回×3セット。
- 3) つま先の上げ下げ
- 踵を床に着けたまま、つま先の上げ下げを10回×3セット。
- 4) 足首を回す
- 右回り、左回りを問わず、10回×3セット。
- 5) ふくらはぎのマッサージ
- ふくらはぎをアキレス腱のあたりから膝裏まで、ゆっくりマッサージ。
- 6) ふくらはぎのストレッチ
- 両足を前に伸ばしたまま、つま先を手前に向けてふくらはぎをストレッチ。10秒×3セット。
ふくらはぎは、「第二の心臓」と表現されるほど下肢の血流に大きく関わります。ここに挙げた運動はどれも大切ですので、すべて、両足とも行ってみてください。
下肢のむくみとその予防
エコノミークラス症候群とは異なりますが、健康な人でも夕方にはむくみを生じることがあります。特に高齢者の場合は、日中の活動量や筋肉量、心臓機能の低下などによって、余計にむくみやすい状態にあります。
むくみ予防のための運動も、先ほどの6つの運動が効果的です。
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なお、むくみには低栄養や貧血などが隠れていることがあります。
また、手術後に起こるリンパ浮腫という病気もあります。足のむくみが気になるようであれば、一度検査を受けていただくのも良いと思います。
ステイホームでも健康を保つために
ここまで、エコノミークラス症候群とはどういう病気か、どんな治療法があり、予防するためにどんなことに気をつけると良いか解説してきました。そして、代表的な6つの運動をご紹介しました。
とはいえ、無理に“特別な運動”をしようとしなくても上手に“おうち時間を楽しむ”ことができれば、この病気を予防することができると思います。活気ある生活は、自然と日中の活動量の増加、体力・筋力低下を予防するからです。活動の中身は、家事や趣味活動などで構いません。
また、生活動作を安全で楽に行えるよう、住環境を見直してみるのも良い方法です。
玄関の上がりかまちの上がり降りのときにつかまれる手すりや、腰かけて靴を着脱するための椅子を置くのも良いでしょう。布団やベッドの脇に手すりを置いて、立ち座りをしやすくするのも良いと思います。
足元が滑りやすい浴室では、座面の高さが40cm程度の腰かけを置いたり滑り止めマットを敷いたりすると、立ち座りが安定しやすくなります。住環境の見直しは、活気ある生活を支える大切なポイントの一つといえます。
まとめ
ステイホームを強いられ、閉じこもり、座りっぱなしの生活を送る高齢者はとても多いです。そして、こうした日々が長く続くことで、特に高齢者の体力低下が増えています。
体力低下は歩行などの生活動作、認知機能の低下だけでなく、エコノミークラス症候群の発症につながる危険もあります。
ここで解説したエコノミークラス症候群の原因と症状、予防のための代表的な運動、活気ある生活を支えるための住環境の見直しなどの情報が、少しでも皆さんの健康づくりの参考になれば嬉しく思います。
イラスト:安里 南美
この記事の制作者
著者:安藤 岳彦(介護老人保健施設ひまわりの里 リハビリテーション部長)
認定理学療法士(地域理学療法、健康増進・参加)、中級障がい者スポーツ指導員
1999年秋田大学医学部付属医療技術短期大学部理学療法学科を卒業。
医療法人社団三喜会鶴巻温泉病院に勤務。介護老人保健施設ライフプラザ鶴巻、医療法人篠原湘南クリニッククローバーホスピタル、医療法人社団佑樹会・介護老人保健施設めぐみの里の開設を経て、現職。療養・生活に寄り添うリハビリ専門職として、日々の業務に従事しています。