- 質問
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父が認知症と診断されました。治療のため服薬していますが、ぼーっとしたり興奮状態になるなど以前より症状が悪化している気がします。薬の説明など医師の対応にも納得がいかず、セカンドオピニオンを受けたいと考えています。
今後、より信頼できる方に主治医を変更したいのですが、変えてもよいのでしょうか?
- 回答
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主治医の変更は可能です。しかし、変更にはメリットだけでなく、デメリットもあるのでしっかりと理解をしておいてください。
ここでは、認知症の主治医を変更する際に留意しておきたい点やメリット・デメリットをご説明します。
現在の主治医に納得がいかずセカンドオピニオンや、主治医の変更を考えるときの参考にしてください。
認知症薬の調整に欠かせない医師との信頼関係
ご質問のケースですと、お父様は抗認知症薬による薬物療法を受けていらっしゃることと思います。
抗認知症薬は脳に働きかける薬剤です。他にも向精神薬や睡眠薬など、脳に直接働きかけを行う薬剤の特徴として、その効果も副作用も個人差が非常に大きいことが挙げられます。
低下した脳の機能を活性化するための抗認知症薬が、このご質問のように過度の興奮をもたらしてしまうケースもしばしば見られます。その興奮をさらに別の向精神薬で抑えようとすると、今度は追加した薬の副作用も現れてしまうなど、結果として収拾のつかない状態になっていることもあるのです。
高齢者は、その生理的な特徴として、ただでさえ薬物に対して副作用が出やすい傾向があります。そのため、個人差が大きい抗認知症薬や向精神薬を、ご本人にとってちょうどよい効果をもたらすように調整するのは、大変に繊細で注意が必要なプロセスです。
それには主治医とご本人、ご家族の信頼関係に基づく協力体制と、何よりご本人を傍で見守り状態をよく知っているご家族の協力が欠かせません。
このご質問のように、ご家族が、ご本人と自分の苦しみや不安を医師に真摯に受けとめられていないと感じている状態では、こうした信頼を築くのは難しいことと思えます。信頼がどうしても築けないようなら、主治医を変更するのもやむを得ないことでしょう。
主治医変更を検討するときに考えたいこと
一方で、主治医を変更する場合には、以下のようにご注意いただきたいこともあります。
認知症初期の症状変化を考慮する
認知症の症状の進行は個人差があり、その進行速度も一様ではありません。特に認知症の初期は激動の時期と言えます。様々な環境変化の影響や、認知症であることが判明したショックやうつ状態の影響などで、一時的に認知症が進んだかのように見えてしまう場合もあります。
効果発現の観察中かを考慮する
抗認知症薬や向精神薬は、飲み始めたタイミングとその効果が適切に表れるタイミングにタイムラグがあります。
抗認知症薬が処方される多くの場合、はじめは少量から服用しはじめ、次第に最適な量に増やしていきます。しかし、期待されている効果に先行して副作用が出ることもあります。
医師にとっては、期待する効果がこれから安定して発揮されるのを待ち、見計らっている時期のため、ご質問のように「経過観察」という対応をするのも、あながち間違っているわけではありません。
しかし、こうしたタイムラグや副作用の先行については、医療側がしっかりとご家族に説明すべきことです。この例の場合は、きちんと説明がされていない点からしても、ご家族が医師に「信頼がおけない」と判断されるのは無理もないことだと思います。
認知症医療に期待しすぎていないかを考慮する
ご本人・ご家族のお気持ちからすると無理もないことではありますが、認知症の治療に対して、ご家族の期待が大きく、思うような効果を見せないことに裏切られたような思いをもつ場合もあります。現在の医療では、認知症を劇的に改善する治療法は存在しません。その実情とご本人・ご家族の期待がずれている時にこうした状況が生じます。
現在は、ご本人の生活改善や環境調整、介護サービスの利用などが症状改善により有効な場合も多くあります。そのような症状に関しても薬物治療で改善すると考え、期待しても、裏切られてしまうでしょう。
ご本人の状態が先行した副作用かどうか、初期の混乱状態かどうかなどを判断するためにも、ご家族は、気になる症状に対して、いつからそれが見られるようになったか、どのように変化したかについてなるべく詳しく記録しておくことをおすすめします。
さらに、意識のずれや誤解を防ぎ、家族として薬物治療に過度な期待をしていないかどうかを判断するために、ご家族は、ご本人の気になる症状がどう変化してほしいのかを整理してみることも必要です。
これらを現在の主治医に改めて伝え、病院に相談室があれば相談してみると良い結果をもたらす場合もあります。また、これらの情報は、主治医の変更やセカンドオピニオンを求める場合にも、とても有力なものです。
主治医変更のメリットとデメリット
一度治療を開始した主治医を変更することにはリスクもあります。
認知症の人は環境変化や新しい状況が苦手です。せっかくなじみ始めた医療機関、主治医を変更し、新しい主治医と関係を新たに築くのは、本人にとって負担になる可能性もあります。
また、主治医の変更やセカンドオピニオンには、現在の主治医または医療機関から医療情報を提供してもらうことが必要です。紹介状を書いてもらい、現在までの検査や治療の情報を提供してもらったり、場合によっては次の医療機関の医療連携室に連携してもらうことも必要です。
現担当医師との交渉を精神的に負担に感じる方は少なくないですし、次の医療機関探しやその手続きも負担になる可能性があります。
しかし、そのようなリスクがあっても、診断早期にセカンドオピニオンや主治医の変更を検討するとよい点があります。
実は認知症には、特に早期の診断が難しいという問題があります。
たとえば、レビー小体型認知症をアルツハイマー型認知症と誤診する、うつ病を見逃し認知症と診断されてしまう、といった可能性も否定できないのです。つまり、認知症という診断がそもそも確かかどうかを確認するという意味でも、セカンドオピニオンを求めるのは妥当なことといえます。
もし、今までには見られなかった妄想や攻撃的な言動など、気になる症状の変化が表れたり、副作用と思われる症状が日常生活を脅かしているのに、主治医や医療機関が納得のいく対応をしてくれない場合は、まずはセカンドオピニオンを求め、場合によっては主治医の変更を検討しましょう。
ご本人・ご家族が認知症とともに歩む生活において、主治医は大切なパートナーとなる存在です。主治医変更やセカンドオピニオンを求めたら、そのパートナーシップを損なうのではと危惧する方も多いと思いますが、むしろ双方にとって良い関係であるためにも、大切なことなのです。
結果として、元の主治医の診断と治療方法が正しく、その対応に納得がいくようになったのなら、元の主治医に戻すこともできるのです。
そのような可能性も視野に入れ、必要を感じたら、あまり悩みすぎることなく、主治医変更やセカンドオピニオンを検討してみてください。