【知っておきたい】認知症の方の口腔ケア
認知症の方はご自身で口の中の異常を訴えることが難しく、丁寧に歯磨きができる方も多くありません。
ここでは、認知症の方にありがちな口腔内の状況とその原因や対処法、入れ歯の取り扱いや、家族が知っておくべき口腔ケアの基本について解説します。
そして最後に、歯科受診を勧める理由についてポイントをまとめました。
認知症の進行とともに起こる 口腔ケアのトラブル例
認知症の為に口腔ケアができず、悪化してしまった方の事例をいくつかご紹介します。
92歳・女性
認知症を発症して7年目。
本人の拒否が強く、口を開けてもらえないので入れ歯も取れない状態となり、食事の最後に水を数口飲ませて口腔ケアとしていました。
訪問歯科を依頼した結果、入れ歯をとることができました。その時の口の中は、食べかすが残っており、入れ歯にも食べかすが、たくさんついている状態でしたが、その後は、口腔ケアができるようになりました。
89歳・男性
認知症を発症して4年目。
食事の食べかすや内服薬が口の中に残っており、うがいをすると本人もびっくりするぐらいの汚水が出てきました。
認知症の進行により些細なことで怒り出すことが増えていたので、施設介護スタッフでも口腔ケアが非常にしづらかったのですが、本人の目線の高さに合わせてそばにつき、背中を軽くさすりながら「入れ歯をとって、うがいをしましょう。」と声をかけたところ、怒り出すこともなく行うことができました。
86歳・女性
認知症を発症して4年目。
部分入れ歯の金具が歯肉に刺さり、出血して痛みも相当あったと思われますが、認知症の為、自分で痛みを訴えることができないでいました。
食事を残すことが目立ってきた為、介護スタッフが口腔内の異常に気が付き、すぐに歯科受診を行いました。
家でできる!簡単な対処法
口腔ケアの重要性がわかったところで、これから、ご自宅でできる簡単な対処法を2つのパターンに分けて解説します。
拒否をされたりして入れ歯を取ることができない場合
緑茶やレモン水を飲んでもらいましょう。緑茶にはカテキンが含まれておりますので、口の中の細菌が増えることを抑制できます。また、レモン水はさっぱりとした爽快感が感じられることや、酸味で唾液を多く分泌させるので、口の中の自浄作用に働きかけます。
入れ歯を取ることができる場合
食後の汚れを落としたい時は、ぬるま湯と歯ブラシで軽く汚れを落とし、うがいをしてもらいます。寝る前は、入れ歯洗浄剤に5分から一晩漬け置きしましょう。その際、熱いお湯を使うと、入れ歯が変形する原因になるので、ぬるま湯を使います。
訪問歯科でプロの口腔ケアを受ける
プロの口腔ケアを受けるメリット
これまで簡単なケア方法を述べてきましたが、家庭でできるホームケアだけでは限界があります。なるべく早く歯科受診を検討して、プロの口腔ケアを受けて頂くことが重要です。
歯科でなら、痛みの自覚がなかったり自分から異常を訴えたりできない認知症の方の診察でも、口腔内の異常を早期に発見し、今以上の悪化を防ぐことができるからです。そして、治療期間の短縮も期待できます。
訪問歯科を活用して自宅でプロの口腔ケアを
しかし、受診させたくてもご本人を連れて行けないという方も多いのではないでしょうか?その理由としては、以下のようなものが考えられます。
1.認知症により、外出すること自体が億劫になるから。
2.歯科医院の入り口に段差があって、足腰の弱った人には大変だから。
3.認知症の症状により、痛みを感じなくなる為、受診の必要性をご本人が理解できないから。
4.受診同伴が家族の負担になっているから。
5.診察台に上がれるのか不安があるから。
6.背中の骨が曲がっていて、仰向けになれない人も多いから。
7.同じ姿勢を維持することが苦手な場合があるから。
このような場合は、自宅に歯科の先生が来て診察や治療をしてくれる訪問歯科を利用する方法があります。
訪問歯科は馴染みがないかもしれませんが、まずは過去に通院歴のある歯科へ電話をして、現在の事情を説明しましょう。そして、訪問歯科の実施が可能かどうか聞いてみましょう。
また、医学管理や保健指導は医療保険ではなく介護保険が優先されるという原則がありますので、要介護認定を受けている方は、主治医に確認してみましょう。
まとめ
口腔ケアを行うことで、髪を整える・手を洗う・鏡で自分の表情を見る・衣服のボタンをかけるなど、清潔や整容動作にご本人が関心を持てるようになります。
口腔ケアがきっかけで、きっとさっぱりとした爽快な気分になり、生活意欲が湧き、生活の質も高まるでしょう。
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この記事の制作者
著者:後藤 みゆき(主任介護支援専門員・看護師・社会福祉士・介護福祉士)
有限会社 ソーシャルワーク 介護事業部・部長
主任介護支援専門員(看護師・社会福祉士・介護福祉士)
1999年 亀田看護専門学校 第2看護学科卒業。
病院勤務を経て2005年有限会社ソーシャルワーク入社。
2016年より、りんごの里グループ居宅介護支援事業所管理者として勤務。看護師資格を持った介護支援専門員として、医療と介護の連携に力を入れています。
監修者:三幣 利克(医療法人社団若葉会 湘南食サポート歯科・理事長)
歯科医師、MBA。1974年生まれ。
1999年、東京歯科大学歯学部卒業。
2017年より、医療法人社団若葉会理事長。
2018年、社会福祉法人伸こう福祉会評議委員、2019年、一般社団法人訪問診療ネットワーク理事。
日本老年歯科医学会、日本摂食嚥下リハビリテーション学会、日本臨床栄養代謝学会。