【2021年最新】認知症リハビリ|心身機能を高める「運動療法」

運動療法

適度な運動が健康によいのは、認知症の人でも同様です。

認知症の人に「運動療法」として運動に取り組んでいただくと、身体の強化やリフレッシュ効果以外にも、認知機能の向上や、自信・心の安定を取り戻すなど特筆すべき効果もあるといわれています。

このページでは、認知症の人に対する運動療法の効果や取り入れ方、注意点などをお伝えいたします。

知っておきたい運動療法のメリット

心身機能を同時に高めることができる

「心身一如」という言葉のとおり、心と体は密接に結びついています。

身体機能の低下は抑うつ傾向や認知機能の低下なども引き起こし、精神の健康も損なってしまいます。そこから認知症そのものの進行も引き起こしかねません。

体と心の両面に働きかけ、心身機能を同時に高める運動療法はとても役に立つものです。

日常生活に取り入れやすい

運動療法は道具不要・最小限で始められ、日常生活に取り入れやすいことも利点です。

これまで運動習慣がなかった人でも、散歩やストレッチなどから気軽に取り組めることも魅力のひとつでしょう。

認知症が進行しても継続しやすい

認知症が進行した場合にも継続しやすいのも長所です。認知症の人は体で覚えたことや生活に習慣づけられたものは忘れづらいものです。

特に生活の楽しみとして運動を習慣づけられると、その後の生活を長期間支えてくれることでしょう。

介護者も一緒に楽しめる

運動の種類によって、介護側も楽しめるのも大きな魅力です。介護にかかりきりになると、介護者はしばしば自分の健康をなおざりにしてしまいます。

ともに運動を楽しむことで、介護する側の健康維持にも役に立ってくれることでしょう。

また、一時的であっても介護者・非介護者という立場を離れてともに楽しむことで、良好な関係づくりにも役立ちます。

筋力維持だけじゃない運動療法の効果

運動療法は、筋力の低下を予防し強化する、関節の動きの幅を大きく滑らかにする、心臓や呼吸の機能を高める、血流を改善する、便秘を改善する、生活習慣病を予防するなど、身体機能を強化する効果をもたらします。

このほか、特に認知症の人へのよい効果として以下のようなものが挙げられます。

脳を活性化させる

体を動かしているのは脳です。運動中は五感で捉えたものを判断し、自身の身体の状況を把握し、適確に動作を行う指示を体に出しています。

さらに、その動作の影響を把握し、フィードバックして次の動作につなげるなど、脳の機能をフル活用しています。そうした刺激を与え脳の機能を活性化させます。

脳の血流を改善する

運動は全身の血流を改善します。有酸素運動で取り入れた酸素が体の隅々をめぐり、筋肉の動きがリンパの流れや血行を改善します。脳にも多くの血液が送られ、十分な酸素や栄養が脳に運ばれます。

リフレッシュして自信を取り戻す

運動は夢中になるひとときを与えて、認知症の症状による不安や苦しみを一時忘れさせ、心をリフレッシュさせてくれます。

また、ゲームでよい成績がとれた、持ち上げるウェイトの重さや回数が上がり筋力の向上を実感できた、など、成長を体験することが自信を取り戻すきっかけにもなります。

生活を整える

認知症により生活の幅が狭まり、日中の活動量が減少すると、食欲が落ち栄養状態が悪化したり、夜間に眠れず昼夜逆転が起きることもあります。こうした生活の乱れから認知症の症状悪化が起こりやすいのです。

運動で活動と休息のメリハリをつけ生活リズムを整えることは、認知症の症状の悪化を予防し症状を安定させることにつながります。

体を通した回想法になる

体はご本人の歴史の産物でもあります。スポーツをしていた人は、運動でその輝かしい成績を思い出すことでしょう。仕事で負った古傷も、その仕事を成し遂げてきた誇りを思い出させることができます。

骨粗しょう症で転倒予防の体操に取り組まれている最中、子どもをたくさん産んだから骨が弱くなったんだと笑顔で語る女性もおられます。

運動を通して、自分の体を振り返り対話することは、一種の回想法ともいえるでしょう。

いきいきとした心を取り戻す「回想法」

短時間でも効果アリ?運動療法の実践

運動療法は老人保健施設やデイサービスなど、さまざまな医療機関や介護施設で行われています。また、自治体や公的機関で行われる講座や教室なども多く、近年はスポーツクラブでの運動療法講座も増えてきました。

実施形式も、理学療法士によるリハビリの意味合いが強いもの、レクリエーションとしてゲームの形で行うもの、参加者同士の交流の機会として設けられているものなど、さまざまです。

有酸素運動としてのウォーキングや体操、筋力向上を目指した筋肉トレーニング、関節の動きの改善や柔軟性を高めるストレッチ、ボール等を使ったゲームなどが行われています。

認知症の進行抑制、予防を重視した代表的な運動療法として、国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターが開発した「コグニサイズ」があります。

こうした認知症に特化した運動療法の場合、多くは認知症により難しくなってくる、2つ以上のことを同時に行う「マルチタスク」に注目し、頭を使う作業と体を動かす動作を組み合わせて行うことが多いようです。

運動療法はおおむね30分以内のことが多く、運動の種類にもよりますが5~10分でも十分な効果があるとされています。

運動療法の実例

運動療法には多くの効果がありますが、現在のところ、認知症を治療したり大幅に進行を遅らせる効果は実証されていません。しかし、身体的症状に焦点をあて運動療法に取り組む中で認知症の症状が消失するケースもみられます。

尿もれ改善から活力を取り戻したAさん

尿もれするようになったAさん。排泄の問題を抱えると多くの人は外出を控えたり、トイレから離れるのを怖がったり、生活の幅を自ら狭めてしまいます。Aさんも自信喪失から日中ボーっと過ごすことが多くなりました。

料理も好きなのに、台所に立ち続けるともらすのではないかと心配しています。食事の準備もしなくなり、用意された食事を見て「これ昼食だっけ?夕食だっけ?」と言うようになりました。

そこで、座ったまま青竹踏みを使い、両膝を交互に上げ下げする運動を毎日5分×2回取り入れました。

この運動により骨盤底筋が鍛えられ、尿もれの回数が減少したAさん。台所にも立つようになり、食事の準備を通して、時間の見当職障害のような状態も改善されました。

色とりどり散歩のBさん

Bさんは足の痛みを訴えるようになりました。痛みから苛立つことが増え、言葉使いも荒く「いつも見られている」「こんな自分を馬鹿にしている」という被害妄想を抱えるようになりました。

整形外科医との相談では、ゆっくりでも歩くことで痛みが抑えられるとされましたが、痛みがある中で歩くのは辛いことです。そこで、まずは玄関先の花のところまで出てもらいました。

色彩感覚が必要な仕事をされていたBさんは、花を見て「赤い花でも、紅色、朱色、緋色、みんな違うのよ」「例えばこれは紅ね」などと言いながら少しずつ近所のお花巡りをし始めました。青空の色、屋根の色、草木の色、色探しは尽きることはありません。

そうした色をスタッフが教わりながら、1日1回の散歩を続けているうちに筋力がつき、色にも癒されたのか、妄想は消え失せてしまいました。

過度な運動は禁物|運動療法の注意点

事前に医療面・身体面のアドバイスを

例えば高血圧の場合、負荷のかけすぎは大変危険ですし、糖尿病の場合は神経の鈍磨があるため無理に歩き靴擦れを起こすと治療が困難です。こうした持病にも配慮が必要です。

また、高齢になると筋力低下や関節の動きの制限が生じます。過度な負荷、無理な動きをすれば、捻挫や骨折を引き起こします。特に認知症の人は自尊心や感覚の鈍さから「これ以上は無理」と伝えることが遅れがちです。

運動療法の前に、現在の持病・身体機能について、かかりつけ医・看護師・整形外科医・理学療法士などの医療職からアドバイスを受けましょう。

ご本人や環境の変化を観察し、安全に配慮を

認知症の症状は日、時間帯、体調によっても変わります。

体調の変化に気がつかず実施して、体調を悪化してしまうことのないように、例えば暑いときには脱水、寒いときには風邪や温度変化による血圧の上下に注意します。

いつもと違う状況や要因があるなら、運動をやめたり回数を減らすなどし、注意深く観察しましょう。

また、認知症の人は時に誤解や状況判断の遅れ、疲れ・集中力の欠如から思いがけない行動をとったり、転倒する恐れもあります。周囲の安全に気を配り、万一の可能性を予測しておくことも必要です。

適切な難易度の運動・達成可能でわかりやすい目標を

運動療法を続けても認知症が「治る」わけではありません。一番の目的はともに楽しみ、成功・成長した喜びを分かち合うことです。

プログラムが難し過ぎては意欲もそがれてしまいます。

一方、簡単すぎると達成感がもてません。特に認知症の人は試されるというシチュエーションが苦手で、失敗することでたくさん傷ついてきています。

ちょっと失敗もあるけれど、7-8割は成功するくらいを目安に、おおむね成功して自尊心が引き出される難易度の運動を目安にしましょう。

また、ベッドに寝ていることが多い人がイスに座る時間を延ばす、肩が上がりにくい人が洗濯物を干せるようになるなど、無理のない範囲で成功でき、達成が目に見えてわかりやすい目標を立てましょう。

意欲を引き出すプログラムを

これまで行ってこなかったジョギングをいきなり始めるのは無謀ですし、ウォーキングをしてもらおうとしても、目的のない散歩を好まない人も多いものです。

散歩ではなく角のコンビニに買い物に行くなど、その人が取り組みやすく意欲がわくようなプログラムを考えましょう。成功した、向上したときにはしっかり、そのことをたたえることも大切です。

自ら体を動かす工夫を

認知症の人は触られることに敏感なため、他の人に体に触れられて動かされると、驚いて思いがけない行動になったり、無理に力を入れてしまったりして、専門職や慣れた方でない限りリスクが高いもの。

ボールを転がす、風船をはたく、音楽のリズムにのってもらうなど、自ら運動をしてもらうような工夫をしましょう。

しっかりとコミュニケーションを

認知症の人は運動の指示をうまく理解できなかったり、理解できても次の動作に移る前に忘れてしまったりすることもあります。しかしそれでご本人を責めるような態度をすると、運動そのものが嫌いになってしまいます。

ご本人にとって、わかりやすい言葉を使い、身振り手振り、時には一緒に行うことで、どんな運動をするのかしっかり伝えましょう。

どんな方でも、これまでの生活で、歩くなどの日常的な運動に取り組んできた経験はきっとあるでしょう。しかし、目標を立て、適切なアドバイスを受け、プログラムを工夫し、自ら動きたくなるような運動療法として取り組むと、予想以上の効果がみられることもあります。

一方、日常的であるがゆえに運動に潜むリスクも見逃しがちです。適切に運動療法を取り入れることで、生活を安定的に支えることができるのです。

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この記事の制作者

志寒浩二

著者:志寒浩二(認知症対応型共同生活介護ミニケアホームきみさんち 管理者/介護福祉士・介護支援専門員)

現施設にて認知症介護に携わり10年目。すでに認知症をもつ人も、まだ認知症をもたない人も、全ての人が認知症とともに歩み、支え合う「おたがいさまの社会」を目指して奮闘中。

(編集:編集工房まる株式会社)

伊東 大介

監修者:伊東 大介(慶應義塾大学医学部神経内科・准教授)

1967年生まれ。1992年、慶應義塾大学医学部卒業。
2006年より、慶應義塾大学医学部(内科学)専任講師。総合内科専門医、日本神経学会専門医、日本認知症学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本医師会認定産業医。
2012年、日本認知症学会学会賞受賞。

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