日常生活自立支援事業とは?成年後見人制度との違いも解説
日常生活自立支援事業は、認知症や障害によって判断能力が不十分な方の金銭管理や福祉サービスの利用を支援する事業です。全国の社会福祉協議会によって実施されています。
日常生活自立支援事業の利用方法や、よく似た制度である成年後見人制度との違いなどをわかりやすくご説明します。
日常生活自立支援事業とは?
「日常生活自立支援事業」とは、高齢や障害などによって、一人では日常生活に不安のある方が、地域で安心して自立した生活が送れるよう、利用者との契約に基づき、福祉サービスの利用援助などを行うものです。
1999年10月から、「地域福祉権利擁護事業」として開始し、2007年4月から現在の名称に改称されました。
どんな支援を受けられる?
日常生活自立支援事業で受けられる支援は、大きく分けて以下の4つになります。
- 1.福祉サービス利用のサポート
- 高齢者や障害者が「介護保険制度」や「障害者自立支援法」等に基づく福祉サービスを利用する際の情報提供や手続きの支援
- 2.金銭管理
- 医療費や家賃、公共料金の支払い、預金の引き出しなど日常的な範囲の金銭管理
- 3.重要書類の管理
- 通帳や銀行印など重要書類等管理の支援
- 4.見守り
- 生活変化の見守り
誰がやっている事業なのか?
全国的なネットワークを有する、都道府県社会福祉協議会または指定都市社会福祉協議会が実施主体となっています。
ただし、事業の一部を市区町村社会福祉協議会、社会福祉法人などに委託することが認められているので、実際には、相談からサービスの提供まで、市区町村の社会福祉協議会が窓口となっています。
所属する「専門員」や地域から派遣される「生活支援員」が、利用者の生活の援助を行います。
日常生活自立支援事業はどんなサービス?
日常生活の範囲内での支援が中心で、あくまでも本人の意思が尊重されて行われます。おもに次のようなものが挙げられます。
①「介護保険制度」や「障害者自立支援法」に基づく福祉サービス等の利用の援助
- 福祉サービスの利用に関する情報の提供、相談、申し込み、契約の代行、代理
- 入所、入院している施設や病院のサービスや利用に関する相談
- 福祉サービスに関する苦情解決制度の利用手続きの支援
②日常生活に必要な事務手続きの支援
- 住宅改造や居住家屋の賃借に関する情報提供、相談
- 住民票の届け出などに関する行政手続き
- 商品購入に関する簡易な苦情処理制度(クーリング・オフ制度など)の利用手続き
③日常的金銭管理
- 福祉サービスの利用料金の支払い代行
- 病院への医療費の支払いの手続き
- 年金や福祉手当の受領に必要な手続き
- 税金や社会保険料、電気、ガス、水道などの公共料金の支払いの手続き
- 日用品購入の代金支払いの手続き
- 預金の払い戻し、預け入れ、預金の解約の手続き(代理権の範囲は、本人が指定した金融機関口座に限定)
④書類等の預かり物の保管
- 年金証書、預貯金通帳、証書(保険証書、不動産権利証書、契約書など)、実印、銀行印、その他実施主体が適当と認めた書類(カードを含む)等の預かり
※自宅や貸金庫の鍵、遺言書、宝石、書画、骨とう品、貴金属、現金、大きな価格変動がある有価証券は預かり不可
注意しておきたいのは、医療行為の同意や施設入所にともなう身元引受人や保証人にはなれません。また外出援助やヘルパーが対応するような買い物、確定申告等も本事業ではできないことになっています。
なお、実施主体が設定している訪問1回あたり利用料は平均1,200円です(ただし、契約締結前の初期相談等に係る経費や生活保護受給世帯の利用料については無料)。
日常生活自立支援事業はどんな人が対象?
対象者は、軽い認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が不十分な方で、日常生活を営むのに必要なサービスを利用するための情報の入手や理解、判断、意思表示に関して、本人のみでは適切に行うことが難しい方です。
ここには、認知症の診断を受けていない方や障害者手帳を取得していない方も含まれます。
ただ、判断能力が不十分といっても、この事業の契約内容を理解できる程度の能力は必要とされています。
成年後見制度とは何が違う?
日常生活自立支援事業のほかに、判断能力が不十分な人に対する権利擁護の制度としては、「成年後見制度」もあります。
両者の違いについて、比較してみました。
- 援助の内容
-
日常生活自立支援事業が、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭等の管理に限定しているのに対して、成年後見制度は、日常的な金銭に留まらないすべての財産管理や身上監護(福祉施設の入退所など生活全般の支援等)に関する契約等の法律行為を援助できます。
例えば、不動産の処分や管理、遺産分割、消費者トラブルの取消しなども成年後見制度であればできます。
- 判断能力
- 本事業の場合、認知症などであっても契約の意味、内容を理解できる判断能力は必要ですが、成年後見制度(法定後見)は不要です。
- 利用の意思
- 日常生活自立支援事業の場合、本人の意思でサービスを終了できるのに対し、成年後見制度(法定後見)の場合、判断能力が回復しない限り、利用者が亡くなるまで任意にやめることは原則できません。
- 費用
- 費用も、日常生活自立支援事業は実施主体によって利用料が決まっています。
しかし、成年後見人制度では、本人の財産、後見人の業務内容によって家庭裁判所が後見人の報酬を決定します。
日常生活自立支援事業と成年後見人制度、どちらを選べばいい?
日常生活自立支援事業は、成年後見制度(任意後見)の利用を検討するほど、財産はないけれども、足腰が多少衰えたり要介護状態になったりして、銀行に行くなど、日常的な財産管理が難しくなった方などが気軽に利用できるサービスと言えます。
しかし、徐々に判断能力が低していけば、成年後見制度を併用あるいは本事業を解約して移行するなどして、必要に応じて、切れ目なく支援を受けられるようにしたいものです。
日常生活自立支援事業を利用するには?
利用を開始するまでの流れ
- 1.相談申し込み
- まず、利用希望者は、最寄の社会福祉協議会などに申請(相談)します。
- 2.相談・判断能力判定
- そこで、利用希望者の生活状況や希望する援助内容を確認するとともに、「契約締結判定ガイドライン」あるいは契約締結審査会で、本事業の契約の内容に関する判断能力の判定が行われます。
- 3.支援計画の作成
- 要件に該当すると判断された場合、援助内容や実施頻度等の具体的な支援を決める「支援計画」が策定されます。
- 4.契約締結・サービス開始
- 契約が締結されると、計画に基づいて生活支援員によるサービスが開始されます。
利用開始までにかかる期間
初回相談から契約締結までにかかる期間は、約3~6ヵ月です。本人状況や契約締結審査会の開催時期によっては、それ以上かかることもあります。
また、支援計画は、利用者の必要とする援助内容や判断能力の変化など、利用者の状況を踏まえ、定期的に見直されます。
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この記事の制作者
著者:黒田 尚子(ファイナンシャル・プランナー)
CFP®資格、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
1998年FPとして独立。2009年末に乳がんに告知を受け、自らの体験から、がんなど病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力。著書に「がんとお金の真実(リアル)」(セールス手帖社)、「50代からのお金のはなし」(プレジデント社)、「入院・介護「はじめて」ガイド」(主婦の友社)(共同監修)などがある。