注目の認知症ケア・ユマニチュードとは?4つの基本をイラストで解説

ユマニチュードとは「人間らしさを取り戻す」ことを意味するフランス語で、フランス発祥の認知症のケア技法のことです。「人間らしさと優しさに基づいた認知症ケア」を表現する言葉として、日本でも注目を集めている考え方です。

ご自身のご家族の介護で悩んでいる人もそうではない方も、この考え方に触れてみると、介護「する人」と「される人」の双方が人間らしく寄り添うことの大切さが見えてくるはずです。
 

ユマニチュードとは?

ユマニチュードとは、平等・友愛の精神を大事にする「優しさ」のケアを表す言葉であり、人間らしさを形にした介護のことです。

ユマニチュードはフランスで生まれたケア技法

1979年、フランスの体育学専門家、イヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏の2人が考案した技法が「ユマニチュード」です。看護や介護現場で「うまくいくケアと、いかないケアの違いとは何か?」を丁寧に観察することによって考案されました。

認知機能が低下した方は、介護者を拒絶したり、感情的になったりすることがあります。

このような現場での数々の失敗体験をもとに、理論からではなく、介護ケアの実践の中で「ケアの本質は何か?」を求めることで考案された、シンプルで分かりやすい技法なのです。

日本では2014年頃から普及啓発が始まりました。

ユマニチュードの哲学

ケアをする側とされる側はお互いに対等だと思っていても、ふとした時に立場の違いが出てしまうもの。

“人間は生まれながらにして自由であり、尊厳と権利について平等である”という理念を実現させる手段としてケアの技術を捉えているのがユマニチュードです。

平等であることを、ケアの技法に具体的に示したことは、ケアする側、される側ではなく、共に「優しさ」を共有することに繋がるのです。
 

ユマニチュードは何を目標にしているケアなの?

ユマニチュードはご本人と一緒に伴走することを目標にしている介護ですが、ケアをされる側の状態によって、さらに3つにわけることができます。

回復を目指す

ケアの目標は、第一に心身の回復をめざすものでなければなりません。その人自身ができていることまで手伝って回復を阻害することのないよう、改善を目標とするケアが大切です。

たとえば、「歩く」ことを目標としているのであれば、体を拭くときもなるべく立った状態で行えないか、というアプローチをします。

ベットで寝たまま体を拭くのは介護者にとっては安全でも、ご本人にとっては回復を阻害するケアになりかねません。回復を目指すケアとは、本人の能力を最大限に生かすために常に、目標を第一に考えることなのです。

機能を保つ

次の目標は、今ある機能を少しでも維持していくことです。

出来るか、出来ないかを、介護者が判断するのではなく、ご本人が出来ることや、やれることを優先したケアを目指します。少しでも歩けるのであれば、目的の場所までは無理でも、その途中まで付き添うことで歩くという行為を少しでも実現できるよう支援します。

最後まで寄り添う

最後は、たとえ回復も維持も困難な状況であったとしても、ご本人の尊厳を大切にし、最後までその人らしく過ごせることを目指します。

たとえば、がんの終末期のケアでは、自分で着替えができるなら一緒に行い、「時間だから着替えましょう!」といった強制的なケアにならないよう寄り添います。
 

ユマニチュードには基本となる4つの柱がある

ユマニチュードでは、介護を提供する側の心構えとして4つのケア技術を提唱しています。

見る

「見る」という行為により、ポジティブなメッセージを伝える技術です。基本は【水平な高さで、近い距離で、長い時間相手を見る】というものですが、“見方”にも3つのポイントがあります。

(1)同じ目線で見ることで、相手を平等な存在として見ていると伝える
(2)近くから見ることで、優しさや親密さを伝える
(3)正面から見ることで、正直さ信頼感を伝える

また、長い時間見つめることで、友情や愛情を示すメッセージとなります。

具体的には、介護者が相手(ご本人)の視線を「つかみに行く」気持ちで接するとうまくいきます。これは、天井を見上げている赤ちゃんが、お母さんの顔に目線を向けて次第に認識していく、そういったイメージです。

逆に、水平ではなく垂直(上下)に見ると相手を見下したり支配しようとしたりしている印象を与えてしまいます。また、横から見る行為は関係性を築くのに否定的な印象を与え、さらに、ちらっと視線を送る行為は相手に恐れや不安を与えてしまいます。

話す

「話す」技術で大切なのは、声のトーンは優しく、歌うように穏やかに語りかけることです。話せない方をケアする場合は「オート(自己)フィードバック」という技法を使います。これは自分が今実施しているケアの内容を「実況中継をする」することです。

たとえば、体を拭くときは、以下のような順番で行います。

1. 「右手を上げてください」と声をかける
2. 3秒待つ
3. 「右手を上げてください」と声をかける
4. 再度、3秒待つ
5. もし右手が上がらないときは「それでは、天井を指さしてください」というように、言葉を変えてみる

このように、相手の反応を見ながらコミュニケーションをしていきます。

触れる

3つ目の技術は、「触れる」ことです。

触れることは、ケアの全てと言ってもいい訳ですが、一番やってはいけないことは、つかんだり、ひっかいたり、つねったりすることです。手のひら全体で優しく背中に手を添えるなど、広い面積でゆっくりと優しく触れましょう。

また、敏感な場所である顔や手や唇などの部位は、大脳にも瞬時に情報が伝わりやすく、こういった部位に急に触ると、相手はとても驚いてしまいます。

一方で、体幹や上下肢は感度が低いため、まずは、背中や上腕などの部位から触れることで、安心感を与えられるでしょう。

立つ

人間にとって「立つこと」は、尊厳や人間らしさの象徴とも言えるものです。

ユマニチュードでは、ケアが必要な高齢の人に1日20分ほどの立つ時間や機会を作れば、立つ能力は維持されると提唱されています。

また「立つこと」は多様な組織・器官に生物学的に良い影響を及ぼします。

例えば、

骨・関節系
骨に過重がかかることで骨粗しょう症を防ぐことができる
骨格筋計
立位のための筋肉を使うことで、筋力の低下を防ぐ

といった具合です。

また、内蔵などの身体の中にも、以下のようなよい影響を及ぼすことが考えられます。

循環器系
血液の循環状態を改善する
呼吸器系
肺の容積を増やすことができる

立つことを諦めないで「いかに立位を組み込めるか」と意識してケアを行うことが、ご本人に人間としての自信や誇りを取り戻すきっかけになるのです。

ユマニチュードを実践!「5つのステップ」とは?

ユマニチュード技法をとりいれる介護現場では、日々の活動を5つのステップで区切り、まるで出会いから再会の約束まで物語が展開されるようにとらえていきます。

出会いの準備

出会いの準備とは、自分が来訪したことを知らせ、これからケアに入るという予告をすることを指します。

具体的には、以下のような手順になります。

3回ノック→②3秒待つ→③3回ノック→④3秒待つ→⑤1回ノックしてから(「入りますよ」と声をかけて)部屋に入る→⑥ベッドボードをノックする

なぜこのように、ノックをする必要があるのでしょう。

自分が寝ている時を想像してみてください。トントントンと音がしても、夢うつつだった場合でも、2回目のノックでようやく反応をすることもあるでしょう。もちろん、最初に返事があれば、2回目以降のノックは不要です。

大事なことは、自分が来たことを告げて、相手の反応を待つことを繰り返し、徐々にこちらの存在に気づいてもらい、次のケアに繋げていくことです。

ケアの準備

介護現場では、「今から入浴しますよ!」と、こちらの事情を宣言するような、一方的な声掛けがなされることがあります。

しかし、ユマニチュードは、このようなシーンではケアの合意を得るプロセスを重要にしています。

20秒から3分間程度の時間をかけて、相手に合意を得られなければ、ケアすることは諦めて、出直しましょう。合意のないまま行うケアは「強制のケア」です。「無理矢理のケアはせず、そのときは諦める」という姿勢が大切で、相手に、嫌がることを強制する人だと認識されてしまうと、次には繋がりません。

知覚の連結

ケアの了解が得られたら、次のステップに移ります。知覚の連結とは次のようなことです。

  • 常に「みる」「話す」「触れる」のうちの2つを行うこと
  • 5感から得られる情報は常に同じ意味を伝えること

相手の視覚・聴覚・触覚のうち、少なくとも2つ以上の感覚へ、調和的でポジティブな情報を伝え続けます。

たとえば、「目を見ながら、背中に触れる」とか、「説明をしながら、手を添える」といった、普段何気なく行っていることは、同時に2つのアクションを取っていると言えます。

感情の固定

ケアが終わったら、気持ちよくケアが受けられたことをご本人の記憶にしっかりと残し、次のケアに繋げましょう。

たとえば

  • ケアの内容を前向きに確認する→「シャワーに入って、気持ちよかったですね。」
  • 相手を前向きに評価する→「シャワーをしてさらに素敵になられましたね。」
  • 共に過ごした時間を前向きに評価する→「私も、とてもうれしかったです。」

というように、前向きな言葉のやり取りを通して、「この人は自分に嫌なことをしない」という感情の記憶を残すことが目的です。

再会の約束

最後にそばを離れる前に、再開の約束をします。「認知機能の衰えがあるから、すぐに忘れてしまうだろう」という思い込みをやめ、「また来てくれるんだ」という楽しい感覚を、感情記憶にとどめてもらうようにします。

次回の約束をメモに残して、置いておくのも効果があります。常に目に触れることによって、約束を楽しみに待つこともあるでしょう。

こうすることで、次回のケアがスムーズに繋がるのです。
 

ユマニチュードの効果とは?

実践の現場からは、様々な変化や、よい効果が報告されています。

入浴が嫌でいつも拒否するために、これまでは力づくでお風呂場に連れて行くようなケアをしていた現場では、それを、ご本人のペースに合わせて散歩をすることから始めて、その流れで自然と入浴に誘うことで、喜んで入浴をすることができたそうです。

また、一番の効果は、介護者が抱きがちな「罪悪感」から解放されることです。

介護の仕事はすべて、相手のためを考えての行為であることは間違いないのですが、一方で、介護する側も、される側も「申し訳ない」という気持ちを感じる場面が多いのも事実です。

本当の笑顔に触れ、介護する側もされる側も、一緒に笑い、充実感に包まれる。このことが、ユマニチュードの大きな効果です。
 

まとめ

認知症の問題とは、認知機能が衰えることではなく、社会の中で見たり、聞いたり、話したりといった、当たり前の日常の行いから、次第に遮断され、まるで、無人島でひとり隔絶されて過ごしているような生活になってしまうことが問題なのです。

人間らしい生活を送ることは、高齢者であっても最期まで大切な営みであり、この当たり前の考えを、ケアの技法に活かしたのがユマニチュードです。

この考え方を知って、できるところから、実践してみてはいかがでしょうか。

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この記事の制作者

重山 三香子

著者:重山 三香子(精神保健福祉士・介護支援専門員・公認心理師)

福祉学科を卒業後、障害者施設や通所介護の生活相談員を経験。その後福祉・介護職員のメンタルヘルスに興味を持ち、働く人の心の健康である産業精神保健分野を専門に活動。
現在は障害者支援施設の運営にかかわる一方で、働く人の環境や、働き方、健康経営についても情報発信を行っている。

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