成年後見制度とは?法定後見・任意後見の違いや手続きの流れ

成年後見制度とは、高齢者や認知症を患っている方などの財産を守るための制度です。支援をすることになる成年後見人は本人の代わりに財産管理や契約行為をサポートすることができるので、賢く活用すれば判断力が低下しても生活に困ることは少なくなります。本記事では成年後見人制度が必要な理由や法定後見制度と任意後見制度の違い、成年後見人等の選任について詳しく解説していきます。

成年後見制度(せいねんこうけんせいど)とは 

成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が十分ではない人を保護するための制度です。この制度は、判断能力が不十分となった人に代わって、家族などが代理人(後見人)となって、財産管理や身上監護(契約締結など生活、治療、療養、介護などに関する法律行為)を行います。認知機能の低下した人が高額な商品の詐欺にあってしまうことや、誤って購入してしまうことなどを防ぐことができます。

制度の成立と背景

現在の成年後見制度は、1999年に民法が改正(2000年4月に施行)されたものであり、介護保険制度と成年後見制度は高齢者の生活を支える両輪に喩えられ同時期に発足しました。

それ以前は、禁治産制度・準禁治産制度というものでした。禁治産制度では、禁治産という名称が差別的な印象を与え、戸籍に記載されることなどが問題視されていましたが、1999年の民法改正では、禁治産が「後見」、準禁治産が「保佐」に改められ、これに「補助」が新たに加えられて3 類型となり、任意後見制度が新しく創設されています。

成年後見人の役割

成年後見人等は、本人の生活・医療・介護・福祉など、本人の身のまわりの事柄にも気を付けて本人を保護・支援することが役割です。

具体的には、本人の不動産や預貯金などの財産の管理、本人の希望や体の状態、生活の様子等を考慮し、必要な福祉サービスや医療が受けられるよう、介護契約の締結や医療費の支払などを行います。

食事の世話や実際の介護などは、一般に成年後見人等の職務ではありません。成年後見人等はその事務について家庭裁判所に報告し、家庭裁判所の監督を受けることになります。

成年後見人制度が必要な理由

必要な契約や手続きを行うことができない

成年後見人を立てないと銀行などの金融機関の手続きや、不動産などの資産の売却ができないという困りごとが発生してしまいます。たとえば、家族が認知症を発症している本人に代わって銀行で定期預金などの解約手続きをしようと思っても、銀行から成年後見人を立てるように要求され解約ができないということがあります。

詐欺や財産の使い込みなど財産管理が心配

成年後見人がいれば、適正な判断ができない本人に代わって財産管理をしてもらえるため、詐欺や財産の使い込みを防ぐことができます。たとえば、ひとり暮らしの高齢者を狙って高額商品を売りつける詐欺被害にあってしまった場合、成年後見人がいれば、取り消しをスムーズに行ってもらえるということがあります。

成年後見制度の注意点

成年後見の申立てをしても必ずなれるという保証はない

成年後見人の申立てをした方が必ず後見人になれるわけではありません。誰が本人の権利を護ることが一番適切なのか、家庭裁判所が公平・中立な立場で判断をします。その結果、司法書士や弁護士などの第三者が選ばれてしまうケースがあり、特に資産家はその傾向が強いため慎重に検討が必要となります。

また、近年は社会福祉士、行政書士、税理士、あるいは社会福祉協議会が後見業務を担当するケースなどもあり、担い手も多様化しています。

司法書士や弁護士が成年後見人になると報酬が発生

報酬は本人の財産から支払うことになります。一時的に不動産売却のために成年後見人を利用したとしても、司法書士や弁護士には本人が生きている間は継続して報酬を支払わなければならないことになりますので注意が必要です。 

途中でやめられない

基本的に、途中でやめることができませんので、申立てする前に検討が必要です。

家庭裁判所の報告がある

財産の使い込みなど不正防止ため、家庭裁判所に毎年、報告・手続きを提出しなければならない手間がありますので注意が必要です。

できることとできないことがある

成年後見人は本人に代わり何でもできるわけではありませんので注意が必要です。たとえば本人が生存するために不要な不動産を売却するなどはできません。

また成年後見人は家族ではありません。たとえば、家族・親族が遠方のため対応できない場合や、遺産相続等で公平性を期すために後見人が選定されることもあります。

家族信託制度との違い

成年後見制度と類似する制度に『家族信託制度』があります。

家族信託制度とは、本人が元気なうちに家族に財産の管理を託し、託した財産を誰が引き継ぐのかを決めておく制度です。


>家族信託制度の詳細はこちらをご覧ください。

【イラスト解説】家族信託とは?親が元気なうちに考えたい認知症対策

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成年後見人制度の種類「法定後見制度」と「任意後見制度」の違い

成年後見制度は、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つから構成されていて、法定後見制度はさらに「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれています。

法定後見制度とは

法定後見制度とは、文字どおり法定(民法)に規定された制度のことで、すでに判断能力の全部または一部が不十分である状態で手続きを開始することが大きな特徴です。法廷後見制度には障害や認知症の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの種類があります。

成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)は家庭裁判所によって選出され、本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為をしたり、本人が自分で法律行為をするときに同意を与えたり、本人が同意を得ないで行った不利益な法律行為を後から取り消したりすることによって、本人を保護・支援します。

後見

後見
対象となる方 判断能力が全くない方
申立てができる方 本人、配偶者、四親等以内の親族、検察官、市町村長など
後見人等に与えられる権限 財産管理の代理権、取消権(※1)
申立てにより与えられる権限 -

補佐

保佐
対象となる方 判断能力が著しく不十分な方
申立てができる方 本人、配偶者、四親等以内の親族、検察官、市町村長など
後見人等に与えられる権限 借金、相続の承認、家の新築や増改築など特定の事項(※2)についての同意権、取消権(※1)
申立てにより与えられる権限 ・借金、相続の承認、家の新築や増改築など特定の事項(※2)以外の事項についての同意権、取消権
・特定の法律行為についての代理権

補助

補助
対象となる方 判断能力が不十分な方
申立てができる方 本人、配偶者、四親等以内の親族、検察官、市町村長など
後見人等に与えられる権限 -
申立てにより与えられる権限 借金、相続の承認、家の新築や増改築など特定の事項(※2)の一部についての同意権、取消権(※1)
・特定の法律行為についての代理権

※1)ただし、日用品の購入など日常生活に関する行為は除く
※2)民法13条1項にあげられる行為
参考資料:東京家庭裁判所ホームページ「成年後見とは」

東京家庭裁判所ホームページ「成年後見とは」

任意後見制度とは

任意後見制度とは、認知能力があるうちに自分で成年後見人を選ぶことができる制度です。法定後見制度と同様に、親族、弁護士、司法書士などから後見人を選ぶことが可能となっています。

>任意後見制度の詳細はこちらをご覧ください。

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成年後見人等にはどのような人が選ばれる?

成年後見人等は、本人のためにどのような保護・支援が必要かなどの事情に応じて、家庭裁判所が選任することになります。本人の親族以外にも、法律・福祉の専門家その他の第三者や、福祉関係の公益法人その他の法人が選ばれる場合があります。

また近年は、市民後見人という立場で一般市民がその役割を担うケースもあります。

また、成年後見人等を複数選ぶことも可能で、成年後見人等を監督する成年後見監督人などが選ばれることもあります。後見開始等の審判の申し立てをして、成年後見人等に選ばれることを希望していた場合でも、家庭裁判所が希望どおりの人を成年後見人等に選任するとは限りません。

希望に沿わない人が成年後見人等に選任された場合であっても、家族や本人は相応の理由がない限り成年後見人の解任ができません。

成年後見人等に選ばれる可能性がある人

  • 親族
  • 法律・福祉の専門家
  • 福祉関係の公益法人
  • その他の第三者

親族が後見人になれないケース

  • 未成年者
  • 法定代理人(成年後見人を含む)、保佐人・補助人を解任された人
  • 破産者
  • 被後見人(本人)に対して訴訟をしたことがある人やその家族など
  • 行方不明である人

専門家などの第三者が適切と判断されるケース

  • 親族間に意見の対立がある
  • 本人に賃料収入等の事業収入がある
  • 本人の財産(資産)が多額
  • 本人の財産を運用することを考えている
  • 本人の財産状況が不明確である
  • 後見人が自己またはその親族のために本人の財産を利用しようとしている

複数選出する共同後見を活用するケース

  • 財産の所在地ごとに管理する後見人を分ける場合
  • 兄弟姉妹間で手続き等の分担ができる
  • 兄弟姉妹間で相互監督機能を持たす場合

後見人等にできないこと6つ

日用品の購入のほか、下記4~6は、本人の意思決定によるべきものとされます。

  1. 食事や排せつ等の介助等の事実行為
  2. 医療行為への同意
  3. 身元保証人、身元引受人、入院保証人等への就任
  4. 本人の住居を定めること
  5. 婚姻、離婚、養子縁組・離縁、認知等の代理
  6. 遺言

成年後見制度 手続きの流れ

1. 後見(保佐・補助)開始の審判の申立て

2. 審理

  • 申立書類の調査
  • 申立人、本人、後見人等候補者の調査
  • 親族の意向照会
  • 家庭裁判所の予備審問
  • 鑑定の実施(必要な場合)

3. 審判

  • 後見(保佐・補助)開始の審判(申立て却下の審判)
  • 後見人(保佐・補助)選任の審判→後見人等が誰になるか決定する
  • 成年後見(保佐・補助)監督人の選任(必要な場合)

4. 審判確定

  • 審判書受領後2週間で確定

5. 後見登記

  • 家庭裁判所から東京法務局に嘱託登記

成年後見制度の申し立て方法

相談先

成年後見制度を利用したい場合は、市区町村の高齢者福祉課等、社会福祉協議会、地域包括支援センター、成年後見を業務とするNPO等があげられます。自分が一番話をしやすいところで相談しましょう。

成年後見の申立てをする人

成年後見の申立てをする人は、本人、配偶者、四親等内の親族等が多いです。

申立てをする親族がいない等のときは、市区町村長が申し立てをする場合もあります。

申立てをする場所

申立ては本人の住所地の管轄する家庭裁判所にします。 (東京の場合:23区・諸島は東京家庭裁判所(後見センター)、23区以外の東京の市町村は東京家庭裁判所立川支部 後見係)

申立てにかかる費用

後見や保佐と異なり、補助開始の審判の際には、「本人の同意」が必要です。申し立てにかかる費用は1万円程度で、診断書や鑑定費用も含めると、2万円弱から18万円程かかります。

申立てに際し必要な書類

  • 本人の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 本人の住民票又は戸籍附表
  • 後見人候補者の住民票又は戸籍附表
  • 本人の診断書(家庭裁判所が定める様式のもの)
  • 本人の「登記されていないことの証明書」
    (成年被後見人、被保佐人等に該当しないことの証明)
  • 本人の財産に関する資料等
    (不動産登記事項証明書・預貯金及び有価証券の残高がわかる書類)

加えて、推定相続人となる親族について調査のうえ、全員に対し、本人に後見人等をつけることについて説明しておくと後々のトラブル発生を防ぐことができるかもしれません。

後見人等を解任する方法

後見人に不正な行為、著しい不行跡、その他後見の任務に適しない事由がある時、家庭裁判所は、申立権者の請求、または職権により後見人等を解任することができます。

申立権者は、後見監督人、被後見人、被後見人の家族、検察官となります。

成年後見制度利用するには慎重に検討が必要

成年後見制度は、本人の財産管理など安心できる部分はありますが、制度の利用が始まるとほぼ、一生涯利用し続けなければならないということをよく理解することが大切です。

成年後見制度は「誰かの権利を護る」ということ。裏を返せば「誰かの権利を奪うことにもつながる制度」であることを忘れないようにしたいものです。

特に近年では第三者の後見人の割合が増加傾向にあります。地域包括支援センターをはじめ、医療・介護・福祉の関係機関に相談や連携をしていくことが求められます。

一時的に不動産売却で成年後見制度の利用を検討するならば、家族信託制度も一緒に検討することをオススメいたします。

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 イラスト:安里 南美

この記事の制作者

山本 武尊

監修者:山本 武尊(主任介護支援専門員・社会福祉士)

地域包括支援センター 元センター長。介護現場の最前線で業務をすると共に、介護業界の低待遇と慢性的な人手不足の課題解決のため介護に特化した社会保険労務士として開業。
現在は介護関連の執筆・監修者、介護事業所向け採用・教育・育成や組織マネジメントなど介護経営コンサルタントとしても幅広く活躍中。

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