質問

同居する義理の父は、アルツハイマー型の認知症です。昔は熱いお風呂にゆっくり浸かるのが好きだったのですが、認知症が進んでからは「汚れていないから入らない」や、実際は入浴していないのに「昨日入ったからいい」と言い、入浴を拒否します。身体は元気だし、衛生面でも週に1~2回くらいは入ってほしいのですが、どうすればうまく誘導できるのでしょうか。アドバイスお願いします。

回答
浅井 郁子

入浴は、身体を清潔に保って夜の睡眠効果も促し、血液の循環や代謝機能を高めて床ずれの予防にもつながる大切な行為です。しかし、認知症の症状が進むと、これまでお風呂が好きだった人も入浴を拒否するケースが多くあります。
本人には入りたくない理由があるのです。その理由とお風呂への誘導の仕方、そして入浴時の安全について解説します。 浅井 郁子(介護・福祉ライター)

【目次】
  1. 入浴を拒否するさまざまな理由
  2. 効果的な声かけや誘導の仕方
  3. 在宅での入浴介助で気を付けること
  4. 家族の介助が難しい時は、介護サービスを利用する
  5. まとめ

入浴を拒否するさまざまな理由

認知症の有無に限らず、一般に高齢になると体力が落ちてきますので、入浴に伴う動作はつらくなってきます。お風呂好きだった人でも、毎日の入浴が1日おきになったり、入浴を面倒だと思うようになったりします。

これに加えて認知症の人の場合は、認知機能の衰えから症状が進むにつれて、入浴そのものの意味が理解しがたくなってきます。お風呂が嫌いになったというよりも、入浴手順がわからなくなっている可能性があるのです。また、不安感から感情が敏感になっていますので、服を脱いで裸になることに強い抵抗を感じている人もいます。

入浴拒否がある時は、本人の思いや様々な理由を想像してあげることが大事です。本人はなぜ入浴を無理強いされているのかがわからないまま、嫌な気分だけが残ってしまい、「お風呂」という言葉を聞いただけで拒否してしまう可能性あります。

これらをヒントに、本人がなぜ拒むのかを一度考えてみてください。そして、お風呂に入らないことを単に責めないようにしましょう。


認知症の人が入浴拒否をする思いや理由には、次のようなことが考えられます。

①「入浴」といわれてもなんのことかわからない
「お風呂」とか「入浴」という言葉の意味が理解できなくなっています。

②お風呂の入り方が思い出せず行動できない
「お風呂」の意味はわかっていても、どうやって入るかなどの手順がわからなくなっていて、動けないのです。

③裸になることに抵抗がある
体を見られるのが恥ずかしい、本能的に無防備になることに恐怖心がある、寒いので嫌、などの理由です。

④今はお風呂に入るタイミングではない
見たいテレビ番組がある、寝ていたい、疲れているので動きたくないなど、他のことに興味が向いている状態です。

⑤記憶違いをしている
お風呂に入ったことを忘れるケースもあれば、入っていないのに入ったと思い込んでいる場合があります。

⑥強制されることが不快と感じている
介護者が無理強いをしていることだけが感情に残ってしまって反抗します。

⑦もともとお風呂が嫌い
もともとお風呂が嫌いな人です。



効果的な声かけや誘導の仕方

あくまでも、本人が入浴することを納得していることが大切です。そのため、介護者は拒否された時はそのまま受け止め、入らないとダメだというような言い方を控えましょう。無理強いをせずに、本人の拒否に対していったん理解を示します。そして、なぜ拒否しているのかの原因を探って、本人が納得しそうな入浴理由や興味を引きそうな言葉を考えてから、誘導の仕方を工夫します。


声かけの工夫と誘導の仕方

誘導のヒントになる例をいくつか紹介します。

①「お風呂」の意味を理解しているようでしたら、「一番風呂ですよ!」「今日はゆず湯ですよ」「温泉に入りましょうか」などのように、本人が興味を引きそうな言葉を付け加えます

②「お風呂」という言葉の意味が理解できていないようでしたら、お風呂の写真を見せたり、タオルやせっけんをもたせたりすると思い出す人がいます。また、あえて何も言わずにお風呂場に連れて行き、湯気の立っている湯船を見せたら、気持ちよさを思い出して入ってくれる場合もあります。

③お風呂の気持ちよさを思い起こさせる方法としては、足浴や手浴といった部分浴室内での洗髪を行ってみましょう。それによって気持ちよさを実感してもらえたら、「お風呂にも入りましょうか?」とか「シャワーを浴びますか?」などと声をかけてみてください。
また、「汗をかいているからお湯をかぶりますか?」や「シャワーで汗を流しましょうか」という風に、気持ちよさを想像してもらえそうな表現の声かけは効果があると思います。

④入浴の手順がわからないため、一人で入るのが不安そうな場合は、「一緒に入りましょう」「背中を流しましょうか」「私が手伝うから大丈夫ですよ」と声かけしてみてください。また、介助者が一緒に服を脱ぐと、安心して入ってくれる場合もあります。

本人にだけ通用するキーワードを見つけられると、あっさり入ってくれることがあります。例えば「明日“身体検査”があるのできれいにしましょう」とか「明日、友達の“○○さん”と会うからきれいにしましょう」などです。

質問者のケースのように、もともとお風呂が好きだった人の場合は、お風呂の気持ちよさの記憶があると思いますので、それを思い出せるようなヒントをいろいろ試してみてください。


在宅での入浴介助で気を付けること

入浴は危険を伴うこともあり、一般の高齢者でも注意が必要になります。そのため、認知症の人の入浴では、一人で入れる場合であっても、介護者はできるだけ気にするようにして、見守ってください。在宅における入浴の見守りや介助で気を付けることを解説します。


安全に入浴できる環境を整える

浴室は滑りやすくて事故が起こりやすいところです。床や浴槽内にはすべり止めマットなどを敷き、浴槽の出入りには必要な手すりをつけましょう。また、浴室の入り口の段差もなるべく解消する方法を検討してください。

衣類の着脱に肌寒さを感じて入浴を嫌がっているケースもあります。本人がお風呂に入る前には、脱衣所や浴室を温めておくようにします。一人で入浴できる場合も、蛇口の使い方がわからなくなっていたり、熱いお湯を出してしまったり、シャンプーなどのボトルが区別できなかったりしているかもしれません。入浴に使用するもの以外の小物は目の届かないところに移動させ、困っていそうなことがないかをよく観察して手助けするようにします。


必要以上の介助は控え、本人の自尊心にも配慮する

入浴介助をする場合は、体を洗う行為ではできるところは自分でしてもらい、できないところだけを介助するようにします。本人が納得していないのに介護者がいきなり手を出したら驚かせますし、本人の自尊心を傷つけてしまう恐れがありますので注意が必要です。
また、必要以上の介助は、本人の身体機能や意欲の低下を招いてしまう可能性もあります。



家族の介助が難しい時は、介護サービスを利用する

在宅介護の中でも、介護者にとって入浴介助は一番労力が必要な介護になります。時間がかかりますし、体力も使います。介助者も服を脱ぐことになれば面倒でしょう。また、義理の親子関係や異性間では、浴室までの誘導はできても浴室に入って入浴介助をするとなると、どの程度までできるかは人それぞれだと思います。

本人も介護者も、互いに我慢してまで行う必要はありません。
本人が一人で入浴できないようでしたら、介護サービスを利用して、早めにプロの手を借りることを検討しましょう。プロの介護スタッフは入浴拒否の例もたくさん見てきていますので、ノウハウももっていると思います。


介護サービスで入浴をお願いしようと思った時は、主に次の3つ方法があります。

訪問介護の「入浴介助」を利用する

ホームヘルパーが訪問し、自宅の浴室で入浴介助を行います。入浴の手順は本人の習慣に合わせますので、できるところは本人が行い、ヘルパーはできないことを手助けします。

なお、自宅で入浴する場合は、ケアマネジャーとよく相談し、浴室に手すりをつけたり、背もたれが付いている浴室椅子を購入したり、浴室の安全環境を整えるようにします。


▼通いのデイサービスやデイケア、泊りのショートステイで入浴する

日帰りや泊まりで、介護施設のお風呂に入ることができます。複数のスタッフにより本人の病状や状態に合わせた入浴方法をとってくれますので安心です。また、介護者の負担軽減のため入浴を目的としてデイサービスを利用する人も多くいます。


▼「訪問入浴」を利用する

訪問入浴を専門とする介護事業者が、利用者の自宅に浴槽と必要な器具機材を持参して、入浴の介助を行うサービスです。通常は看護職員1人と介護職員2人又は介護職員3人で訪問します。このサービスは、自宅の浴槽を使用するのが困難な人や、デイサービスなどに通うことが難しい人が利用しています。

>関連リンク:介護保険サービスの種類と内容



まとめ

入浴の誘導や介助を拒否されても、介護者は本人が嫌がる理由を理解する思いやりをもつことが大切です。「入浴は気持ちいいもの」と喜んでもらいたいという気持ちをもって対応してください。

誘導がうまくいって拒否反応がなくなったとしても、入浴に関する介助は体力を使いますし、浴室は滑りやすいため転倒などの危険も伴います。入浴は週に1~2回程度でもかまいませんので、それに合わせて訪問入浴やデイサービスを利用することを考えてもよいと思います。


このQ&Aに回答した人

浅井 郁子
浅井 郁子(介護・福祉ライター)

在宅介護の経験をもとにした『ケアダイアリー 介護する人のための手帳』を発表。
高齢者支援、介護、福祉に関連したテーマをメインに執筆活動を続ける。
東京都民生児童委員
小規模多機能型施設運営推進委員
ホームヘルパー2級