高齢の親の入院費用はいくらかかる?入院費を節約する方法を紹介
高齢の親が入院した場合、容態や元の生活への復帰の可能性に加えてお金に関連する心配ごともたくさん発生します。
このページでは入院費用はおおよそどのくらいかかるか、また節約する方法などを解説します。
親の入院はいくら位かかる?
入院費用はケースにより様々ですが、70歳の方が2週間入院した場合の費用をシミュレーションしてみました。
(例)70歳以上の方が2週間入院した場合の費用
- 医療費の自己負担分・・・5万7,600円(高額療養費制度における上限額を想定)
- 食事代の一部負担・・・1万9,320円(1食460円×3×14日)
- 差額ベッド代・・・大部屋を選べばかからない
- 公的医療保険象外の治療費・・・受けなければかからない
- その他の雑費・・・1万5,000円(日用品や見舞に来る家族の交通費・食費、快気祝いなど)
- 合計・・・9万1,920円
医療費の自己負担割合は、70歳未満の人は3割、70歳から74歳までの人は2割、75歳以上の人は1割と決められています。(※現役並みの所得者は3割)
入院すると医療費の自己負担額以外にも、1日3食の食事代、差額ベッド代、先進医療など公的医療保険対象外の治療費、その他の雑費が必要になります。
- ※現役並みの所得者とは
- 世帯内に課税所得145万円以上の方がいる場合。被用者保険加入者は、標準報酬月額が28万円以上。ただし、ひとり暮らしで年収383万円未満、2人世帯で年収520万円未満であれば、申請により「一般」に変更できる。
入院が長引くとその分費用も高額に
入院日数について確認してみましょう。「患者調査」では、傷病別の平均在院日数(70歳以上の高齢者を抽出)が公表されています(下図参照)。
近年、国の医療費削減政策により、入院日数は短期化していると言われていますが、70歳以上の入院理由の上位を占めている脳血管疾患などは、100日近い入院日数となっており、骨折による入院でも約50日と出ています。
なお、医療費については高額療養費制度(後述)により自己負担の上限額が定められているため、仮に入院が長引いたとしても、天井知らずというわけではありません。
入院時に保証金がいるケースも
支払いが滞らないように入院時に保証人を求めてくる病院は多く存在します。
最近は、クレジットカード番号を登録すると、保証人を不要にする病院も増えています。その他に、保証金を求めてくる病院もあり、その相場はおおよそ5~10万円位で入院時に預けます。
いざという時に支払えるよう、保証金や入院費をどこから出すか、誰が立て替えるかなど、事前に決めておきましょう。なお、支払った保証金は最終的に入院費と精算されるようになっています。
入院費・医療費を節約する方法
高額になりがちな入院費用の負担を減らすための制度をご紹介します。
医療費が減らせる高額療養費制度
高額療養費制度とは、1カ月にかかった医療費の自己負担分が高額になった場合に、自己負担限度額(ひと月の上限額)を超えた金額が払い戻される制度。
健康保険や国民健康保険など、公的な医療保険に加入している方であれば誰でも使うことができる、大変有難い制度です。
例えば、年収約370~770万円の70歳以上の方が、入院して窓口での支払いが100万円となってしまっても、高額療養費制度により、最終的な自己負担額は8万7,430円まで抑えることができます。
高額療養費制度は、同じ月内であれば、複数の医療機関での自己負担分をまとめることや、同じ世帯にいる方の(同じ医療保険に加入している場合に限定)の自己負担分を1カ月単位で合算することも可能です。
高額療養費制度は「限度額適用認定証」が必要
70歳未満の方が高額療養費制度を利用するには、医療機関の窓口に限度額適用認定証を提示する必要があります。
限度額適用認定証の発行は、加入している医療保険が行っているため、事前に手続きをしておきましょう。
70歳以上は、原則として限度額適用認定証の提示を求められませんが、住民税が非課税の場合は「限度額適用・標準負担額減額認定証」を、年収約370万円から約1160万円に該当すると「限度額適用認定証」の提示が求められます。
該当する方は、市町村の窓口で発行してもらいましょう。
医療費控除で払いすぎた税金を取り戻す
医療費控除とは、病気やケガで医療費が多額になった場合に、所得控除が受けられる制度です。
支払った医療費が10万円(総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%)を超えると、医療費控除の対象となります。
ただし、医療保険などで支給される入院給付金や高額療養費などは、実際に支払った医療費の総額から除かれて計算されます。
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入院費の支払いは「親のお財布」から
「親の入院費を子どもが負担する」といったケースを耳にします。しかし親の医療費は、親自身のお財布から出してもらうことを基本にしましょう。
高齢の親を持つ子どもの世代の多くは、住宅ローンや教育費など、自分たちの出費が重なる時期でもあります。親の医療費を負担することで、子世代の生活を圧迫してしまうこともあります。
そうならないためには、医療費はもちろん、将来介護が必要となった場合の費用も含めて、親の預貯金から出してもらえるように話し合っておきましょう。
また、話し合いの際は、預金通帳や印鑑、キャッシュカードの場所も確認しておくと、後々慌てなくて済みます。
さらに、親が医療保険に加入している場合は、給付金を請求するために速やかに保険会社へ連絡しましょう。
給付金の請求は、原則契約者が保険会社に連絡しますが、状況によっては契約者本人が連絡できない時もあるかもしれません。
その際は、「指定代理請求制度」を契約に付帯しておくことで、予め契約者が指定した代理人が請求できるようになります。
なお、指定代理請求制度の取扱いや内容は、保険会社によって異なります。
入院前にチェックすること
ここからは、親が急に入院することになった時でも困らないために、これだけは確認・準備しておきたいというポイントをご紹介します。
チェックしておきたいポイント
- 健康保険証(後期高齢者医療被保険者証)や診察券の場所
- 健康保険証や診察券は、いつでも出せるよう、予め保管場所を親に確認しておく必要があります。お財布に入れているのか、寝室の引き出しにしまってあるのかなど、親に聞いておきましょう。
- 介護保険被保険者証の場所
- 入院の準備でなぜ介護保険証が必要?と思うかもしれませんが、先述した入院理由の上位にランキングされている脳血管疾患や骨折などが原因で、介護が必要になるケースも多々あります。そのような場合に備えて、親の介護被保険者証の場所も確認しておきましょう。
- 持病の有無
- 場合によっては、入院時に親の意識がないということも想定できます。そうなってしまうと、意思疎通はもちろんのこと、持病の有無も確認することができません。持病については、親が元気なうちにノートなどに書いておくことをお勧めします。
- 服用している薬の種類
- 持病の有無と同様、服用している薬についても把握しておく必要があります。お薬については、親にお薬手帳に記録する習慣をつけてもらい、保管場所を教えておいてもらうとよいでしょう。
- 銀行の通帳
- 入院には、ある程度まとまったお金が必要になります。状況によっては、親の銀行預金から子どもが直接引き出さなければならないこともあります。後で揉めないためにも、預金通帳の場所はもちろん、医療費を支払えるだけの預金があるかなどを含めて、事前に親に確認しておきましょう。
- 印鑑の場所
- 通帳と同様、銀行の届出印の保管場所も聞いておきましょう。また、キャッシュカードを利用するのであれば、暗証番号も聞いておく必要があります。
- 加入している医療保険・生命保険
- 親が医療保険などに加入していれば、その給付金を入院費に充てることができます。そのために、保険に加入しているかどうかを確認するとともに、もし加入しているなら、保険証券の保管場所も聞いておきましょう。中には、保険に加入しているのかを忘れてしまっている場合もあります。もし不明なら、付き合いのある保険代理店の担当者や保険会社などに確認することをお勧めします。
まとめ
当コラムではさまざまな準備方法をご紹介しましたが、親から確認したことを忘れないために、専用のノートを作って書き留めておくとよいでしょう。
その際、市販のエンディングノートを活用すると、自分の健康状態やお金のこと、さらには希望する終末期の在り方なども書けて便利です。
また多くの病院には、「医療相談室」が設置されています。医療相談室には医療ソーシャルワーカーなどの専門員が滞在し、患者さんの入院費用や入院生活などのさまざまな悩みの相談に応じています。
困ったことがあったら、足を運んでみましょう。
【FPが答える】入院中の親の口座から預金を引き出したいイラスト:安里 南美、上原ゆかり
この記事の制作者
著者:小沢 美奈子(ファイナンシャル・プランナー/ライター)
K&Bプランニング代表
大学卒業後、損害保険会社にて社員教育、研修講師などを経験。約12年間勤務後、外資系損害保険会社で営業に従事。2012年ファイナンシャルプランナーとして活動開始後は、Webや書籍などで記事執筆、セミナー講師、家計相談などを行う。シニアや生活困窮者のライフプランにも力を入れる。フォトライターとしても活動。
ホームページ http://kandbplanning.org/