【栄養士が解決】準備したご飯を食べてくれません。どうしたらいいの?

食事を食べない

高齢になると、食の好みが変わったり、感じる味が変わったり、入れ歯が合わなくてうまく噛めなかったり、病気のために飲み込みが悪くなったりと、今まで食べてくれたものを食べてくれなくなり、困ってしまうことも。

せっかく用意した食事を全然食べてくれないと、イライラしてしまうときもありますよね。

保子さんのエピソード

95歳の加藤保子(仮名)さんは、娘さんと二人暮らしをしています。

最近は体力が落ちてしまって、ほとんどベッドで過ごしていますが、ベッドから冷蔵庫までとベッドからトイレまでは、一人でいろいろなものにつかまりながら、歩いていくことはできます。

娘さんは日中仕事をしているため、朝食兼昼食用に食事をベッド横のテーブルに準備して、仕事に出かけます。

いつでも保子さんが気の向いたときに、さっと食べられるように、パンを食べやすい大きさに切っておいたり、少しでもカロリーをとってほしいので、スープはコーンスープを準備したり、食事内容は栄養バランスと食べやすさに考慮して、作っています。

でも、仕事から帰ってくると食事はほとんど手つかずの事がおおいです。時には、パンがなくなっているから「食べたのかな?」と思ったら、ゴミ箱に捨ててあったこともありました。

入れ歯の調子が悪くて、食べにくいのかもしれないと思い、訪問歯科の先生に診療してもらい、入れ歯を調整してもらいました。

飲み込みの状態もそれほど低下は見られなく、食べない原因は、歯以外のところにありそうです。

それで、ケアマネジャーさんか、食事の内容と食形態をみてほしいと、依頼があり、在宅訪問が開始されました。

5月15日16時、娘さんが帰ってくる時間にあわせて訪問すると、保子さんはベッドで寝ていて、ベッドサイドテーブルの上には、ロールパン・コーンポタージユ・プリン・ブロッコリーサラダ・プチトマトがおいしそうに準備されていました。

「朝、出かける前に準備していったものなんです。全然食べていないでしょう・・」と娘さんが説明してくれました。

確かに、全く手を付けていない状態です。これでは、娘さんが心配するのも無理ありません。

「こんにちは、栄養士の安田です。今日のお体の調子はいかがですか?」と聞くと、「別に悪いところは、有りません。」と、そっけない返事が返ってきました。

「おなかすいてませんか?おやつにプリンは、どうかしら?」とプリンを渡そうとすると、「いらないよ!」と言って受取りません。

「では、パンはどうかしら?」とパンを渡すと、ゴミ箱へぽい!!

「私は、誰の世話にもならなくていいんだよ。ゆっくりだけど、トイレに自分でいければいいの。」と言いながら、ベッドから自分で降りて、いろんなところをつかまりながら、トイレに入りました。

失禁予防のために紙おむつは使っていますが、ほとんど汚さずに、排泄はトイレで行っています。

トイレまで足取りはゆっくりで、少々不安定ではありますが、毎回つかまるところがきまっていて、今まで一度も転んだこともないそうです。

「実は、母は腕相撲の選手だったのです。だから、握力だけはとても強くて、しっかりつかまることができるから、転ばないのかもしれませんね。」と、娘さんが教えてくれました。

ベッドにもどってきた保子さんに、少しでも食べてもらおうとコーンポタージュを渡しましたが、うけとってもらえませんでした。

うっとうしいという表情になったので、話題をかえて、「保子さん、腕相撲の選手だったんですか?強かったのでしょうね~」というと、「やるか!」と眼光がするどくなり、ベッドからダイニングテーブルに移動を始めました。

そして、ひじを固定するためのクッションを娘さんに要求し、腕相撲土俵(リング)が出来上がりました。

さて、FIGHT!!

92歳保子さんと52歳管理栄養士安田の40歳年の差腕相撲がはじまりました。

え~?とても強い!私が本気で力を入れないと勝てないくらいでした。勝敗は右手、左手の2勝負でしたが、どちらも引き分け。

「この筋肉の源は、何でできているのですか?保子さん」尋ねると「そうそう、母は杏仁豆腐が好きで、毎日7個くらい食べるんです。私が留守の間も、自分で冷蔵庫から出して食べています。」

またもや、「え~?!」

カップの杏仁豆腐は1日約200キロカロリー。

7個食べたとすると、約1400キロカロリー。

保子さんの必要栄養量をエネルギーだけでみると、十分満たしています。再度、保子さんを観察すると、肌のつやはいいし、意思表示、笑顔もみられる。

トイレは一人で行きたいという思いはかなっていて、保子さんは今の生活に満足している。

娘さんは、食事の内容以外は、特に心配なことはないということは、「このままの食事内容で大丈夫です!バランスのとれた食事とはいえませんが、今の生活が維持できて、精神的にも安定されているので、積極的な食事内容改善は必要ないとおもいます。」

ご本人の希望であるトイレに自分で行くことが実現できていて、わがままが言える活気があるのですから、今を維持しましょう。

管理栄養士のアドバイス

1日3食、栄養バランスのとれた食事をすることは大切です。主食・主菜(肉・魚・豆製品・卵)・副菜(野菜類)・副副菜(果物、乳製品等)をそろえると、よいでしょう。

しかし要介護高齢者の食生活を考えると、本人、家族に何らかのハンディキャップがあり、偏りがちになってしまうのは、仕方がありません。

では、今の食事で大丈夫か改善したほうが良いかのバロメーターは、何をみればよいのでしょう。是非、ご本人を観察してください。

今回の保子さんのように、肌つやがいい、会話ができる、自分の想いを意思表示できる、動くことができる、わがままが言える等、生活が維持できていれば、あまり心配することはないかもしれません。

もちろん病気があって、食事療法が必要な方は例外ですが、無理強いしない食事、本人の嗜好に合わせることは、精神的な満足感にもつながります。

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この記事の制作者

安田 淑子

著者:安田 淑子(beside びさいど 在宅訪問管理栄養士)

北海道登別市出身。高血圧の母が行っていた減塩食をきっかけに栄養士を目指し、上京しました。
総合病院、デイサービス、歯科医院での経験を経て、2010年から複数の医療機関と契約し、在宅訪問栄養指導を行っています。笑顔で楽しい、うれしいと言える空間づくりのヒントをお伝えできればと思っています。

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