【栄養士が解決】高齢者が食べられなくなるってどういうこと
よく、高齢になると硬いものが食べられない、食べる量が減るなどと言われます。
ところでなぜ硬いものが食べにくくなり、食べる量が減るのでしょうか。
そもそも食べる機能とはどんな機能なのでしょうか。
自分たちは自然に口から食べているので気づきにくいのですが、食べる機能について考えてみましょう。
雅恵さんと博文さんのエピソード
口から食べる機能はざっくりと「噛むこと(咀嚼)」と「飲み込むこと(嚥下)」に分けられます。
両方の機能が低下しているケースもありますし、どちらかの機能が低下している人もいます。つまり、高齢者の食べる機能が落ちるというのはいろいろな状況があるのです。
さて、2人の高齢者に登場してもらいましょう。加藤雅恵(仮名)さんと伊藤博文(仮名)さんです。
ある日、雅恵さんにプリンを一口食べていただきました。モグモグモグモグ…順調に食べているかと思いましたがいつまでたってもモグモグモグ。
あまりにも長いので「ちょっと口を開けてみてください」とお願いをして口を開けるとプリンが口の中でばらけてしまい、口中プリンだらけになっていました。
今度はその方にお茶を飲んでいただきました。軽くゴクッという音をさせて飲み込みました。
今度は博文さんに水分摂取のためコップのお水を飲んでもらいました。ゴクッという大きな音をさせて飲み込んだかと思うと「ゴホッゴホッゴホッ」と激しくむせてしまいました。実はこのお二人、ともに食べる機能が低下した方なのですがその原因が異なります。
雅恵さんは「噛むこと(咀嚼)」ができない障害、博文さんは「飲み込むこと(嚥下)」ができない障害です。そうです。食べる機能が落ちるというのは1つの症状ではないのです。
さて噛むこととはどういうことでしょう。皆さんは立派な歯があり、しっかり噛んでいるでしょう。皆さんは「噛むこと」とはどういうことだと思いますか?硬いものを柔らかくする、大きいものを小さくする、そんなイメージでしょうか。
実はそうではないのです。「飲み込める形にすること」が噛むことの目的なのです。確かに硬いものを柔らかくできれば飲み込めるかもしれません。大きいものを小さくすれば飲み込めるかもしれません。
そこで考えてみてください。雅恵さん、プリンが口の中でバラバラになって口中プリンだらけになっていました。これでは飲み込めませんよね。
元気な皆さんであれば多少口の中でばらけてもうまくまとめて飲み込めます。そうなのです。咀嚼とは口の中でまとめる機能なのです。柔らかく、小さくなったものでも口の中でバラバラになってしまえば飲み込める形ではないのです。
一方飲み込みとはどういった動きなのでしょうか。人間の解剖的な話を少ししましょう。のどには重要な2つの管があります。
1つは呼吸するための気管、もう1つは食べ物、飲み物が入る食道です。
本来、呼吸をしているときは空気が気管を通って肺の方に入っていき、食事の時は食べ物が食道を通って胃の方に流れていきます。
問題は、2つの管が別々に存在するのではなく、同じ入り口で入り、ある分岐点で分かれるということです。
だからこそ鼻がつまっていても口で呼吸ができます。しかし…食べたものが気管の方に入っていくこともあるのです。
このように、食べ物、飲み物、さらには唾液(つば)のように本来食道を通って胃に入るべきものが気管の方に入ってしまう状態を誤嚥(ごえん)と呼びます。
飲み込みの機能が低下すると誤嚥が生じたりします。もちろん人間の機能として誤嚥をすることは良くないことなのでそれを阻止しようとする反射が起きます。これが「むせ」です。
皆さんも食事中に笑わされたり話に夢中になってしまいむせたことはありませんか?
気管に物が入らないように咳をして出そうとする動きが「むせ」なのです。もちろん「むせ」は重要な動きなのですが、あまりにも多くなるということは、飲み込みの機能が低下したことになります。
博文さんは、水を飲むとむせてしまいました。実は水が一番むせやすいと言われているのですが、激しくむせてしまうということは飲み込みの機能が低下していることがわかります。
一方、雅恵さん。プリンはバラバラになってしまいましたがお茶は飲むことができました。噛む機能の低下はあっても飲み込みの機能は維持されていたのです。
「噛むこと(咀嚼)」や「飲み込むこと(嚥下)」の機能が落ちるにはいくつかの理由があります。中でも筋力の低下や栄養状態が悪くなっていることが大きいので高齢者におこりやすくなります。
逆に言うと、それらの原因をきちんと分析できると予防することも可能です。
私が訪問の現場でやっていることは歯の治療だけではありません。これらの機能低下を評価し、様々な専門職へとつないでいくことなのです。
歯科医師のアドバイス
食べる機能は「噛むこと(咀嚼)」と「飲み込むこと(嚥下)」に分けられます。
咀嚼とは「飲み込める形にすること」であって食べ物を柔らかくしたり小さくしたりすることはそのための手段です。
逆に食べ物を柔らかくしたり小さくできたとしても口の中でまとめることができなければ噛む能力は低下していることになります。
食べ物がのどに入ったとしても気管に入ってしまうと誤嚥につながります。食べ物を口にするたびにむせてしまうような方は飲み込みの機能が低下しています。
実は噛むことも飲むことも筋力、体力を使う行為なので高齢者にこれらの機能が低下した人が多くいます。
訪問歯科ではこれらの状態を評価することができ、歯科衛生士、言語聴覚士などと連携しながら機能を回復することができます。気軽に地域の専門家たちに相談しましょう。
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著者:五島 朋幸(日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授、新宿食支援研究会代表)
1991年日本歯科大学歯学部卒。1997年訪問歯科診療に取り組み始める。2003年ふれあい歯科ごとう代表。ラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」(全国15局で放送)「ドクターごとうの食べるlabo~たべらぼ~」(FM調布)パーソナリティー。著書に「訪問歯科ドクターごとう1: 歯医者が家にやって来る!?」、「口腔ケア○と×」、「愛は自転車に乗って 歯医者とスルメと情熱と」などがある。