【栄養士が解決】好き嫌いが激しく、食べる量が減っていて低栄養気味が心配です。
実のところご本人の好き嫌いが多い場合、嗜好を変えていただくことは、とても難しい課題です。
幼いころからの食習慣で何十年も過ごされてきた訳ですから、嫌いなものや苦手なものを今更「食べましょう」と説得してもうなかなかうまくいかないのが現状です。
守さんのエピソード
まもなく85歳の誕生日を迎える井田守さん(仮名)は、若いころから好き嫌いが多く、好きな食べ物以外、食に関しては興味をしめすことはありませんでした。
好きな食べ物は牛肉。中でもステーキだと500gは一人でペロリと完食します。
そして欠かさないのがアルコール。生野菜はほとんど食べない生活で糖尿病、高脂血症(脂質異常症)、痛風、高血圧などの生活習慣病を抱え肥満体型であったと聞いています。
膝の痛みを訴えつつもなかなか減量に取り組むことができませんでした。
5年前に脳梗塞で倒れて以来、後遺症に片麻痺があり、思うようにからだを動かすことも、自らで食事を摂るのもはかどらず、継続して日常生活でのリハビリを取り入れています。
現在は、身長172㎝、体重54kg、BMI18.25と低体重。
※BMIビーエムアイ:体重と身長から割り出す肥満度を示す体格指数。18.5未満は低体重を示します。
食事は歯ぐきでつぶせる、体調によっては舌でつぶせる程度のやわらかさの食事形態となります。
このままでは、低栄養状態に至ることが心配されますので、少しでも口から食べることができるような工夫を心がけたいと思います。
食べられないことはワガママなの?
好き嫌いが激しく、食べる量が減っている低栄養気味の方にとって単なるワガママというよりも「食べられない」「食べる意欲がない」という状況に近いのかもしれません。
周囲が食べるように促すことが、ご本人にはストレスになっている可能性があります。
周囲は、なんとか食べてほしいとの思いから「がんばって食べよう」「薬だと思って」という言葉をかけてしまいますが、かえって気持ちの負担となってしまうという声を聞くことがあります。
食習慣・嗜好をあらためて洗い出すと、井田さん、肉好きには理由がありました。
もちろん、好んで食べていたことには変わりないのですが、幼いころに魚の骨が喉にささって以来、魚が食べられなくなったようです。そういうエピソードがあったのですね。
そこで魚のほぐし身とはんぺんをミキサーにかけて、丸い型で形を整えて提供してみましたら、どうやら「食べれる」とおっしゃる。イメージとしては丸いテリーヌのようでしょうか。
魚の嫌な思い出は消せませんが、少しでも食べることにチャレンジするきっかけとなりました。
しかし、中にはチャレンジしても好まないものもあります。今日は、これを食べてみませんか?と声をかけながらやり取りをしていると食事量も少し増えてきたような気がします。
嗜好だけでなく、見た目、食べやすさの工夫も必要
現在は、全粥あるいは軟飯(普通食のご飯よりも水分を多くしたやわらかいご飯)を主食としていますが、時々おむすびが食べたくなるそうです。
軟飯にゲル化剤を少量加え、ラップで包み小さなおむすびを作ってみました。
細かく刻んだ海苔を帯のようにふりかけて提供しますと、手でつかむことができるので自分の力で食べることができたようです。
このように、見た目の工夫、食べやすさの工夫は私たちのチャレンジです。それを食べようとするのは井田さんのチャレンジです。
管理栄養士のアドバイス
まずは、低栄養が進まないように配慮することが大切です。そのためにはやはり食事量・栄養を確保する必要があります。
少しでも食べたいと思う気持ちを引き出せたらと会話の流れでの質問を心がけてみましょう。
井田さんの好き嫌いの原因は様々ですが、コミュニケーションを取りながら、少しでも口にする方法を一緒に探せればいいなと思います。
とは言ってもご家族にとっては、日々のこと。苛立ちへとつながらないよう、専門家や第三者の協力も活用しながら一緒に井田さんの食事をサポートしてください。
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著者:徳田 泰子(「株式会社ヘルシーオフィスフー」代表取締役。管理栄養士・調理師)
病院での栄養管理業務に約10年間携わり、健康であるためには日々の暮らしにおいて「おいしく、楽しく」食事をとることが重要であると考え起業しました。
家族の在宅での介護・看取りの経験からグループホームをはじめ高齢者施設での栄養サポートを行い、安全・かんたん・おいしい食事づくりのご支援をさせて頂いております。
高齢者食支援専門サイト「スマイリーフード」http://foo.co.jp/管理運営。