「介護は長男の嫁の仕事」は過去の話!どう拒否する?法的な義務や解決策、実際の声まで
「介護は長男の嫁の仕事」そのような論調があった時代もありました。しかし、現在に至ってもそのような圧力を感じる方は少なくありません。では、実際に配偶者の両親の介護にはどう対処すべきなのでしょうか?
本記事では、法律の観点からのアドバイスや解決策を交えながら、直面する現実について詳しく紹介します。
「長男の嫁」、介護拒否できる?
実は日本の法律では、婚姻によって親族になった者、いわゆる「嫁」や「婿」に、義理の親を介護する義務はありません。つまり、もし「長男の嫁」として配偶者の親の介護を求められても、嫁側はそれを拒否することができるのです。
ただし、民法第730条、および第752条には「同居の親族や夫婦は、互いに協力し扶助しなければならない」という旨の規定もあります。つまり長男の嫁に介護の義務はないものの、“同居している義理の親や、配偶者の生活上の困難をできる範囲でサポートする”程度の助力は求められる、という考え方になるでしょう。
長男の嫁の立場で義両親の介護を強要されたら、「メインの介護者になることはできないが、ここまではサポートできる」という範囲を明確に示すことが大切です。
出典:e-Govポータル「民法本則 第四編 親族」「親の介護=長男の嫁の仕事」は過去の話
- 出典:LIFULL介護「介護の実態および意識に関する調査」
そもそも、当然のように「介護は長男の嫁の仕事」とされていた時代は、既に過去のものだと考えなければなりません。
LIFULL介護が2022年12月に行った「介護の実態および意識に関する調査」を見ると、親の介護を実子がメインで行っているケースは、全体の約7割を占めています。一方、長男の嫁がメインで介護を行っているケースは全体の1割以下で、これは被介護者本人の配偶者が介護しているケースよりもさらに低い割合です。
「親の介護は、実子である兄弟姉妹が中心となって行うもの」という認識が、現在では一般的になっていると言えるでしょう。
では、法的に親の介護義務は誰にある?
世間一般の認識だけでなく、日本の法律から見ても、親の介護義務は実子にあると言えます。民法第877条により、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定められているのがその理由です。
ここで言う扶養とは、自分ひとりで生活できない人を、経済的に援助することを指します。そして直系血族に該当するのは血のつながった子や孫などで、その配偶者は含まれません。
つまり、親に介護が必要となったときは、その兄弟姉妹や実子にのみ、面倒を見る義務が生じるということです。
出典:e-Govポータル「民法第八百七十七条(扶養義務者)」長男の嫁が介護を拒否せざるを得ない背景
長男の嫁が実際に介護拒否へ至るまでには、たとえば次のような理由や背景があると考えられます。
義両親との関係
長男の嫁と義両親との信頼関係がうまく築けていないと、いざ介護が必要になったとき、サポートの拒否につながることがあります。
よくあるのは「これまでのやり取りから関係性が少しずつ悪化してしまい、負担の大きい介護を引き受けることに抵抗を感じている」パターンです。また、信頼関係が希薄な状態で、入浴や排せつなどプライバシーにも関わる介助を行うことに尻込みしているケースもあるでしょう。
「実子以外が介護するなら、不慣れな自分(嫁)より、プロに任せたほうがよい」という考え方の人もいます。
介護負担の偏り
他に介護へ参加できる親族がおらず、介護の負担が長男の嫁ひとりにかかることが明確な場合、介護者と被介護者の共倒れを恐れて介護拒否するケースもあります。
2019年に日本看護研究学会雑誌へ掲載された研究報告によると、在宅で認知症者の介護を行う対象者のうち、64.8%にうつ状態がみられたそうです。
「介護うつ」が社会問題にもなっている今、ひとりでその負担を担うのは不安という想いから、介護を拒否する人は少なくありません。
出典:日本看護研究学会雑誌「在宅認知症者の介護者がうつ状態に至る要因における性差」仕事や育児などとの両立の難しさ
「仕事や子育てと介護の両立が難しく、拒否せざるを得ない」というのも、近年よくあるケースのひとつです。
男女共同参画社会の実現を目指す流れもあり、25〜44歳の女性の就業率は、2022年に79.8%まで上昇しています。
特にフルタイムで就業している女性や、パートをしながら子育てもしている女性の場合、残りの時間で義親の介護まで担うのは、どうしても難しいのが実情です。
助け合いたいという気持ちがあっても、現実的にそれが叶わない家庭は今後も増えていくと考えられます。
出典:男女共同参画局「雇用等における男女共同参画の推進と仕事と生活の調和」経済的な問題
現実問題として、介護は身体的・心理的な面でなく、経済的にも大きな負担を伴います。
医療費や介護サービスの費用はもちろん、状況によっては自宅をバリアフリー化するリフォーム費用など、親の収入・貯蓄だけでは賄いきれない部分が出てくることも珍しくありません。
そもそも扶養義務による経済的支援は、子が自身の生活を成り立たせた上での余力範囲で行うものです。
長男世帯の家計が苦しく、どうしても援助が難しい場合、介護できないという結論に至ってしまうことも当然あり得るでしょう。
義母の介護にあたる長男の嫁の声
恩を受けてないのに、なぜ介護しなければならないのか
長男の嫁だから介護するが、自分の思うようにできない
日本看護研究学会雑誌へ2004年に掲載された研究報告では、「長男の嫁」の立場から義理の親の介護を続ける人の生の声として、上記のような事例が紹介されています。
「自分たちが困っているときは何も助けてくれなかった義両親が、介護が必要になった途端頼ってくることに理不尽さを感じる」ことから介護を拒否していると考えられるケースでは、嫁側が納得できるような条件を親族で十分に話し合う必要があるでしょう。
また、「長男の嫁として介護はするが、夫の身内からの干渉があり、思うような介護ができないのが不満」というケースでは、親や実子である長男が、嫁の立場を尊重する態度を親族へ積極的に見せることにより、状況の改善へとつなげられる可能性があります。
介護の負担が偏っているときの解決策
・親族間で役割分担をする ・介護サービスを利用する ・施設入居を検討する |
親の介護で長男の嫁ひとりに負担がかかっている場合、まずは必要な役割を複数人で分担できないか、親族間で話し合うところから始めてみましょう。
たとえ遠方に住んでいても、「親へまめに電話をかける」「介護費用を多めに負担する」など、扶養義務のある実子や兄弟姉妹ができることはたくさんあります。
そして、状況によっては訪問介護・通所介護(デイサービス)の利用や、介護施設への入居なども前向きに検討するべきです。
その際の費用も親族間で偏りなく負担するのが理想ですが、もし話し合いで解決するのが難しければ、家庭裁判所に扶養義務者それぞれの負担の程度を判断してもらうという方法もあります。
関連記事親の介護私ばかり…どうすれば?理不尽の背景や本来の介護義務について
限界を超えて親の介護をしてはいけない理由
在宅介護は、介護する側・される側双方にとって非常に負担が大きいものです。時間的・体力的な問題はもちろん、これまで通りの思ったような暮らしができないことなどによる心理的ストレスも、心身に悪影響を及ぼします。
限界を超えて無理に在宅介護を続けることは、介護うつや、介護者・被介護者の共倒れなど、より大きな問題にもつながりかねません。状況に応じて在宅介護サービスや施設など外部のサポートをうまく活用し、無理のない介護プランを検討しましょう。
関連サイト在宅介護の限界はどこ?専門家が判断する「老人ホームの入居どき」を解説します
「LIFULL介護」がお届けするウェブメディア | tayorini
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親御さんの入居におすすめな介護施設
親族間の話し合いによって、在宅介護ではなく施設入居という結論に至った場合、親御さんが快適に暮らしていける選択肢にはたとえば次のようなものがあります。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)とは、常駐スタッフによる生活の見守りやサポートが受けられる賃貸住宅です。
食事の提供や入浴・排せつなどの介助は提供されないのが一般的ですが、お体の状態によっては別途外部の介護サービスを契約することが可能です。また、一部にはこれらの介護サービスがついたサ高住も存在します。
「在宅介護は現実的に難しいものの、ある程度自立した生活ができるため、施設への入居はまだ早いかも?」と考えている親御さんにおすすめです。
関連記事サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)とは?費用や入居条件、他施設との違い
グループホーム
グループホームとは、要支援2以上の認知症高齢者を対象とした介護施設です。最大9名の小規模な生活空間で家事などを役割分担しながら暮らすシステムで、認知機能低下の進行を抑えたり、身体機能を維持したりするケアが受けられます。
地域密着型サービスのため、「その市町村に住民票のある高齢者」のみが利用対象になっている点です。
親御さんに認知症の症状が出ていて在宅介護の限界を感じているものの、今の生活を大きく変えるのは不安、というケースの有力な選択肢になるでしょう。
関連記事グループホームとは
有料老人ホーム
有料老人ホームとは、民間が運営する高齢者向けの介護施設です。
食事の提供や掃除・洗濯といった生活サポートが中心の「住宅型」と、日常的に介護が必要な方へのケアも可能な「介護付き」の2つが主なサービス形態となっています。
特に介護付きの有料老人ホームは24時間体制でプロのサポートが受けられるため、介護度が高く、夜間のトイレなどに不安がある親御さんにもおすすめです。
なお、住宅型においても、デイサービスや訪問介護が併設されていることもあるため、あらかじめサービス内容を確認しておきましょう。
関連記事有料老人ホームとは?種類や定義、料金、人員基準など詳しく解説
まとめ
長男の嫁だからといって、義理の親の介護を必ず担わなければならない、ということはありません。親の扶養義務を負うのは直系親族である実子のみであり、その配偶者は仮に介護を強要されても拒否することが可能です。
ただし「同居の親族や夫婦は互いに扶助するべき」という旨の法律もあるため、実際には「主となって介護はできないが、ここまでのサポートならできる」など、助力の範囲を明確に主張するのが望ましいと考えられます。
義理の両親という関係性を差し置いても、在宅介護は介護する側・される側双方にとって負担が大きいものです。親に介護が必要となり、他に頼れる親族もいない場合、介護サービスの利用や、施設への入居が現実的な解決策になるでしょう。
LIFULL介護では、豊富な施設情報から、お体の状態や親御さんのご希望に応じた、快適な住まい探しをお手伝いします。電話やLINEでの無料相談も承っておりますので、介護プランを検討する第一歩として、ぜひお気軽にご利用ください。
この記事の制作者
監修者:高畑 俊介(介護支援専門員/介護福祉士)
施設職員、通所介護事業所の生活相談員、居宅介護支援事業所の管理者などを経験。業界14年目の現役のケアマネジャー。業務のかたわら、フリーコンサルとしても開業。介護事業所向けのコンサルティング、Webサイト制作や広告デザイン(ブランディング)などの依頼も受注開始。SNSでは「幸せに働く介護職を増やしたい」をモットーに、業界を明るくする発信を続けている。