サルコペニアの予防・治療法とセルフチェック方法
サルコペニアとは、加齢に伴って筋肉の量が減少していくことです。筋肉量の減少は25~30歳頃から始まり、生涯を通して進行します。そのままにすると自力で歩くことも難しくなることから、高齢者の活動の幅を狭める大きな原因となっています。
ここではサルコペニアの原因やチェック法、治療法や予防法について解説します。
サルコペニアとは?
サルコペニアとは、加齢に伴って筋肉の量が減少していく現象で、特に体を動かす抗重力筋でよく見られます。
筋肉量が減ることで立ち上がったり歩いたりすることがだんだんと億劫になり、そのままにすると自力で歩くことが困難になることもあります。
サルコペニアは転倒や骨折を起こすリスクを高めるだけではなく、認知機能の低下と関連があるともいわれています。
このほかにも、サルコペニアの人はがんや手術の死亡率が高く、肥満が重なると脂質異常症や心臓の病気によって亡くなるリスクが上がることもわかっています。
日本人を対象とした研究では、サルコペニアの有病率は7.5%〜8.2%というデータが報告されています。
サルコペニアの原因
サルコペニアは原因別に、一次性サルコペニアと二次性サルコペニアに分けられます。
一次性サルコペニアの原因は加齢で、それ以外には明らかな原因がありません。
一方、二次性サルコペニアは加齢以外に原因があるものです。活動量の減少、なんらかの病気、栄養不足などがあげられます。
病気によるサルコペニアへの影響は、病気そのものが与えるものだけではありません。安静を強いられることもサルコペニアの原因となります。
例えば、6 〜7 週間ベッド上での安静が続くと、足の筋力は20 %程度低下するという報告があります。
種類 | 原因 | |
---|---|---|
一次性サルコペニア | 加齢 | 加齢以外には明らかな原因がないもの |
二次性サルコペニア | 活動量の減少 | 寝たきりや外出機会の減少など |
病気 | 心臓、肺、肝臓、腎臓、脳の重症な病気、がんなど。 | |
栄養不足 | 薬の影響による食欲不振、吸収障害、タンパク質やビタミン不足など |
サルコペニア・ロコモ・フレイルの違い
サルコペニアに似た言葉に、「ロコモティブシンドローム」や「フレイル」という言葉があります。
どれも要介護状態を防ぐためには重要な概念ですが、少しずつ意味が異なります。それぞれの意味を理解して、介護予防の参考にしてください。
- ロコモティブシンドローム
- ロコモティブシンドローム(ロコモ)とは、骨、関節、筋肉、神経などの運動に必要な体の仕組みがうまく働かなくなり、立ったり歩いたりするための身体能力が低下した状態です。
- ロコモが進行すると、将来介護が必要になるリスクが高くなります。
- フレイル
- フレイルは、筋肉や骨などの身体機能が障害されるだけでなく、認知機能の衰えやうつなどによる精神・心理機能の低下や、独居や貧困などの社会的な問題によって高齢者のストレスへの耐性が弱くなり、要介護状態に陥りやすい状態です。
家でもできるサルコペニアチェック
家で簡単にできるサルコペニアのセルフチェックがあります。定期的にチェックして、サルコペニアを早期に発見しましょう。
サルコペニアセルフチェック
5つの質問に答えて、それぞれの合計点数を計算してください。
4〜5kgの物を運ぶのにどれくらい大変ですか。 | 全く大変ではない=0点 少し大変=1点 とても大変、全くできない=2点 |
部屋のなかを歩くのがどのくらい大変ですか。 | 全く大変ではない=0点 少し大変=1点 とても大変、補助具を使えば歩ける、全く歩けない=2点 |
椅子やベッドから移動するのがどのくらい大変ですか。 | 全く大変ではない=0点 少し大変=1点 とても大変、助けてもらわないと移動できない=2点 |
階段を10段のぼるのがどのくらい大変ですか | 全く大変ではない=0点 少し大変=1点 とても大変、またはのぼれない=2点 |
この一年で何回転倒しましたか。 | ない=0点 1〜3回=1点 4回以上=2点 |
合計が4点以上の場合、サルコペニアの可能性があります。日常生活を見直して、サルコペニアを予防しましょう。また、気になることがあればかかりつけ医に相談しましょう。
かかりつけ医でのサルコペニア対策
サルコペニアが疑われる場合、医療機関では握力測定、身体機能測定、専用の機械による筋肉量の測定を実施して、サルコペニアに該当するかを判断します。
サルコペニアと判断されたときには食事や運動などの生活指導を受け、筋肉量の減少を予防していきます。
治療・予防はバランスの良い食事と運動
日常生活のなかで筋肉量が減少しないように心掛けるだけで、サルコペニアの予防につながります。少しずつでも構いません。意識して取り入れてみてください。
①筋肉のもとになるタンパク質を意識して食べる
筋肉の材料はタンパク質です。タンパク質は肉、魚、卵、大豆製品、乳製品に多く含まれます。
ごはんやパンなどの主食だけで食事を済ませるのではなく、タンパク質が多く含まれる主菜もしっかりと食べるようにしましょう。
②適度な運動で筋肉を鍛える
適度な運動は筋肉量を増やすのに効果的です。スクワットなどの筋力トレーニングと、ウォーキング、水泳、ラジオ体操などの有酸素運動を少しずつ日常生活に取り入れて、体を動かす習慣を作っていきましょう。
サルコペニアは要介護の前兆です。バランスの取れた食事と適度な運動で予防しましょう。
また定期的にセルフチェックを行い、気になることがあればかかりつけ医に相談しましょう。
イラスト:坂田 優子
この記事の制作者
著者:矢込 香織(看護師/ライター)
大学卒業後、看護師として大学病院やクリニックに勤務。その後、メディカル系情報配信会社にて執筆・編集に携わる。現在は産婦人科クリニックで看護師として勤務をするかたわら、一般生活者のヘルスリテラシー向上のための情報発信を行っている。
監修者:銅冶 英雄(お茶の水整形外科 機能リハビリテーションクリニック院長)
千葉大学大学院卒業。医師、医学博士。2005年、国際腰椎学会学会賞を受賞。著書に「どこでも腰痛体操」(ダイヤモンド社)、「4万人の腰部脊柱管狭窄症を治した!腰の痛みナビ体操」(アチーブメント出版)などがある。