【はじめての方へ】高齢者の呼吸器疾患・主な病名とその予防法
ここでは高齢期に特に多い肺炎、誤嚥性肺炎、慢性閉塞性肺疾患の3つの呼吸器疾患のしくみ、症状、予防法について解説します。
高齢になるほど呼吸機能は衰える
肺は胸郭と横隔膜という筋肉を使い呼吸していますが、高齢になるとこれらの筋肉の働きが低下し誰でも呼吸運動は低下しはじめます。
また肺の中で呼吸をするときに使われている空気の袋(肺胞)の数が減り弾力性を失い、肺胞を囲んでいる毛細血管の数も減るため、空気から酸素を取り込む量が減る傾向にあります。このような肺の老化は元気でいる限り、日常生活の妨げになることはほとんどありません。
しかし、肺の老化が実際の年齢以上に進行していると、かぜをひいたり、喫煙をしたときに呼吸困難になり健康を脅かす可能性があります。
肺炎、誤嚥性肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)が多い
呼吸器疾患のなかでも肺炎、誤嚥性肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)は特に多い病気です。これら3つの病気のしくみと症状を紹介していきます。
肺炎
発熱、咳、たんなど風邪とよく似た症状で始まることの多い肺炎ですが、まったく違う病気です。風邪はのどや鼻などにウイルスが感染して起こります。
一方、肺炎はさらに奥の気管支や肺の中に細菌が侵入、酸素を交換する袋である肺胞が炎症を起こすことで、発熱、咳、汚い色のたんなどの症状が現れます。重症化すると呼吸が早くなり、呼吸困難を訴えることも。
高齢者の場合は高熱が出にくく、肺炎に特徴的な症状が現れにくいという場合があります。そのため、気づいたときには重症化して手遅れになるケースが多く見られます。
食欲がない、元気がない、意識がはっきりしないなど、普段と違う様子が見られたら早めに病院を受診するようにしましょう。
誤嚥性肺炎
誤嚥性肺炎も肺炎と同じく肺の中に細菌が入り気管支や肺胞が炎症を起こすことで発症する病気です。通常の肺炎と異なり、特に食事中にむせるなどの嚥下(えんげ)機能が低下した高齢者に多く見られるのが誤嚥性肺炎の特徴です。
誤嚥性肺炎は唾液や食べ物の一部が気管から肺に入ることで起きます。高齢になると、気管に水や食べ物が入らないようにするための蓋である「喉頭がい」の働きが低下し、気管に異物が入りやすい状態になります。
人間は異物が気管に入っても咳そう反射と呼ばれる反射が働き、咳をすることで無意識に異物を外に出すことができます。しかし高齢になると咳そう反射も低下するため、気管に異物が入っても咳をして外に出すことができなくなります。特に脳卒中後や寝たきりの高齢者に発生しやすくなります。
誤嚥性肺炎は食事中に起きるだけではなく、眠っているときでも、唾液が気管に垂れ込めば雑菌が肺に侵入して発症します。
誤嚥性肺炎を起こさないためには、全身の健康状態を良くし、さらに口の中、入れ歯などを清潔に保つことが予防となります。
誤嚥性肺炎について詳しくみる慢性閉塞性肺疾患(COPD)
40歳以上人口の8.6%である約530万人がCOPDの患者と推定されています。全体の死因では第9位、男性では第7位の死因となる病気です。
原因のほとんどがタバコの煙といわれ、喫煙者の15~20%が慢性閉塞性肺疾患を発症します。
風邪をひいていないのに咳、たん、ちょっと動いただけで呼吸が苦しくなるなどの症状が表れます。このような自覚症状が出ても、風邪による症状と誤解されることが多いのがこの病気の特徴です。そのため、症状が現れても喫煙を続ける人が多くいます。
タバコの煙で肺への空気の通り道である気道に炎症をおこし、空気の通り道が狭くなります。また煙が、酸素の出し入れをしている袋の肺胞に入ることで肺胞は破壊されて、酸素を取り入れることができなくなってしまいます。
慢性閉塞性肺疾患の予防法はすぐに喫煙をやめること。本数を減らすのではなく、完全に禁煙することが必要です。またタバコを長期間吸っていた方は症状が悪化する前に、肺機能検査を受けて早期に発見し、適切な治療を開始することでその後の悪化を防ぐことが重要です。
呼吸器疾患の予防に必要なこと
禁煙する
タバコはCOPDの原因となるだけでなく、喫煙者は肺炎にもなりやすいという報告もあります。
身体活動の低下を予防する
体の活動能力が低下するとあらゆる生活習慣病の発生率が増えます。日常生活で散歩など簡単な運動時間を増やし、座りっぱなしの生活を避けることが重要です。
さらに嚥下機能の維持のためにも、全身的に動ける能力を高めることが必要です。大病後にリハビリが必要なのは、このような活動能力の低下を予防し寝たきりにならないためです。
体重を維持する
高齢者は体重が落ちるほど免疫力も低下しやすく、呼吸器の感染症を繰り返し起こしやすくなります。
身長に見合った適切な体重を維持することが大切で、若い人と違ってできれば少し多めの体重になるのが理想的です。
各地域の保健センターなどで栄養士に相談し、体重維持を心がけましょう。
ワクチン接種で予防する
インフルエンザ・ワクチンは毎年接種しましょう。
肺炎球菌ワクチンは現在2種類利用できますが、できれば両方受けたほうが良いでしょう。
特にCOPDなどの肺の基礎疾患がある場合には、肺炎の重症化を避けるためにも予防接種は重要です。
イラスト:坂田優子
この記事の制作者
著者:橋本 優子(看護師編集者)
大学卒業後、出版社にてビジネス誌の編集に携わる、その後、出産をきっかけに看護師資格を取得。病院勤務後、「看護」「医療」の知識を活かした情報発信をするため、現在は健康に関する記事の企画、取材、執筆、編集までを行う。
監修者:茂木 孝(呼吸ケアクリニック東京・所長)
東京医療学院大学客員教授
日本内科学会認定総合内科専門医
日本呼吸器学会専門医・指導医
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会代議員
呼吸ケア指導士