【知っておきたい】在宅酸素療法の注意点や費用
在宅酸素療法(HOT:Home Oxygen Therapy)は自宅で酸素吸入を行う治療法です。
自宅に専用の機械を設置。鼻にチューブを装着して直接酸素を吸います。症状改善や生活の質向上に効果があり、寿命の延伸も期待できます。月に一度の診察を受けていれば、状態が悪化した場合などを除いて、自宅で治療を続けることが可能です。
ここでは在宅酸素療法の機器の管理や日常生活の注意点、費用などについて簡単に解説します。
在宅酸素療法の対象になる人と治療の効果
治療の対象になるのは、日常的に呼吸がうまくできない慢性呼吸不全、または心臓の病気によって全身に十分な酸素を運べない慢性心不全などの患者さんのうち、体の中の酸素濃度が一定の基準を下回り、在宅酸素療法が必要であると医師が判断した人です。
●在宅酸素療法の対象となる疾患
- 高度慢性呼吸不全例
- 肺高血圧症
- 慢性心不全
- チアノーゼ型先天性心疾患
- 重度の群発頭痛の患者
このような患者さんに治療を実施することで息切れなどの症状が改善され、外出や社会復帰が可能になるなどの生活の質(QOL)が向上し、それに伴って寿命が延びることも期待できます。
心不全とは在宅酸素療法で使用する機器
自宅に設置した酸素供給装置に酸素チューブを接続し、そこに経鼻カニューレと呼ばれる患者さんの鼻に直接酸素を送るチューブを繋ぎます。
次に、経鼻カニューレの先端を鼻の位置に合わせて患者さんに装着します。酸素チューブは15mまで伸ばすことができるので、患者さんが普段よく過ごす場所に装置を設置します。
装着中はチューブの接続部が外れていないか、チューブが捻じれたり折れたりしていないか、定期的に確認しましょう。
酸素供給装置は病院を通じて業者からレンタルします。機械の種類は設置型酸素濃縮装置と液化酸素装置の2つです。それぞれのメリット・デメリットについてみていきましょう。
<設置型酸素濃縮装置>
自動で空気中の窒素をフィルターに吸着させて取り除き、濃縮した酸素を患者さんに送り届ける装置です。酸素流量の上限は3Lまたは5Lのものがほとんどです。外出時には酸素ボンベや携帯型酸素濃縮装置を使用します。
メリット
- 電源が確保できればどこにでも設置が可能
- 電源を入れて、酸素投与量を設定するだけなので操作が簡単
デメリット
- 電気代が別途かかる
- 停電時に備えて、酸素ボンベを準備しておく必要がある
<液化酸素装置>
液化酸素が充填された大きなボンベを自宅に設置します。外出時には子容器に酸素を充填させて持ち歩きます。
メリット
- 電力が不要
デメリット
- 子容器に酸素を充填する操作が複雑
現在、多くの人が操作しやすいといった理由などから設置型酸素濃縮装置を利用しています。しかし外出時に使う酸素ボンベは重く、また携帯型酸素濃縮装置は高価なため、出掛ける機会が多い人は液化酸素装置も選択肢の一つになるでしょう。
ここまでは酸素供給装置について解説しました。ここからは在宅酸素療法の注意点をみていきましょう。
生活上の注意
在宅酸素療法を行っている患者さんは日々の体調管理はもちろん、症状を悪化させないために注意したいことや緊急時の対応方法など、日頃から意識しておきたいことがいくつかあります。
吸入量・吸入時間を守る
酸素吸入量や吸入時間は、体を動かすときや呼吸が苦しいときの対応方法も含めて医師から指示されます。
体調が悪いからといって、勝手に吸入量を増やしたり時間を伸ばしたりしてはいけません。必要以上の酸素を吸い込むことで呼吸を司る神経がうまく働かなくなり、うまく呼吸ができなくなってしまうことがあります。
火気を近づけない
酸素には物を燃やしやすくする性質があります。酸素注入中にたばこを吸うとチューブなどに引火する危険性があります。加えて在宅酸素療法を行う患者さんはもともと呼吸状態が良くないため、禁煙は必須です。
またガスコンロなどの火からは2m以上離れるようにし、酸素吸入中にドライヤーを使用することは避けましょう。お料理をされる方はIHのコンロに変えるとより安全でしょう。他にはお仏壇のお線香をつけるときの火などにも気を付けましょう。
入浴方法・入浴時間
入浴は酸素を多く消費するので体力の消耗につながります。必ず酸素吸入をしながら入浴するとともに、できるだけ体の負担を減らすため、みぞおちの上まで湯に浸からない、湯温は40℃前後に設定する、15分以上は浸からない、浴室や脱衣所を前もって温めておく、着替えのための椅子を用意しておくなどの工夫をしましょう。
旅行
酸素吸入を行っていても旅行を楽しむことは可能です。まずは体調面で問題がないか、主治医に確認しましょう。
交通機関によっては酸素の持ち込みに制限がありますので、事前確認が必要です。長期間の旅行の場合は業者に事前に連絡し、滞在先に酸素を届けてもらえるように手配しましょう。また旅先で体調が悪くなった際に受診できる救急病院がどこかを確認しておくと良いでしょう。
緊急連絡先の確認
息苦しさを感じたり、発熱や痰などの感染が疑われたりする場合、頭痛や不眠、むくみや不整脈がみられるときには、24時間対応している主治医や訪問看護ステーションに連絡してください。また装置のトラブルや災害時には業者にすぐ相談しましょう。
主治医、訪問看護ステーション、業者の連絡先はすぐに目につくところや電話機の近くに掲示し、緊急時に素早く対応できるように準備しておくと良いでしょう。
月に一度、受診をする
酸素の処方を医師からもらうため、月に一度の受診が必要です。体調に合わせて酸素吸入量を調整しますので必ず受診しましょう。
日頃から症状観察日誌をつけ、いつ、どういったときにどのような症状があらわれたかを残しておくと、診察時に役立ちます。とくに呼吸の状態、発熱の有無、咳・痰の有無、むくみなどに注意が必要です。
在宅酸素療法の費用
在宅酸素療法で使う装置や酸素、装置のメンテナンス費などは医療保険の対象となります。1割負担の場合は毎月7,680円、2割負担は15,360円、3割負担の場合は23,040円がかかります。
経済的な負担は高額療養費制度や高額医療・高額介護合算療養費制度を利用することで軽減できるので、主治医やケアマネジャー、お住まいの市区町村などに問い合わせると良でしょう。
また、市区町村に申請することで身体障害者手帳を取得することも可能で、重症度によって日常生活用具の給付や交通機関の割引などの福祉制度を利用できます。主治医に相談しましょう。
在宅酸素療法の介護施設での受け入れ
在宅酸素療法は医療行為のため介護職員は管理できません。施設では患者さん自身または看護師が管理することになります。介護施設を選ぶときには看護師が24時間常駐しているところを選ぶようにすると安心です。
在宅酸素療法は常に実施する必要があり、外出時や災害時の備えも必要です。患者さんの呼吸状態が悪いことも少なくありません。介護する家族の負担を軽減するために、介護施設を上手に活用しましょう。
イラスト:坂田優子
この記事の制作者
著者:矢込 香織(看護師/ライター)
大学卒業後、看護師として大学病院やクリニックに勤務。その後、メディカル系情報配信会社にて執筆・編集に携わる。現在は産婦人科クリニックで看護師として勤務をするかたわら、一般生活者のヘルスリテラシー向上のための情報発信を行っている。
監修者:岩本 大希(WyL株式会社/ウィルグループ(株)代表取締役)
大学卒業後、北里大学病院救命救急センター従事。その後、ケアプロ(株)で訪問看護事業の立ち上げ・運営を行う。
2016年ウイル訪問看護ステーション江戸川を開設。東京・沖縄・岩手・福岡・埼玉で展開。
2019年在宅看護専門看護師を取得。(社)オマハシステムジャパン理事、(社)東京都訪問看護ステーション協会研修委員長