若年性アルツハイマーとは??初期症状、治療法や相談先について解説
アルツハイマー型認知症は高齢者のみならず、40〜50代などの働く世代や、早い場合には高校生から発症する可能性もあります。
そのような65歳未満の人に発症するアルツハイマー型認知症のことを若年性アルツハイマーと呼び、令和2年の調査では若年性認知症の原因となる基礎疾患の半分以上を占めています。
ここでは、若年性アルツハイマーの原因や症状、なりやすい人の特徴や発症した際に受けられるサポート制度などについて詳しく解説します。
若年性アルツハイマーの初期症状
若年性アルツハイマーの症状は、高齢者のアルツハイマーとほとんど変わりはありません。
しかし、認知症は高齢者のものだというイメージがあるため、若年性認知症だと本人や周囲の人がなかなか気付かず、発見が遅れるケースが少なくないようです。
若年性アルツハイマーの代表的な初期症状は下記のとおりです。
もの忘れ
加齢によってみられるものとは異なり、認知機能が低下することで、起きた出来事を丸ごと忘れてしまうといった症状が現れます。
加齢による物忘れと、認知症による症状の違い
加齢による物忘れは脳の老化が主な原因ですが、認知症による物忘れは脳の病気によるものです。加齢が原因である場合は記憶の一部が欠落するものですが、認知症が原因である場合はその出来事があったこと自体を忘れ、また、忘れたという自覚もありあせん。
そのほか、加齢による物忘れは進行しませんが、認知症による物忘れは徐々に進行するという違いもあります。
時間の見当識障害
仕事でアポイントの日時を間違える、現在の日付や時間が分からなくなるといった見当識障害が現れます。
それに伴い、仕事や家事での失敗も増える傾向があります。
実行機能障害
食事の準備がうまくできない、薬の管理ができないなど、計画や順序どおりに物事を行うことが難しくなります。
失敗やミスが増えることによる周りからの反応が気になり、物事に敏感になったり、怒りっぽくなったりと性格にも変化が現れます。
その他、これまで興味を持っていたことに関心がなくなるなどの変化がみられることもあります。
症状の進行
若年性認知症の症状は、高齢者の認知症の2倍以上の速度で進行するともいわれており、できるだけ早く発見することが重要です。
認知症の症状は、主に中核症状、行動・心理症状(BPSD)の2つに分けられます。中核症状とは、脳の障害が原因で起こる記憶障害や見当識障害などの症状のことで、行動・心理症状(BPSD)とは、脳の障害に性格や環境・体調などの要因が重なることで引き起こされる症状のことをいいます。
初期ではもの忘れや時間の見当識障害、実行機能障害がみられますが、中期・後期を迎えるにつれてさまざまな中核症状、行動・心理症状(BPSD)が現れるようになります。
中期の症状
中期になると、日常生活に介助が必要になるほどの症状が現れます。また、それに伴い精神面にも多くの影響が出始める時期です。
中核症状
- 場所の見当識障害
- 通い慣れたはずの道で迷う、自分がいる場所がどこか分からなくなるなど、場所の見当識障害が現れます。
- 失行
- 文字の読み書き、服の着脱など、身体機能は正常であるにもかかわらず日常的に行っていたことができなくなります。
- 失語
- 文字や音を認識できない、言葉が理解できないなどの症状が現れます。言い間違いが頻発し、あれ・これ・それなどを多用し言葉が出にくくなることもあります。
行動・心理症状(BPSD)
- 不安、抑うつ
- 中核症状によりできないことが増え、不安や焦りを感じ気分が落ち込んでしまうことがあります。
- 歩き回り
- 場所の見当識障害により、目的なく歩き回っているように見える行動をとるようになります。
- 妄想、幻覚
- 薬の影響や環境・自身の変化により意識障害が起こり、物盗られ妄想や被害妄想、あるいは、幻覚が生じることがあります。
後期の症状
後期には認知機能が低下し、より手厚いケアが必要となります。自力で歩くことも困難で寝たきりになり、発語の低下や表情の乏しさも著しくなります。
中核症状
- 人の見当識障害
- 後期になると、家族の顔が分からなくなるほどの見当識障害が現れます。
行動・心理症状(BPSD)
- 表情が乏しい
身体能力も衰え動くことも少なくなり、表情も乏しくなります。
発語も低下し、この時点では意思疎通も難しい状況です。
- 寝たきり
- 後期には自力で動くことができずほぼ寝たきりとなり、常に介護が必要な状態となります。
症状の進行によりできないことは増えていくものの、事前に理解し適切な支援やケアを想定しておくことで、訪れる事態をより冷静に受け入れることができるでしょう。
発症した場合の寿命
若年性アルツハイマーを発症してからの寿命は、平均して10〜15年といわれています。しかし、個人差があり、発症してからの経過に関する研究でも結果は様々で、一概には言えないことがわかっています。
いずれにしても寿命を延ばすためには、症状の進行をコントロールし適切なケアを行うことが重要です。
若年性アルツハイマーの原因
若年性アルツハイマーの発症原因には複数の説がありますが、高齢者のアルツハイマーと同様、アミロイドβというタンパク質の一種が脳に蓄積することで神経細胞が破壊され、脳全体が萎縮し認知機能が衰えることが原因だと考えられています。
その他、事故などによる重度の頭部症状や生活習慣の乱れ、飲酒や喫煙との関連性を指摘する声もあり、完全には原因が特定できていないのが現状です。
若年性認知症の半数以上が若年性アルツハイマー
令和2年に日本医療研究開発機構認知症研究開発事業によって実施された調査では、若年性認知症の原因を基礎疾患別にみると「アルツハイマー型認知症」が52.6%と半数以上を占め、最も多くなっていることが分かります。
原因が完全には解明されておらず若い年齢の人にも発症の可能性があることから、誰にでも発症しうるものだと考えられます。
若年性アルツハイマーになりやすい人
原因が完全には解明されていないものの、脳の萎縮が若年性アルツハイマーに関係しているといわれています。
そのため、過度の飲酒や喫煙をする人は、一般的な人よりも若年性アルツハイマーの発症リスクが高くなる可能性があるといえます。
アルコール依存症の人には脳萎縮が高い割合でみられることが示されており、喫煙は血流の悪化により脳への酸素供給がされなくなり、脳細胞が死滅するといわれているためです。
その他、高血圧や糖尿病など、脳へのダメージが考えられる生活習慣病の人も注意が必要です。
発症年齢 ―10代、20代でも発症する可能性は?
若年性アルツハイマーは、若年性認知症の中で最も多い割合を占めています。
日本医療研究開発機構認知症研究開発事業によって実施された令和2年の調査によると、人口10万人(18〜29歳)あたりの若年性認知症患者は3.4人で、10〜20代で発症する可能性はゼロではないことが分かります。
また、完全には解明されていないものの、若年性アルツハイマーについては遺伝が関係するとの説もあります。
血縁者の間で発症率が高いことや、一卵性双生児が罹患するなどの経験則から、遺伝性の「家族性アルツハイマー型認知症」があるといわれ、発症年齢が1つの判断基準となっています。
検査方法
若年性アルツハイマーの検査は下記の手順で行われ、総合的に診断されます。
1. 問診
現在や異変に気づいた時の症状、他の疾患の有無、家族編成や服用している薬などについて聞かれます。
2. 身体的検査
内科診察や血液検査、心電図など、一般的に行われる身体検査を行い、原因となる病気やその他の同様の症状をおこす病気の有無を調べます。
3. 神経・心理検査
長谷川式認知症スケール、ミニメンタルステート検査(MMSE)など、簡単な質問に答えていく形式のテストで検査を行います。
4. 脳画像診断
CTやMRIにより、脳の形や働きを調べるための脳画像診断を行います。
治療方法
治療方法は高齢者のアルツハイマーと同様、薬物療法と非薬物療法に分けられます。
薬物療法
薬物療法は中核症状、行動・心理症状(BPSD)それぞれの症状を改善・軽減するものに分類されます。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
若年性アルツハイマーの人の脳内は「アセチルコリン」という神経伝達物質が減少している状態です。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、脳内のアセチルコリンの減少を防ぎ、情報の伝達をスムーズにし認知機能の低下を遅らせる効果があります。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬には「ドネペジル」「リバスチグミン」「ガランタミン」の3種類があり、内服する経口剤タイプと皮膚に貼り付けるパッチタイプに分けられ、これらは併用できないことになっています。
NMDA受容体拮抗剤
私たちの脳内には神経伝達物質であるグルタミン酸が存在します。若年性アルツハイマーでは、このグルタミン酸の働きが乱れることで神経細胞に障害が起き、過剰な興奮状態を引き起こします。
NMDA受容体拮抗剤はグルタミン酸の働きを弱める効果があり、神経細胞の保護に作用し、イライラ、暴言や暴力抑制への効果が期待できます。NMDA受容体拮抗剤には「メマンチン」があります。
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤同士の併用はできませんが、NMDA受容体拮抗剤とは作用するしくみが異なるため、併用ができます。
その他、症状緩和のために、睡眠薬や漢方薬、抗不安薬や抗精神病薬などが処方されることもあります。
非薬物療法
薬物療法だけでなく、薬を使わずに今ある認知機能を高める治療法を取り入れることも大切です。
認知リハビリテーション
簡単な音読や聞き取り、計算ドリルなどを使った学習療法は脳を活性化させます。しかし、強要すると逆効果となることもあるため注意も必要です。
音楽療法
音楽鑑賞はリズムを取ることで身体機能を改善させる他、感情を安定させるほか、リラックスする効果も期待されます。
回想法
記憶にある出来事について話してもらうことで一体感が生まれ、自尊心や積極性を向上させると考えられています。
若年性の認知症 頼れる相談機関は
若年性の認知症については少しずつ認識が進んでいるものの、本人やご家族にとっては不安や悩みがつきものです。特に診断後は、有識者による適切な情報提供や助言を求めたくなることもあるでしょう。
その他、生活支援についてどのような制度があるのかを知ることも必要です。
若年性認知症の人向けには下記のような相談窓口があります。
- 自治体の窓口
- 若年認知症サポートセンター
- 地域包括支援センター
上記の窓口では、若年性認知症の人が利用できる制度の紹介や、就労支援などを中心に行っています。
その他、「若年性認知症支援コーディネーター」への相談も可能です。若年性認知症支援コーディネーターは、若年性認知症の人の自立を助けるため、関係者との調整役として自治体に配置されています。
若年性認知症支援コーディネーターを設置している自治体窓口サポート制度
若年性認知症の人が利用できる可能性があるサポート制度について解説します。
若年性認知症は働き盛りの年齢で発症することもあり、それまで働いて得ていた収入が途絶えたり、治療のために支出が増えたりと、多くの経済的負担が発生します。
自立した生活を続けるための制度
介護保険制度
介護サービスを利用する際にかかる費用について、所得に応じて自己負担が軽減される制度です。
要介護または要支援認定を受けることが利用要件ですが、65歳以下はもう一つ条件があります。40〜64歳は第 2 号被保険者と呼ばれ、要介護または要支援認定になった原因が認知症を含む加齢に伴う疾病(特定疾病)である場合に限られます。
成年後見人制度
判断能力が十分でない人を法律的に保護する制度で、成年後見人が本人の代わりに財産の管理や契約手続きの支援などを行う制度です。
生活費の補助や免除に関する制度
障害者手帳
精神疾患で生活に支障をきたす場合は「精神障害者福祉保健手帳」の申請、症状が身体障害にも及ぶ場合は「身体障害者手帳」を申請できる場合があります。
手帳を持つことで受けられるサービスはさまざまで、公共交通機関の利用料金割引や、所得税や相続税の減免などがあります。
特別障害者手当
精神または身体に重度の障害があり日常生活を送ることが困難な20歳以上の人を対象に、月に1回定額が支給される制度です。在宅介護であることが条件として定められています。
住宅ローンの支払い免除
保証期間内で団体信用生命保険に加入している場合は特約制度があり、高度障害状態になった際に住宅ローンの支払いが免除される場合があります。
生活保護、生活福祉資金貸付
後述する障害年金などで生活できない場合に受給することとなります。
ただし、家族の中に働ける人がいる場合など、受給できない要件があるため注意が必要です。
医療費関連の制度
自立支援医療制度
認知症の症状による精神科通院医療費の自己負担額を軽減する制度です。医療費の原則1割の自己負担額がありますが、世帯所得などに応じ、自己負担の上限月額は個々に設定されます。
医療費控除
年間で負担した医療費が一定額を超える場合、確定申告をすることで税金が還付されることがあります。
高額療養費制度
医療費が1ヵ月単位で一定額を超える場合、高額療養費制度で超えた費用が支給されることがあります。
事前に「限度額適用認定証」の交付を受けることで、医療機関ごとに1ヵ月の支払額が自己負担限度額までとなるため、あらかじめ申請しておくことをおすすめします。
高額介護サービス費
1ヵ月以内に支払った介護サービス費用の自己負担額が一定金額を超える場合、その超えた分が支給される制度です。
負担限度額は世帯の課税所得額で異なり、月額15,000〜44,400円の範囲で設定されています。
その他若年性認知症の人が利用できる可能性がある制度
傷病手当金制度
就業中の健康保険加入者であれば、認知症の病気やケガで仕事を休み収入が減る場合、最大1年半の間傷病手当を受けることが可能です。
受給には、労働不能であること、給料支払いを受けていないことなど、一定の要件を満たしていることが必要です。
障害年金制度
傷病手当の期間を過ぎて退職せざるを得ない場合は、障害年金に切り替えられることがあります。
受給には、年金保険料の一定額以上の納付などの必要要件があること、傷病手当金と併給することはできないことに注意が必要です。
まとめ
若年性アルツハイマーは、発症する世代が仕事などをしている現役世代ということもあり、仕事の疲れや別の疾患を疑われ、正しい診断にたどり着くことが困難な場合があります。
しかし、早期に発見すれば症状の進行を遅らせることもでき、また患者をサポートする支援窓口や制度もあります。
当事者やその周囲の方への影響が大きな疾患ではありますが、様々な制度を活用し、社会や人との接点を持ちながら生活を続けていくことが、症状の進行を遅らせ、当事者の生活の質を上げる鍵になるでしょう。
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この記事の制作者
監修者:橋本将吉(内科医)
杏林大学医学部医学科を卒業。2011年に株式会社リーフェ(リーフェグループ)を設立し、医大生向けの個別指導塾『医学生道場』の運営と、健康情報の発信を通した啓蒙活動に力を入れる。実際に現役の内科医として診療を行う一方で『医学生道場』にて医学生の指導を行いつつ、YouTuber『ドクターハッシー』としての顔も持つ。