【老後のお金に備える】差額ベッド代は払わなくていいときもある?損をしない入院時の注意点
差額ベッド代は高価で負担の大きい費用です。救急車で病院に運ばれて、治療後に入院費の請求書を見て、高額な差額ベッド代に驚いた経験がある方もいるはず。
しかし、支払わなくてよい場合もあるのです。ここでは差額ベッド代について解説していきます。
差額ベッド代とは
差額ベッド代とは、病院の個室や二人部屋などの「差額ベッド室」を利用したときに請求される室料のことです。
差額ベッド室は「特別療養環境室」とも呼ばれており、一般の病室に比べて面積が広く、収納や設備も整っています。差額ベッド代として請求される病室には以下のような条件があります。
差額ベッド室の対象となる4つの条件
差額ベッドとして、患者に請求するには、以下の4つの条件を満たしている必要があります。
- 病室の病床数が4床以下
- 病室の1人あたりの面積は、6.4平方メートル以上
- 病床ごとのプライバシーの確保を図るための設備を備えている
- 少なくとも次の施設を有している
①個人用の私物の収納設備
②個人用の照明
③小机等及び椅子
この条件が整っている病室に入院した場合、差額ベット代が請求される場合があります。ではその費用はいくらになるのでしょうか。次の項で解説します。
差額ベッド代の相場
厚生労働省「主な選定療養に係る報告状況」によると、平成29年7月1日の費用相場は以下の通りです。
部屋 | 金額 |
---|---|
1人部屋 | 7,837円 |
2人部屋 | 3,119円 |
3人部屋 | 2,798円 |
4人部屋 | 2,440円 |
- ※1日あたりの差額ベット代
例えば、1人部屋に入院した場合、30日利用すると、「7,837円×30日」という計算になり、差額ベッド代だけで、235,110円という高額な入院費を請求されます。
一般的に4人部屋だと差額ベッド代がかからないのですが、一部では費用が生じる病院もあるようです。たとえ4人部屋を案内されたとしても、差額ベッド代がかかるか確認しましょう。
差額ベッド代は公的医療保険が使えない
差額ベッド代は、治療費のように医療保険対象にはなりません。医療保険対象であれば、1~3割負担で済みますが、差額ベッド代は保険対象外のため、全額自己負担になります。
入院した場合、支払い金額が大きくなると利用できる「高額療養費制度」がありますが、こちらの制度は、医療保険対象のものに限られるため、差額ベッド代は対象になりません。確定申告で手続きをする、医療費控除についても対象外です。
民間の医療保険に加入されている場合、差額ベッド代などの自己負担となる費用が、補償される場合があります。
加入されている民間保険で補償の対象になるか確認するようにしましょう。
差額ベッド代を支払うケース
差額ベッド代を支払うケースは大きく2つあります。患者が希望したり、病院側の提案に同意のうえ利用した場合は支払わなければなりません。詳しく見ていきましょう。
患者自らが希望して差額ベッド室に入院する場合
自分から希望して、個室などの差額ベッドを利用する場合は、当然のことながら費用を請求されます。
例えば、4人部屋で周りの患者のいびきがうるさくて個室に移りたい場合や、プライバシーがしっかり守られた病室で治療を受けたいといった場合などは、患者自らが希望して差額ベッド室を利用することになります。
ただし、その個室が前述した4つの条件を満たしている部屋なのか確認しておきましょう。
病院から提示された同意書にサインした場合
差額ベッド利用に関する同意書にサインをした場合、「患者の希望に基づき利用している」ということになります。この同意書には、部屋の広さや設備、金額の記載があり、「説明を受け利用します」という内容となっています。
病院からの口頭確認だけでなく、この同意書にサインすることで支払い義務が生じます。
また、誰しも入院時は体調が悪いもの。そういったなかで、病院の説明通りにさまざまな書類にサインをすることになります。書面の内容を正しく確認せず、他の書類と一緒に差額ベッド代の同意書にもサインをしてしまうと費用が請求されてしまいます。
判断力が低下しているときに説明を受けたり、サインをすることは十分注意しましょう。
支払わなくても良いケース
差額ベッド代は支払わなくても良い場合があります。もし、差額ベッド代を請求されて困っている場合、これから解説する内容に該当するかどうか、確認してみましょう。
患者から同意書による同意のサインを取っていない場合
前述のように、差額ベッド利用に関する同意書に、同意のサインをしていない場合には、差額ベッド代を支払う必要はありません。また同意書に、差額ベッド代がいくらかかるのかの記載がない場合も「同意の確認が取れていない」とみなされ、支払う必要はありません。
治療上の必要性から差額ベッド室に案内された場合
以下のような、治療上の必要性がある場合は支払う必要はありません。
- 救急患者、術後患者等であって、病状が重篤なため安静を必要とする者、又は常時監視を要し、適時適切な看護及び介助を必要とする者
- 免疫力が低下し、感染症に罹患するおそれのある患者
- 集中治療の実施、著しい身体的・精神的苦痛を緩和する必要のある終末期の患者
- 後天性免疫不全症候群の病原体に感染している患者(患者が通常の個室よりも特別の設備の整った個室への入室を特に希望した場合を除く。)
- クロイツフェルト・ヤコブ病の患者(患者が通常の個室よりも特別の設備の整った個室への入室を特に希望した場合を除く。)
- ※出典:厚生労働省保険局 『「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について』の一部改正について
病院の都合で差額ベッド室に入院させられた場合(患者の選択ではない場合)
以下のような、病棟管理上の必要性がある場合は、支払う必要はありません。
- MRSA等に感染している患者であって、主治医等が他の入院患者の院内感染を防止するため、実質的に患者の選択によらず入院させたと認められる者の場合
- 差額ベッド室以外の病室が満室であるために入院させた患者の場合
- ※出典:厚生労働省保険局 『「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について』の一部改正について
差額ベッド代の支払いで困ったらどうすればよい?
差額ベッド代が高額で支払いに困ったときには、どうすれば良いのでしょうか。2つの事例について考えてみます。
同意書に同意した支払いが難しい場合
まずは、加入している民間医療保険の補償内容を確認してみましょう。差額ベッド代についても補償の対象になっているかもしれません。補償対象でない場合は、分割で支払えないか病院側に相談してみましょう。
差額ベッド代を支払わなくてもよい場合に該当するのに、病院から支払いを求められている場合
病院側に、「支払わなくても良い場合に該当する」ということを伝え、協議をしたにも関わらず支払いを強いられている場合には、都道府県の相談窓口を利用してみましょう。
例えば東京都の相談窓口は以下の通りです。
- 東京都 福祉保健局 医療政策部 医療政策課「患者相談窓口」
電話:03-5320-4435
※2020年1月現在
知らないことで損をしないために
患者の同意なしに差額ベッド代を請求することはありません。ただでさえ高額になりがちな入院費用。
今回のように正しい情報を知ることで、みなさんの負担軽減につながればと思います。また、これをきっかけに、ご自身の民間医療保険の保障内容を確認したり、契約内容を見直してみてはいかがでしょうか。
この記事の制作者
著者:森 裕司(介護支援専門員、社会福祉士、精神保健福祉士、障がい支援専門員)
株式会社HOPE 代表取締役
医療ソーシャルワーカーとして10年以上経験した後、介護支援専門員(ケアマネジャー)に転身。介護の相談援助をする傍ら、医療機関でのソーシャルワーカーの教育、医療・介護関連の執筆・監修者としても活動。近年は新規事業やコンテンツ開発のミーティングパートナーとして、企業の医療・介護系アドバイザーとしても活動中。