介護休暇とは?介護休業との違い・給与・日数・条件などについて
「家族の介護」は突発的でかつ長期敵な対応が求められ、企業や事業所に勤めていると休暇の取得に悩みが尽きないものです。そこで利用したいのが「介護休暇」や「介護休暇」という制度。
それぞれにどのような違い、利用条件、日数・取得単位、給与の定めがあるのかを網羅的に解説します。
介護休暇とは?
介護休暇とは、介護が必要な家族がいる労働者に向けた休暇制度です。半日や1日など短期間の取得に適しています。
介護休暇は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(2022年(令和4年)4月1日法改正施行)」にて定められた権利であり、条件に合致すれば雇用主は取得を断れません。
取得のハードルが低く、短時間から利用できることに加え、有給休暇とは別の休暇であるため、介護離職を防ぐ一助となる制度です。
利用イメージ
- 介護保険などの手続き
- 要介護者の突然の体調不良
- 病院や介護施設などへの付き添い、送迎
- 介護士やケアマネジャーとの面談
- 福祉用具店へのレンタル申し込み
- 介護施設の見学
- 日常生活の介助、買い物
介護休暇の取得可能日数・時間単位
対象家族(介護が必要な家族)が1名の場合は年5日、対象家族が2名以上の場合は年10日まで取得できます。単位は丸々1日はもちろん、1時間での取得も原則認められています。
消費日数は1事業年度ごとに切り替わります。事業主の定めがない場合は、毎年4/1~3/31までの間で切り替わるため、お勤めの企業の対応は予め確認しておきましょう。
時間単位の取得上限は、1日の就業時間×日数で計算できます。そのため、就業時間が8時間で対象家族が1名の場合は40時間まで、2名以上の場合は80時間まで取得可能です。
時間単位についてこれまでは、1日単位・半日単位での取得のみでしたが、2022年(令和4年)4月1日の法改正の施行により1時間単位での取得が可能になりました。(時間単位での取得が困難と認められる業務に従事、時間単位での取得を除外する労使協定を締結している場合は除く)
中抜けの対応
法令で定められているのは、始業時間からの連続や終業時間まで連続するもので、いわゆる「中抜け」ではない時間単位の休暇取得です。ただ、職場や企業によっては、「中抜け」を認めているところもあります。
中抜けが必要な場合は、就業規則や担当部署に確認しましょう。
介護休暇の取得条件
対象となる労働者 |
対象家族(介護が必要な家族)を介護する男女 ※日々雇用・一部労使協定締結の場合は除く |
対象となる家族 | 配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫 |
介護度の定め | 2 週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態 |
対象となる労働者の詳細
日々雇用・一部労使協定締結の場合を除き対象家族を介護する男女
介護休暇は本来勤務する予定であった日に対して取得できる休暇制度のため、契約期間が1日ごとの日々雇用の方は利用ができません。
労使協定は、労働者と雇用主間で交わされる書面契約を指します。労働基準法だけでは補いきれない例外の対応を双方の同意により決定することで、法的義務免除や免罰ができるとされています。なお、介護休暇の場合は労使協定が締結されている場合に限り、以下の方は取得対象外です。
労使協定締結の場合に対象外となる労働者
- 入社6か月未満の従業員
- 1週間の所定労働日数が2日以下の従業員
対象となる家族の詳細
対象家族と言われる「介護が必要な身内の定義」は図の通りです。対象家族とは、必ずしも同居している必要はないため、介護休暇は遠距離介護であっても利用が可能です。
なお、配偶者は事実婚も含み、子については法律で親子関係が認められる場合に含まれます。
介護度の定めの詳細
2 週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態
常時介護とは、厚生労働省掲載の状態の方を指します。ただ、この定義にとらわれすぎることなく、労働者の事情にあわせて柔軟に運用するようにも望まれているため、該当しない場合であっても、諦めることなく勤め先に確認してみましょう。
介護休暇時の給与の扱い
無給か有給かは勤め先の定めによって異なります。
介護休暇中の賃金について、法的な定めはありません。そのため、賃金の扱いについては、勤め先の規定によります。介護休暇取得前に必ず就業規則などで確認しましょう。
介護休暇中の賃金が支払われない場合は、有給休暇から優先して利用するのも可能です。ご自身の有給休暇の消化状況とあわせご判断ください。
介護休暇の申請方法
法律では当日・口頭にての申請も可能とされています。
介護休暇については、書面での提出に限定されていません。ただ、一般的にはそれぞれの企業で所定の申請書が用意されているため、求められた場合は提出しましょう。
なお、介護保険の要介護認定の結果通知書や医師の診断書の提出を取得の条件にできないともされています。しかし、実際には求められるケースも見受けられます。ご自身の意思やご事情を鑑みて対応のご判断をしてください。
介護休暇の利用は当然の権利です。ただ、周囲の事情を考えると、何の前触れもなく突然制度の申し出には柔軟な対応もしづらいものです。取得の可能性が見えてきた段階で相談をするだけでも、その後の理解は得やすいでしょう。
介護休暇と介護休業の違い
介護休暇 | 介護休業 | |
---|---|---|
想定用途 | 数時間~1日程度の 日常的な手続きや外出など |
数週間~1ヶ月以上かかる 生活環境の大きな変化への対応など |
取得 可能日数 |
介護対象者1名で年5日(2名以上は10日) 1時間単位での取得が可能 |
介護が必要な家族1名につき通算93日間 最大3回まで分割して取得可能 |
介護対象者 | 要介護状態の家族がいる | |
取得対象外 |
・日々雇用者 ・労使協定締結の場合以下 └入社6か月未満 └1週間の所定労働日数が2日以下 |
・介護休業の取得日から起算して、93日を経過する日から6ヶ月を経過する日までに ・労使協定締結の場合以下 └入社1年未満 └申出の日から93日以内に雇用期間終了 └1週間の所定労働日数が2日以下 |
給与 | 企業判断(法的な定めなし) | |
申請方法 | 当日、口頭での申請可能 | 取得開始予定日の2週間前までに書面申請 |
給付金 | なし | 介護休業給付金あり(条件あり) |
介護休暇と似たものに介護休業という制度があります。名称は似ている制度ですが、それぞれの概要や取得条件は異なります。以下で介護休業の詳細を解説します。
介護休業とは
介護休業とは、介護休暇同様に介護が必要な家族がいる労働者に向けた休暇制度です。取得できる日数が多いため、長期間の利用に適しています。
介護休業は介護休暇に比べて長期間にわたり取得が可能なため、腰を据えて対応が求められる場合に利用できる制度です。数週間ないし1か月以上の利用が想定されているため、大きな環境変化がある場合の利用がおすすめです。
利用イメージ
◎介護施設に入居するための準備
◎遠方に住む家族の介護
◎介護対象者と同居するための受け入れ準備
◎自宅で介護をするためのリフォーム
◎介護対象者の看取りが近い場合の対応
◎書類作成や各種手続きなどをまとめて行う
介護休業の取得可能日数
対象家族(介護が必要な家族)1名につき、通算93日まで取得可能です。
必ずしも一度に93日分を取得する必要はなく、3回まで分割することもできます。
また、介護休業の日数は通算でカウントするため、会社の休業日も含みます。例えば、土日が休みの職場で4週間の介護休業を取得した場合は、取得日数は28日としてカウントされます。
取り方例
パターン1:90日
パターン2:40日+50日
パターン3:31日+31日+31日
介護休業の取得条件
対象となる労働者 |
取得予定日から起算して、93日を経過する日から6か月を経過する 日までに契約期間が満了し、更新されないことが明らかでない (さらに日々雇用・一部労使協定締結の場合は除く) |
対象となる家族 |
配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫 |
介護度の定め | 2 週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態 |
対象となる労働者の詳細
取得予定日から起算して、93日を経過する日から6か月を経過する
日までに契約期間が満了し、更新されないことが明らかでない
(さらに日々雇用・一部労使協定締結の場合は除く)
日々雇用の方は介護休暇同様に対象外です。さらに、介護休業は休暇期間が長期にわたるため、取得後も継続的に企業に勤められる方の利用が前提とされています。一般的な正社員は無期雇用とされているため、意識する必要はありませんが、契約期間の定めがある場合はご注意ください。
なお期間の定めがない場合は、正社員・契約社員・アルバイト・パートなど雇用形態による対応の違いはありません。
また、労使協定締結時の除外事項も介護休業とは異なり以下の通りです。
労使協定締結の場合に対象外となる労働者
- 入社1年未満
- 申出の日から93日以内に雇用期間終了
- 1週間の所定労働日数が2日以下
対象となる家族の詳細
対象家族は介護休業と同様の定めです。同居の必要はなく、配偶者は事実婚も含み、法的な親子関係が認められる場合は取得可能です。
介護休業は期間も長いため、より遠距離介護のケースでの利用に適しています。
介護度の定めの詳細
2 週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態
介護度の定めは介護休業と同様です。厚生労働省掲載の状態を確認の上、該当しない場合においても一度お勤め先に確認されるのをおすすめします。
介護休業時の給与の扱い・給付金について
給与の無給・有給は勤め先の定めによって異なります。また、介護休業には、介護休業給付金という制度があります。
介護休業中の賃金についても、介護休暇と同じく、法的な定めはありません。所属する企業などの規定に従うことになりますので、必ず就業規則を確認してください。
ただし介護休業の場合は、条件を満たせば雇用保険の「介護休業給付」という制度を利用できます。介護休業給付は、賃金の67%相当額の給付金を受けらえる制度です。(介護休暇には、この制度は適用されません)
介護休業給付金とは
「介護休業の開始日前の2年間で、12ヶ月以上雇用保険に加入」している人が受給できる給付金です。ただし、この期間中にケガや病気などで休職期間がある場合は、受給要件が緩和されることもありますので、身に覚えがある方は個別に確認してみてください。
ただし、介護休業期間中に有給休暇などの給与を受けている場合は、その分の支給額が減額されたり、給付金自体が支給されないこともありますので注意が必要です。また、支給金額には上限があり、現在の上限金額は33万2253円です(2022年5月時点)。なお介護休業給付金は、非課税になります。
介護休業給付金のさらに詳しい情報は以下をご覧ください。
関連記事介護休業給付金
介護休暇の申請方法
開始予定日と終了予定日を決めた上で、「開始予定日の2週間前」までに会社へ書面で申請。
申請書のフォーマットは会社によって異なりますので、事前に総務課などの担当部署に確認しておきましょう。
事業者は、介護休業の申請を行ったことや介護休業を取得したことを理由に、解雇はもちろん、その他の不利益な取扱いが禁止されています。不利益な取扱いの具体例としては、「退職の強要」「パートなどへの雇用形態変更の強要」「降格」「減給」「ボーナスカット」「理不尽な配置転換」などがあげられます。
介護休業も介護休暇と同じく当然の権利ですが、突発的な対応のために取得する介護休暇に対して、介護休業は計画的に利用できる制度です。
長期間職場を不在になりますので、開始予定日や終了予定日、業務の引き継ぎなど、周囲の協力も欠かせません。周りに迷惑を掛けず、気持ちよく送り出してもらうためにも、できる限り早い段階から職場や上司に相談しておくと良いでしょう。
まとめ
介護休暇や介護休業の取得は、社会で働く誰にもその可能性があるといっても過言ではありません。それぞれの制度のしくみや違いを正しく理解し、普段から周囲への気配りを行うことで、それらの制度のスムーズな利用ができます。
また、政府も介護離職などをできる限り防ぐために、定期的な制度の見直しや改正を行っています。これを機に、常に最新の情報にもアンテナを張ると良いでしょう。
あなた自身が制度を利用するときの役に立つだけでなく、周りの方にもこれらの制度を利用してもらうことで、1人でも多くの方が介護と仕事を両立していただけることを願っています。
この記事の制作者
監修者:廣江淳哉(社会保険労務士、サーティファイド ファイナンシャル プランナー,ひろえFP社労士事務所 代表)
ライフプラン作成を中心に、教育費、住宅ローン、保険、資産形成など幅広い分野で顧客からの相談に応じている。仕事と介護の両立セミナーなど、自治体や企業、労働組合などでFP&社会保険労務士としてセミナー講師も多数担当。また、新聞や雑誌からお金の専門家として取材協力を求められるほか、自身のブログやYouTubeにて積極的に情報発信を行っている。