【トラブル回避】親の介護|兄弟姉妹の役割分担
かつては親の介護を長男の妻が担うことが多かったですが、今は誰もが親の介護をする可能性が高い時代になりました。
しかし、兄弟姉妹の間で介護にまつわるトラブルが増しています。親の介護に向き合わなければならなくなったとき、兄弟姉妹間で争わずに協力し合うにはどうすればいいかを考えます。
兄弟姉妹間に多い介護トラブルとは
介護をめぐるトラブル事例
核家族化した日本では、家から出て独立した兄弟姉妹は、たまに連絡を取り合うような関係が多くなっています。
そんななかで親の介護問題が起きると、大きなトラブルになることが少なくありません。
まずは兄弟姉妹間の介護をめぐるトラブルの事例を紹介します。
「介護は長男の妻がするもの?」古い風習のせいで負担が集中
昔は、家を相続する長男が親と一緒に住み、長男の妻が介護を引き受けることが多かったですが、そのような家制度は今では多くの地域や家庭においてなくなりつつあります。
ただ、昔の風習が続いていて親の介護は長男の妻がするべきという考えを持っている家もあり、長男の妻がそれに納得できないと、不満を抱えてしまうケースは今でも見られます。
手は貸さないが口だけ出す兄弟姉妹に憤り
現代に多い不満やトラブルは、平等意識をもった兄弟姉妹たちが、親の介護が必要になった時に「誰が介護を担うのか」でもめることです。
それぞれが各々の生活に追われているため「子育てに忙しい」「仕事でフルに働いている」などの理由から、親を介護する時間的余裕はないと互いに言い合い、誰も積極的に介護を引き受けようとしないのです。
そこで仕方なく兄弟姉妹のうちの誰かが介護を引き受けた場合、他の兄弟姉妹たちがその人に介護を任せっきりにして、介護の協力も費用面のサポートもせず、たまに顔を出したとしても、口を出すだけになると、介護を引き受けた人は孤立感を覚えて「なぜ自分だけが介護をしなければならないのか?」という大きな不公平感をもつようになっていきます。
親の預貯金不足を告げても金銭援助を拒否
また、介護が長引けば、金銭的な問題が持ち上がりやくなります。親のお金を介護費用に充てていても、介護が長期間に及ぶなどすると、次第にお金が不足することも。
その段階で他の兄弟姉妹に相談したとしても、「教育費にかかっている」「住宅ローンが残っている」などと言われて体よく逃げられます。
そうすると介護している人は、介護を引き受けたことを後悔し、兄弟姉妹に対して不信感や嫌悪感しか持てなくなっていきます。
しかし一方で、離れている兄弟姉妹にも不安が起こり始めます。
介護者が介護の延長で実家を乗っ取ってしまうのではないかという不安を持つのです。親の金銭管理も任せていれば、相続の心配も起こってきます。
そんな不安が介護者に伝わると、「経済的な負担を何も負わなかった兄弟姉妹たちが、遺産の分け前だけ求めてくるのではないか?」と不安を募らせることになります。
このように、介護のトラブルは、介護の押し付け、金銭負担、相続など様々な問題がつながって起こります。
不平不満が表面化して、互いの信頼関係が薄れると、それぞれが自分を守るために相手を攻撃する言葉を発してしまい、大きなトラブルに発展していくのです。
トラブルに発展する原因
兄弟姉妹間でトラブルになってしまう大きな原因の一つには、介護が突然に始まることが多いからです。
兄弟姉妹たちに準備や心構えがなく、とりあえずできる人が介護を引き受けてしまうなど、介護の条件をあいまいにしたまま介護をスタートしているため、大きなトラブルの原因になりやすいのです。
また、親の介護をしたくないわけではないが、現実に難しいという理由もあります。一般に親の介護に直面する年代は、親が70~80代であれば50歳前後の人が多いでしょう。
この世代は職場で責任を担うポジションであったり、住宅ローンを抱える世代であったりするため、介護をする余裕はない、できれば避けたいという判断がすぐに起こってきます。
そうすると、独身だからとか、近くに住んでいるからなどという理由で介護の役を押し付けてしまうケースが多いのです。
役割分担をせずに安易に介護をスタートしてしまったために、介護を引き受けた人の負担が予想以上であった場合、トラブルが起こりやすくなります。
そして、介護の大変さはやってみないとわからないという側面があることもトラブルの大きな原因になります。
離れて暮らす兄弟姉妹は、たまに親に会った時の親の姿が比較的安定に見えると、「これならそんなに大変ではないだろう」と思ってしまいがちです。
たまに介護を手伝うだけでは理解できない部分があるのが在宅介護です。
介護者と他の兄弟姉妹との介護に対する認識に温度差があると、介護者は「どうせわかってはもらえないだろう」と思うようになり、孤立感を深めていきます。
トラブル回避のために|まずは親の意思と経済状況を確認する
兄弟姉妹間のトラブルを避けるには、まだ介護が始まっていない時に準備できることや知っておきたいことを確認することが大切です。
そのためには、介護される親自身の考えと意思を確認することから始めましょう。それを兄弟姉妹のみんなで共有することが大事です
日常会話から介護に対する考えを聞く
まだまだ元気な親に介護の話をするのは気が引けるかもしれませんが、介護にかかわる話題をさりげなく振ってみましょう。
テレビ番組の特集を見た時や、親せきや友人知人で介護が始まった人のことを話しながら、「お母さん(お父さん)はどうしたいの?」と切り出してみます。
そして、もしも介護が必要になったら「今住んでいる家に住み続けたい」「誰かと同居したい」「施設に入りたい」「家をリフォームしたい」などの考えを確認します。
親にもいろいろな考えの人がいますから、子供たちが勝手にこうだろうと決めつけることはせず、「今のうちの伝えられることがあれば教えて」とざっくばらんに聞いてみるとよいと思います。
介護費用を賄えるの?親の経済状況を確認
介護が始まった時の介護費用をどう分担するのかの調整は、とても難しい課題です。お金のことというのは、特に切り出しにくいことだと思います。
しかし、親のほうも一度話しておきたいと思っている可能性があります。
きっかけを子供たちのほうから作ることは悪いことではないでしょう。将来のことを真剣に考えている思いが通じれば、率直に教えてくれる親はいるはずです。
できれば、親の年金などの収入とどのくらいの預貯金があるかを聞いておきたいところです。
介護費用が親のお金で賄えそうなのか、それとも家族みんなで相談しておくべきなのかの判断を早いうちにしたいからです。
長生きすれば、脳梗塞や心筋梗塞などが起こって、いつ意思表示が難しくなる事態が起こらないとも限りません。
通帳や印鑑、権利証などの重要書類や資産についても、親に「いざという時にはわかるようにしておいてほしい」と伝えてみましょう。
兄弟姉妹の役割分担はこう決める
親の意思と経済状況を知ることができたら、親の介護について兄弟姉妹がどのように役割を分担していけばよいかを考えます。
まず、介護に至らずとも、心配な様子が親に少し見られるようになったら、食事をきちんととれているかを注意します。
また、買い物に不便が生じている高齢者は案外多いので、そのあたりから兄弟姉妹みんなで「介護のようなもの」に自然にフェードインするとよいのです。
また、介護保険についての基本的な情報を集めます。兄弟姉妹みんなが介護サービスについて、知っておくことが大事なのです。
兄弟姉妹で親の介護に対する本音を話し合う
そして、ここから実際に介護が始まった時の役割分担についてです。兄弟姉妹それぞれに生活があり、なかには配偶者の実家の介護も重なっているなど、様々な事情があると思います。
そんな中で話し合いをする時、介護を避けたいがために、各々が今の生活の「大変さ自慢」をしてしまうと、けんかに発展する可能性もあります。
介護ができるかできないかという話しからスタートするのではなく、親の介護に対する正直な気持ちをそれぞれが話すというスタンスで話し合いを始めてみましょう。
全員の「できること、できないこと」を確認する
親に対する思い入れには兄弟姉妹間でも温度差があるものです。
そこで互いの気持ちを理解するように心がけ、互いの本音や状況が少しわかってきたところで、具体的に何ができて、何ができないかを確認し合うのです。
月々どれくらい費用が必要であるか、どれくらい介護の手が足りないかを具体的に話し合えれば、協力し合う気持ちも起こってくると思います。
介護の中心人物「主介護者」を決める
まず、誰が中心になって介護するかについて、はっきり決める必要があります。
中心となる介護者(キーパーソンや主たる介護者)の負担が大きくなるのは当然なので、それをほかの兄弟姉妹同士が認識して、他の部分について誰が何を引き受けるかを話し合うのです。
キーパーソンとは、ケアマネや介護サービスとの折衝、毎日の介護スケジュールなどの把握に責任を持つ役割です。主たる介護者とは、実際に介護をする役割です。
キーパーソンと主たる介護者は同じ人が引き受けるケースが多いですが、分けている例もあります。
主介護者以外の役割も明確に
そして、他の兄弟姉妹は、資金援助をする、週末だけ手伝う、定期的に親に電話をするなど、何か少しでもできることをすることが大事です。
そうすることによって、介護の負担が1人に集中しないことが重要なのです。
また、兄弟姉妹の中で会社の介護休暇や介護休業、会社独自の介護サポートを使えないかについても調べて協力し合うとよいでしょう。
金銭が絡むとトラブルに発展しやすい
介護が始まると、生活費の他に、介護サービス費、医療費、介護用品の購入費、通院等の交通費など様々な費用が発生します。
介護にはお金がかかりますので、介護費用にどれくらいかかるのかを、具体的に把握する必要があります。
「要介護5」で月に10万円以上かかることも!?
介護サービスの自己負担額割合は多くの人が支給額の1割ですが、介護度が上がってくると1割でも大きな負担になってきます。
介護サービスには食事などの実費もあり、以下は全て目安ですが、要支援なら月1万円前後、要介護3くらいまでで月3~4万円、要介護4~5になると月5万円以上になります。
加えておむつや介護用品、交通費などを合わせると、介護費用全体としては、要介護1で月約4万円、要介護5になると月10万円近くかかります。
また利用頻度にもよりますが、介護保険外サービスでヘルパーなどを利用した場合、介護にかかる総額が月10万円以上になることもあります。
以上の費用をどのように捻出するかは、介護が始まる前、または始まった直後に決めておく必要があります。
介護費用は親のお金がキホン。不足分だけを家族が補う
親の介護には親のお金を使うことを、親を含めた家族全員で確認し合いましょう。
親の年金や預貯金からどのくらい負担できるのかを確認して、足りない場合は家族が不足分を補うことになります。親の介護度が上がれば介護費用も増えますので、定期的な見直しも必要になります。
なお、親の判断力が低下してくると、兄弟姉妹のうち誰かが金銭管理をすることになります。
親の資産は子供たちの資産ではないので、しっかり管理することが大切です。金銭管理の役割を担う人は、介護費用にかかった記録を残しておくようにしましょう。
まとめ
兄弟姉妹とはいえ、それぞれ別の生活期間が長くなれば、本音で話し合う機会は減っているでしょう。
しかし、親の介護というのは、親の最期の時間を見守るものですから、後悔したくないと思う人も多いのではないでしょうか。
接点が薄れていた兄弟姉妹が、親の介護によってバラバラになってしまうのではなく、また連絡が取り合えるきっかけになればと思います。
大切なのは、その家族なりの介護の形を探っていくことです。
イラスト:安里 南美
この記事の制作者
著者:浅井 郁子(介護・福祉ライター)
在宅介護の経験をもとにした『ケアダイアリー 介護する人のための手帳』を発表。
高齢者支援、介護、福祉に関連したテーマをメインに執筆活動を続ける。
東京都民生児童委員
小規模多機能型施設運営推進委員
ホームヘルパー2級