【はじめての方へ】地域包括ケアシステムとは?取り組み事例や課題も知っておこう
地域包括ケアシステムとは、高齢者や介護が必要となっても慣れ親しんだ地域で自分らしい暮らしを続けられるよう、地域が一体となり医療や介護、福祉などの支援・サービスを提供する体制のことです。
高齢者の生活を支えるためには、国だけでなく、それぞれの地域の特性に応じた独自のシステムの構築が必要です。
この記事では、地域包括ケアシステムが誕生した背景や基本的な考え方とともに、地域における取り組み事例、今後の課題などを解説します。
地域包括ケアシステムとは何?
地域包括ケアシステムは、要介護状態となった高齢者の方も住み慣れた地域で自分らしい生活を継続できるように、各地域においてさまざまな支援やサービスを提供する仕組みのことです。
少子高齢化が急速に進むなか、2025年には団塊の世代が75歳以上となり、医療や介護の需要はさらに増加すると見込まれています。しかし、増加する高齢者人口に反して病院や施設、介護職員の数は不足すると予想されているのが現状です。
そのため、厚生労働省は2025年をめどに、医療や介護、生活支援、福祉サービスなどを一体的に提供する地域包括ケアシステムの構築を目指しています。
高齢化が進む一方で、都市部と町村部では高齢化率の進展状況に地域差が生じており、課題や必要とするサービスなどが異なります。そのため、それぞれの地域が主体となり、その地域の特性に応じた地域包括ケアシステムを作り上げることが重要なのです。
地域包括ケアシステムの基本的な考え方
地域包括ケアシステムは、5つの要素を基本として構成されています。ここでは、地域包括ケアシステムを語る上で重要となる5つの構成要素と4つの「助」について解説しましょう。
地域包括ケアシステムの5つの構成要素
地域包括ケアシステムは、各市区町村がその地域の特性に応じて創り上げていくものです。そのための構成要素を厚生労働省では次の5つとしています。
- 1.介護
- 介護が必要になったら利用する介護サービス全般
- 2.医療
- かかりつけ医、看護サービス、急性期病院、回復期リハビリテーション病院など医療サービス全般
- 3.予防
- いつまでも元気で暮らすための介護予防や健康づくり、保健衛生面など
- 4.生活支援
- 日常の暮らしを支えて自立を支援するための福祉サービスや地域交流に関すること
- 5.住まいと住まい方
- 高齢者の住まいの確保、賃貸住宅入居時の保証人の確保、空き家の活用など
以上の5つの要素を、総合的かつ一体的に提供するシステムを構築することが地域包括ケアシステムの目的です。
生活のベースとなる「住まい」と、生活を支える「福祉サービス」をまず確保し、そのうえで「医療、介護、介護予防」を有効的に機能させます。
なお、地域包括ケアシステムにおける「地域」とは、住民の日常生活の範囲をいい、具体的には30分程あれば駆けつけることができる範囲とされています。
「自助・互助・共助・公助」からみた地域包括ケアシステム
「公助」は税による公の負担、「共助」は介護保険などリスクを共有する仲間(被保険者)の負担であり、「自助」には「自分のことを自分でする」ことに加え、市場サービスの購入も含まれます。
これに対し、「互助」は相互に支え合っているという意味で「共助」と共通点もありますが、費用負担が制度的に裏付けられていない自発的なものです。
「自助」
自分で自分を助けることです。かかりつけ医をもち、定期的に健康診断を受けるなどして、普段から自分の健康に注意を払い、自立した生活を維持するために必要なサービスは自費で購入するものです。
「互助」
住民同士の支え合いです。町会・自治会などの活動やボランティア・NPOなどによる、公的な制度と異なる助け合いのしくみを指します。
「共助」
制度化された相互扶助のことです。医療、年金、介護保険といった社会保険制度を指し、保険の仕組みを用いて社会全体で助け合おうというものです。
「公助」
国による社会福祉制度のことです。税の負担による生活保護制度や市区町村が実施する高齢者福祉事業を言います。
今後は「互助」と「自助」の役割を一層高めようとする考え方が「地域包括ケアシステム」になります。
地域包括ケアシステム構築のプロセス
地域包括ケアシステムの構築は、各市区町村で3年ごとに策定する「介護保険事業計画」を通じて計画的に進めることになっています。従って、全国一律のものではなく、各地域が目指す独自のケアシステムを計画していくものです。
地域ケア会議の役割とは
地域ケア会議は、地域包括支援センターなどが主催する圏域ごとの会議を行います。
会議には、自治体の職員、ケアマネジャー、介護事業者、町会・自治会、民生委員、医療関係機関、社会福祉協議会、ボランティア団体など多くの地域関係者が集まります。
この会議で地域における個別事例を検討し、その検討を積み重ねることで地域の課題を把握していきます。
圏域ごとの地域ケア会議により把握された課題は、次に市区町村レベルで開催される代表者による地域ケア会議に報告されます。
地域包括ケアシステム3つのプロセス
地域包括ケアシステム構築の方法として、次の3つのプロセスを経て進めることが国から示されています。
1.地域の課題の把握と社会資源の発掘
市区町村では、住民の日常生活に関連したニーズの調査を行います。また、地域包括支援センターなどで「地域ケア会議」を開催し、地域の個別事例の検討を行い、地域の課題を分析・把握します。同時に、医療・介護・福祉サービスの担い手となる地域のNPOやボランティア団体、町会や商店などを発掘します。
2.地域関係者による対応策の検討
市区町村レベルの「地域ケア会議」を行い、総合的に課題を検討し、具体的な対応策を立案します。
3.対応策の決定と実行
市区町村において対応策を決定、地域にかかわる多様な主体による多様な支援メニューを整備します。
このプロセスの中で重要な役割を果たすのが「地域ケア会議」です。
地域支援ネットワークが鍵となる
市区町村で実施した住民のニーズの調査の結果と併せ、地域の共通の課題と社会資源を具体的に検討し、サービスの開発と地域づくりが計画され、地域包括ケアシステムを構築していくことになります。
地域包括ケアシステムを実行するためのサービスメニューには、外出支援、買い物支援、家事援助、声かけや安否確認、サロン活動などの多様なサービスが考えられます。
そのようなサービスを、地域の商店や郵便局、金融機関、NPO、社会福祉協議会、民生委員、ボランティア団体、町会などが提供の主体となることが期待されています。
地域のこのような社会資源をつなげた「地域支援ネットワーク」がいかに機能するかが、地域包括ケアシステムの鍵となるでしょう。
2017年度から全国の市区町村で完全にスタートした「介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)」は、地域包括ケアシステムを実現させるための具体的な「地域支援ネットワーク」を生かした地域の支援事業ということになります。
総合事業とは地域包括ケアシステムのメリットとは
地域包括ケアシステムによって、高齢者の暮らしはどう変わるでしょう。期待されることをまとめます。
- 一体的で継続的な医療と介護の連携サービスが提供される
- 今までは医療と介護の連携が整っておらず、医療ケアが特に必要な要介護者への、柔軟なサービスの提供が困難でした。しかし、在宅医療サービスと介護サービスがきちんと連携することで、必要なタイミングで柔軟なサービス提供が可能になり、医療依存度の高い方でも、まるで病院で入院しているかのように安心して自宅で今まで通りの生活を続けやすくなります。
- 認知症になっても、自宅での生活を続けられる
- 地域支援ネットワークを生かし、地域に認知症カフェや認知症サポーターが増えて、認知症の人の居場所や見守る人たちの数が増えていくでしょう。
- また、2019年9月末に地域包括支援センターを通じて設置された「認知症初期集中支援チーム」により、認知症を疑われているが医療や介護サービスに結びついていない人をサービスにつなげることができるようになります。
- このようなことから、認知症になってもできる限り住み慣れた環境で自分らしい暮らしを続けることが期待されます。
- 地域に多様な生活支援サービスが生まれる
- 高齢者の日常生活に欠かせない買い物、調理、掃除、ゴミ出しなどの家事支援や外出支援、見守りなど個別のニーズに対して柔軟に対応できるサービスが提供される予定です。
- 高齢者が社会参加できる
- 比較的元気な高齢者は、支援する側になる機会が増えます。地域での役割を果たしながら、自分の生きがいを見つけたり、介護予防につなげたりできるでしょう。
地域包括ケアシステムの取り組み事例
全国の中でも地域の特性を活かした先駆的な地域包括ケアシステムに取り組んでいる地域を3つご紹介します。
1.都市部の人口規模最大地域である、東京都世田谷区の事例
東京都世田谷区は東京23区の西部に位置し、人口規模は23区中最大の地域です。
世田谷区では、地域の資源やネットワークを活用し、日常生活圏域を基本としつつも区全体で地域包括ケアシステムを構築しています。
具体的には、地域課題を把握するために、区で独自に高齢者実態把握調査を実施。健康づくり・介護予防の重要性について住民から意見を募り、世田谷らしい地域包括ケアシステムの構築を目指しました。「住み慣れた地域で、いつまでも安心して暮らし続けられる地域社会の実現」を基本理念とし、医療・介護・予防・住まい・生活支援の5つの構成要素をバランスよく取り入れた仕組みに取り組んでいます。
NPO・地域活動団体・大学などの約70の団体が連携・協力し、住民主体の地域活動が盛んに行われています。交流の場やネットワークを作ることで高齢者の社会参加を促進し、5つの構成要素を途切れることなく一体的に提供するシステムを構築しているのです。
2.人口規模が小さい地域である、鳥取県南部町の事例
鳥取県南部町は、県西部に位置する人口約1万人の地域です。
南部町では、地域住民が主体となり住まいや居場所づくりに取り組み、行政が実現に向けた取り組みをサポートするというシステムを取り入れています。
独居高齢者の増加、介護サービスの利用による地域のつながりの希薄化という課題があった南部町。空き家などを改修して、地域住民組織運営による高齢者の共同住宅を確保することで、地域とのつながりを維持しつつ、可能な限り地域で暮らせる住まいをモデル事業として実施しています。
今後は、事業をPRして利用者を増やし、整備を進めることでよりよい環境の共同住宅の構築を目指しています。
3.在宅医療の推進する、千葉県柏市の事例
千葉県柏市は、県北西部に位置し、都会の町並みと豊かな自然が調和した都心のベッドタウンです。
柏市は、市が中心となり、医師会など他職種と連携し、在宅医療を推進するための関係づくりやルールづくりに取り組んでいます。具体的な取り組みとして、在宅医療従事者の負担軽減の支援・効率的な医療提供のための他職種の連携体制の確立・地域住民への普及啓発・人材育成・これらを実現するための医療拠点の整備などが挙げられます。
こういった取り組みによって、医療・介護・看護をトータルで提供し、住み慣れた地域で継続して暮らすことが可能です。今後は、市内全域における訪問診療システムの体制整備と他職種連携のルール確立を目指しています。
システム構築に向けた課題
既に始まっている事例から見出される課題や今後推測される課題をまとめます。
- 医療と介護の連携の遅れ
- 医療と介護が連携できる体制づくりは地域包括ケアシステムの柱ですが、まだまだ十分な体制が整っているとは言えず、例えば夜間や早朝、緊急時の対応がまだ不十分です。迅速に医師や看護師と介護職が連携できる体制の整備が課題です。
- 地域の格差が起こる
- 財源、マンパワー、高齢者人口のバランスを踏まえたシステムをいかに構築できるかは、各市区町村にゆだねられているため、地域間の格差が生まれやすくなる懸念があります。
- 地域包括ケアシステムの趣旨が住民に浸透していない
- 地域包括ケアシステムの考え方や各サービスの情報を、地域の人たちに伝えていくための周知や啓もう活動が必要とされています。みまもり機能の充実など、いかに主体性を持たせるかが課題であります。
- 「自助」と「互助」が進められるか
- 近所づきあいの希薄化が進むなか、いかに「互助」の充実を図れるか。また、低所得者が増加している傾向にあり「自助」がどこまで行えるかが心配されています。
- そのためにも積極的な住民参加のきっかけ作りが必要です。
- 過疎化が進む地域の担い手不足
- 高齢化とともに過疎化が進む地域では、サービスの担い手となる人々の確保に苦労があります。
まとめ
地域包括ケアシステムは、保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げていくことが必要です。さらに、住民自身も「わが事」として、自分たちが住む「まちづくり」に取り組む姿勢を持つことが大切です。
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この記事の制作者
著者:浅井 郁子(介護・福祉ライター)
在宅介護の経験をもとにした『ケアダイアリー 介護する人のための手帳』を発表。
高齢者支援、介護、福祉に関連したテーマをメインに執筆活動を続ける。
東京都民生児童委員
小規模多機能型施設運営推進委員
ホームヘルパー2級
監修者:山本 武尊(主任介護支援専門員・社会福祉士)
地域包括支援センター 元センター長。介護現場の最前線で業務をすると共に、介護業界の低待遇と慢性的な人手不足の課題解決のため介護に特化した社会保険労務士として開業。
現在は介護関連の執筆・監修者、介護事業所向け採用・教育・育成や組織マネジメントなど介護経営コンサルタントとしても幅広く活躍中。